自分の作った生命体に命を狙われてるんだがw   作:あああ

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第3話

時間は少し経ち第一世界で宝探しを終え、現実に帰還した栄作が最初に見たのは思わず帰りたくなる光景だった。

 

大量のコンクリート片が周囲を浮遊していた。

 

瞬間、深夜の静まり返った住宅街にコンクリートが砕ける不快な音が響いた。

 

「全部、壊れちまえよ!」

 

街灯の光を浴びて絶叫するのはまだ幼さの残る中学生ほどの少年だった。その手には何も握られていない。しかし、彼が苛立ちと共に腕を振るうたびに不可視の衝撃波が走り、並べられたゴミ箱を弾き飛ばし、民家のブロック塀を飴細工のようにひしゃげさせていた。

 

少年の名は翔太。少し家庭環境に難がある場所で育ち不満を抱えていた。彼の運命を変えたのは、彼がメールのリンクを踏んだこと。他のユーザー同様、彼は第一世界に入る招待状を得た。現実とは違う場所。様々な人間が居付き、流れ、誰かの居場所であれと運営されている世界。

 

家庭での抑圧を第一世界で癒していた彼が、ここまで荒れる原因となったのはあの世界に入れなくなったからだ。

 

原因はわからない。ただ、リンクを踏んでも入れなくなった、代わりに力を手に入れた。現実に戻れば消えるはずだった理は、彼の絶望的な渇望に呼応し世界のルールを食い破って現実に漏れ出していた。

 

「父さんも母さんも、いつも成績のことばっかり…オレがどれだけ苦しいか誰も見ないじゃないか!あまつさえ、あの場所でさえオレを拒むのか!!!!!」

 

翔太の周囲で、重力が狂ったように渦巻く。彼の異能は念動力。オーソドックスな異能だが、出力が異常だった。触れられない者に触れたい彼の気質がマッチした異能なのだろうが、もはや制御不能な暴力となって街を破壊し始めていた。

 

その光景を数十メートル離れた電柱の影から栄作は眺めていた。

 

「………最悪だ」

 

栄作は額を押さえて毒づいた。本来はネリンや自身が管理すべき問題。管理責任は自分にある。それは重々承知していた。

 

だが、ここで動けばどうなるか。ネリンは電脳世界の全てを監視している。防犯カメラ、衛星、ネットのトラフィック。ここで異能を使えば自分の位置をネリンに教えるようなものだ。

 

「ここで見逃せば異能が露見する。でも、僕が動けばネリンに捕まる」

 

栄作の心の中で保身と良識が激しく火花を散らす。TSしたまま戦うことも考えたが、この姿が知られると逃げられない。全身を包む桃色の光が静かに霧散していく。

 

肉体が膨らみ骨格が鳴る。可憐な少女の面影は消えそこには19歳の青年の姿が戻っていた。栄作が本来の姿で現実に立つのは、あの逃走劇以来初めてのことだった。

 

「やっぱり、こっちの方が肩が凝らなくていいな」

 

栄作は歩き出した。一歩、踏み出すごとに彼の周囲の現実が書き換えられ、淡く輝く紫の蝶が生み出されていく。蝶は鱗粉を周囲に撒き、飛散した鱗粉は無意識に人間を遠ざける認識阻害の役割を果たす。

 

「おい、そこまでにしておけ。夜遊びにしては派手すぎる」

 

少年の怒声が止まった。翔太は涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げ現れた栄作を睨みつける。

 

「誰だよ…邪魔するなよ!警察か?説教しに来たのか!?」

 

「警察じゃない。ただの管理者だ」

 

「意味わかんないこと言うな!消えろッ!」

 

翔太が右手を突き出す。空気が圧縮され、凄まじい密度の衝撃が栄作を襲った。並の人間なら内臓を破裂させて即死する一撃。

 

だが、栄作は避けない。彼はただそれを眺める。

 

栄作の目の前の空間が、歪んだ。激突した衝撃波は青い火花となって霧散する。

 

「なっ!?お前、なんで………」

 

「異能は僕の世界創造をベースに作ったものだ。出力でゴリ押す以外、僕には通用しない」

 

栄作の瞳が管理者としての冷徹な色を帯びた。彼は葛藤を捨てた。今この瞬間、彼は逃亡者ではなく、この世界のバグを修正する管理者として動く。

 

翔太は半狂乱になり、両手で空気をかき回した。

 

「あああああ!壊れろ!全部壊れろッ!」

 

周囲の住宅の窓ガラスが一斉に割れ、破片が弾丸となって栄作に降り注ぐ。栄作は最短距離を突き進んだ。飛来するガラス片は、彼の体に触れる直前で全て重力を失い足元に静かに降り積もっていく。

 

「君の家がどうなっているか、僕にはわからない。でも」

 

栄作は一瞬で間合いを詰めた。驚愕に目を見開く翔太の胸ぐらを力強く掴み取る。

 

「この力を現実でこんな風に使わせるために、あそこを作ったわけじゃない」

 

「あんたに何がわかるんだよ!」

 

「僕にはわからない。だから理解者はあの世界で見つけろ」

 

栄作は少年の額に優しく指を当てた。

 

青白い回路図が少年の肌に浮かび上がり、次の瞬間激しい光と共に爆発した。抵抗していた翔太の体から力が抜け、崩れ落ちるように栄作の胸に倒れ込んだ。

 

沈黙が戻った。割れたガラスの音もひしゃげた鉄の軋みも止まった。残ったのは、疲れ果てて眠る一人の少年と本来の姿に戻ったままの青年だけだ。

 

「…戻れ」

 

瓦礫やガラス片が巻き戻るように修復される。

 

栄作は周囲を見渡した。破壊された街並み。この惨状は、明日には大きなニュースになるだろう。だから、なかったことにする。そう上書きした。しかし、一連の流れはデジタル世界の海を通じて確実にネリンに届く。

 

栄作は急いで周囲のカメラを確認しつつ、死角となる場所でTSアバターを身に纏った。桃色の髪、華奢な体。

 

「早くここを離れないとな」

 

眠る少年を安全な場所に横たえ、栄作は闇の中へと駆け出した。

 

栄作はまだ知らない。 自分が都市伝説として有名になることよりも、もっと恐ろしい執着がすぐ隣のネット回線まで迫っていることを。

 

 

 

 

1:イッチ

はめられたな、あのAIわざと異能を露見させるなんて殺意が高い

 

2:名無しのパラレルヒューマン

ん?

 

3:名無しのパラレルヒューマン

おい

 

4:名無しのパラレルヒューマン

 

5:名無しのパラレルヒューマン

どういう?

 

6:イッチ

昨日、異能を使って現実世界で暴れる馬鹿を処理したんだけど、これがそもそもおかしな話だ。派手に異能を使わせないようにネリンがいるのに、こうなるとか。役割を放棄したか、僕を誘き出す仕込みだったか。ネットに異能を使う動画が出たから後者だな

 

7:名無しのパラレルヒューマン

マジ?

 

8:名無しのパラレルヒューマン

つまり、ガバじゃん

 

9:名無しのパラレルヒューマン

ガバじゃねーか!

 

10:イッチ

カバじゃないです

 

11:名無しのパラレルヒューマン

いや、カバだろ

 

12:イッチ

カバじゃないですよ

 

13:名無しのパラレルヒューマン

いや、はい………

 

14:名無しのパラレルヒューマン

 

15:名無しのパラレルヒューマン

 

16:名無しのパラレルヒューマン

押しきられたな

 

17:名無しのパラレルヒューマン

はいじゃないが

 

18:名無しのパラレルヒューマン

イッチは何でそこまで狙われてるんだ

 

19:名無しのパラレルヒューマン

まだ、都市伝説レベルだし傷は浅い。

 

20:名無しのパラレルヒューマン

浅い?浅いってなんだろ

 

21:イッチ

>>18

僕が知りたい。何で?目下調査中

 

22:イッチ

しばらくは第一世界に潜伏して情報を集める。ついでに玲奈ちゃんは攻略する。TSだから百合だろ!生やせるし

 

23:名無しのパラレルヒューマン

そうかな?そうかも

 

24:名無しのパラレルヒューマン

>>22

本性表したね

 

25:名無しのパラレルヒューマン

TSだからっていい気になるなよ!可変は実質男だ

 

26:名無しのパラレルヒューマン

推測とかないの?

 

27:イッチ

>>21

アリスが動かないのも怖い

 

28:名無しのパラレルヒューマン

>>22

っていうかバレたらやばいのでは?

 

29:名無しのパラレルヒューマン

性癖が一つ壊れるだけさ

 

30:名無しのパラレルヒューマン

一大事だが

 

 

 

 

 

 

 

 

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