崖っぷち結束バンド   作:三十路スキー

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 お助けキャラ投入! 多分聖人なはず、旧ぽいずんやみ。
 いろんな人たちの手助けを。メンタル限界な結束バンド。
 人生に折り合いをつける話だったけど、再生の物語へ。
 なにもかもうまくいくわけじゃないけど、
 それなりにハッピーなエンドに着地します。



押しかけマネージャー参戦!

 

 雨上がりの下北沢。ただでさえ寒いのにますます冷え込むな。両手を上着のポケットに突っ込んで、佐藤さんの居るファミレスに早足で向かう。吐く息が白い。

 そういやあの人とも長い付き合いになる。はっきり言って第一印象は最悪だったな。あたしたちのバンドをこんなとこ呼ばわりしやがって。……当時はその通りだったけどね。ギターヒーローに相応しい居場所とは言えなかった。そしてぼっちちゃんもライブは動画に比べて全然だったし。

 未確認ライオット出場のきっかけになって、レーベルも紹介してもらった。ああ、ぼっちちゃん、あの時のマジ顔カッコよかったなぁ。

 今思えばあたしたちにとっては大きなキーパーソンよね。正直あの人がいなかったら、結束バンドは学生のうちで終わってたと思う。その後もやみ……じゃなかった佐藤さんは、なんだかんだ世話を焼いてくれている。最近はライターだけで食べていけるらしくて、ストレイビートではバイトをしなくなった。若手アーティストを取材する側として出入りしてるから、たまに会う。流石にキャピキャピ14歳キャラはもうやらないみたい。クセは強いけど、いい人だよ。

 

「これからスタ錬行くよ!」

「えーもう帰りたいー」

「ほら、行きますよ先輩!」

「あー置いてかないでください―」

 

 ファミレスから出てきた賑やかな4人組が、あたしを横切っていく。この寒いのにスカート生足で頑張っている見知らぬ女子高生たち。少し振り向いて見てみると、3人はスクールバッグとギターケースを背負っている。あと1人はバッグだけ。ドラマーかな?

 ってことはあの娘たちもガールズバンドだろうか。平日夜にスタジオ練習行くなら外バン(学外バンド)か。懐かしいなぁ。あたしたちにもあんな頃があったなぁ……。

 

 ――微笑ましいはずなのに、なんで苛つくんだろう。

 

 

 

 

 

「おーい! こっちよー!」

 

 先に連れがいることを伝えて入店すると、向こうにブンブンと手を振る女性が。黒系のパンツスーツで落ち着いた格好なのに、仕草は妙に子供っぽい。テーブルにはグラスワイン。顔は少し赤くなって、もう出来上がってるじゃん。

 

「早速だけど、あんたたちこれに出なさい!」

 

 席に着くや否や、あたしの顔前に何かイベントのフライヤーを突き出してくる。なぜかクリップで自分の名刺を留めてある。

 

フリーライター さとうあいこ

 

 シックな書体で、なかなかカッコイイ名刺だ。昔の手書きイラスト付き『14歳だよ♪』とは違って。いやそんなことはどうでもいい。まずは……。

 

「な、なんなんですか、いきなり」

 

 ホント、いっつもいきなりなんだよねこの人は。

 

「事務所クビになるんでしょ。だったら再就職先探さなきゃ! これで優勝したら夢のメジャーレーベル所属よ!」

 

『コニーミュージック ガールズバンドオーディション』

 

 フライヤーの詳細を読んでみる。ふむふむ……。開催時期は8月。参加資格は事務所無所属のバンドでメンバーが全員女性なこと。年齢経歴の制限無し。優勝バンドはコニーミュージックよりデビュー確約。(中略)特別審査員……大槻ヨヨコ。

 シデロス、先週のMステで見たよ。大槻さんたち出世したなぁ。応募開始は私たちがクビになる日の翌日。

 

「どうよ! 出てみる気無い?」

 

 佐藤さんがフンスとドヤ顔。やっぱり仕草が子供っぽいのよね、アラサーなのに。

 

「えーと……すみませんが、私たち解散するかもしれなくて揉めてて、それどころでは……」

「はぁ!? 解散? レーベルひとつクビになったぐらいで何言ってんの?」

「……」

 

 この人も、お姉ちゃんと同じようなこと言うんだ。

 

「なによダンマリ? ……つーかあんた、ちょっとどころか、かなり辛そうよね」

「うっ……」

「顔見ればわかる」

 

 メンバーでもないあなたに何が分かるの。もっともらしいこと言わないで。

 

「私で良かったら、話してみてよ。少しは楽になるわよ」

「……」

「ほら、まずは飲め!」

 

 そう言うと佐藤さんは、グラスに赤ワインを注いで、半ば強引に飲ませようとする。テーブルにはいつの間にかマグナムボトルの赤と白。どれだけ飲む気だよ。ああ、佐藤さんって廣井さんに負けないぐらいの大酒飲みだったわ。

 

「今日は奢りよ! いっぱい飲め! 喰え!」

 

 

 

 

 

「だがらぁ……みんなぁだいづぎなんでずよぅ! ぼっちぢゃんもぉリョヴぼぉぎだぢゃんもー! だがらみんなにヴぁーぎわれたくないのぉ! でもぉぐずっ……あー!」

「はいはい、分かったってば! それ何度目よ! ……辛かったよね伊地知さん」 

 

 理性とは裏腹に、すっかり酔態を晒してしまう。佐藤さんは頭を撫でて宥めてくれる。

 

「ヴぁい! ぽいぞんざん! にじが、がんばっでるよねぇ!」

「うん、うん、あんたは良くやってるわ。……だから!」

「?」

「決めたわ! 私があんたたちのマネージャーになってあげる!」

 

 嘘でしょ。一発で酔い覚めたわ!

 

「え? 何言ってんですか!」

「いいでしょ! オーディションまでの期間限定! 機材車の運転から関係各所との交渉も全部やってあげるって言ってんだから、好意に甘えなさいな! 司馬さんほど敏腕じゃないけど、今あんたたちを担当してる青瓢箪よりは役に立つはずよ!」

 

 確かに、今の結束バンド担当マネージャーは相当頼りない。

 

「でも佐藤さん、なんでそこまでしてくれるんですか?」

「私だって結束バンドが……その、好きなのよ! 取材対象としてだけじゃなくて、ファンとして、友達としても! ギターヒーローさんだけじゃなくて、あんたたちのこともみんなね! 最推しバンドに冴えないまま消えてほしくないの! 司馬さんだって心配してたし! 『お力になれずに申し訳ありません』って言ってたわよ! もちろんギャラは取らないから安心なさい! 完全ボランティアよ!」

「……いいんですか? 本当に」

「女に二言は無いわ!」

 

 ……そこまであたしたちのことを思ってくれてたなんて。

 

「ありがとうございます! あたし、勇気が出てきました! でも他のメンバーが……」

「大丈夫! 説得は任せなさい! 私も次回のミーティングからお邪魔するわよ!」

 

 

 

 

 

「すみません、リボ払いでお願いします……」

 

 帰り際、顔面蒼白でレジ前に立つ佐藤さん。案の定足りないか。あれだけふたりで飲み喰いしたらなぁ。

 

「あ、あの、やっぱりここは割り勘で……」

「いいの! ここは奢るって言ってるでしょ!」

 

 ……先行き不安だ。




 次回 シングルベッド(山田リョウ回)
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