先生とアリウス4人が第二の人生を歩む話   作:緑抹茶

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10.ささやかな幸せ

 

サオリたちと生活を始めて3ヶ月が過ぎた。

 

最初こそはみんな日本での生活に戸惑っていたが、今ではすっかり馴染んでいるみたいだ。

 

我が家の家事は当番制で回している。

 

ミ「ヒヨリ、それダメ。ハンガーは首からじゃなくて下から通す。」

 

ミサキはすっかり慣れた手つきで服を次から次へと物干し竿へかけていく。

 

ヒヨリはまだまだといったところか。

 

ヒ「あああ!!!ご、ごめんなさい!!!」

 

ミ「いや、そんなに謝らなくても...」

 

ヒ「ええっと...ええっと...」

 

ミ「早く。5人分もあるんだから、さっさとやらないと永遠に終わらない。」

 

ア「ふふっ...あっ、みんなお風呂も洗っておいたからね。」

 

掃除に洗濯、ごみ捨てはアツコ、ミサキ、ヒヨリに。

 

調理や買い出し、洗い物といった調理系は俺とサオリで回している。

 

どうしてこんな感じで当番が分かれているのか、全員でローテーションで回せばいいのかと思うかもしれないが、これには理由がある。

 

まず、アツコは元ロイヤルブラッド故にアリウス時代ではベアトリーチェの意向で刃物を持たせるのは禁止だったらしい。なので他の3人が料理を担当していたという。

 

正直、銃を持って前線でバリバリ戦っていたことを考えると、どうしてそんなことを禁止していたのかは意味不明極まりないが、まぁそうだったようだ。なのでアツコには調理スキルは皆無と言ってもいい。

 

「アツコ...これが、例の...」

 

ア「例のってちょっと失礼じゃない?一応お料理がんばったつもりなんだけど?」

 

ヒ「ええっと...これが...ですか?」

 

実際に料理をさせてみたが、黒焦げの料理ができあがった。

 

次にミサキ。この理由は明快だ。彼女の自傷癖。日本に来てからはミサキが自分を傷つける頻度はかなり減った。

 

でも彼女の奥底にこびりついたクセなのだろう、試しに一度包丁を持たせてみたら無意識のうちに自身の前腕に持っていこうとしたのを見て、これはいけないという判断になった。

 

そしてヒヨリだ。ヒヨリはミサキのように絶対にさせては行けない理由があるわけでも、アツコのように料理ができないわけでもない。むしろサオリたちが言うには料理をしていたという。

 

ただ問題は...

 

先、ア、サ「ヒヨリ....」

 

ミ「嘘でしょ...」

 

ヒ「ふえええ...ごめんなさいいいい!!!」

 

「いや、別に怒ってるわけではないんだけど...いや、怒らないといけないのかこの場合は...??」

 

ヒ「悪気があったわけではないんですうう、そ、その手が止まらなくなったというか...その...あの...」

 

「正直さ、怒りの感情よりもね?驚きのほうが勝ってるんだよね。」

 

ヒ「ひいいい!!!」

 

「まずはね、ハヤシライス、頼んだ通りに作ってくれたのはありがたいんだ。そしてちょっと味見するのもいいと思う。」

 

ヒ「それは...その...ちょっと手が止まらなくて....」

 

「それで、気づいたら全部食べてしまったと。一応アレ2日分、8人分以上あったんだけどそれ全部一人で?」

 

ヒ「ふええええん!!!ごめんなさいいいいいい!!!!」

 

まぁ、こんな感じで料理を作ってくれるところまではいいが、ついつい全部料理をつまみ食いしてしまうことが複数回。

 

ヒヨリが作ろうが、誰かが作っても気を抜くとぺろりと食べられていることがしばらく続いた。

 

また別の日は...

 

ヒ「えへへ...お父さん、これ頼まれてたおつかいです」

 

「お、ヒヨリわざわざありがとうね。じゃあもらうよ。」

 

ヒ「ええっと、一応予算の中で収まってるはずです...」

 

「じゃあちょっと確認するね...ん?」

 

ヒ「な、なにか問題でもあったでしょうか...」

 

「このお菓子は一体何...?」

 

ヒ「ちょ、ちょっと魔が差しまして...えへへ」

 

このように買い出しを頼んでも、一応ちゃんと買ってきてはくれる。でも、余った予算の中でお菓子やジュースといった余分なものも一緒に買ってくる。

 

ビスケットにポテチにチョコボール。たくさんのお菓子の袋が顔を出している。

 

5000円を渡しておつかいを頼めば、3500円でおつかいを済ませ、残りをお菓子に使うといった具合に。

 

それも、よりたくさんのお菓子を買うために、いかに必要なものの予算を削れるかを頑張っていたようで、褒めるべきなのか、叱るべきなのか....正直分からない。

 

「ヒヨリを調理担当にしてはダメだね」

 

サ「まぁ、当然だな」

 

ミ「分かりきってた結末でしょ」

 

ア「ふふっ」

 

ヒ「ええええ!!!!」

 

まぁそんな事が重なった結果、ヒヨリに任せてはいけないと家族会議で決定した。

 

 

「サオリもだいぶ料理うまくなってきたよね。」

 

サ「そうだろうか?」

 

ある日の夕方、アツコたちは学校に行っている時間。俺は今日はリモートワークだったので早めに仕事を切り上げて、サオリとともにキッチンに立っていた。

 

「うん、普通に美味しいよ。まぁ店を開けるかといったら、微妙だけど。家で出てくる分には全然問題ないと思う。俺の大学時代のほうがもっと下手だった。」

 

サ「それは言いすぎだろう。だって父さんは私よりももっと上手じゃないか。」

 

「それは社会人になってから自炊にも力入れたからさ。」

 

サ「そういうものなのか...それで今日は何を作るんだ?」

 

「今日はね、鍋を作るよ。」

 

サ「鍋...いろんな具材を入れて、煮込むアレのことか?」

 

「そうそう。ちょっと冷蔵庫見てみ」

 

サ「ああ...中途半端に残った野菜、賞味期限までに使い切れなさそうな肉にヒヨリが調子に乗って買ったうどんの山...」

 

「今日は、その具材を全部つっこんで夕食を作る感じさ。食品ロスにもつながってベリーグッド!」

 

「それに...」

 

サ「?」

 

「鍋は食材入れて煮込むだけだから、メチャクチャ簡単に作れる。くっそ忙しくて自炊したくないけどしないといけない時に有効なんだ。サオリも覚えておくといいよ。」

 

サ「なるほど、勉強になる。」

 

サオリは本当に優秀だ。ジャンル問わず、いろんなことを次々に吸収していく。

 

「とりあえず鍋を用意して...じゃあまずは野菜を切っていこうか。」

 

トントントンとサオリはすっかり慣れた手つきで野菜を切っていく。

 

3ヶ月前は野菜を切るのもままならなかったのに、今ではすっかり上手になった。

 

にんじん、白菜、ネギにキャベツ。あまっていたニラも使うか。

 

「じゃあ、野菜は鍋に入れちゃっていいよ。」

 

サ「全部か?」

 

「うん。思いっきりいっちゃって」

 

サ「それで次は?」

 

「次は肉かな。肉はもう切れてるからそのまま入れちゃおうか。」

 

割引されていたけど使わなかった豚肉や、微妙に余った牛肉、これもまたヒヨリが気になって買ってきたホルモンと、鍋の中はだんだんにぎやかになっていく。

 

「最後に鍋の素を入れれば仕込みは終わり、と」

 

サ「ところで父さん」

 

「ん?」

 

サ「うどんは入れないのか?」

 

「うどんは最後、今から入れちゃうと伸びて美味しくなくなるからね」

 

そうして今日の夜ごはん、冷蔵庫の残り物鍋の完成だ。

 

 

ア「ただいまー」

 

ミ「はぁ...朝からずっとテスト。疲れた....」

 

ヒ「やっと休めますね!!」

 

ミ「ヒヨリ、元気すぎ...」

 

そうこうしていると、玄関から3人の声が聞こえてくる。

 

サ「おかえり。夕食、できているぞ」

 

ヒ「本当ですか!!!おなかがもうペコペコで...!!」

 

ヒヨリの目が輝きを取り戻す。

 

サ「まぁ早く手を洗ってこい。今日は鍋だぞ。」

 

 

テーブルにHIコンロを設置し、その上に例の鍋を置く。

 

グツグツと音をたてていい匂いを放つ鍋。

 

ヒヨリの口からはよだれが垂れている。まだかまだかという思いが顔から伝わってくる。

 

ヒ「お父さん!まだ、まだですか!もういいですよね!!?」

 

「はいはい、おまたせしました。みんな食べていいよ。」

 

その瞬間、ヒヨリは瞬時に取り皿を取って鍋の中にはしを伸ばす。

 

ヒ「んん~おいしい!おいしいですぅ!!!おはしを動かす手が止まらないです!!!」

 

ア「おお...おいしい」

 

サ「残り物鍋...意外とアリだな」

 

ミ「こうゆうのもたまにはいいね...」

 

3人にもどうやら好評のようで良かった。

 

俺もどんなものかと鍋にはしを伸ばす。

 

「うん、これはうまい。意外といろんなものを入れてもいけるもんだな」

 

マンションの一室、家族揃って夕食を囲む。キヴォトスにいては考えられなかった光景だ。

 

彼女たちはエデン条約を見事に破壊して追われる身、俺自身も仕事に忙殺されプライベートなんてなかったあの生活。確かにあの時の方が金はいっぱいもらえていたし、あの時だからこその幸せもあったが、正直言って今のほうが何倍も充実している。

 

確かに今の収入は結構カツカツなのでシャーレ時代の貯金も時々切り崩しながら生活している。でもそれでいいではないか。トリニティのようなブルジョワ生活をしたいわけではないのだから。

 

こういうささやかな生活で俺は満足している。多分サオリたちも不満を持っていない...と思っている。

 

こういう生活がこれからもずっと続いていく..........そう思っていた。

 

ーーー

 

「はっ...今何時だ...ってやばい!!!!!!」

 

次の日の朝、目覚ましをかけ忘れたのかそれとも寝ぼけながら止めたのか定かではないが、部屋の時計は朝の8時を示していた。

 

完全なる寝坊、すぐに用意して電車に乗らないと会社に遅刻する。

 

急いでスーツに着替えて、リビングへ向かう。

 

「おはよう、みんな。あとサオリごめん。今日の当番俺だったのにすっぽかしちゃって」

 

ア「パパが寝坊なんて珍しいね」

 

「みんなも俺が起きてこなかったら遠慮なく起こしていいからね。」

 

サ「父さんおはよう。いやなに、たまにはこういう日もあるさ。急いでいるんだろ?パンとヨーグルトだけでも食べていってくれ。」

 

「サオリありがとうね!!」

 

大急ぎで朝食を腹に入れていく。正直あまりよろしくないことだが急いでいるのだから仕方ない。

 

「ええっとあとは....あっ!スマホスマホ、どこやったっけ」

 

大概急いでいるときほど探し物は見つからないものだ。

 

「くっそ昨日スマホどこ置いたっけ....あっ!あった!!」

 

黒くて薄い、長方形の物体。それだけを視界の隅でぼんやりと確認した俺は大した確認もせず、カバンの中にそれを突っ込む。

 

「じゃあみんな行ってきます!アツコたちも学校頑張って!戸締まりだけよろしく!!」

 

そうして俺は家を出ると大急ぎで駅に向かって走り出した。

 

 

ヒ「あれ...これって、お父さんのスマホじゃないですか?」

 

先生が家を出て数分後、ヒヨリがリビングの机の上に置いてある彼のスマホを見つけた。

 

ミ「さっき父さん、スマホスマホとか言いながら部屋探してたけど」

 

ア「でもなんかスマホ見つけた!って言って、普通に仕事行ったよ?」

 

サ「ん?じゃあ父さんは何を持っていったんだ...?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回、シッテムの箱

 

 

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