名探偵プリキュア! The End of Truth   作:シロX

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第22話 月夜に煌めく儚くも美しき少女

 全ての事件が無事解決し、一同はキュアット探偵事務所に帰ってきた。

 それぞれコーヒーや紅茶を片手にソファーに座ってまことの話を真剣に聞いていた。

 

「マコトジュエルを手にしたあの時、思い出したんだ。自分がキュアット探偵事務所の人間で、此処の名探偵プリキュアだって事を」

 

「じゃあ、まこと君の記憶は全部戻ったって事だよね。やったー!」

 

「厳密には違う。思い出したのは、さっき言ったふたつだけだ」

 

「部分的に記憶を取り戻したって訳か」

 

 飴を口の中に転がしながら、ジェットはボソリと呟く。そして、とある仮説を立てた。

 

「マコトジュエルを手にして記憶が戻ったのなら、まこともポチタンと同じようにマコトジュエルを回収し続ければ」

 

「まことの記憶が全部元に戻るって事だよね!」

 

「そうなる、のか? どうだ、まこと?」

 

「わかんない。けど、マコトジュエルが手掛かりなのは間違いない」

 

 まだ自分の身に起きている状況を詳しくは把握し切れていないが、それでも前までと比べると大きな一歩には違いない。ゆっくりとだが、確実に前へと進んでいる。

 

 思い耽るまことに、あんなは和かに肩を手を置いて笑顔を振り撒く。

 

「そんなに思い詰めないで。今はパァーっと喜ぼうよ!」

 

「そうだな。なんか色々迷惑掛けたみたいだけど、これからは俺もキュアット探偵事務所の名探偵プリキュアとしてしっかりと頑張るぜ!」

 

 考えるのは後。今は目の前の喜びを噛み締める。その方が、まだ気持ちは保たれるから。

 

「にしても、これで少しは怪盗団相手にも楽できるな。なんせ、あの天下の名探偵キュアトゥルースが復活したんだからな」

 

「何その過大評価。復活したと言っても、まだ絶賛記憶喪失中なんだ。過度な期待はしないでくれ」

 

 期待されるのも何だが気持ちが悪い。何せ、つい最近までその事をまるっきり落としていたのだから。今もまだ、自分が名探偵プリキュアという事に実感がない。

 

 ふと、まことは思い出した。

 

「あ、そうそう。思い出したついでに言わんといけない事がある」

 

 改まって3人がまことに注目する。

 

「前にジェットさんが言ってた『数ヶ月前に行方不明となった』名探偵プリキュアの話は覚えてるよな?」

 

「うん、覚えてるよ」

 

「この感じなら、行方不明というより記憶喪失みたいだけどね」

 

 あんなとみくるがそう結論付けて笑い話にしているが、まことは違うと言わんばかりに首を横に振る。

 

「それ、俺の事じゃないからな」

 

「「「えぇ⁉︎」」」

 

「行方不明事件と俺の記憶喪失の件。時期が少しズレてるんだ。恐らく俺の他にも名探偵プリキュアが居て、その子こそが行方を眩ませている人物だと思う」

 

 これも推測でしかない。マコトジュエルを集め、まことが記憶を取り戻していけば徐々に判明する事だと思う。遅かれ早かれという訳だ。

 

「ま、俺達のやる事は変わりない。マコトジュエルを集める。当面の目標はこれだからな」

 

 上手い具合に話を締め、まことは大きなあくびをして体の筋肉を簡単にほぐす。

 今日は色んなことが一度に起こり過ぎた。そのせいか心身共に疲労困憊で影響が出始めている。ここらが潮時だ。

 

「今日は寝よう。後の事は、またその時考えればいいし。それに、俺はクタクタだ」

 

「んじゃまあ、ここらでお開きだな」

 

 ジェットが手を叩いのが合図となり、まことは席を立って自室に戻ろうとした。その際、一度を足を止めて振り返り、あんなとみくるに笑みを向けて大事な事をひと言告げた。

 

「忘れるところだった。あんなちゃん、みくる。2人の声、聴こえてた。ありがとうな」

 

 まことを助けたいと思う叫びはちゃんと届いていた。その事を今更カミングアウトされ、少しだけ小っ恥ずかしく思う。でもそれ以上に、心がとても温かい。

 2人も満面の笑みで言うのだった。

 

「「どういたしまして!」」

 

 

 ◯

 

 

 時計の針は12の刻をとうに過ぎ去っており、まことみらい市は静寂に包まれていた。当然、それはいつも騒がしくしているキュアット探偵事務所も同様。聴こえるのは4人の子供と1匹の妖精の寝息。

 

 の、はずだった。

 

 ガチャリ音を立て、内側から施錠している筈の窓が開かれた。窓のふちに黒のヒールが掛けられ、少女は身軽な体を乗り込ませた。

 

 降り立つは黒を基調とした魔法少女にも似た衣装。夜風に靡く金色の長髪。右手に大事に持つ杖は少女の身長と差程変わらない長さ。

 

 彼女はふわりと風と共に、まことが眠る自室に足を踏み入れた。

 

「相変わらず殺風景な部屋ね。貴女もそう思わない?」

 

 少女に同意を求めるようにして語り掛けるのは、紫色で狐のような姿をしている小さな妖精。少女は耳に傾けているものの、妖精の言葉に返事をせず、まことの寝顔を見入るばかり。

 

「マコトジュエルがひとつだけ、彼の元に戻った。これをどう見る、マシュタン」

 

 独り言を呟いた彼女に妖精もといマシュタンは、和かな笑顔で少女の問いに答えた。

 

「そうね。彼からしたら喜ぶべき事なのだけど、アタシ達からしたら厄介極まりないわね」

 

 ベッドの近くで膝を落としては、まことの頭をそっと優しく撫で上げる。そして、悪戯に頬を突いて弾力のある肌の感触を味わう。

 

「彼のマコトジュエルが戻れば戻る程、その力と記憶は戻っていく。そう、記憶と力=マコトジュエル」

 

「全部で7つある内のひとつが戻り、彼は自分が名探偵プリキュアだっていう記憶が蘇った。でもそれは」

 

 少女はコクリと頷く。

 

「貴方にはあのまま、何も知らないで過ごして欲しかった」

 

 少女は懐からとあるひとつのマコトジュエルを取り出した。それは黒いマコトジュエル。黒だからといって、別に嘘に染まっている訳でもない。このマコトジュエルは、元からこういう色なのだ。

 

 少し思い耽るが、此処へ来た目的を果たす為に目を伏せて決意を固める。

 

「責任感の強い貴方は、全てを思い出した時きっと苦しむ。そうさせない為にも、貴方からプリキットもマコトジュエルも貰う」

 

 机の上に無造作に置かれているトゥルースキュアブックと変身に必要なマコトジュエルに手を伸ばした。

 

「これも全部貴方の為。だから──ごめんね」

 

 そう自分に言い聞かせる。言い聞かせるしかない。指先が触れようとした時だった。

 

「──ッ⁉︎」

 

 不意に奇妙な視線が突き刺さった。即座に背後へ振り返り、杖を構えて臨戦体勢に移行した。

 

「どうしたの?」

 

 しかし、そこにはマシュタンしか居らず、まことも目覚めてはいない。第三者の気配も無い。周囲を見渡しても、部屋には自分達だけ。

 

 なのに、誰かから見られている。

 

「熱……」

 

 マコトジュエルを握っている手から熱を感じた。握られている手を開けると、僅かにだが黒のマコトジュエルが光を発していた。

 そして同時に気付く。感じ取っていた奇妙な視線はこのマコトジュエルからきている。

 

 まるで、監視されている気分だ。無視してまことのマコトジュエルを回収しようと近付けば近付くほど、その光量は更に増して部屋全体が明るくなる。

 

「どういう仕組みか知らないけど、反応をしているのは確かなようね。これ以上明るくなると、彼が起きちゃうわ」

 

 それはマズい。こうして密かに盗もうとしているのに、まことが起きてしまったら何の為に忍んで来ているのか分からなくなる。

 

 今回は潔く諦めよう。手を引っ込めると、マコトジュエルの輝きは収まり、帯びていた熱も無くなった。

 

「……帰る」

 

「帰っちゃうの?」

 

「うん」

 

 少女は、踵を返して窓際に体を寄せて立ち去ろうと準備を進めた。

 

「盗めないなら諦める。わたしにだって、やらなくちゃいけない事があるの。だから今は預ける。それに、今の彼は全盛期の半分の力もない。力づくでならいつでも盗める」

 

「ふふ、それもそうね!」

 

 マシュタンは少女の肩に乗って上機嫌。窓ふちに手に掛けて外へ身を乗り出そうとした際、思い出したように少女は慌ててまことの側へ駆け寄った。

 

 そして、桜のように美しく、艶やかな唇で彼の頬に口付けを交わした。

 

「まあ!」

 

 がっつりと目撃していたマシュタンは、毛を逆立てて興奮。彼女がここまで大胆な行動を起こすのは、マシュタンでも予想外だったらしい。

 

「これは、わたしからのほんのご褒美。それじゃあね、わたしだけの名探偵さん」

 

 そうして少女は、夜の街へ消えて行ったのだった。




これにてオリ回は終了。次回から本編に合流しますー

ここまでの拝読ありがとうございましたー
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