崖っぷち結束バンド   作:三十路スキー

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 評価ありがとうございます! 赤スタートで良い滑り出し。うれしい!
 早熟な才能の代償。話の重さの加減が分かりません。どうしたものか?


成長と代償

「あ、どうぞ」

 

 レンジで温め直した唐揚げとよそったご飯、味噌汁を食卓に座るお姉さんにお出しする。家にはお姉さんと2人きり。お母さんは婦人会の集まりで出かけている。お父さんは仕事、ふたりも今日はおでかけらしい。

 

「いただきます」

 

 丁寧に手を合わせてから食べ始めるお姉さん。食べ方が綺麗だ。酔っ払いだった頃はめちゃくちゃ汚く食べたり飲んだりしてたのに。

 

「ど、どうですか?」

「うん、とてもおいしいよ」

 

 にっこり笑顔で答えてくれるお姉さん。大きいからあげを、ゆっくりと食べ進める。

 

「ぼっちちゃんさ」

「はい」

「結構長い付き合いになるけど、ホント成長したよね」

「え? そんなこと……」

 

 いやいや、私みたいなミイデラ陰キャゴミムシが成長なんて……。

 

「そんなことあるよー。最初会った時なんてひどいもんだったよ」

「うぐ!」

 

 深く傷つく。お姉さんって昔からシラフでも容赦ないとこあったよね……。

 

「でもさ、君は変わった。少しずつだけど。君をちゃんと見てたのは先輩だけじゃないよ。私だってぼっちちゃんのこと、しっかり見てたから分かるよ。ギターの腕だけじゃない。苦手な接客バイトとか頑張って、見た目も整えて、バンドメンバー以外とのコミュニケーションだって、みんなのために努力して、少しずつ前に進んできたんだなって」

「そんな、買いかぶりすぎです……。バンドのみんながいろいろ助けてくれたおかげですよ」

 

 お姉さん、褒めすぎ。

 

「人に優しくて、いつも正直な君だからみんなも助けてくれたんじゃないかな?」

「……お姉さん」

 

 うれしい。お姉さん、私の事そういう風に思ってくれてたんだ。

 

 

 

 

 

「……」

「……」

 

 そこから少しの沈黙。2人で昼食を食べ進める。食器の当たる音だけが響く。

 

「あの、今のお姉さんってなんというか、仕草が上品で綺麗だなって……」

 

 うわ、いきなり何を口走ってるんだ私。気持ち悪いって思われちゃうじゃん!

 

「あはは……。私ね、これでも一応いいとこのお嬢様なんだよ?」

「え、そうなんですか? 初めて聞きました」

「そりゃ殆ど言ってなかったからね。バンド関係の人で知ってるのは先輩と志麻ぐらいかな」

 

 ……そうなんだ。でもその言葉にも説得力がある品の良さ。

 

「小さい頃はピアノ習っててさ、地元では神童なんて言われてたんだよ。まあ、田舎での話だけどね」

「あ、たしかお姉さんの音楽のルーツはピアノだって、佐藤さんの記事で見たことあります」

「ああ、あのライターちゃんか。ちょっと前までは新宿あたりチョロチョロしてたけど、最近見ないね。元気してるかな?」

 

 シクハックのインタビュー記事、あれ凄い良かったけど、泥酔しててまともな取材にならなかったから、志麻さんが用意したテンプレートほぼそのまま使ったって、後で聞いてゲンナリしたことを覚えている。

 

「で、ピアノだけどさ。まあ、親に半ばムリヤリ習わされてたんだけどね。即興で演奏して周りをびっくりさせたこともあったっけ。コンクール荒らしでちょっとした有名人だったんだ。子供のころから音楽の基礎をしっかりやってたのが今でも助けになってるよ。そこは感謝してる」

「え、じゃあなんでピアノやめちゃったんですか?」

「見て」

 

 お姉さんは椅子から立ち上がると、こちらに背中を向けて、おもむろにシャツを脱いだ。痩せた背中。白い肌が露になる。そして、背中一面にある、痛々しい傷跡、みみず腫れの痕。

 

「少しでもミスをすると先生に教鞭でぶたれたんだ」

「酷い。そんなことって……」

 

 軽々しく質問したことを後悔した。お姉さんのこと全然知らないんだな、私。

 

「それが普通、それが正しいんだと思っていた。……でもある日突然、親の言いなりでピアノ弾くだけの人形みたいな人生だなって思ってさ。急に人生つまんねーってなったんだよね。だからピアノを辞めた。もちろん猛反対されたから、家族で唯一味方してくれたおばあちゃんを頼って高校も転校したよ」

「そう、だったんですね」

「……そしたらさ、周りから人が居なくなった。だって当時の私、ピアノ以外何の取り柄も無かったし。クラスメイトと会話もまともに出来ない、どうしようもないネクラちゃんが爆誕ってわけ」

「……」

「でもそれって意外とラクなんだよね。元から友達と言える人なんていなかったからなおさらね。ぼっちちゃんならそれわかるでしょ?」

「あ、はい」

 

 そうなんだよね。今思えば、十代の頃の私って承認欲求は人一倍強いくせに、人間関係からは逃げ続けてきたんだ。今思えばすごく矛盾してるけど。他人が怖くて、嫌われるのはもっと怖かった。

 

「だけど私は変わりたかった。ピアノは嫌になったけど、音楽は捨てられなかった。そしてロックに憧れた。チグハグだけど、私にとっては結構自然なことだったんだよね」

「あ、それなんとなく分かります。……根拠はないけど」

「そして、どうせならバンド組みたいって衝動的に思ったんだ。メンバー集めやすいようにバンド募集でギターより需要のあるベースを覚えて、ついでに歌も歌うようになった。大学で志麻を見つけた時に『運命』を感じたよ。バンドにイライザが来て『売れる確信』を持ったんだ」




 次回に続く。お気に入り、感想、高評価宜しくお願いします!
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