自分の作った生命体に命を狙われてるんだがw 作:あああ
第一世界の北側、突如としてその巨大な構造物は出現した。
第一ステージ。その舞台は、一見すると古風な日本建築だが屋根瓦の一枚一枚が有機ELパネルのように発光し時折ノイズを走らせる忍者屋敷だった。
「玲奈。まずはこの屋敷から生きて出ることだけを考えて。楽しまないと」
栄作は、玲奈に言い聞かせた。玲奈は緊張で顔を強張らせていたが、その瞳には鏡への執着が宿っている。
「………わかった。エイ、本当にそれで戦うの?」
玲奈が指差したのは、栄作の腰にある一本の太刀だった。刀身は普通なのだが一つだけ異なるのは、七色にかつ激しく明滅しているおふざけ武器ということ。周囲の参加者もちらちらと見ている。
「露店で売ってたんだ。10000ゴールド。ゲーミング刀・極だ。七色に光ってるだけじゃなくて、切れ味だっていいんだよ」
「クソださい」
「ええ!?かっこいいじゃん」
「私、無難なのにしてよかったかも」
玲奈の手に握られているのは弓だ。矢はない。弦を引けば発生するからだ。
その瞬間、ネリンの無慈悲なアナウンスが響き渡った。
『50分以内のクリアが2回戦の条件なのです。それでは、死ぬ気で楽しむ、なのです! ――スタート!』
その合図とともに、屋敷の巨大な門が重低音を立てて閉ざされた。同時に、静まり返っていた廊下の至る所から、カチカチという機械音が響き始める。
「来るよ!」
天井から、和紙と木材で組まれたカラクリ鴉が数十羽、赤いセンサーの目を光らせて急降下してきた。 栄作は玲奈を背後に庇い、一気にゲーミング刀を抜き放った。
「よっと」
一閃。虹色の光の軌跡が空を裂き、忍鴉の集団を薙ぎ払う。刀身が触れるたびに、派手な電子音と共に鴉たちはノイズを撒き散らして消滅していく。
「すごい……一瞬で」
「感心してる暇はないよ。ほら、後ろ!」
背後からは、同じく参加者であるユーザーたちが脱出枠を争うべく武器を構えて迫っていた。このゲームに「参加資格」はない。それゆえ、現実で燻っている不遜な輩も多い。
「どけよ、桜髪の女共!ついでに有り金も置いていきな!」
棍棒を持った大男が三人、鼻息荒く迫る。栄作は小さく笑った。
「楽しんでいるようで何より」
栄作の足が床を蹴った。二歩で距離を消し飛ばし、男たちの懐に飛び込みゲーミング刀を横一文字に振るう。斬撃と共に激しいストロボライトのような閃光が広間を埋め尽くした。
「ぐわっ!?目が、目があああっ!」
「痛!なんだこれ、静電気ってレベルじゃねえぞ!」
最大でも強めの静電気。その設定ギリギリの負荷を狙った。男たちは床に転がり、会場の外に転送される。
「ダメージ度合いで痛みは変わる。一撃で深いのを貰うと結構痛いんだ」
嗜虐的に哂っている栄作にドン引きしつつ、玲奈は声を張り上げる。
「エイ、あそこ見て!壁が動いてる!」
玲奈が指差した先。廊下の突き当たりが、まるでルービックキューブのように回転し進路を塞いでいた。さらに、彼らが立っている廊下もゆっくりと進行方向とは逆に動き始めている。巨大なルームランナーだ。
「何これ?進めないんですけど?」
「僕持久走は嫌い。体育でマラソン無くてよかった。玲奈の学校って持久走ある?」
「エイは余裕ね!?」
身体機能や強度はこの世界では少しだけ向上している。しかし、あくまで現実がベース。栄作はばてていた。世界創造を使えば、無視できるが一瞬でネリンが見つけるから使えないのだ。
「やばい、運動不足で死にそう」
「ちょっと!私を守るとか威勢のいいこと宣言してなかった?」
「持久走は愉しくない」
「あー、もう!」
玲奈は、周囲に目を光らせる。すでに何人かのユーザーがいなくなっていた。ここから抜け出したのだ。絡繰りがあるはず。
冷静に屋敷の不自然さを観察していた。
「壁の模様が干支だ」
「へー」
「あの文様、十二支の順番になってる。でも、子の次が寅になってる。丑が足りない。あそこの、影が落ちている柱!あれが丑の代わりかも」
玲奈が指差した柱。一見、ただの構造材に見えるが、よく見るとそこだけが微妙に透けており、ノイズが混じっている。
栄作はその柱目掛けて、ゲーミング刀を突き刺した杖代わりにしながら辿り着く。壁に触れた瞬間。
目の前の壁がパカりと開き秘密の地下通路が姿を現した。
「完璧だ、玲奈。君の観察力は本物だよ」
「人の顔色とか間違いを探すことばっかりやってきたから。こんなところで役に立つなんて、皮肉かも」
少し自嘲気味に笑う玲奈を連れ、栄作は地下へと飛び込んだ。
地下通路を抜けた先には、広大な中庭があった。そこは月明かりに照らされた枯山水のはずだが、砂紋は青いレーザー光線で描かれ、時折その模様がプログラムのように書き換わっている。
その庭の中央。三人の影が、彼らを待ち構えるように立っていた。
「ようやく来やがったか。遅かったな」
涼やかな、しかし芯の通った声。中央に立つのは整った顔立ちを袴姿で包んだ男だった。
その腰には、栄作の派手な刀とは対照的な質実剛健な一振りの日本刀が収まっている。
「うわ、前回の優勝者じゃん」
栄作の言葉に男が反応した。
「お!オレ達も有名になったな」
「いえーい!ってか、この子たち可愛くない?マジ上がるんだが?」
語尾を跳ねさせてハイテンションなのは、ミニスカートの和服に虫眼鏡を首から下げた、派手な金髪の少女。そして、その背後で猫背のまま重厚なライフルをこちらに向けている少年。
「誰?」
「あの侍気取りが陣。ギャルい女の子がアミカ。ライフルが警邏。ここ最近のイベントで上位を独占してるメンバーだね」
「そういうお前は見ない顔だな?オレらがここを通過したのは2番目。このまま追ってもいいが、やっぱり他のユーザーどものレベルが気になるからな。待ち伏せしてたら、ルーキーが来るとは」
陣が一歩前へ出る。栄作は玲奈を庇うように一歩前へ出た。
「オレと遊んでくれるか?カワイ子ちゃん」
「いいけど、長くは付き合わないよ。それに僕の認識を改めないと火傷するからね」
栄作がゲーミング刀を中段に構える。瞬間、男の姿が消えた。
「――っ!」
金属同士がぶつかり合う甲高い悲鳴が静寂を切り裂く。
陣の抜刀は、一切の無駄がない直線的な一撃だった。栄作はそれをゲーミング刀の腹で受け止めるが伝わってくる重みが尋常ではない。
「おっと、危ない」
「意外と動けるじゃねえか!」
二人の剣戟が枯山水の上で踊る。栄作の刀が振るわれるたびに、虹色の閃光と電子音が爆ぜ視界を焼く。陣は目を細めることもなく、直感だけで栄作の刃を捌いていく。
しばらく打ち合ったところで、陣は刀をしまった。息が上がっているのは栄作だけだった。
「ま、異能なしでそこまでやれるんなら上澄みだな」
「………」
「すごくね?あたしらゆーしゅーなユーザーのはずだけど、陣と打ち合える自信はないわー。あれで可愛いとかやば、後で連絡先交換しよ!」
アミカの声を聴きながら栄作も刀をしまった。心配そうにこちらに掛けてくる玲奈を制すると宣言する。
「三回戦で続きをやろう。次は僕じゃなくて玲奈が君をボコボコにするから」
「え?私?」
「そいつは楽しみだ」
不敵に笑う二人と唖然とする玲奈。それを写す配信は盛り上がりを見せていた。
途中にいくつもあった罠を躱して屋敷の外へと這い出した二人の前には、ようやく第一世界の象徴である永遠の夜景が広がっていた。背後の屋敷からは、未だに戦闘音と脱落者の悲鳴が響いているが、二人の手の甲には金色の「三」の紋章が浮かび上がっていた。
「きっつかった」
玲奈は泥を払いながら、地面にへたり込んだ。
「でも、これで第一ステージ突破だ。生き残ったよ」
栄作もまた、隣に座り込んで大きく息を吐いた。
「………ねえ、エイ。あの陣って人、強かったね」
「異能を使ったらもっとやばいよ。変身系の異能はポテンシャル凄いからね」
変身系の異能は、変身願望と人よりも優れた想像力、明確な自己認識が必要となる。かなり珍しい異能であり、例外なく強力だ。
玲奈は自分の手の甲にある紋章を見つめた。現実では、どれだけ努力しても報われたという実感がなかった。だが今、この泥臭い脱出劇の末に手に入れた小さな印が何よりも確かな自分の証のように思えた。
「私、初めて自分で何かをやりたいって思えた。それでやり切れた」
「そう。楽しいでしょ」
「うん、楽しいかも!」
「………あと二つのゲームを乗り越えればさらにいい気分なんじゃない?」
栄作は玲奈の頭を優しく撫でた。