名探偵プリキュア! The End of Truth   作:シロX

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第28話 なんでも見透かす純真な瞳

「犯人はアンタだ!」

 

 一斉に全員の視線がとある方向へと集まる。犯人を見て、あるものは首を傾げ、あるものは驚きに満ちた表情をし、あるものは呆れ返っていた。

 

 その者は体長50cmで、全身黒い羽根に覆われ、鋭いクチバシを持ち、両翼で空を自由自在に飛び回る。

 そう、まことが犯人と決め付けた相手というのが──カラスだ。

 

「おいおいまこと、カラスなんかにネックレスの価値が分かる訳ないだろ?」

 

「そうだよね。そもそも、何でカラスがネックレスを盗むのかも意味が分からないよ」

 

 ジェットに続きみくるも否定的な意見。それもそうだ。カラスは高い知能を有しているが、物の価値まで判るとは到底思えない。

 

「見るべき視点はそこじゃない。もっと視点を変えるんだ。探偵にとって、思い込みが一番の油断なんだぞ」

 

「視点を変える……あっ、そうか!」

 

 あんながある考えに行き着いた。その考えは、まことが今頭に浮かばせている内容と同じ。

 

「前にTVで観た事あるんだけど、カラスって光ってる物を集めるって言ってた!」

 

「じゃあ、そのカラスの習性を利用して誰かが盗んだって事かしら?」

 

 みくるの推理にまことは首を横に振る。

 

「今回の事件はもっと単純なんだよ。それこそ、もうあんなが殆ど答えを言ってる」

 

「「えっ⁉︎」」

 

「だーかーらー、犯人はカラスだって」

 

 まことは、財布から小銭にとレシートにセロハンテープを取り出した。小銭にレシートをテープで貼り付けて、カラスの近くに放り投げた。

 

「これで犯人が案内してくれる筈だ」

 

 カラスは目の前に転がった小銭を何回かクチバシで突いて、咥えて飛び去って行った。その様子にまことは狙い通りと言わんばかりに笑みを浮かべた。

 

「よし、追い掛けるぞ」

 

 キュアット探偵事務所の面々に加えて、くれあも同行する形でカラスを追い掛け始める。

 

「私も──」

 

 依頼人であるOLの彼女も、自分もと後をついて行こうとしたのだがぬいぐるみを持つ大学生らしき女性に腕を掴まれた。

 

「ここは、名探偵さんに任せた方がいい」

 

「そ、そうですか?」

 

 その言葉を信じて、彼女は渋々席に座り直すのだった。

 

 

 ◯

 

 

 カラスを追い掛けたキュアット探偵事務所の一同は、とある木々が生い茂る林の中に足を踏み入れた。そして、巣だと思われる場所にカラスは咥えていた小銭を置いてまた何処かへ飛び去った。

 

「やっぱりな」

 

 2メートル前後のある木に巣らしきものを目にした。それを見てようやく確信した。

 

「恐らく、ネックレスはあの巣の中にある」

 

「てことは」

 

「やっぱり犯人はカラスだったんだ!」

 

「まだ信じてなかったのか。ともかくここからは、登ってみるしかないな」

 

 それから10分前後にも及ぶ木登りを経て、ネックレスを片手に持ったまことが降りて来た。葉っぱや小枝まみれになりながらも、持って帰るべき物はちゃんと手にしている。

 

「どーよ!」

 

 巣には沢山の物が置いてあった。その内のひとつに、金色のネックレスがあり、恐らく無くしたとされている物はこれで間違いない筈だ。

 

「ホントだ! でも、よく分かったね!」

 

「近くにカラスの羽が落ちてたんだ。よく周りを見ると、何羽が飛んでたし、加えて金色のネックレスときた。カラスの習性を知っていればこの程度謎なんて朝飯前だ」

 

「流石、わたし達よりも事務所に居ただけあるね!」

 

「よせやい。ま、もっともっと褒めて貰っても悪い気はしないがな!」

 

 あんなに褒めに褒められ、天狗になるまこと。そんな彼の鼻をみくるは強く摘んで引っ張り上げる。

 

「いって! 何しやがる!」

 

「天狗の鼻をへし折っただけ」

 

「理不尽だ……」

 

 などと少し当たりのキツイみくるだが、それでもまことの推理力には感心する。情報もそこまで多くはなかった。それに加えて、かなりの速さで事件を解決へと導いた。

 

 そんな鋭い観察眼を持つまことにも気付かないものもある。それは、少しだけみくるの顔が曇っているのを。

 

「それじゃあ、早く帰りましょうか」

 

 くれあの言葉で、全員が賛成の意を示す声を上げる。が、まことだけは未だ硬い様子。

 

「まだ、この事件は終わっていない」

 

「えっ、でもネックレスはこの通り」

 

 探し物は見つかった。なのにまだ解決していないというのはどういう意味なのか。

 

「くれあさん。アンタだ」

 

「わ、わたし?」

 

「そうだ。どうにも腑に落ちない事がひとつだけあるんだ」

 

 くれあの頬が強張る。伝う汗がぽたりと地面に落ち、染み込む。

 

「朝、電話で話した内容だと、くれあさんは今日新作のお菓子作りをしてると聞いた。俺の知ってるくれあさんは、こんな所で油なんか売らないんだが?」

 

「わたしだって、気分転換くらいするよ?」

 

「……なるほどな」

 

 今の一連の流れでまことは確信した。

 

「俺、メールのやり取りはしたけど今日一度もくれあさんとは電話では話していない。変だと思わないか?」

 

「ッ⁉︎」

 

 くれあは口を手で覆い、先程の発言は失言だと今になって理解した。

 

「リサーチ不足だったな。俺が言ったまだ事件解決に至ってない訳は、くれあさんに成りすましたアンタの正体を看破出来ていないから」

 

 とはいえだ。目の前に居る彼女は、もう偽物だというところまでは確定している。後は詰め将棋みたいなものだ。一体どこの誰だか知らないが、その正体を暴くのにそう時間は掛からまい。

 

「ま、大方予想はつくけど。俺の口から言った方が良いか?」

 

「……ふふ」

 

 不敵に笑う。

 

「先回りしたのが仇となるなんて、慣れない事はあまりやるもんじゃないね」

 

 くれあは自分の首下に指を掛けた。そして、そのまま力強く皮膚を剥ぎ取っていく。ベリベリと音を立て、その下にはまた別の誰かの皮膚が顔を覗かせる。

 

 そして、完全に顔を隠していたマスクらしきものを脱ぎ取り、本当の素顔を晒した。

 

 白と黒が彩る長髪に、金色の眩い瞳。整えられたその素顔は、まこと達と比べて綺麗に形取っている。

 女性は浅く息を吐いて、つまらなそうな表情を浮かばせながらまこと達を釣り上がった目で射抜く。

 

「記憶を無くしても尚、その観察眼は健在って? あはっ、笑えない」

 

「貴女ももしかして、怪盗団ファントム?」

 

 あんなはそう尋ねながらもネックレスとポチタンをジェットに任せ、下がらせる。

 

「『はい』と言ったら?」

 

「ジェット先輩はポチタンをお願い。あんな、まこと!」

 

 女性の発言が汲み取るに、それは肯定しているも同義と解釈した。恐らく彼女もマコトジュエルを狙って現れたのだとすると、何かしら仕掛けてくる。それを警戒して、みくるは咄嗟の判断で非戦闘員の2人を少しでも遠ざける。

 

「マコトジュエルは渡さない!」

 

「だが、そのマコトジュエルは何処にあるんだ?」

 

 未だポチタンからの反応は特に無し。まだ盗られていないと考えるのが妥当。けれど、先程からずっと共に行動していた手前、案外近くにマコトジュエルがあると推測する。

 

 それが何なのか、怪盗団ファントムよりも先に見つけなければ。

 

「マコトジュエルならワタシの手の中にあるわ」

 

 女性はゆっくりと手を開けると、そこには先程ジェットに手渡した筈のネックレス。

 

「「「えっ⁉︎」」」

 

「あり得ない! だって現に、ネックレスは今も僕が持ってる!」

 

「どうやら物の価値に関してはまだまだ二流、いえ、三流といったところね。それが贋作だと気付かないなんて」

 

「が、贋作? 偽物だって⁉︎」

 

 ジェットは急いでネックレスを注視する。だとしたら、あまりにも精巧に造られた一品だ。

 

「いつすり替えたんだ?」

 

「その真実を突き止めるのが探偵なんじゃない? まこと」

 

 ああ言えば、かなり鋭い指摘で言い返されて口籠ったまこと。悔しいのひと言に尽きる他ない。

 

「まこと、アナタいつも言ったよね? 『目に見えるものが、全て真実とは限らない』って」

 

 ガリッと、奥歯を噛み締める音が鳴る。

 3人はそれぞれの変身アイテムを手にして、いつでも準備を整える。

 

「アンタが誰だか知らないが、マコトジュエルは返してもらう!」

 

「なら、やってみなさいよ!」

 

 女性は高くネックレスを投げ飛ばし、黒いオーラに注入させる。

 

「嘘よ覆え! 現れろ、ハンニンダー!」

 

 両の手に鎖を持つ、ネックレスを媒体にしたハンニンダーが誕生した。ジャラジャラと金属同士が擦り合う金属音が耳障り。相対しているだけでも、不快感しかない。

 

「やってやる!」

 

 まこと達3人は、それぞれ変身アイテムを使用する。

 

「「「オープン!」」」

 

「「ジュエルキュアウォッチ!」」

 

「トゥルースキュアブック!」

 

「オープン」のひと言であんなとみくるが持つペンダントと、まことのプリキットが元の姿となってその力を解放させる。

 

「どんな謎でもはなまる解決! 名探偵キュアアンサー!」

 

「重ねた推理で笑顔にジャンプ! 名探偵キュアミスティック!」

 

「閃く直感で導き出す答え! 名探偵キュアトゥルース!」

 

「「「名探偵プリキュア!」」」

 

「真実の名の下に、謎を解き明かそう」

 

 変身早々、先に仕掛けたのはトゥルースだった。地を蹴り、回転を加えた踵落としでハンニンダーの脳天を射抜く。衝撃は地面にまで届き、地を砕いた。

 

 が、しかし。

 

「ハンニン……ッ!」

 

 直前で鎖で防御していた。トゥルースの渾身の一撃も容易く無力化してしまっている。

 

「ダッ!」

 

 トゥルースを振り払い、攻撃へと転換した直後に入れ替わりでミスティックが前に出た。

 振るわれた鎖が地面を抉りながら、ミスティックを攻撃しようと迫り来る。

 

「ミスティックリフレクション!」

 

 効率良く防ごうとして、防御面を広くさせて展開した。けれども、襲い掛かる鎖に変化が生じた。

 真っ直ぐ向かっていた鎖は途中、その進行方向を変えて円を描くようにミスティックの背後へとうねった。

 

 それに加えて。

 

「速い!」

 

 蛇のように操るその手捌きにミスティックの反応速度が間に合わない。

 足を払われ、体勢を崩されたところにミスティックの背中に鎖が振るわれた。鞭打ちされる背中の痛みに声にならない悲鳴が、トゥルースとアンサーの動きを鈍らせる。

 

「怖気ついたかしら?」

 

「そ、そんな事ない!」

 

 今度は自分の番だとアンサー突進する。

 

「ハンニンダー!」

 

「アンサーアタック!」

 

 前方真っ直ぐに来る4つの鎖に対して避け、踏み付け、アンサーアタックの拳で弾き返す。怒涛の勢いで差し迫るアンサーを止められない。

 直接この拳を叩き付ける瞬間、振り翳した腕が後ろから引っ張られる形で勢いが殺された。

 

「前に、進まない⁉︎」

 

「言ったでしょう。目に見えるものが全てではないって」

 

 真正面から飛ばした鎖とはまた別動体の鎖がアンサーアタックを封じていた。本命はこの鎖で、アンサーの攻撃はこの瞬間の為の布石。

 

「単純ね」

 

「きゃあッ!」

 

 ミスティックが倒れる近くまでアンサーを投げ飛ばした。

 

「こんの!」

 

 状況を確認するまでもなく、明らかにこちらが押されている。それでも攻めの手だけは緩めてはならない。

 間髪入れずトゥルースキュアブックを開け、少しでもこの悪い流れを切ろうとした矢先、即座に四肢を鎖で拘束され、身動きが取れなくなった。

 

「しまった……」

 

 完全にこちらの動きを読まれている。それも一手も二手も先を。

 

 成す術を失くしたトゥルースは手に力が入らず、その場にトゥルースブックを落とす。

 

「この状況、起こるべくして起こったもの。全てはワタシの手の平の上」

 

「ハンニンッダー!」

 

 身動き取れないトゥルースへ、ハンニンダーの容赦の無い突進。

 

「「トゥルース!」」

 

 吹っ飛ばされるトゥルースを、2人は力を合わせて受け止めるも疲弊し切っている今の状態では満足いかず下敷きとなる。

 

「悪い、2人共」

 

「わたし達の方こそごめん!」

 

「今度は3人でやろう。ミスティック、トゥルース大丈夫だよね?」

 

 立ち上がる面々。それを細めで薄ら笑う彼女。

 

「何故そこまで真実を追い求めるの?」

 

 問われる。

 

「真実を追い求めたところで、ひとつの偽りでそれは歪められる。今回の変装だってそう。どれだけ真実に辿り着いても、嘘で覆えばそれで終わる。嘘で覆えば、それが真実になる」

 

 告げられる。これが、現実だと。

 

「アナタがやっている事なんて所詮──」

 

「それ以上言わないで!」

 

 怪盗団ファントムの女性が残酷にも告げようとした発言に、アンサーが力強く遮った。

 

「何でそんな酷いこと言えるの? 貴女の方こそ、トゥルースを上っ面だけでしか見てない!」

 

 庇う。それは何故か。彼が隠している一面を先日目にしたからだ。内面を見ていたからこそ、アンサーは語れる。トゥルースの事を。

 

「トゥルースだって必死なんだよ。記憶を失くしているからこそ本当の事が知らない怖さを知ってる! そんな思いを皆にさせたくないから真実を明らかにしてるの! だから謎を解くの! だから推理するの! 皆に笑顔を届ける為に!」

 

 アンサーはその直感でトゥルースの本質を見抜いている。

 

「不安だったから、独りじゃ寂しいからそれを紛らわす為に資料を読み漁って記憶に関する謎を解いてたんだよね?」

 

「アンサー……」

 

「ホント、わたしとまこと君は似たもの同士だよね。1人で無理して、気持ちを抑え込んでる。今日のお出掛けも気分転換になればなって」

 

 目に見えるものが全てではない。アンサーはそれを見事体現している。一見しただけで表面上だけではなく、内面の隠れているものにも気付いたアンサーに思わず笑みが溢れる。

 

「アンサーって、よく人の事見てんだな。何でも見透かしてるっていうか」

 

 少しだけ、心に余裕が出来た。

 

「ここで終わる訳にはいかない。俺の為にも、皆の為にも」

 

 すると、トゥルースの感情に呼応してかトゥルースキュアブックが光り輝いた。宙に浮き、ひとりでにトゥルースの手の中に収まり、空白のページに新たな色が染まる。

 

「ハンニンダーを倒して事件を解決する。これが、俺のアンサーだ」

 

 光の出所はトゥルースキュアブックだけではない。ファントムの懐から淡い紫の光がトゥルースキュアブックに向かって差し込む。

 

 トゥルースはその光を握り込むと、また別のマコトジュエルとプリキットアイテムが具現化される。

 

「あのプリキットは!」

 

 瞳に映すプリキットに、ジェットはどこか見覚えのある言い草。

 

「行くぞ2人共」

 

 それが合図となり、アンサーとミスティックは飛び出した。左右から挟み込むようにして展開する2人の後方で、トゥルースは静かにトゥルースキュアブックに手にしたマコトジュエルを使う。

 

「オープン」

 

 新たに手にしたプリキットアイテムは、元の大きさとなり、トゥルースの左眼に装着される。

 

「今更何しようと、このハンニンダーの前に小細工なんて!」

 

「ハンニン……」

 

 ハンニンダーは両の手に力を入れ。

 

「ダーッ‼︎」

 

 それを一気に解き放つ。縦横無尽に飛び交う鎖が、四方八方、予測不可能な動きで3人に襲い掛かる。

 飛び出した事を後悔させる程の物量に圧倒され、その足が緩んでしまう。

 

「アンサーは半歩分前に! ミスティックはワンテンポ遅らせるんだ!」

 

 2人は指示通り前進する足のリズムを崩して、攻撃が当たるタイミングをズラし、回避する。見極め、それを判断し、躊躇いもなく対応させる。

 

「が、本命は」

 

 ファントムの口角が上がる。いくらアンサーとミスティックをサポートしようとも、自分に対する攻撃まで注意を疎かにしてしまえば終わりだ。

 

「ッ‼︎」

 

 鎖がトゥルースの全身に突き刺さる。その様子を間近で見ていたジェットは目を丸くし、不敵に笑う。

 

「トゥルースの持つプリキットアイテム全部で7つ存在して、それぞれに調査に役立つ特徴がある。記憶を失くしてるトゥルースも、あんだけ資料を読み漁ってたんだ。そんな事くらい頭に入れてる筈だ」

 

 その内のひとつでもあるトゥルースキュアブックには、対怪盗団ファントムに対抗すべく為の力。それが、プリキットトゥルースキュアブック。トゥルースの為だけに、特別に開発(オーダーメイド)された探偵7つ道具。

 

 そして。

 

「そして、さっき使ったプリキットアイテムもその内のひとつ。僕も一度目を通して見たことのあるやつだ」

 

 トゥルースの左目に装着されたプリキットアイテムの光が今、弾けてその姿を現そうとする。

 

「偽りを見抜き、全てを見通す真実の(まなこ)

 

 その名を──。

 

「導きの三連鏡──プリキットアンサーレンズ!」

 

 突き刺さっていたと思われる鎖は引きちぎられ、地面に崩れ落ちる。

 3つに連なるレンズがアンサー、ミスティック、ハンニンダーの姿を捉えていた。

 

 さあ、反撃開始だ──。




ここまでの拝読ありがとうございました
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