崖っぷち結束バンド   作:三十路スキー

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 ぼ廣回。たとえ伸びなくても、今見てくれる人がいる限りは完結させます。


マーガレット

「あ、お母さん。急にごめんね。今日家帰っていいかな?」

 

 後藤ひとり26歳。久々に金沢八景の実家に帰ることにした。明日はバイトも休み。アパートで荷物を纏めて約2時間電車に揺られて地元に帰る。もう夜も遅い。でも懐かしいなこの感じ。2時間掛けて、ギターを背負って秀華高校に通っていたあの頃を思い出す。

 もうピンクジャージは着なくなった。お気に入りだったけど、毎日あれを着ているのは恥ずかしいって気づいたから。美容室で髪を切れるようになった。前髪を上げておでこを出しても大丈夫になった。コミュ障も少しはマシになった……と思う。今日はギターの練習はお休み。さっさと寝てしまおう。

 

 

 

 

 

 昨晩はよく眠れた。最近はストレスでよく眠れなかったから久々に気分爽快。やっぱり実家の布団は偉大だ。昼前にのんびり起きて遅めの朝ご飯を食べる。

 

「ひとりちゃん、今日はジミヘン調子良いみたいだからお散歩連れっててあげて?」

「あ、うん。わかった」

 

 久しぶりだな。ジミヘンとの散歩。暫くぶりに家に帰っても、家族はみんないつも通りに迎えてくれた。急に帰ってきた訳も聞いてはこなかった。昨日は晩御飯を食べてからお風呂に入って、そのままになっている押し入れを見たら練習休むのはやめた。短い時間だけどギターを練習して床に就く。こういうなんでもないことに幸せを感じる。

 この間まで子犬だと思っていたジミヘンも軽く10歳を超えて、もう老犬だ。最近は具合が悪くて、お散歩を嫌がる日も増えたらしい。……そろそろ覚悟しないといけないって獣医の先生も言ってるとお母さんから聞いた。

 

「あ、ぼっちちゃん!」

 

 海沿いをトボトボと歩いていると、向こうから聞き覚えのある声がする。

 

「え、お姉さん。どうしてここに?」

 

 あれは間違いなく廣井きくりさんだ。どうしてこんなところにいるんだろう? 店長さんから、お姉さんがついに完全断酒出来たって聞いてたけど、もう酔っぱらって流れ着いてくることなんて無いはずなのに。

 

「明日横浜でライブあるんだよね。ちょっと早めに入ったから、懐かしくなっちゃって」

 

 そうだった。ここはお姉さんと二人で初めて路上ライブをした場所だ。私は最初目を瞑って演奏して、お姉さんは私の演奏に完璧に合わせてくれた。今でも交流のあるファン1号さんと2号さんにも初めて出会った場所。初めてチケットを売った場所。今じゃ路上ライブなんて何度やったか分からないけど、ここでのライブだけは、私は生涯忘れないだろう。

 

「お姉さん、お久しぶりです。もうお酒飲んでないんですね」

 

 顔に笑みがこぼれるのが、自分でも分かる。

 

「うん。3年前から断酒してるんだ。ライブ中に倒れて入院してから、志麻とイライザに大泣きされてね。医者にはもう肝硬変寸前だって言われたよ。死にたくなかったら直ちに断酒しろー! なんてさ」

 

 あの時は私たちもお見舞いに行ったっけ。まさかあのお姉さんが本当に一滴もお酒を飲まなくなるとは正直思わなかったな。

 

「断酒、ちゃんと続いているんですね」

「なんとかね。とりあえず座って話さない? お、ジミヘンちゃんもお久しぶりー」

 

 屈んでジミヘンの頭を撫でてあげるお姉さん。ジミヘンは誰か分からず困惑している。まあ、会うのが久々だってのもあるだろうけど、匂いが違いすぎるから仕方ないか。おにころの匂いはもうしないしね。

 二人であのステージみたいになっているところに座り込む。今日はベースの替わりにアコースティックギターを背負っている。実はシクハックはお姉さんが倒れてから活動を停止中。お姉さんは、復帰してからシンガーソングライターとしてソロ活動をしているらしい。最近は会えてなかったからよく知らないけど。

 お姉さんは昔の泥酔してた時と素面の時の喋り方の中間みたいな感じになっている。30歳を超えて落ち着いた大人の女性って感じだ。正直元から顔がいいし、そのしぐさに女の私も少しドキッとさせられる。

 

 

 

 

 

「これ断酒会のみんなと行った慰安旅行」

「え、おじさんばっかりですけど大丈夫ですか……」

 

 階段に座り込んでいろいろと話す。近況や路上ライブの思い出。そして断酒の話。もう画面がバキバキじゃなくなったスマホでお姉さんが見せてくれた画像は中高年のおじさんたちの集まりの中央にお姉さんが写った集合写真。温泉に行ったらしい。少数だけど女性もいるみたいだ。でも若い女性はお姉さんだけ。正直嫌なことを考えてしまう。

 

「あー、案外みんな紳士だよ。いっぱいチヤホヤしてくれるよー。それに少ないけど百戦錬磨のお姐さんたちもいて、見張っててくれるからヘンに手を出してくる奴なんていないよ。なによりみんな同じ苦しみを知っている仲間だからね。お酒で痛い目見て、仕事や家族を無くしたって人もたくさんいるし。みんなでいれば禁断症状の辛さも分かち合える。それなりに仲良くやってるよ。私がギターを弾いて、みんなで歌ったりもするんだ」

 

 そうなんだ。なんか素敵だな。今その大切な仲間……バンドメンバーと大揉めしている私からすれば羨ましく思えてしまう。

 

「それからね、こっちは生まれたばかりの志麻の子供たち。双子ちゃんだよ!」

「あ、かわいいですね」

 

 志麻さん、子供生まれたんだ。結婚式招待されてみんなで行ったな。普段はボーイッシュな志麻さん。でも普段と違う、女性らしくて綺麗なウエディングドレス姿はとても素敵だったのを覚えている。相手は共演したバンドのドラマーさんだっけ。カッコ良くて誠実そうな男性だったな。

 いつか私にもあんな日が来るのかな。いやいや私みたいな陰キャゴミムシに結婚なんて百万年早いし……。

 

 

 

 

 

「でさ、ぼっちちゃん、あのね……」

 

 二人で話す時間はとても楽しい。お姉さんはやっぱり素敵な人だな。

 

 ピコン♪

 

 あ、お母さんからのロイン。

 

『どこで油売ってるの? さっさと帰ってらっしゃい』

 

 あ、結構時間経ってる。とりあえず謝らないと。

 

「あ、あの、よかったら私の家でご飯……食べていきませんか?」

「え、いいの? いきなり行って迷惑じゃない?」

「大丈夫、だと思います。……多分。うちの家族もお姉さんのこと気に入ってくれてますから」

 

 ロインに返信する。久々に廣井さんに会ったこと、廣井さんを家に招いていいかを聞く内容で。お母さんからは快くOKを貰った。続きは遅めのお昼ご飯を食べながらにしよう。




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