名探偵プリキュア! The End of Truth 作:シロX
「はい、あーん」
「……あーん」
どこまでも透き通る青い空。雲一つなく晴天の下では、パティスリーチュチュのテラスで2人の男女が幸せな時間を過ごしていた。
金田一まことは、口に運ばれるマカロンを淡々と食していた。反対に食べさせている帆羽くれあは柔らかく、お淑やかな表情で意気揚々としている。
感じているお互いの感情は意外にも正反対だった。
「くれあさん、1人で食べれるって」
「遠慮しないで!」
「遠慮も何もしてないんだけど……」
テラスで食べている事も相まって、道行く人の視線が刺さる。恋人同士なら少し恥ずかしいだけの感情で済む話なのだが、まこととくれあはそういう関係ではない。
「まことちゃんのお口の中に、マカロンが飛んで行くよー!」
「だから、そういうのやめろって!」
思わず手首を掴んだ。その瞬間、くれあの目元からほんのり雫が溢れ出る。咄嗟とはいえ、つい手が出てしまった事と予想外の反応にまことは「しまった!」と心の中で叫んだ。
「普段お店に居るから、まことちゃんと中々逢えなくて、こうしているひと時の時間を大切にしたかったのに。そうだよね、ごめんね。まことちゃんはわたしが思っている以上に大人なんだもんね」
目に見えて凹んでいる。完全に失言と気付く。
「このマカロンはね、まことちゃんの事を想いながら愛情込めて作ったのだけど。やっぱり迷惑だったよね……」
「そ、そこまでは言ってない! ただ俺は、子供扱いすんなって言ってるんだ!」
毎度会えば子供扱いの連続。ちゃん付けも恐らくそこからきているのだろう。最初は特になんとも思わず黙りを決め込んでいたが、思春期一歩手前の男心はそう長くは保たなかった。
「本当に?」
「本当だ」
「好き好き大好き愛してる?」
「好き好き大好……て、おい! 何言わせるんだ!」
「わーん! やっぱりまことちゃんはわたしの事なんてなんとも思ってないんだ!」
テーブルに突っ伏してわんわんと泣き喚く目の前の高校生を前に、まことはたじろいでいた。このままでは、女の子を泣かせたというレッテルを貼られかねない。
「す、好き好き大好き愛してる……」
「頭に『世界一』付けて?」
「世界一! くれあさんの事が好き好き大好き愛してる‼︎」
渾身の台詞。要望にもない名前まで付け足したのだ。しかも羞恥心を跳ね除け、大声で愛の言葉を叫んだのだ。これ以上ないくらい満たされた筈。
その時「ガチャリ」と何か機械音を耳にした。
「ありがとうまことちゃん! わたしも気持ちは同じだよ!」
そう言いながら、くれあはテーブルの下からラジオカセットレコードを取り出した。そして、満足そうに中からカセットテープを取り出しては丁寧にケースへと入れ込んだ。
そこでまことは察した。さっきの言葉を一字一句全部録音されたのだ、と。
「録音!
天使の微笑みを浮かべている彼女だが、まことからすれば悪魔の微笑みだ。
「俺一体何回この人に騙されてんだよ……」
「うーん、200を超えた辺りからあまり数えなくなったかしら?」
「俺ってば随分とアンタに甘いな! 自分でもびっくりだ!」
泣きたいのはこっちだと言わんばかりにまことは落ち込み、マカロンを1つ摘む。
「そんなに卑屈にならないで。まことちゃんと居るとわたしは楽しいよ」
「そりゃ、くれあさんからすれば得しかないからな!」
この人と関われば、いつもこの調子でペースを握られてしまう。初めて出会った時から今に至るまでそれは変わらない。それ故、心は開けやすいのだが。
「いつもいつも純情な男心を弄びやがって。ドキドキしてるこっちの身にもなってみろ!」
「あら嬉しい!」
「あーそうだった! この人、俺に対して何故かいつもこんな調子だったんだ!」
偶には揶揄うのをやめて欲しい。
「……まあ、試作のマカロン。俺は美味しいと思う」
「ありがとう。ちょっと自信無かったのだけど、まことちゃんのお陰でお店用に形作りする決心がついたよ」
やり取りはともかく、くれあのお菓子作りの腕は確かなものだ。お店に売られているスイーツの一部は彼女の作ったものもある。勿論、デザインから味の質は完璧。お客さんからの評価はまことの耳にも届いている。
「今度また何かお礼に作ってあげるね。何が良い?」
「くれあさんの作るものなら何でもいいよ。全部大好物と言ってもいい」
「嬉しいけど、流石に全部は言い過ぎだよ。何か苦手なものがひとつくらいあったり」
「無いよ。俺、本当にくれあさんの作るものは全部美味しいと思ってる。それに関しては嘘は吐かない」
悪戯心に満ち溢れていた笑顔は一瞬にして消え、代わりに頬を淡くも紅く染め上げて視線を外した。面と向かって、真っ直ぐな瞳でこんなにも褒められると照れ臭さもあるし、恥ずかしさもある。だけど、それ以上に嬉しさがある。ちゃんと、自分の事を見ていてくれている。
「ちょっと……ううん、凄く驚いちゃったな」
「好きなものに嘘言っても損するだけだろ」
まことはマカロンを1つ摘み上げ、くれあの口へと運び込んだ。普段ならあまりしない仕草で僅かならがのやり返し。それが効いたのか、くれあの頭から煙が噴いた。
「も、もうわたし仕事戻らなくちゃ!」
「んじゃま、俺もそろそろおいとまするか」
2人が席を立った直後、お店の方から店長の浅井たいらが顔を覗かせた。
「あっ、良かった。まだ帰ってなくて」
「帰るも何もまだ物を買ってませんよ。買おうとしたところに、くれあさんに捕まったので」
口ぶり的に、まことに用があるらしく最後のマカロンを口に放り込んで耳を傾ける。
「ジェット君からケーキの注文が入ったんだ。すまないけど、金田一君頼めるかい?」
ケーキが入った箱。それを見せて、わざわざお願いをしてきたという事は大体の察しがつく。そして、ジェットはまことがパティスリーチュチュに出掛けている事を知っている。
「あ、あの人。俺にケーキ代払わすつもりだなぁ!」
わなわなと怒りで震える横で、まことは渋々清算を済ます。そんな彼を横にして、浅井はくれあと会話を続けていた。
「帆羽さん、彼を送ってってあげて」
「お店の方は大丈夫なのですか?」
「この時間帯ならお客さんは来ないからお店は大丈夫。気にしないで」
浅井からの外出許可を貰え、くれあはケーキの入った箱を受け取り、まことの腕にわざわざ抱き付く。
「若いって良いね」
浅井は、そんな2人の背中を見送ってお店へと戻って行くのだった。
◯
パティスリーチュチュからキュアット探偵事務所までの距離はそう遠くはない。数十分も歩けば着く距離感で、くれあは表情豊かにして楽しんでいた。
「今日はやけにテンション高いですね」
「最近はまことちゃん、探偵事務所の方で忙しいから。会話出来るだけでも嬉しかったのに、こうしてお散歩も出来るとは思わなかったから」
「確かに、そうだな。特に、あんなが探偵事務所に訪れてたからずっとだもんな」
「「……」」
意外にもお店を後にした2人の空気は、先程までとは打って変わってとても静かなものだった。ただ無言でまことは真っ直ぐ前を見て歩き、くれあはずっとまことの表情を見つめながら歩いている。
ふと、まことはくれあに視線を向けた。そして。
「くれあさんちょっと」
まことはくれあの腰に手を回し、身を寄せる。僅かな距離感で歩いていた2人は今、抱かれる形で密着をしている。
「ま、まことちゃん何を……?」
まことの視線はくれあからすぐに外れ、反対側を見据えていた。くれあを抱いた直後、自転車が通り過ぎて行く。それを見送ったまことは回した手を緩め、離す。
「俺が広い方歩くから、くれあさんは……って何?」
くれあはその場に蹲って両手で顔を覆っていた。覗くような形で腰を屈め、どうしたのかと問う。
「気分でも悪いのか?」
「そんな事ないから!」
「そうか? でも、顔が赤いぞ?」
「お願い聞かないで! 恥ずかしいから!」
本人がそう言うのなら口を閉じた。見た感じ、気分が優れないという訳でもない。疑問に思いながらもまことは歩き始め、くれあも顔を火照らせながら歩く。それも、まことに手を引かれながら。
そんな普段とはまた違った道中を過ごして早数十分が経過していた。
ようやくながら、2人はキュアット探偵事務所まで辿り着いてその玄関先で立っている。ただ少し、違和感があった。
「なんか今日、事務所の様子がおかしいな?」
「そう?」
外からでも雰囲気で伝わる忙しさ。物置き部屋となっている筈の2階の扉が開いている。何か作業でもしているのだろうか。
扉に手を掛けようとした、その時だった。
「──うわああぁぁぁあ‼︎」
幼い子供の悲鳴が探偵事務所内から聞こえた。あまりの事に、まこととくれあは両肩が上がった。
「何かあったのかも知れない。失礼します!」
「あっ、くれあさん! ただいま!」
2人は飛び込む形でキュアット探偵事務所に入り、急いで悲鳴があったリビングへと駆け込んだ。そこで2人が見た光景は。
今回の内容が本来のわたしの書き方です。重たい空気の話は実は結構書くの苦手なんですよね。
ここまでの拝読ありがとうございました。