『それで何の話だったか。……そうだった、女神像の話だったな』
「うん、お祈りの時にあればいいなぁ……と思ってたの。今まで貰い物のロザリオだけでしてたから」
宗教に詳しくはないが、祈りを捧げることに像は必ずしも必要ではなさそうだ。
だが……。
問題ないとはいえ、それでは些か物悲しい感じはする。
女神像か。
確か集落の跡地に残されていたはずだ。
『あるぞ。草木に飲まれた集落跡が近くにあってな。恐らくその村のものだろう。かなり酷い状態だが原型は残っていたはずだ』
「ほ、ほんと!どこ?私、そこへ毎日通うね」
『駄目だ。あそこは陥没地帯にある。崖を下る必要があるということだ。今のお前が通い詰めるには、余りにも危険だ』
あまり水を差したくはないが、毎日崖を下るなど危険すぎる。
それに像の状態もかなり悪かった。
先に手入れが必要だ。
「で、でも……」
『わかっている。危険だから止めろの一言で済ませるなら初めから言わん。わざわざ通う必要など無いさ、女神像をこの場所の前まで移してやる。そうすれば毎日、いつでも祈れるだろう?』
「うん。それはそうだけど……いいのかな?」
少女が己を懐疑的な眼で見ている。
確かに、己の肉体は貧弱そうに見えるかもしれん。
像などという重い物を安全に運べるか心配なのだろう。
だが、心配いらん。
ディ◯カバリーチャンネルで運搬方法は学んでいる。
最小の労力で安全に運べる自信が己にはあった。
『最短最速で運んできてやる』
「そうじゃなくてね……」
ぬ……あぁ、そうか。
女神像を移動させること自体を心配しているのだな。
宗教上の決まりごとなど己は知らん。
だが少女が悩んでいるところを見るに、経典にも明確な記述はないのだろう。
『あのままなら、時の流れと共に朽ちていくだけだ。女神像は信者の信仰を受け止めるのが役目なのだろう?ならば、誰にも忘れ去られたまま放置するよりは、お前に祈られていた方が像も幸せだろう』
天罰が降ろうものなら、己一人で責任を取ればいいだけのこと。
タブーであったとしても申し訳ないが、ここは少女の信仰心を優先させてもらう。
「そ、そうだよね。安心してアイン。女神様に怒られないように毎日お手入れするから、心配はしなくていいよ」
『罰当たりだと言いたいのか?まぁ、そうだな……。なら己も女神の怒りを買わんように手伝おう』
「あれ、でもアインって神様とか信じてないんだよね?無理して私に合わせなくてもいいんだよ?」
少女が当然のように己を無神論者扱いしてくる。
わからんとは言ったが……。
信じていないと言うよりは、宗教に触れる機会が無かったが正しい。
『いや、触れる機会が無かっただけで、完全に信じていない訳ではない。お前が信じているものだ、少し興味が湧いた。こういった理由で信仰に触れることは不純か?』
「そ、そんなことないよ。信仰の形は人それぞれだから。アインが女神様に興味を持ってくれて私も嬉しい。気になるなら私……頑張って布教するよ?」
『マキナ、女神はお前にとって大事なものか?』
「うん、女神様への信仰があったから、今も私は生きていられる。何度折れても、心を立ち直らせてくれた……それは今もずっと変わらないの。いつも心に寄り添って励ましてくれて、私が頑張り続ける力をくれる」
そうか、それほど大事なものか。
ならば……己は形だけでなく、本当に女神を信じられそうだ。
『なら己は女神に感謝せねばならんな。女神の教えがお前を生かし、己にお前を会わせてくれた。何よりマキナを助け支え、マキナ自身が心から信じるものだ。己はそれだけで女神は信じられるよ』
「ホント、急に歯が浮くようなセリフ言わないでね」
『思ったことを言っているだけだ。ふぬ、だが、魔物の己が女神の教えに近づいても良いものか』
少女が顔布をパタパタと扇ぎ、ジトっとした視線が飛んでくる。
己も今直ぐ女神に感謝の言葉を送りたいが……己は魔物の身。
信仰を捧げられても女神は困るのではないか?
寧ろ祈りを捧げないことこそ、己が出来る最大限の祈りの形なのではないか?
「大丈夫。信仰と祈りは心の清らかな人を拒んだりしないよ。アインで駄目なら誰も女神様を信仰する資格なんてないよ」
『???』
少女の言葉に己は首を傾げる。
どういう意味だ?
「あ、うん。アインには自覚ないからわからないよね。大丈夫、きっと女神様も怒ったりしないと思う」
信仰深い少女が言うなら間違いない……のか?
己は女神という存在をまるで知らん故、本当かどうかも分別がつか。
だが、あの少女が無意味に嘘をつくとも思えん。
信奉するだけのことはあり、きっと慈愛に満ちた存在なのだろうな。
『そうか、随分心の広い女神のようだな。お前に似てきっと優しい神に違いない』
「息を吐くみたいにまたそういうことを言う…‥。女神様まで誑し込む気なの?」
『意味が分からん……』
再び己が首を傾げると、少女から露骨な溜息が聞こえてきた。
「……コホン、それでは迷える子羊さん、私が女神の教えを授けてしんぜよ~~」
態とらしく咳払いをして気を取り直すと、芝居がかった声で己に語りかけてくる。
『これはこれは光栄だ。では何から教えてもらおうか?』
「うぅ~ん、いきなり堅苦しいことから初めても、取っつきにくいよね。まずは形から、貰い物だけど面白いもの持ってるから見せてあげる。じゃぁ~~ん、私がいつもお祈りの時に使ってるロザリオだよ」
そう言って懐から小さな指輪を取り出す。
すると机の上にどさどさと剣やら本やらが落ちてきた。
空間収納の魔道具か……。
それもかなり複雑な術式が刻まれたものだな。
マキナはその中から所々錆びついたロザリオを取り出し、己の前に突きつけてくる。
思わず身を引いてしまう。
これは普通のロザリオではない……。
フルーフが見たら発狂している所だ。
『……お前、マキナ。それは‥…聖都の異端審問官が持ってるロザリオだろう?そんな物騒なものをどこで手に入れた?それにこの剣はフランベルジュか。何やら恐ろしい気配を感じるぞ。それに聖典に経典か』
「うん、有名なの? 私が死にそうだった時、偶然通りかかったお爺様が助けてくれて……女神様のことを教えてくれたのもその人。これはその時にもらったものだよ」
一体どこのどいつだ。
本やロザリオはともかく、こんな血が染み付いた剣を子供に渡すだと?
何を考えているかさっぱりわからん。
やはり本物の狂信者は恐ろしい。
『あぁ、血生臭さでな有名だぞ。異教徒殺し。今は前線で魔族を積極的に殺し回っている連中だ。フルーフの奴も何度か殺されている。老齢の審問官となると、相当危険な奴だぞ』
フルーフの場合は自業自得だが、『研究資料を燃やされた』や『心臓に銀の杭を打たれた』など聞きたくもない話を延々聞かされたことをよく覚えている。
直近の記憶だと確か……。
“異端者めッ!今直ぐ聖徒で定めた禁術の研究を止めろ!神への冒涜だ!何度死んでも学ばん奴め!!“
“なぁ~にが異端審問官じゃ!?私は人体蘇生の実験してただけですぅ!私より先にヘンテコな邪神を崇めてる宗教でも潰してこいや!神神煩せぇんだよ!神は死んだ!◯ァーーーーーック頭の狂った狂人共が!さっさと返って女神像のケツの穴でも舐めてろ!コノ女神のフン共!!”
“おのれッ!我々を愚弄するか……邪神の手先め!今日こそ奴の命を浄化するぞッ”
……………これは奴が悪いな。
今更だがよく考えるとフルーフの方が頭がおかしい。
奴に比べれば、審問官は頭が硬いだけで案外普通なのかもしれないな。
「そんなに危なそうな人じゃなかったけど……。あ、でも一々喋り方が難解でわかりにくかったかな」
『そうか、なら先入観は止めておこう。お前を助けてくれたんだ、善良な人間に違いはない』
少女が取り出した異端審問官の道具一式を、並べて観察していく。
聖典……存在こそ知っていたが、実物を見るのは初めてだな。
少女に許可を取り、中身を覗く。
戒律と神話の物語か。
魔力に反応しない。
やはり所有権や加護が必要だという話は本当のようだ。
魔法とは全く異なる、変わった力だ。
経典は……な、なんだこれは。
虫のように細かい文字が詰まっている。
辞書の類か? 聖典とは違い、物語ではないらしい。
少し目を通しただけで理解できるような代物ではない。
一般に出回っているものではないな、確実に。
「どう?見ての通り道具一式は揃ってるよ。何か聞きたいこととかある?」
『どれも興味深いが……。経典を読むにもかなりの時間がかかりそうだ』
「あはは、それはそうだよ。文字だらけだもんね。読むのに一週間は掛かって普通だと思う。先に読むなら聖典の方が面白いよ。よく見ると隠れた暗号みたいなものもあって、探すのも楽しいし。私は全部眼を通しているから、わからない所は答えられるよ」
一週間。
すまんがマキナ。
己には一ヶ月……いや恐らく数年はかかる。
それに、聖典には暗号などというものまであるのか?
『経典については追々考える………。そうだな、ならば宗教的質問。善悪について……聞いてもいいか?』
「善悪かぁ。経典に書いてあることはどれも曖昧で、断言を避けているんだよね。かなり端的に言えば最終的に各々の良心に委ねます、って感じかな。だから私の私感を交えたものでよかったら答えるよ」
『あぁ、それでいい。まだ読んでもいない経典よりも、己はお前の方が信用できるからな。寧ろ、マキナ……お前の言葉で答えてくれ』
「うん、いいよ。でもアインってその辺の線引というか……。分別は結構はっきりしてそうだけど」
線引か。
それは本当に、己が決めたものなのだろうか。
『あぁ、善悪の価値観はある。だが、昨日言っただろう?己の価値観はフルーフの奴を学習元にしていると。そのせいだろうか、感情と価値観が矛盾するんだ。己は正しい行動をとっているはずなのに、それを間違いだと考えてしまう』
今朝のことを思い出すと胸の内が重くなる。
生物の命を奪った感触が、今も手に残っていて落ち着かない。
己の手を見れば微かにだが震えていた……。
実に情けない。
拳を作り、震えを無理やり止める。
「知識と実感が伴わないってことだよね。わかる、私も同じだもん。頭の中は本の知識ばっかりで、経験があるわけじゃない。実際にその場に立ったら、きっと本で読んだのとは違うこと感じるんだろうなって」
『そう言ってくれて助かる。――実は……己は今日初めて積極的に他の生物へと手を掛け、その命を奪ったのだ。それで感じた、これは本当に正しいのかと。フルーフの記憶と価値観は正しいと、何も感じる必要は無いと示している。だが己はそうではない…
…』
「……罪悪感を感じたの?」
少女の言葉に胸の内が跳ね上がる。
責めるような口調ではない、だが図星を突かれたように全身が落ち着かない。
ゾワゾワと全身が脈打つ。
『あぁ。己はこの問題を無視できん。初めて感じた明確な違和感だ。向き合い、己なりの答えを見つけ、折り合いをつけねばならん。それが己の定義……何者であるかを知る鍵となるはずだ』
「アインは真面目だね。……任せて。私も一生懸命考えてみる。物事をこねくり回して言葉にするのは得意だからさ……話して」
頼もしい言葉だ。
このようなことを子供に相談するなど恥でしかないが、既にこれ以上なく恥を晒した後だ。
己は自身の問題を話すことに抵抗が無くなっていた。
『これが見えるか?己が昨晩の内に仕掛けた罠に、今朝かかった獲物だ』
部屋の隅に置かれたシーツの膨らみを剥がすと、大鹿と子鹿の死体が重なっていた。
「大きな鹿と子鹿だね」
『先に言っておくがお前は何も悪くない。……己はお前に栄養を取って貰うために肉を欲したのだ。そして今朝この大鹿だけが罠に掛かっていた』
「ならお礼だけでも言わせて、アイン。ありがとう」
『大鹿は足から血を流し、動けず横たわっていた。その傍らでは子鹿が寄り添い、傷口を舐めていた。恐らく親子だったのだろう。己が近づくと子鹿は威嚇し、大鹿を庇った。……己はその時……』
「………躊躇した?」
したさ……せずにはいられなかった。
そしてこの手で殺した。
『己の行いが正しいのか……わからなくなった。肉が必要だ、栄養が必要だと罠を張ったというのに、後悔した。逃がしてやりたいと思った。だがそれは出来ない。ほんの少しの躊躇いを抱えたまま……己は命を奪った。中途半端な気持ちで。それを悟った時、胸が苦しくなった』
「無垢で優しいね。でも、ごめんね。その葛藤にきっと答えなんてないよ。この世に完全な正義も悪も無い。正しいか悪いかだなんてその人次第、苦しむのもその人の都合でしかない」
厳しいな。
だが、それも頭では理解出来ている。
所詮こんなものは感傷でしかない。
己が勝手に感じて、勝手に苦しんでいるだけだ。
結局の所、己は物を知らん世間知らずでしかない。
生きるために足掻く必要も無く、何百年も生きてきたツケを払っているだけでしかない。
『頭では、正しいと理解しているんだ。だが感情はそれを理解してくれない。己を罪人だと責め立ててくる。……聞かせてくれマキナ。もしも己と同じ状況になった時、お前はどう考え行動する』
「アイン、私は貴方ほど他者を思いやれないよ。私が貴方の立場なら、きっと何も感じずに二匹とも殺してる。お肉が増えて運がいいな……そんな程度の感想しか出てこない。悲しみとは真逆の、幸福を感じていたはずだよ」
そうか、己はただただ……傲慢だったという訳だ。
優しい少女でも、喰らう為の殺しに躊躇はない。
生きるのに必死であったのなら、こんな悩みなど浮かびもしない。
つまりは……。
己の甘えでしかない。
甘ったれた未成熟な精神が齎す餓鬼臭い感傷だ。
全く、どちらが子供かわかったものではない。
『女神の教えはなんと言っている』
「経典に感情的なことは書いてないけど、ただ……弱肉強食は世界の循環の一部で、善も悪もない摂理でしかないの。大きな動物は小さな動物を食べて、小さな動物はより小さな動物を食べる。食べられた動物は色々な形でこの世界に還ってきて、新しい命の礎になる。虫も魚も動物も人間も魔族も……みんなそうやって循環して生きてるんだよ。だから、アインのしたことは悪いことなんかじゃない」
殺しには、どうしても忌避感を覚える。
それが特別なことでもなんでもないと理解しても、直ぐには上手く飲み込めない。
きっと次、同じことがあっても躊躇してしまう。
『ならば、この感情こそが間違いか?こんな感情はさっさと捨てるべきか?殺し続けていれば、いずれ麻痺してくるはずだ。己はそれを待てばいいだけということか?』
「……それもいいと思う。でもアインは捨てたいの?本音は、どうなの……?」
捨てた方がいいだろう。
こんなものは何の役にも立たない。
少女の面倒を見る上での足枷でしかない。
『無意味な感傷だ。何一つ、役になど立たない』
「そっか。でも私はそんなアインの優しさが好きだよ。……捨ててほしくなんかない」
優しさ。
そんな温かい感情ではない、これはもっと情けない怯えだ。
生物の命を手に掛けた責任の重さに、己は恐れおののいている。
『………どうしてだ?頭の良いお前なら気づいているはずだ。これはただの、己の経験不足からくる甘ったれた葛藤でしかない。懸命に生きてきたお前には、見ていられん程不快なものだろう……』
「そうだねぇ……。アインが案外幼い考え方してるのは、なんとなく伝わってきたよ。だけど不快だなんて思わない。私はね、アインのそういう底抜けで、馬鹿みたいにお人好しなところが好きなの。どんな生き物にも優しくて、死に心を痛めてしまう……そんな優しい魔物さんが大好き。だから、その優しさを大事にして欲しいな」
『己は……。そんな風に、物事を考えている訳ではない』
「駄目だよ。最初私に言ったでしょ、どうしてそんなに悪い方向へ考えるのって。その言葉、そっくり返すよ。今のアイン、自分の悪いところばっかり見てるでしょ。わかる、私もそうだったから……でも貴方が変えてくれた。だから、そんな悪く考えないで。見方を変えれば私の言った通りなんだから」
『己を甘やかしてどうする……。お前の言葉は己に都合が良く心地良い。思わず依存してしまいたくなる程だ。だから止めろ、それ以上言うと本当に思い上がってしまうぞ。お前が言うように、これは”優しさ”だと思い込み、開き直ってしまうかもしれんぞ?』
心地いい言葉に流された挙げ句、開き直って少女の言葉を真に受けるか……。
己は、どんどんフルーフに近づいている気がするな。
「でも、ここからは甘くないよ。
今から凄く……。すっごく醜くて身勝手なこと言うね。……私は優しいアインのままでいて欲しい。例え何かを殺すことに葛藤を抱えても、私を優先して決断してくれたことが嬉しいの。動物の命にまで憐憫と罪悪感を抱く優しい貴方が好き。だから私の為に……
――捨てないで欲しい。私の為に――苦しんで」
『己に一生苦しめと?……まるで呪いだな』
酷い願いだ。
これを受け入れたなら己は、一生この言葉に縛られることだろう。
少女の雰囲気に冗談は混じっておらず、本気で己にそうあって欲しい気持ちが伝わってくる。
「そうだよ……アイン。これは呪い。私は性格が良くないから、弱みを見せたら平気で利用するよ?貴方を自分好みに縛り付けようとする……。……嫌なら嫌って言わなきゃね」
笑ってしまう。
そこまで言い切っておいて……最後に逃げ道を用意するとは。
全部が本音なのだろう……。
だがやはりお前は優しいよ、詰めが甘いとも言うがな。
そうか……。
己がマキナを優しいと評すように、マキナも己に似た評価を下しているのか。
一生苦しむなど冗談ではないが。
マキナのくれる呪いなら、そう悪くない。
この呪いは己だけのものだ。
幻想鬼でもフルーフの複製としてでもない……。
アインとして初めて得た、自分自身を証明する確固たるものだ。
そう考えると不思議と胸の内が軽くなる。
呪いと思っているこれは、案外祝福なのかもしれない。
『困った奴だ。だが……あぁ、いいだろう。お前が好ましいと思うのなら。……己はこのままでいてもいいのかもしれんな。マキナ、お前に縛り付けられるのなら……案外悪くない』
「変態だね」
『……おい』
「ごめん冗談。でも嬉しい、アイン。それなら私が死んだ後でもアインはきっと、一生私を忘れられないね。貴方の傷になれるのなら、私は嬉しい」
『そんなことせんでも忘れんさ。これから……お前には長い生が待っている。その中で刻んだ記憶を絶対に忘れん。きっと、生涯の内で最も色濃い記憶になるはずだ』
――だから止めろ。
これから長い人生が待っているというのに、悟ったような顔をするな。
きっと忘れない。
お前はこれから幸せになるべきで……。
己はそれを記憶に焼き付ける気でいる。
病気を治して大きくなったら旅行にでも行こう。
そして好きなだけ……なんでも食べさせてやる。
それで大人になったら幸せな家族でも作れ……。
お前は美しい。
お前を好きになる人間は沢山いるさ。
己のことなど直ぐに忘れる程幸せになれ。
お前が信じる女神が……きっと叶えてくれる。