「...きて....」
「...きて....さい」
う、ううん...誰かが身体をゆすっている。
「おきて...い」
おき...て?
「起きてください!!!」
「んあ?」
久しぶりに間抜けな声が出たと思う。
「ここは...駅?」
黒服に送り飛ばされてからの記憶が無いが、見た感じ、私の家の最寄り駅のホームのようだった。
どうやら上手く日本に帰ってくることはできたようだ。
まぁ道のど真ん中に飛ばされるよりかはよっぽどマシだろう。
(...黒服、ありがとう)
ほんの少しだけ黒服に心の中で感謝した。
「ええそうですよ、お客さん!あなたたち、終電でホームに降りるや否やすぐに寝ちゃって!いやぁ、やっと起きてくれた。」
そういう駅員の顔はどこか安堵の表情だった。
そういえばみんなは?と思ったが、すぐ隣...いや俺の周りを囲むように彼女たちも眠りこけていた。
「あ、あぁ...それは申し訳ない。みんな起きて。行くよ。」
「ん....あぁ...先生。すまない。どうやら寝てしまったようだ。ほらアツコ、ミサキも」
そう言ってふらふらと体を起こしたサオリは目をこすりながらアツコたちを起こそうとするが、一向に起きる気配がない。ヒヨリに至ってはいびきをかいて大爆睡中だ。
....彼女の頭上にはヘイローは浮かんでいなかった。
「...サオリ。」
「あぁ。」
「背負って帰ろう。一応家はすぐそこだから多分いけるはず。」
「分かった」
ー
「駅員さん。本当に申し訳ない。締め作業とかあるでしょうに」
「いえいえ。お客さんたちはまだ楽な方ですよ。ほんとにひどいと起きなかったり暴れたりする人もいますからね。」
「本当にお疲れ様です。」
「そう言っていただけるだけでもありがたいです。では、おやすみなさい。」
俺達の目の前で駅の入口のシャッターが閉まる。
「サオリ、大丈夫?」
「大丈夫だ。だが...それは先生のほうじゃないだろうか....」
そう、サオリがおんぶしているのはミサキだけ。
かくいう俺は、前にアツコ、後ろにヒヨリを乗っけている。
「ヒヨリが...重い。」
「ま、まぁとにかく早く行こう。話はその後だ。」
「ああ」
「さ、こっちだ。」
そうして5分ほど歩いただろうか、ようやっと俺が住んでいたアパートが見えてきた。
日本では何日経ったのか分からないが、少し安心感がある。
「よし...やっと見えてきたぞ...!」
「あれか。もう少しだな。」
そしてやっと部屋の前までたどり着くことができた。
「はぁ...はぁ...やっとついた....早く入っちゃおう」
そう言ってアツコたちを起こさないよう、ポケットに入れておいた鍵を取り出して鍵を開ける。
ドアを開け電気を付けると懐かしい部屋が俺達を出迎えてくれた。
「よし、とりあえず入ろう。」
「あぁ、えっと....おじゃま、します....」
ー
「とりあえず、この3人を寝かせてしまおうか。」
確かベットの下に寝袋とそれに付いてた組み立て式の簡易ベットがあったはずだ。2人は私のベットに、1人は簡易ベットの方に寝かそう。
とりあえず、ヒヨリとアツコをベットに寝かせて寝袋を引っ張り出す。そしてミサキには申し訳ないが簡易ベットの方に寝かせておくことにした。
「とりあえず大丈夫かな。」
「先生、お疲れ様だ。」
「サオリこそお疲れ様。」
改めてサオリの姿を見ると本当にボロボロで、彼女たちがどんな状況にあったのか、想像するのは容易だった。
俺は彼女の方に自然と手が伸びていき
「わっ、せ、先生?」
「サオリ、本当によくがんばったね。」
俺の方にそっと抱きしめた。
「突然知らない世界に来てさ、慣れないこともあると思うけど、俺が支える。君たちにバニタスって言わせない。幸せにするから...!」
多分あとから振り返って恥ずかしさで悶絶するような言葉を並べたと思う。でもそれは全部俺の本心だ。
「......ありがとう」
そう言ってサオリもぎゅっと抱きしめ返してくれた。
時計を見ると夜中の1時すぎ。
俺達も一回寝ようかと思ったときだった。
「...」
「...?先生?どうかしたのか?」
色々落ち着いた今だからこそ分かる。何か強い違和感を感じる。
「...最後に風呂はいったの、いつだったっけ...」
そう、ここ最近風呂に入っていなかったのである。
濡れ衣を着せられてから、俺は散々な目にあった。そのせいもあって精神は病み、風呂のことを考えている余裕などなかったのである。
「ねえ、サオリ。」
「な、なんだ?」
「サオリたちって最後に風呂に入ったの、いつ?」
「風呂....ああ、各地を追われていたから、少なくてもここ1週間位は入れていないな。でも大丈夫だ、先生。もともとアリウス時代も風呂に入れたのは3日に1回だったから、こういうことには慣れている。」
「...マジか」
「だから初めてシャーレでシャワーを使ったときは色々とびっくりした。」
これはやばい。全然気づかなかったが俺もサオリたちも絶対人とは思えない臭いをまとっているはずだ。早い話が歩く公害である。
あの駅員もよく俺達の対応してくれたなぁ。
...とにかく風呂に入らねば。
「サオリ、結構疲れているかもしれないんだけど、風呂用意したら入る?」
「入れるのなら入りたいのだが...本当にいいのか?」
「そりゃあもちろん!むしろ毎日入るものだからね?」
.......あの3人も朝一番で入れさせよう。
「そ、そうなのか?」
「うん。それが普通だね。」
「そうだったのか....私が知らないことはまだまだたくさんあるようだ...」
「これからすこしずつ覚えていけばいいさ。」
「ああ、先生。これからも色々教えてくれ。」
「それで先生、早速相談なんだが....」
なんだろう、なにか嫌な予感がする。
「なんだい?」
「その...えっと....」
めずらしくサオリが言い淀んでいる。
「一緒に風呂に....入ってはくれないだろうか....ダメか?」