名探偵プリキュア! The End of Truth 作:シロX
誰かの声がした。誰かが呼ぶ声がした。しかし、それは気のせいなのかも知れない。
此処は何も無い。真っ暗で光すら届かない静寂の空間。まことはそんな空間に独りぼっちで蹲っていた。
意識はある。なのに体の自由が効かない。まるで、自分の体ではないような感覚。
(俺、どうなってんだろ?)
別に居心地が悪くないという訳でもない。何も感じず、ただこうやってしているだけでも眠気は襲ってくる。だからなのか、それが心地良く思ってしまう。しかし、それは間違っていると頭の片隅で訴え掛けている自分もいる。
多分だが、このまま此処に留まっていては駄目なのだろう。
分かっている筈なのに、意識が段々と薄らいでいる。このまま、目を閉じて楽になれば。
その時だった。何も無い空間から、足音が聴こえてきた。
「──」
顔を見上げると、白い影のようなものが、ゆっくりとこちらへと近付いて来ていた。
白い影は手を差し伸べ、頬を軽く撫で、するりと顎まで指先を滑らせる。そして、まことの手を掴んで優しく抱擁してくれた。
まるで、何年も会えなかった人にようやく巡り会えた暖かさを感じた。どこか懐かしさもあり、身を委ねてしまう気持ち。それでも、白い影はそれを許してはくれなかった。
まことを抱いた後、立ち上がらせた後手を引いて正面へ指をさし示す。
しかし、そこには何も無い。白い影が何を伝えたいのか分からないまことは首を傾げる。白い影は何も口にしておらず、心境を読み取れない。
「あそこに何があるんだ?」
まことが一歩踏み出すと、胸の内から一筋の光が指差す所に伸びた。伸びる光は扉を型取った。もしかすると、白い影はこの事を伝えようとしていたのか。
「……っ」
まことはドアノブに手を掛けて開けようとするが、全くもってビクともしなかった。
「これ、鍵が掛かってる。開けるにはどうやって」
白い影は、細い指でまことの胸の部分を突いた。何かのメッセージなのか。だが、それだけでは理解出来ない。ヒントを貰うと口にしようとするも。
「……ッ」
白い影は指でまことの唇を優しく押さえて閉じさせる。恐らくだが、白い影はこの謎を自分の力で解いてみろと言っているに違いない。探偵なら尚更。ヒントすら許さない。この扉は、自分の力で開けなければならない。
優しさの裏にある厳しさ。その意図を理解したまことは、己で解き明かす事を決める。
「胸、心臓、心」
白い影は何故胸を突いたのか、そこから推理する。
「鼓動、熱、血液、循環」
あの重たい扉の解錠となる鍵とそれを開ける為の力。
「気持ち……?」
ここから一刻も早く出たいという強い理由。その想いを胸に抱き、力強く扉を開ける。
「……開かないのか」
がしかし、それでも扉は応えてくれはしなかった。やり方が間違っていたのか。それとも、まだ扉を開けれる程の腕力となる想いが弱かったのか。どちらにしろ、出られないのは事実。
思い悩んでいると、白い影はまことを流石に頭を撫で始めた。急な行為に驚いて思わず振り払おうとしたのだが。
『まこと君!』
聴き覚えのある声がした。周囲を見渡しても、声の主らしき人は見当たらない。
『まこと!』
「ッ!」
また声がした。そして今度ははっきりと聴こえた。声の出所は扉の奥からだ。鍵穴を覗き、そこで目にした光景は目を見張るものだった。
キュアアンサーとキュアミスティックがボロボロになりながらも、ハンニンダーに立ち向かって行く姿。何度地面を這いつくばらせられても、その度に立ち上がり、そして──。
『まこと君を返して!』
『まこと、戻ってきて!』
呼んでいる。その名を口にして、強く、強く、心の奥底にまで届く切実な願い。
まこともその期待に応えるべく、精一杯の力を振り絞って扉をこじ開けようとしているのだが。
「クソッ! 開かない何でだ⁉︎」
焦りが募り募って冷静さが段々と失われている。何が足りない。何が原因。この扉は、一体何を求めているのか。
白い影はまことの側へ寄り添い、耳元で口を開いた。しかしながら、白い影の声は聴こえない。けれどまことは読み取った。
──何の為に謎を解き明かしているのか。
──何の為に嘘を暴いているのか。
──何の為に真実を追い求めているのか。
──何の為に探偵をしているのか。
「何の為に、か」
記憶を失くしたあの日から、今日までの日々を思い返す。
「沢山の人達に囲まれて、助けられ、今日までこうして過ごしてきた。それはなにものにも変え難い、全てが大事な時間なんだ」
ゆっくりとドアノブに手を掛けて、捻る。
「だから今度は俺が助ける番なんだ。俺の推理で誰かの悩みが解決して、笑顔になるならこれからも真実を暴いていきたい。俺が俺である為に」
ガチャリと扉が開いた。開いた事に、まことは無意識に口角を上げていた。
「これが、俺のアンサーだ」
扉の奥へ歩んで行き、その姿を消した。
残された白い影はまことの背中を見届けて。
「わたしの名探偵さん、頑張れ」
その言葉を残して泡のように消えた。
◯
「「はぁ……はぁ……」」
「存外脆いルル」
あれからどれくらい時が経ったのだろうか。そう思わせる程、アンサーとミスティックは叩きのめされ続けていた。疲労は既にピークを超えて、待っているのは完膚無きまでの敗北の2文字。
今にも意識が断ち切れそうな状態に、アンサーとミスティックは鞭を打ちつけながら身体を動かしていく。
「まだやるルル?」
「当たり前だよ。まことを返して貰うまでは!」
「わたし達は、絶対に諦めない!」
身体的ダメージでは意味が無いと、ここで改めて察した。ならば心を折ろう。
まことが、ルルタンが歩み始めた。その時だった。
「──ッ⁉︎」
突如として激しい頭痛が襲い掛かった。耐え難い苦痛に、ルルタンは歩みを止め、その場でふらついては膝を折った。
「そん、な……主導権は完全にワタシが握ってるのに何で……?」
胸元から一筋の白い光が飛び出し、ルルタンを引き剥がそうとしている。やがてその光は、ハンニンダーと同調し始めて、同様に悶え、苦しむ。
「ハンニンッ⁉︎」
目の前の事態に呑み込めれていないアンサーとミスティックは、目を見張っている。ルルタンとハンニンダーの身に何が起きているのか。皆目見当がつかない。
「いい加減、俺の体を、全部返せッ‼︎」
次の瞬間、周囲を覆い尽くす程の光が解き放たれた。同時に、まことの背中から白く、小さな生き物が弾け飛んでいくのが見えた。
「ルル⁉︎」
その姿はまるでポチタンやジェットの姿に似たもの。恐らく妖精の類い。
「まことの体から切り離されたルル?」
光は収束され、まことの内部へと収まっていく。まことはというと、虚な瞳で俯いている。そんな空虚にも思える様子から一変し、瞬く間に意識が覚醒した。
天に手を翳し、ハンニンダーから溢れ出る光をその手中に収める。ハンニンダーから光だけではなく、何かふたつの影が飛び出して抜き取った。
まことがそれを手に取った事でルルタンは驚愕する。
「一度嘘で覆った筈のマコトジュエルが元に戻ったルル」
まことが手にしているのは取り込まれたマコトジュエルと、それに宿っていた1冊の本らしきもの。
「行くぞ」
瞬く間に白い光がまことを包み込んだ。
「オープン! トゥルースキュアブック!」
まことは手にしている「トゥルースキュアブック」に、変身用のマコトジュエルを嵌め込んだ。
「推理!」
トゥルースキュアブックに「Reasoning」を書き込むと、まこと自身に変化が生じる。
瞳の色が青く、髪型も地面スレスレまで毛先が伸びるポニーテールとなり、色も白く変色した。チャームポイントとして金のメッシュが色付けされている。
「謎を解く!」
今度は「解決する」という意味を持つ「Solve」の単語を書き込んだ。普段から身に包んでいる私服から、白い衣装へと変化する。
頭部に小さなシルクハットを被り、ケープを羽織ってシャツにネクタイが紐通される。必要最低限のハートの装飾が施されており、両手には黒いオープンフィンガーグローブを着用。
「閃く直感で導き出す答え! 名探偵キュアトゥルース!」
まるで小さな探偵を彷彿とさせる姿だ。
「真実の名の下に、謎を解き明かそう」
全員の目の前に現れた3人目の名探偵プリキュア。その名をキュアトゥルース。アンサーがこの時代に訪れて間もない時に口にしていた、消息不明の探偵の1人。その探偵が今、彼女達の目の前に立っていた。
「自力でワタシを引き剥がしたルル。それも、不完全でありながらも変身もルル」
トゥルースは周囲を見渡し、状況を把握する。溜め息混じりに浅く呼吸をしたのち、倒すべく相手に視線を向ける。
「ハンニンダー‼︎」
力の源であるマコトジュエルを失っても尚、ハンニンダーは今ある力のみでトゥルースに襲い掛かる。拳を振り上げながら、助走を付けて一撃を叩き込もうと構えた。
「……ふん」
身体を横に揺らして避け、足を出してハンニンダーを引っ掛け、転倒させる。トゥルースは最小限の動きのみでハンニンダーをあしらった。
涼しい顔をして、さもこの結果が当然といった様子。それはまさに強者の風格。
「こいつでケリをつけさせてもらうぜ」
1本のペンでトゥルースキュアブックに、名探偵プリキュアを象徴させるハートを模した疑問符を真っ白なキャンバスに描く。
「これが、俺のアンサーだぁぁぁ!」
地面に亀裂が入る程の踏み込みで飛び出し、全身に白い浄化の力を纏わせながら拳を突き出し、ハンニンダーを貫く。
直撃したハンニンダーは成す術もなく、呆気なく浄化されて消え去った。
「キュアット解決!」
事件が全て丸く収まった後の台詞を言い放ち、トゥルースは大きくひと息吐いた。
「やるようルル」
手負いとはいえ名探偵プリキュアが3人が居る中で、これ以上の深追い禁物。仮に名探偵プリキュアを倒したとしても、メリットよりデメリットの方が大きい。
そこまで無理して対峙するより、潔く身を退いた方が賢い選択だ。
「バイバイルル。次会う時は、こんな上手くはいかないルル」
ルルタンの姿が消えるのを確認して、トゥルースはようやく肩の荷が降りた。張っていた緊張の糸が途端に切れ、変身が解除されてその場にへたり込んだ。
「事件は丸く収まったな」
「まこと君。まこと君がキュアトゥルースだったの?」
「……そうみたいだな」
こんな事実を隠していた事に何かひと言物申したかった。けれど歯切れの悪い言い草に、ミスティックはイマイチ煮えたぎらない。
「ちょっとだけ思い出したんだ」
「「思い出した?」」
「俺がキュアット探偵事務所の人間で、名探偵プリキュア のキュアトゥルースだって事をだ」
プロローグの時とキュアトゥルースの衣装が異なるのはわざとです。