崖っぷち結束バンド   作:三十路スキー

9 / 10
 ここのみ廣井視点。ぼっちサイドはこれで終わり。


サヨウナラユウレイ

「ありがとう! ありがとう! 後藤ひとりと廣井きくりでした! お捻りよろしく!」

 

 開いたぼっちちゃんのギターケースは、お客さんたちの『お気持ち』ですぐ一杯になった。小銭からお札まで沢山ある。鬼ころやカップ酒まで。昔の私を知っている人かな? ……もう飲めないんだけどな。

 万雷の拍手がライブ成功の証。初めての路上ライブとは雲泥の差だ。ぼっちちゃんも私も成長した。ぼっちちゃんは目を開けてるし、私もシラフ。そして演奏テクとパフォーマンスはあの時よりもずっと向上している。その証拠に、足を止めるギャラリーも遥かに多い。今日はお祭りでも何でもない普通の平日なのに。

 ギターヒーローは登録者が頭打ち。ぼっちちゃんのちょっとしたミスで顔バレしても、新規動画は全盛期の半分も再生数が無い。そしてシク ハックもコアなファン以外からはすっかり過去の人扱いだ。

 

 

 

 

 

 ――サヨウナラユウレイ。お前とはもうお別れだ。

 

 二十歳の誕生日、なんとかこぎつけた志麻たちとの初ライブ。あまりの緊張につい飲んでしまったビール。そしてお前が現れた。私の顔をしたお前が、ベースに力を授けた。不思議と上手くいった。フラフラだったし歌詞も飛ばした。でもそれ以上の音を出せた。まさに『魔性』の音色だった。お前がくれた私の音。

 シラフでは舞台に立てない。志麻にどれだけ叱られても、酔っていなけりゃベースを弾けない。作詞も作曲も全く進まない。お前が居なければ、私は何も無いただのネクラだ。

 

「でも、今は違う」

「……お姉さん、何か言いました?」

「ううん。何でも無いよ」

 

 今はみんながいる。志麻にイライザ。銀ちゃんや伊地知先輩も。そして大槻ちゃんたちやぼっちちゃんたちがいる。あの頃独りだった私には、沢山の仲間がいるんだ。もう酔っ払いじゃなくていい。シラフだから書ける曲がある。弾けるモノがある。だからもうさよならなんだ。私は私の道を見つけた。

 

 

 

 

 

「ねぇ、ぼっちちゃん。これ受けてみなよ。やっぱり君たちはメジャーに行くべきだよ」

「……」

 

 片付けを終えてまどろみのひと時。ぼっちちゃんにスマホの画面を見せる。

 

『コニーミュージックガールズバンドオーディション』

 

 ぼっちちゃんたちは世界で通用する。私は大真面目にそう思っているんだ。私みたいなローカルで終わるミュージシャンとは違ってね。その足掛かりにメジャーレーベルへの所属は必要不可欠だ。

 

『特別審査員大槻ヨヨコ』

 

「……大槻さんは、こんな私なんかを友達だと言ってくれました」

「じゃあ追い付いてみせなよ。君ならそれが出来るから」

 

 出世したね、大槻ちゃん。でもぼっちちゃんのバンドは、大槻ちゃんたちと同じ土俵で勝負できる。知名度さえ付いて来れば、数年後には肩を並べる……かもしれない。私はそう信じている。




 次回『私だけの一番星』まさかの虹喜多。感想、お気に入り、高評価お願いします!
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