アインザーム・オリジン【完結】   作:ごすろじ

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▼第三十八話▶『祈りの果に』

 

 

 

 

サァァァ……――

 

 

刺し貫かれた傷口から魔力が漏れ出す。

剣に染み付いたナニかが毒のように傷口を広げ、瞬く間に命を削り落としていく。

 

 

身体の節々が崩れていき、黒い粒子となり世界へと解けていく。

 

 

捧げるのは信仰だ。

 

だがそれ以上に……。

聞いてもらうぞ女神。

 

 

私という存在が何を考え……何を望むのか。

 

 

怒るのなら怒れ。

無礼だと思うのなら神罰でもなんでも持って来るがいい。

 

……私はどうあっても私だ。

騙すつもりなどない……ただ聞いて見定めて欲しい。

 

 

そしてもし……。

魔物の分際でありながら貴女の目に止まったのであれば……どうか―――

 

 

 

『我は天地の造り主、全能の母を信ず。

我はその独り子、我らの主、女神を信ず。

生ける者と死ねる者とを審きたまわん。

天地創造、世を作りし全知全能の生命に信仰を捧ぐ』

 

 

『見て……いるか女神よ。この身は神聖とは程遠い地を這う獣、人を喰らう性を宿しし魔の化生。

されど悪逆を許せぬ怒りがある、理不尽を認めぬ嘆きがある、人を愛する心がある

 

 

――マキナのような人間が、平和に暮らせる世になって欲しいという願いがある!!』

 

 

『善良なる無垢の人々の幸福が踏みにじられ、悪逆が栄えることが許せるか?

私は断じて許すことは出来ない。

世は不浄と争いに満ちている。

流れる血は狡猾な邪悪を呼びさまし、さらなる血を強要する。

際限なく膨れ上がる闘争心は人間の欲望と醜さに拍車を掛けている』

 

 

『そして……そんな欲深い悪魔共の犠牲となるのは善良な人間だ。

マキナのような心優しき存在が真っ先に犠牲を強いられる……ッ!』

 

 

『私は……ッ。

女神を信じ助けを求める人間の”いつか”を凄惨な死で終わらせたくなどない。

私は彼女の死を……意味の無いありふれたもので終わらせる気はないぞ……女神』

 

 

『彼女は期待して信じていたんだ。

いつか来る慰めを……女神が齎す幸福を。

一人地獄の中を彷徨い、痛みに耐え、口汚い誹りに傷つき、尊厳を失い続けても……彼女は何者にも屈せず生き続けた』

 

 

『だというのに……あと少しで……――全てを奪われたッ゛。

彼女は……家族も周りの人間も誰も恨んではいなかったのだぞ。

……それなのに……下らぬ欲一つの為に犠牲となった。

 

もう、長くは無かったのだ……。

たとえ慰めが訪れなかったのだとしても。

最期を幸福の内に死ぬ権利は誰にでもあるものだろうが……ッ』

 

 

『なのに何故だ……ッ。

誰よりも純真でこんな魔物を愛してくれた心の美しい人間が……。

彼女を傷つけ、最期の尊厳まで踏みにじった愚者に殺されなければならなかった……』

 

 

『彼女は心の奥底で助けて欲しいと願っていた。

そして救済は必ずあるのだと信じて縋った。

信じていたい……そうあって欲しいと願っていた』

 

 

『女神……絶対にこの私が彼女の慰めだとは言ってくれるなよ……。

私は彼女の慰めでも救いでもなんでもない……。

救われていたのは私のほうだ……』

 

 

『……女神よ……私は……ッ。

マキナのような人間を助ける存在でありたいのだ。

罪は許さず、善良なる者には救いの手を差し伸べる者。

マキナの生に確かな意味があったのだと、生涯証明し続ける者になりたい』

 

 

『私は無力を嘆くだけだった。

……女神の信徒である彼女に報いてやれなかった。

彼女を守ると約束しておきながら……守ることすら出来なかったッ!!

私はクズだ……紛れもない罪人だ。

 

――だが、ここで終わることなど決して……――決ッして出来はしないッ!!』

 

 

『女神よ……私は彼女を殺した者共、そして悪逆により善き人々が犠牲になることを許せない。

……信仰でも、命でも、尊厳でも、己の持てるものは全て捧げよう』

 

 

『己を捨て……女神の剣として世の安寧の為に生きると誓おう。

私が許しがたい罪そのものだと思うのなら躊躇せず地獄に送るがいい……。

 

 

だが……。もしも貴女が慈悲ある女神だというのなら……お願いだ。

 

 

どうかこの醜く汚れきった私に……贖罪の機会を与えてくれ。

 

 

許してはならない罪人共に……報いを与える力を貸してくれ……。

彼女が求めた正義で……。

優しい多くの人々を救うために……ッ』

 

 

 

――ッッ!?

 

全身の操作が利かずドシャリと地に全身が沈む。

魔力が足りない……。

 

もう、形も維持出来ない。

 

 

だが、諦めはしない。

この身には彼女と共に決めた在り方が宿っている。

 

死の間際まで……どれだけ惨めでも願い続けてやる。

 

 

全身を削ぎ落とし、霧から音を発することを決してやめない。

 

 

『許しては駄目だ……。

見過ごしては駄目だ……。

この世には許してはならない悪が多すぎる』

 

 

 

『助けるのだ……絶対に。

彼女のような優しく罪のない善良な人を……今度こそ……ッ』

 

 

 

『天国に行った……。彼女が愛した者として……恥ずかしくない己でありたいのだ……』

 

 

 

『名誉も過ぎた力もいらない……。

全てを救いたいなどと、自惚れたことも望んでいない……。

 

ただ……』

 

 

 

 

 

――うぅ……グス……アイ、ン様。わたしは……誰からも嫌われ疎まれる……化け物なんです……ッ!――

 

 

 

『泣いている子供にもう大丈夫だと言って手を差し伸べてあげたいだけなんだ』

 

 

 

――アイン、優しい御方……私は……貴方が大好きです!――

 

 

 

『心優しい人が犠牲にならず幸せに生きていて欲しい……それ、だけなんだ……』

 

 

 

――ぐッす……うぅ゛、……たす、けて……助けて、アイン……ッ゛――

 

 

 

『ただ……ッッ゛!!助けてと手を伸ばす多くの人達の手を取って上げたいだけなんだ……!!』

 

 

 

――此方こそ、よろしくお願いしますアインザームさん。私も……残りの人生を貴方と共に歩んでいきたいと願っています――

 

 

 

『愛した人との約束を……。妻に捧げた誓いを果たしたいだけなんだ……ッ』

 

 

 

――貴方を陰ながら見守らせて頂きます……貴方の旅路に幸あらんことを。おやすみ、儂の……最期の友、よ……――

 

 

 

『知っている……知ってしまったんだよぉ……ッ。この世には反吐の出る悪人以上に……魔物なんかを、最後まで友人と言ってくれる優しい人達がいることを……ッ゛!!』

 

 

 

 

――愛し……てるわ……アナタ……――

 

 

 

 

『そんな……優しい人達が……犠牲になっていい訳ない、だろ……ッ。貴女が何もしないなら……出来ないのなら……ッ!私が代わりにしてやる……貴女が本当にこの世に生きる者達の安寧を願っているのなら……ッ!悪を許さない気持ちがあるのなら……ッ!!私が………――ッ』

 

 

 

 

全身が……全く動かない。

いよいよ限界だ。

 

だがそれでも……残りの命を削ればまだ声を上げることは出来る。

 

 

 

消えゆく全身を分解してでも――

 

 

 

『女神様。私は……救世主でもなんでもない。だが……たとえちっぽけで矮小な存在だとしても……助けたいんだよ。何も悪くない子供達が苦しむのも……優しさを忘れない人達が苦しむのも……そんなの、悲し……すぎるだろ……――』

 

 

 

もう……霧も維持出来ない。

やはり……だめか?

 

私は贖罪を乞うこともゆるしてはもらえないのか……。

 

 

 

はは……すま、ない…まきな。

君をむかえに……いけそうに、ない。

 

 

 

君が……求めた……理想へ……()()()()()に……なりたかったなぁ……。

 

 

 

……かなわぬ願いでも……もういちど……きみ、と……

 

 

 

意識があるのか無いのかも……もう自分ではわからない。

全身が魔力として解け溶け、意識が完全に落ちていく。

 

 

だが――

 

 

 

――な、んだ……まぶ……しいのか?

 

 

 

これは幻覚なのか……。

私は完全に死を迎えた瞬間確かに視た。

 

 

 

()()()に……()

 

 

 

あぁ……そうか。

 

 

 

君が……。

天国から呼んできてくれたのか……。

 

 

 

最後の最後まで……情けない姿を見せた。

 

 

 

 

 

――ありがとう……マキナ。

 

 

 

 

 

――君の言う通り……。女神様は本当に……いたんだな。

 

 

 

 

 

 

 

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