ずいぶんと間が空いてしまいました。しばらくはこちらに専念出来ればなと。
書き溜めがないので時間が掛かりますが。
彼氏と別れた。プロポーズしてくれた時は嬉しかったけど、本性が分かったら、もううんざり。今日の電話『ママが早く承諾してほしいと言ってるから』だって。大喧嘩になった。付き合い始めた時は誠実で男らしい人だと思ったけど、実際は何をするのもママが一番なマザコン男だった。まあ、見抜けなかった私が悪いんだけど、凹んじゃう。元々バンドを続けることには難色を示すことが多い人だったから、悔いはないわ。
『先輩、この間はごめんなさい』
たったこれだけのロインが送れない。どうしちゃったんだろ。誰かにロインを送るのに躊躇するなんて、バンドから逃げ出したあの日以来かな。あの日『逃げたギター』だった私。でもあの頃の汚名は返上できたつもり。私なりに一生懸命バンド活動に打ち込んできた。大学出てからも、就活もしないで卒業して、融通の利く派遣バイトを転々としながら頑張ってきた。大好きなバンド、大好きなみんな。ずっと、ずーっと一緒にいたいもう一つの家族!
でも、何も進んでいない。現実は、何年活動してもそこそこ程度のバンド。キャパ大きめのライブハウスでならワンマンライブはできる。ツアーだってそれなりに集客できている。濃い目のロック好きや、バンドマニアの間では少しは有名。小さいのならフェスだって出たわ。コンテストじゃないやつで。
だったら何? 武道館なんて夢のまた夢。レコ大、紅白? かすりもしない。あの頃見ていた夢になんて全く届いていない。いや、分かってるわよ。事務所もクビになるような2流バンドが、そんな大それたことできるわけないって。近い先輩だと思っていた大槻さんたちのバンドみたいに上手くはいかなかった。シデロスとは大きな差がついてしまった。
「何やってんだろ、私」
独り言だけが部屋に響く。今は都内で独り暮らし。実家は便利な場所だけど、就職しないって言ったら出ていくことになった。お父さんはともかく、堅物なお母さんを納得させるには、ある程度の結果が必要。いまだに胸を張れる実績は何も無い。親戚からも縁談を持ってこられることが増えた。『若いうちにいい男捕まえろ』だって。大きなお世話。
喜多郁代26歳、まだまだ若い……よね? 対バン相手に年下が随分増えたけど。
「バイトまでまだ時間あるし……よし」
ミーティングで揉めて、来週までのスタジオ練習の予定は取り止めになった。それを補うってわけでもないけど、ギターの自主練をする。バイト行くまでの時間、メイクの時間を差し引いても1時間程度は練習できる。あれからずっとリョウ先輩にお借りしているレスポールジュニア。大切な私の愛機。何度も修理やリペイントを重ねながら大事に使っているの。さあ、今日も練習頑張るわよ!
「――っつ!」
暫く練習していると、弦が切れた。この間張り替えたばかりなのに。随分と皮が分厚くなった指をじっと見る。しまった、ちょうど替えの弦を切らしてる。顔を上げたら時計と目が合った。出かける準備考えると時間はギリギリ。
……エリクサーは帰りに買おうかな。いや、バイトの帰りじゃ楽器店は閉まってるか。
「……もう準備しないと」
練習に夢中になりすぎた。でも、メイクとヘアセットには手を抜かないのが私のポリシー。女の子ですもの。もう時間も無いし、ご飯は『栄養メイト』でいいか。どうせあんまり食べる気もしないし。今日の仕事はスポットで入ったヒーローショーの司会。良い子の味方『ツチノコマン』を盛り上げるお姉さんは、日給制で交通費無し。バイト先には俳優志望や売れない芸人、私みたいなバンドマン、夢追い人が沢山いる。
この間バイト上がりに聞いたけど、ツチノコマンのスーツアクターさん地元帰って家業継ぐって。これまでにも何人かいたけど、仲良くしてくれた人が夢を諦める姿を見るのは、忍びない。
「ああ、もう時間がないわ! 急がなきゃ!」
夢を追う毎日はとても楽しい。それは嘘じゃないわ。でも、ままならない事ばかりの毎日。
――ほんと、何やってんだろ。
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