名探偵プリキュア! The End of Truth 作:シロX
マコトジュエルを奪われ、ポチタンも倒れた。そして、未だ依頼された事件も解決出来ないまま敗走を強いられた名探偵プリキュア。
肌に突き刺さる冷たい雨が降り頻り、体温を徐々に下げていく。ポチタンを心配して、3人はやっとの思いでキュアット探偵事務所を帰り、ジェットと共に介抱をしていた。
「ミルクも飲んでるし大丈夫だ」
満身創痍ながらも、ポチタンはちゃんとミルクを口にしているところをみて一同はホッと胸を撫で下ろす。見た目以上の深刻さが無く、不幸中の幸いとも言える。
「ほら、お前達も飲みな」
温かいココアが入ったコップ。下がり切った体温を上げて、少しでも疲労を回復させる。まこと達3人は一口含んだ。
そして一息付けたところでジェットは、あんながニジーとの戦闘中に使おうとして不発に終わったプリキットの謎に触れていた。
「ポチタンが光を出した時にこれも光ったか……」
ジェットにも、ポチタンの身に起きた現象を伝えている。そして、表には出していないがあんなとみくるのすれ違いも。
「ごめん。みくるに渡そうとしたけど、渡せなかったの……」
「もう一つはみくるの分だったか」
「けど、何が起きたか調べてみる必要がある。少しの間預からせてもらうぞ」
プリキットを持ち、ジェットは自室に消えて行った。
残されたまこと達は、各々これからの事を考え、行動に移し始める。その中でもいち早く動いたのがみくる。
濡れた髪をタオルで拭き取り、窓の外に視線を移した。雨はあがっているが、まだ暗雲が立ち込める。でも、自由に外出は可能。
「マコトジュエルを取り返してくる」
「わたしも──」
「ポチタンについていてあげて」
あんなもと声を掛けたが、それを振り払う素振りで探偵事務所を出て行った。手を伸ばすあんなだが、それが届く事はなく虚を掴むのみ。
ソファーに腰を落とし、また一口コップに口を付ける。
「飲み干さずに行ったな」
気不味い空気が漂う空間で、まことは一言呟く。視線をあんなに向けて話し掛けてはいるが、こちらには全く気付いていない。
今のあんなは、みくるの事で頭がいっぱいとなり、他を気にしている余裕なんてない。
「やっぱり追い掛けた方が……」
「あんな。気持ちは分かるけど、今はそっとしておこう」
「でも」
「仮に会ったとして、あんなはどうするつもりだ?」
「それは……」
言葉に詰まる。謝ればいいのか、それとも心配をすればいいのか。それとも一緒にニジーの行方を追えばいいのか。何を先に手を付けていいのか、今のあんなには分からないでいる。
胸を掴み、俯く。
「まだジェットさんは時間掛かりそうだな」
ジェットの様子でも覗こうとすると、ぽつりとあんなが呟いた。
「わたしが……わたしが悪いの。みくるに、声を掛けられなかったから」
「何があったんだ一体」
まことは寄り添う様にあんなの隣に座った。
「笑ってたんだ、友達と。見たことない、知らないみくるで。だから、わたしの知らないみくるの世界があるんだって……」
それは、ひっそりと心に仕舞い込んでいた本音。
「出会ったばかりだから知らなくて当然だよね。邪魔しちゃいけないって思って、1人で事件を調査したら──言い合いになって……」
他人を、みくるを思いやるが故に起きたすれ違いだった。考えてから行動に移す。それが良くも悪くもてもだ。そしてその考えは、とある人物像と重なり合って見える。
「今の2人を見ていると、まるであべこべだな」
「あべ、こべ?」
「ああ。そうやって考えてから動くのがみくるだけど、今はあんなが考えてる。逆に物事を考えるより体が動くのがあんなだけど、みくるが1人飛び出してる」
まことの言葉を聞いて、あんなはハッとする。確かに、言われてみればいつもとは逆の事を2人はしている。
「良くも悪くも、2人は影響し合っている。出会ってばかりだけど、これまでになかった考え方をしてお互いに思い合うくらいにまで」
言い換えればそれは、お互いの事を深く理解していないと至らない。優しくしたい、迷惑を掛けたくない、友達だから。色んなものが織り重なり合った結果、今の様な関係性が築き上げられた。2人が出会わなければ、そもそもそんな考え方にも辿り着かない。
縁の糸が2人を結んだのだ。
「あんなとみくるは運命の……いや、奇跡の2人だ」
「まこと君」
「間近で見てきた俺もだけど、ジェットさんだってそう思ってるさ。なあ、ジェットさん?」
振り返りながら呼び掛けると、自室の扉の隙間から覗き込みながら様子を伺うジェットが居た。盗み聞きしていたのがバレてしまい、素直に部屋から出て来た。
「ジェットさんも何か伝えたい事があるんじゃないの?」
「全部お前に言われて言う事何もねーよ」
「そいつは悪かったな」
自分の目で見たものしか信じないジェットも、まことと同じ気持ちを2人に抱いていた。だからお世辞でもなんでもなく、あんなとみくるはそういう星の下で生まれたのだ。
「ポチぃ……」
ポチタンも目を覚ました。まだ本調子ではないものの、意識が回復した事に意味がある。
「ポチタンは僕達に任せろ。行けよ、みくるの所に。お前達は2人で名探偵プリキュアだろ?」
「ポチ」
ジェットの言葉に加えて、ポチタンも賛同。そして、まことも無言で頷く。
3人に背中を押されて、あんなはようやくいつもの表情へと戻っていった。
「うん! わたし、行ってくる!」
支度をし、気持ちを新たにしていつものあんならしく探偵事務所を飛び出して行った。
◯
「行ったな」
「全く、これだから子供は」
あそこまで言われないと分からないあんなに、ジェットはほとほと困っていた。でも不思議と悪気はしない。口で悪態を吐いてはいるが、ジェットもちゃんと2人の事を見て、その性格を理解しているから。
「お前は行かなくていいのか?」
「今のあの2人の間に挟まるのは無粋だ。それに、あんながああ思うように、みくるだって同じだ。ただの行き違いさ」
まことが仲裁役として入っても余計拗れるだけ。それはもう少し前に経験済みだ。だから、2人の問題は2人で解決しなければならない。事件の謎を解くように。
「お前、前々から思うけど結構みくるの事信頼してんだな」
「当たり前だろ。それに」
「それに?」
「……なんでもない。ま、みくるは皆に取っての名探偵って事さ。あんなを元の時代に戻すにしろ、俺の記憶の事だって」
奥歯にものが挟まったような間に、ジェットは気掛かりだった。
「そうだジェットさん。相談があるんだ」
「何だ藪から棒に?」
「なんか知らんけど、記憶の欠落が多くなってるんだよな。さっきも、教室移動してると思ったら、いつの間にか校庭に居たりで」
意識がある状態。それも、自分が活動している時に起こるその現象は確かに不可解である。普通に考えれば脳に異常があるのかと病気の類を疑うが、何せまことは記憶喪失というものを抱え込んでいる。不安定な状態なのだ。
「いつからだ?」
「そうだな。時期的に……あんなが来てからになるな」
「おいおい、それってかなり前からだろ。そんなんで依頼もこなしたりで頭大丈夫なのか?」
「頭大丈夫かって、馬鹿にされてるみたいなんだが。問題無い……今のところは」
「お前が言うならそっとしといてやるけど、何かあったら絶対に言うんだぞ! いいな?」
「……いつもありがとうな」
記憶喪失の自分にここまで親身になってくれるのは、ジェットだけだ。だからこそ、必要以上に心配を掛けさせたくない。例えそれが、真実じゃないとしても。
「ポーチー!」
突然ポチタンが大声を上げて泣き出した。それも今までとは異なる。
「マコトジュエルに反応したのか⁉︎」
「だと思うけど、これは少し異常だ。あんなとみくるは大丈夫なのか?」
介抱していたジェットの腕をすり抜け、ポチタンは何処か1人で移動しようとしていた。それを慌ててまことが捕まえる。
「そんな疲れ切った状態で何処に行くんだ? 危ないだろ」
「ポチ、ポチー……」
涙目でポチタンは訴えている。まだ言語が未熟なポチタンの言葉を2人は理解出来ない。だけど、言わんとしている事は伝わった。
だから2人は眉間にシワを寄せて悩んだ。
「分かった分かったよ! 連れてきゃ行けばいいんだろ⁉︎」
「2人の所に連れて行くの? 本当に⁉︎」
「そうでもしないと言う事聞かないだろ。それに……」
純粋な瞳と笑顔のポチタン。それを見て、まことも観念して溜め息を吐く。
「先が思いやられる」
「ポチ!」
ポチタンの要望はそれだけはなかった。ポチタンは、使い物にならなかったプリキットミラールーペに指を差した。
「こいつを持ってけっていうのか?」
「ポチ!」
ジェットはプリキットミラールーペをポケットの中に仕舞い込んだ。使えなかった原因をまだ探っている途中だが、ポチタンが言うのなら信じようと判断する。
まこと、ジェット、ポチタンの3人は、ポチタンが反応が示す虹ヶ浜へと急いで足を運ばせるのだった。
ここまでの拝読ありがとうございました!