アインザーム・オリジン【完結】   作:ごすろじ

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▼第二十二話▶うんち。

 

 

 

音すら包み込む白一色の雪原の上で生々しい打撃音が響き渡る。

 

フルーフとアイン、生み出した者と生み出された者、学習対象と学習者、親と子は真っ向から拳を振りかざし殴り合う。

 

 

フルーフは不死性、アインは幻影、お互いに殺しの手段は豊富に存在するというのに一向にそれらを使う気配を見せない。

 

根っこで似たもの同士の二人は無意識に暗黙の了解を結んでいた。

 

 

――拳以外使わない。

 

 

他の手を使えば負けだ……。

そんな誰が決めたでもないくだらない意地を張りながら殴り合う。

 

 

フルーフの目的はこの喧嘩自体には存在しない。

ここからアインがヤケクソになって理性を飛ばし、強引にでも覚悟を決めさせることが目的だ。

 

しかしアインはそうではない。

ただムカつく奴を完膚なきまでにボコボコにしたいという願望の下拳を振るう。

 

 

今まで溜め込んだ鬱憤やフルーフへの苛つきを全て叩きつけ、発散するようにぶつけまくる。

 

 

理性がほとんど働いていないのか、痛みに一切怯むことなくカウンター上等で拳を突き出す。

 

普段のアインであれば、不死のフルーフに物理的に勝つことは不可能だと、冷静に判断し鉾を収める所だが、今のアインにそんなインテリぶった考えは無い。

 

 

ただフルーフの顔面を粉砕しまくる。

そしてフルーフから強い一撃を貰い吹き飛んでいく。

 

 

「テメェ、アインザーム!ネチネチに私の顔面ばっか狙いやがって……。やっぱ私の息子だなぁ?」

 

 

『誰が……ッ!お前に育てられた覚えなんぞないわ!』

 

 

「うぉ……と!?ヒョロガリのくせに結構な馬鹿力だ」

 

 

勢いのまま突き出される剛拳にフルーフは両腕をクロスしガードの姿勢を取る。

 

だが、それも虚しく両腕が枝木のように圧し折れ、フルーフは雪を滑るように背後に後退していく。

 

 

――手加減してるとはいえ、元が幻影鬼とは思えん化け物具合だな……。流石に大魔族級とは言わんが、魔法ありなら無法もいい所だぞ。

 

 

フルーフは再生させた腕を使いアインの乱打を撃ち落としていく。

お互いの手の内は飽きる程知り尽くしている、眼の前の拳を振りかざす存在は実質自分自身に等しいのだから……。

 

 

アインの振るう拳に武術などという御大層な概念は存在しない、それはフルーフが実戦で身に付けた粗暴者の拳。

 

相手をボコボコにしてぶち殺す喧嘩殺法でしかない。

 

 

 

「なんで私にそんなに怒ってるのかな?私は正論を言っただけだぞ、責任も碌に果たさなかったお前のせいだろうがッ!」

 

 

『責任!責任!と……煩いんだよ……お前はッ!

 

 

 

 

――アウラを放置して逃げ出した貴様が己に語ってんじゃぁないッ!!娘の育児責任を果たせ!この育児放棄の糞BBAがッ!!』

 

 

 

 

 

「さ、最悪だよお前!!

 

 

 

 

――この、馬鹿がぁぁぁぁぁ!思い出しちゃっただろうがぁぁぁぁ!死ねっぇぇぇ!あの娘はもう独り立ちしてるから私は無罪なんだよ!この……腐れロリコン覗き魔がぁッ!!」

 

 

 

『貴様が死ねッッ!!』

 

 

 

フック、ボディーブロー、アッパーカット。

相手をブチのめすために磨き上げたフルーフ直伝の殴打技により雪原が血飛沫で彩られていく。

 

 

アインは顔面、肋骨……そして関節という関節を圧倒的パワーで粉砕しまくる。

フルーフも魔力を制限しているとはいえ、アインの顔面が抉れる勢いで拳を叩きつけブチのめす。

 

 

「あぁぁぁぁ゛!!糞ぉおぉ……ッ!聖なる糞!!アインザームッてんメェぇぇ!あぁ……そうだよ!私は責任から逃げ出した腰抜け!自分の娘から……怖くて怖くて逃げ出したんだよ!!夢を忘れそうになる程大好きで……怖くなっちゃったんだよ!!!」

 

 

『貴様ッ!それでよくも己にあんな堂々と糞みたいな講釈を垂らすことができたな!!全部自分のことだろうが!!この……糞糞糞!恥に塗れたうんち女が!』

 

 

「うるせぇぇえ!お前も私と似た立場だろうが!未遂ってだけで今にもうんち野郎に成り果ててるやつが私に説教すんな!!!こっちは知ってんだぞ!お前……自分が私の劣化版かもしれないって悩んでたんだろ!!この劣化うんち!!」

 

 

『うんちはお前だ糞女!!――マキナから聞き出したな!この出歯亀女がぁあ!!己は……お前とは違う!!』

 

 

 

ボコッ゛!バキ、ッ゛!

 

 

っと粉砕音を轟かせるパンチの衝撃は積もった雪を舞い上がらせては吹き飛ばす。

 

お互いに距離が開くことにすら面倒だと感じたのか、二人は互いに胸ぐらを掴んだまま片腕で殴りまくる。

 

 

高まっていく感情のまま声を荒げ吠えまくる。

普段のアインからは想像もつかない、粗暴で汚い言葉を吐き拳をお見舞いする。

 

 

理性や知性という言葉で雁字搦めにされた心の縛りから解放されたありのままの姿。

 

こんな言葉を吐かせられるのも、引き出せるのもこの世にただ一人……フルーフだけだった。

 

 

「はアァ~ん!!私とは……違うって!?だったらテメェ!!それを証明して見ろよ!!私とは違うって言うなら出来るよなぁ!逃げずにちゃんとマキナと向き合えるんだろうなぁ!?」

 

 

『当然だッ!!己は貴様のような責任逃れのクズになるつもりなど無い!!』

 

 

「よく吠えたな……啖呵だけは一人前かぁ!?だけど今までやってきたことはどう取り繕っても無くすことは出来ないぞ!お前は間違いを犯した!!説得力が無いなぁ!今まで逃げ続けてきた奴が今更態度を改めますって!?誰が信用すると思う!!」

 

 

 

『――……ぐッ』

 

 

 

ゴキッ!ガッ、ボキィッ!

 

 

 

アインが一瞬怯んだ隙をつきフルーフの高速三連右フックが顔面に炸裂する。

タフなアインにも相当効いたのかその巨体が一瞬フラつく。

 

 

「チッ――何……動揺してんだ!!前から思ってたがお前は私の言葉を信用しすぎなんだよ!!お母さん大好きな雛鳥かオメェーはよぉ!!?このいいこちゃんがぁ!!」

 

 

『己がぁ……貴様なんぞ信用する訳ないだろう!』

 

 

「はぁぁぁぁ~~!?だったら少しは言い返してこいよ!何鵜呑みにしてんだ!お前は私から生まれた!そのせいなのかぁ……!?私の中にこの世の真理があるとでも思い込んでやがる!絶対的に正しい何かがあると無意識に思っている!そうじゃないだろうが!そんなものは……――ないッッッッ!私の正しさは私だけの正しさでしかないんだよッ!!お前も、私からいい加減卒業しろ!!!常識なんかにふりまわされるなッ゛!!お前が見てきたもの、感じてきたものを……もっと信じろよ……ッ!!」

 

 

『何を信じろって!!?己の中にはお前以外に判断基準などないんだぞ!!無責任に適当なこと言ってんじゃない!』

 

 

フルーフがアインがふらついた隙に畳み掛けるようにパンチを繰り出しまくる……。

だが、直ぐ様体勢を立て直したアインはフルーフの顎に華麗な一撃を決める。

 

フルーフの綺麗な白い歯が数本宙を舞い雪へと沈んでいく。

 

 

「――ぶっは!?……ハッ、なら優しいお母さんが教えてやるよ……ッ!!傷つくことが怖い敏感な糞息子の為にご教授してさしあげるぜぇ!おらぁ!いい加減沈め!!」

 

 

『最初から傷つくことを恐れて何もかも諦めているお前から教わることなど何もないわッ!!魔族の尻を追いかける変態腐れBBAはその臭い口を閉じて大人しくしていろッ!!』

 

 

「可愛くない奴め!マキナはこいつのどこを見て可愛いだなんて言ったんだぁ!?」

 

 

極限のインファイトからの拳の応酬。

 

先にマウントを制したのはフルーフ、重い拳の一撃でアインの巨大な全身を傾かせた隙に勢いよく飛びかかりアインを勢いのまま地面に押しつぶす。

 

 

そして胸ぐらを離し自由になった片腕と共に両手を使いアインの顔面をタコ殴りにする。

 

 

『ぐ、ふぅ……!?』

 

 

「よくッ……!考えて……ッ!見ろよなッ゛!――……アインザームッッ!!

お前は確かにミスった!正しくないことをしたかもしれない!!だがな……ッ!!全部が全部そうだった訳じゃないだろうが!?お前が毎回風呂上がりにマキナに書いてたキッモいメモ!!!あれを貰ったマキナはどんな顔してた!!」

 

 

『ぐ、ぐが……くッ!!?マキナは……笑っていた!!幸せそうに……己の書いたメモなんぞを眺めて大切にしていた!だから毎日書いていたんだッ!この糞女……キッモいの貴様も同じだろうが!!』

 

 

「そうだ!!マキナは幸せだと言っていたぞ!ならもっと考えてみましょうかぁ゛~!?アインザーム君!!あの娘に対して過剰に世話を焼くようになったのは罪悪感による所も少しはあったんだろうな!?話を聞いただけで……鬱陶しくて堪らん内容だったぜ!私なら即ブン殴る、が……あの娘はどうだった!?愛情に飢えた幼い子供がぁ……お前を鬱陶しがったか?どんな感じだったよ!?」

 

 

マウントを取ったまま拳をブン回すフルーフに対して、アインは防御の構えを解くことも叶わず、両腕を顔の前で構え続ける。

 

 

『一々癇に障る物言いしか出来んのか貴様はぁ……ッ!マキナが己を鬱陶しいなどと考えるはずがないだろうがッ!笑ってくれていた!本心から……楽しそうに笑っていた!あの美しい瞳で己に笑いかけてきたマキナが嘘な訳あるかぁぁあぁッ!』

 

 

数発殴られることもお構い無しに防御を捨て、大きく拳を引き絞る。

 

 

――ゴ、キッ!?

 

 

 

 

 

筋繊維がメキメキと浮かぶ腕から拳が一瞬で抜き放たれ、フルーフの首を360°回転させ絶命させた。

 

 

回った首が一瞬で逆再生し蘇生するが、アインはフルーフの首を鷲掴み雪原に力の限り叩きつけ地面へと縫い付けた。

 

今度はアインがマウントを制し、お返しとばかりに片腕で顔面をボコボコにし始める。

 

 

 

「ぶ、はッ!?――あぁ゛ッ!!そうだなぁ……ッ、私も――そうだと思うよ!!あの娘は確かにとても苦しい思いをしている……ぐふぅ!だが、そんなものは今からでも取り返しが付く!今大事なことはお前が自分の行動を後悔しっぱなしってところだよッ!マキナは笑っていた、少し仲良くなっただけで……お前が過剰なくらいべたべたしてくるのを嬉しそうに私に語ってきたんだ!!お前はッ!あの娘を幸せにしてきた!

 

 

『今更そんな都合のいい解釈が出来るか……ッ!己はマキナを不幸にした!』

 

 

「お前は私に勝手に生み出されたんだ!望んでそうなった訳じゃない……ならそのぐらい好き勝手しても罰なんて当たらねぇよ!なんなら全部私のせいにすればいいさッ!!」

 

 

『あの美しい瞳を曇らせたのは己だ!!マキナは己を優しいなどと言う……だかそんなものまやかしだ!大事と宣う口で悩みの一つも聞いてやれない……己はただの偽善者だ!』

 

 

「――否定すんなバカッタレがぁ!……だからなんだよッ!偽善者でなにが悪い!そういう色んな意味で甘ったれたお前だから……あの娘はお前に心を許したんじゃないのか!?何恥じてやがる……褒めてもらえたんだろがッ!!なら自信を持ちやがれ!あの娘が大事だと言うのなら……あの娘がお前にくれた言葉も大事にしろよッ!」

 

 

『―――ッッ!!』

 

 

アインは再生し続けるフルーフの顔をただひたすら……感情も忘れて殴り続ける。

フルーフは最早ガードなど一切していない。

 

眼球をギョロリと見開いて、ただただアインを見上げ叫ぶ。

 

 

アインの力は徐々に抜けていく。

振り下ろす拳の威力が落ちていき、スピードも遅い。

 

 

フルーフはアインの振り下ろす一発を首を傾け躱すと、胸元を脚で蹴り上げる。

魔力で強化された脚力は凄まじく、アインは跳ね上がるように宙へ飛ぶと放物線を描き落下した。

 

 

アインは動かない、外傷は痛々しい程に負っているが動けない程ではない。

だが動けなかった……。

 

 

フルーフがどうしてここまで喧嘩腰なのか。

これまでどうしてあれ程癪に障る言動を繰り返してきたのか。

 

その理由にアインはなんとなく気がついてしまっていた。

アインは思う、こんなことをする奴だとは思わなかった、と。

 

 

『なんなんだお前は……このお節介焼きの小賢しいババアが……』

 

 

 

――わざわざ己の為に怨まれ役を買って出る必要などないというのに……。どこまでも身内に甘い奴だ。こんな大根役者に焚きつけられて胸の内を晒してしまうとは……。

 

 

 

「黙れ糞餓鬼。――で……どうだ?私は一応お前が間違ってるって言い続けるが……お前はどう思う?」

 

 

 

『己は……間違ってなどいない、と思いたい……。だが、こんなのは……責任から逃れたい己が生み出す言い訳だろうが』

 

 

「まだ言うか!……お前はあの娘に幸せになって欲しくないのかよ。そうやってウジウジ悩み続けると余計にあの娘の幸せが遠ざかるって理解出来ないのか……。お前はさ……あの娘が幸せになる未来、そういうのを思い描いたことはないのか?」

 

 

『あるさ……。マキナが大人になって……素敵な『誰か』と愛し合い家庭を持つんだ。そして誰からも愛される人になって……誰からも羨ましがられる存在になれることを……夢見ていた』

 

 

 

――カチぃ~~~ン。

 

ボソボソと何やら呟くアインに対しフルーフはアインの胸ぐらを掴み強制的に立たせると、青筋を立てたフルーフの額がアインの額へと叩きつけられた。

フルーフは大きく息を吸い叫ぶ。

 

 

 

「クソったれの大ボケメルヘン野郎がッ。『誰か』って誰だよ!!未来を見過ぎだドアホ!そんな時間も……そんな不確定な王子様だなんてどこにもいないんだよ!!本気であの娘を幸せにしたいのなら!お前がその『誰か』になれよ!メルヘン脳らしく……ッ!

 

 

――傷ついているあの娘を追って慰めてやれよ!」

 

 

 

聞くに堪えなかった。

マキナの気持ちを知っているだけに……フルーフは眼の前の大ボケ野郎に怒りを感じずにはいられない。

 

 

『……行って、なんと言えばいい……』

 

 

「――はぁ!?大概にしとけよ……今度こそ本気でキレそうだわ。あぁ、糞……どうせ自分がわからないからそんなセリフがでてくるんだろ」

 

 

アインは既にマキナと向き合う覚悟自体は出来ている。

 

だが……行ってどのようなことを言えばいいのかわからかった。

 

 

マキナの言う優しいアイン、罪悪感に苦しんだ末のアイン、謝罪し楽になりたいアイン、ただ本能のままの言葉を撒き散らしたいアイン。

 

自分といううものがわからないアインは苦悩する、自分は一体どのような自分でマキナと向き合えばいいのか酷く悩む。

 

 

フルーフはそんなアインを見上げ額に青筋を浮かべながら『生真面目過ぎる』と呟き、胸ぐらを離しアインを突き離す。

 

そしてアインの顔面に人差し指を突きつけビシッと指差す。

 

 

『――ッ!?』

 

 

「お前が何者なのかなんか知るか。だけどな……少なくとも私から断言出来ることはある……。クソ……おい、気恥ずかしいから一度しか言わないぞアインザーム」

 

 

『………』

 

 

「……お前が何の為に生まれて、存在意義がどうたらなんて壮大な話をするつもりはないよ。ただ……あの娘からお前のことを聞いて、どういう奴なのかを簡潔に言ってやる。答えなんて言わん……どう向き合うかなんてのは……お前の内で決着をつけろ」

 

 

恥も外聞もないフルーフにしては珍しい表情だった。

どこか気恥ずかしさを滲ませ、いつになく真面目な眼でアインを見下ろしている。

 

 

アインはフルーフのお巫山戯のない態度に何かを感じたのか、頷きながら了承した。

 

 

『あぁ、重々承知した。……聞かせて貰えるか』

 

 

 

「お前を……優しい奴だとか、思慮深いやつだとか思わん。お前はただ

 

 

 

――あの娘の笑顔が……マキナが幸せに笑う姿が見たくて努力しているだけ奴だよ」

 

 

 

凄く具体的であり中身の無い答えだった。

しかしこれがマキナから聞いた話でフルーフが感じた本音だった。

 

 

実物の内面はどうあれ、客観的に見たアイン総評はこれだけだ。

 

毎日馬鹿みたいに世話を焼いて、毎日馬鹿みたいに気を遣って、毎日馬鹿みたいに炊事家事をこなす……マキナという人間が大好きな、そんな奴。

 

 

 

『それは違……――

 

 

だが精神状態が鬱で自己評価右肩下がりを続けているアインがそんな言葉を簡単に受け入れることは出来ない。

 

案の定、否定の言葉が紡がれそうになるも……

 

 

――パぁンッ!!

 

 

否定の言葉はアインの頬から強烈な炸裂音が鳴り響き中断される。

頬がジンジン痛み、アインが眼の前を見ればジト目のフルーフが平手を振りかぶった後だった。

 

 

呆けた様子のアインを見つめながらフルーフは喉が張り裂ける勢いで叫ぶ。

やけくそ気味な声で……アインに対し吠え散らかす。

 

 

――「絶対言うと思ったよ!!まずは否定から入るネガティブモンスターが!

 

 

 

何も……違わねぇよッッ!!

 

 

 

聞け!黙って聞きやがれ!!!

 

 

 

お前はあの娘に笑っていて欲しくてそんなになるまで頑張ってきたんだろ!

 

 

 

あの娘が……もう駄目だと感づきながらも自分を騙して!あの娘ために此処まで折れずに耐えてきたんだろう!

 

 

 

だったら……――何も違いなんてありゃしねぇだろうがッッ!!!

 

 

 

今この場であの娘を幸せに出来るのは……お前のメルヘン脳に登場する『誰か』でも夢みたいな王子様でもねえ……

 

 

 

 

 

 

――アインザーム……お前だけだろうが!!

 

 

 

『――ッッ』

 

 

言っている内容は一貫して何も変わらない。

だがそこには……燃え盛る熱があった、本気でそう思ってくれているという激情を感じた。

 

 

その熱は、自分という存在すらあやふやなアインザームの心に……確かな灯りを灯してくれた気がする。

 

全てを鵜呑みにし、自分がそうであると……自信を持って言うことは出来ない。

 

 

だがそれでも……今この熱に浮かされたアインは動くことが出来る。

 

激情に後押しされ、マキナの元に向かうことが出来ると確信した。

 

 

どこに進めばいいかもわからない真っ暗闇に……フルーフは確かな道標となる曙光を齎した。

 

 

「はぁ……はぁ……。シラフで恥ずかしいこと言わせやがって。これだけ言って何も決まらないならもう私は知らん」

 

 

一頻り大絶叫したフルーフはアインから顔を背け悪態をつく。

 

顔色は見えないが、背後から見える耳は真っ赤に染まっており相当恥ずかしかったのが伺える。

 

 

普段から巫山戯た態度の奴があれだけ真剣なことを面と向かって言ったのだ……それを自覚して急に恥ずかしくなったのかもしれない。

 

アインはフルーフのそんな様子をどこか面白そうに眺め、無意識に笑みが漏れてしまう。

 

 

『くく……ははは。すまん、あぁいや、どう……向き合うべきなのか、見えた気がする』

 

 

「チッ。まぁいい、これからあの娘を助ける方法を手短に説明して……いる時間は無い。私の記憶を覗け。全部覗く必要はないぞ……私が今強くイメージしている部分、そこだけ見れば理解できる」

 

 

可笑しそうに笑い声を漏らすアインをフルーフは一睨みし拳を握るが、憂いの無さそうなアインの気配を感じれば舌打ちだけを残し拳を解く。

 

 

マキナが飛び出してからそれ程時間は経っていない、フルーフが飲ませた石の効果も考慮すれば時間の猶予はまだ残っていた。

 

だが一刻も早くアインをマキナの元に向かわせたいフルーフに記憶を覗かせる。

 

 

『わかった』

 

 

アインはフルーフの気遣いをありがたく受け取り記憶を読み取る。

余分な情報は省き重要な箇所だけを理解していく。

 

 

「よし視えたな。いいかこの方法は殆ど賭けに近い延命処置だ、だからきちんとあの娘に説明して了承を貰ってこい、出来ないなら私は処置しない。……出来るか出来ないなんて聞くつもりはない、早く行け」

 

 

アインが理解した様子を見せるとフルーフはアインを立たせ、背中をぐいぐい押して急かす。

あれだけドライぶったことを言っていた奴とは思えない心配っぷりである。

 

 

『色々と……感謝する。腹立たしかったのは事実だが、殴ってすまない……』

 

 

「いいって……だからもう行け。小難しいことは考えるな、ただこれまでどおりだ……あの娘を救いたい、幸せにしたい、笑顔になって欲しい、その気持のまま正直に思いの丈を伝えてこい。丁度お前が練習していたお誂え向きの魔法があるだろ……んじゃ、健闘を祈るぞ我が息子よ」

 

 

 

 

『あぁ、行ってくる。ありがとうフル……いや

 

 

 

 

――()()()

 

 

 

息子、親子……フルーフとしては完全にお巫山戯で言っていた言葉だった。

 

が、まさか向こうからマジトーンで母呼びされると思っていなかったフルーフは慌てふためく。

 

 

「――ゴホ!?ゲホ……っ!」

 

 

唾が気管に入り込み盛大に咳き込んでしまう。

 

アインに一言文句を言おうと振り返るが……既にそこには誰もおらず、フルーフは顔を真っ赤にしながら髪を掻きむしる。

 

 

「はぁ~……バカタレが。とんだ赤っ恥だ。流石……わ、私の息子だけあって面倒くせぇ奴。それじゃ、私は……石コロと法陣の準備でもしとくかぁ……」

 

 

フルーフは出歯亀したい気持ちを抑えマキナに施す施術の準備を開始する。

この女、許可を得てこなければ施術しないと言いながら何の迷いもなく施術準備を開始していた。

 

 

アインが必ずマキナを説得するだろうという信頼があるが故の行動だが、当のフルーフはそんなことにすら気がついていなかった。

 

 

 

 

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