崖っぷち結束バンド   作:三十路スキー

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 大聖人 旧ぽいずんやみことフリーライターさとうあいこ。
 自己肯定感低めの伊地知さん。




ゆめとのつきあいかた

「ただいまと言う相手も居ない」

 

 まあ、もう慣れたけどね。大学を卒業して、新卒で入った会社を辞めて、紆余曲折あってこのワンルームアパートに住んでいる。ここは今のバイト先、介護ヘルパーの仕事場に近くて、スターリーも自転車で行ける距離。築30年で駅からは遠いけど。住めば都、案外悪くない。

 

「ふぅ。ギリギリセーフ!」

 

 洗濯物を取り込むと、示し合わせたように雨が降り始めた。なんとか朝の洗濯が無駄にならずに済んでよかった。とりあえず喜んでおくか。

 

「……お風呂入ろ」

 

 普段はシャワーで済ませるけど、今日は久々に湯船に浸かりたい気分なんだよね。小柄なあたしが足を延ばせないほどの狭い浴槽。軽くシャワーで汚れを流してから、お湯を張る。

 

「へー、それなりにイイネ来てるじゃん」

 

 風呂を貯める少しの手持無沙汰。一旦部屋に戻ってマッチングアプリの『ベアーズ』を開く。久々に開いてみたけど、イイネとメッセ―ジが結構溜まっていた。内心ちょっと複雑。職業バンドマンにしてた時は、イマイチ人気なかったのにな。我儘とかメンヘラとかお金ないとか思われてたのかな。

 で、職業フリーターにして家庭的なところアピールする写真にしたら一気にイイネ来てやんの。男って単純よね。実は気まぐれにアプリの男性に何人か会ってみたりしてるんだ。東京住みでちょっと面白そうな人、特に音楽関係の人の話を聞いてみたいって思って会ってランチを奢ってもらったりする。

 あ、パパ活じゃないよ! あくまでご馳走になってるだけでお手当とかは貰ってないし。これでも話合わせんのは得意なんだから! でもバンドマンの男だけはダメ。あいつら基本お金無いし、すぐホテル行こうとしてくるしさ。やんなるよ。ま、今は恋人作る気なんてさらさら無いけどね。男がヘンな気見せたら、すぐ逃げてロインはブロックしちゃう。

 喜多ちゃんみたいな恋多き女にはとてもなれないよ。あの娘、大学入ってから彼氏居ない時期無いし。歴代のオトコ何人居たんだか。

 

「やっぱあたしって地味かな?」

 

 ふと髪を触る。今はロングのストレートヘア。昔ほどは長くない。流石にサイドテールはこの歳じゃ無理だよ。受験で眼が悪くなってコンタクト使うようになったけど、面倒臭くなって、いつも眼鏡にしている。黒いフレームでレンズは大きめ。

 まあ、ルックスについては正直自分をブスだとまでは思わないけど、美女3人に囲まれてバンドやってたら自信無くしちゃうよね。やたら顔のイイ3人と、不釣り合いな地味子のバンドみたいに言われることもあるしさ。ぼっちちゃんの可愛さがバレちゃってからは特に。

 ぼっちちゃんね、最近やっと人前でおでこ出す髪型にするの耐えられるようになったんだよね。ライブにはピンクジャージは着なくなったし。普段着のセンスはジャージが一番マシなくらいアレだけど。

 

「あ、お風呂湧いた」

 

 そんなことをぼんやりと考えていたけど、久々に聞いたお風呂チャイムで我に返る。服を脱いで髪をお団子に纏める。さっさとお風呂入っちゃおう。今日は買い物も無し! 食事は家にあるもので済ませてさっさと寝てしまいたい気分。厄介なことは明日のあたしに任せよう。

 

 ――ぐにっ。

 

「油断してるなぁ……あたし」

 

 何気なくお腹を触ってみる。下腹がぷにぷにしている。簡単に摘めてしまう。少し前まではお腹に肉が付くことなんて無かったのにな。やっぱり歳は確実に取っているんだなって嫌な実感。27歳。おへそが出るような衣装は、もう無理かな。

 そうだ、あたしもリョウみたいに筋トレしよう。ジムとか通った方がいいのかもね。将来のためにもしっかり体力つけなくちゃ。そういや、あの娘はいつも努力なんてしてませーんって顔して、裏では結構頑張ってんの知ってんだから。根は結構マジメちゃんなんだよね。可愛い奴。

 ドラマーは体力勝負だし。頑張ろう。あ、いや、バンド解散したら、もうドラムやらないのかな。……って余計なこと考えるなあたし! 今日はもうバンドマン伊地知虹夏は営業終了。閉店ガラガラってことで。

 ……心に蓋しとかないと、メンタル持たないよ。結論は来週までに出せばいい。さっさと入ろう。

 

「ふぅ、気持ちいい」

 

 浴槽に入る。足を延ばしきれないから体育すわりみたいな姿勢になる。こんなお風呂でも熱いお湯があたしのカラダを癒してくれる……ような気がする。

 

 

 

 

 

「さて……ご飯は、と」

 

 バスタオルで体を拭いたら、部屋着を着て辺りを物色する。冷蔵庫は空っぽ。がーん、だね。……ならば、とレトルトを纏めた棚を見る。おお、カップ焼きそばがあるじゃないの。とりあえず今夜はこれを食べよう。ビールの一本も欲しくなるけど、我慢。

 

 ♪♪♪

 

「あー、こんな時に電話―?」

 

 着信画面は『ぽいずんさん』だ。あの人がストレイビートのバイト辞めてからも、取材なんかで何度かやり取りはあったけど、電話は随分久しぶりだ。

 

『はい、伊地知です』

『もしもし伊地知さん、お久しぶりね』

『えっと、お久しぶりです、やみさん』

『その名前で呼ぶのは止めてちょうだい。今はフリーライターさとうあいこで活動してんの。まあ、そんなことよりあんたたちストレイビートクビになったってマジなの?』

『はい……お恥ずかしながら、今日、契約は更新しないって』

 

 相変わらずズケズケとした物言いだ。そして耳が早い。

 

『よし! 私、丁度あんたのアパート近くのファミレス居るから。あんたここ来なさい! 話があるわ!』

『え……今からですか?』

『晩御飯食べてないなら奢るわ。場所はロインで送るからね。来なかったらあんたの部屋乗り込むから!』

 

 もう、早口だなぁ。他のバンド取材するときはもっと丁寧な物腰なのに。

 

 

 

 

 

 もうすぐ時計は七時。外は真っ暗。ああ、寒いなぁ。佐藤さんのお説教が待っているって考えたらあんまり気乗りしないけど、行かなかったら本当に部屋乗り込んでくるもんな、あの人。

 お風呂入ってメイクも落としたから、準備がダルいな。あーもうノーメイクでいいか。無理に気取るような相手でもないし。さっさと適当な外出着に着替えて出掛けようか。

 玄関を出て、入り口脇に置いた自転車に目を遣る。あそこ微妙に遠いんだよね。

 

「……歩いて行くか」

 

 自転車のカギを取り出して、このくらいの距離なら歩いたほうがいいかと思い直す。




 今後の予定
 押しかけマネージャー参戦!(旧ぽいやみ)
 シングルベッド(山田回)
 マーガレット(ぼっちと廣井回)
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