名探偵プリキュア! The End of Truth 作:シロX
翌朝。まこととポチタンが朝食を食べていると、みくるは独りで何処かへ出掛けようとしていた。
その事が気掛かりと思い、玄関前で彼女を引き留めていた。
「こんな朝っぱらから何処行くんだよ? もうすぐあんなとジェットさんが帰って来るんだぞ?」
「……ちょっと調査しに」
「依頼でもあったのか? それなら俺とポチタンも行くよ。待ってろ、今支度するから」
「来なくていい」
「いやでも──」
「来なくていいから‼︎」
心配しただけなのに、急に声を荒げられてまことは黙りこくった。その後、自分で何を口走ってしまったのかをすぐに理解してか、みくるは慌てて両手で自分の口を覆った。
「ごめん!」
こんなに冷たく当たるつもりはなかった。頭で分かっていても、その感情は止められなかった。
まことが声を掛けようと口を動かすのを見て、みくるはその場から逃げ出すように探偵事務所から出て行った。
追い掛けるべきか否か。まことは少しだけ考えた。今の情緒不安定なみくるに会ったところで、なんて声を掛ければいいのか。今はそっとしておいた方が良いのか。優柔不断な思考をしていた時。
「ポチポチー!」
背中から勢いよくポチタンが体当たりをしてきた。何事かと思い振り返ると、焦った様子でまことの服の袖を強く引っ張り上げている。
「ポーチー!」
ポチタンのただならぬ様子。まことはそれをよく知っている。これは、何かしらの事件が発生したのとみた。
◯
みくるは独り、肩を落としてふらふらと街中を歩いていた。調査と言っておきながら特に行く当てもなく、ひたすら足を動かしていた。そして、適当な建物の壁に寄り掛かり、大きな溜め息を吐いて自分の足元を見つめる。
「調査って、情報も無いのにどう探せば良いんだろう……」
一から、いや、殆どゼロからの調査はこれまで以上に難易度は跳ね上がっているのは確か。だからこそ、それをやってのけているまことが少し羨ましくもあり、悔しくもあった。
彼の能力を考えればそれくらい出来て当たり前はある。が、それをここで改めて思い知らされるとなると。
「取り戻すとか言って、わたしが1番足を引っ張るのかな? だとしたら、わたしなんて必要ないんじゃ……」
「──そうね、彼の頭脳をもってすればアナタなんて比べるまでもなくお荷物同然よ」
みくるに影が覆う。同時に声もして顔を上げればそこには、人間の姿をしているルルタンが目の前に居た。
「何でここ──」
言葉を遮って、ルルタンはみくるの口を右手で塞ぎながら鷲掴みした。これでは、一切の声を発する事が出来ない。
「しーっ。こんな人気のある場所で騒ぐもんじゃないわよ?」
体格的にルルタンの方が大きく、みくるを覆っている形となっている。覗き込まない限り、周囲の人間からは2人がどうなっている状態かちゃんと視認出来ない。
(こんな白昼堂々と!)
「アナタ1人だけ? 他は?」
(言ってどうする気なの? 意図は分かんないし、どっちにしたって絶対言うもんか!)
ルルタンの問いに鋭い目付きで意趣返しして反抗する。今のみくるが出来るのはそれくらい。
この期に及んで、まだその態度をする余裕があるのか。それに面食らったルルタンの表情が少しだけ緩んだ。
「もう一度言うわ。他の子達は何処に居るの?」
わざわざ口から手を離すまでした。これなら助けを呼べる。みくるもこの状態から抜け出すには今しかないと踏んだ。
小さくて、だけど柔らかい、艶やかなその唇でみくるは口する。
「
「そう、ありがとう」
(えっ、今わたし何て言った?)
本心とは全く違う事を口にした。それも言わないようにと念じるくらい隠し通していたものを。
「アタシの前で
「そんな……」
「それにしても、いつも一緒なのに1人なんて珍しいわね? 何があったのよ?」
まるで、友人のように質問をしてくる。その語りに今度こそ、みくるは噛み締めて固く口を閉ざす。
「あんなとジェット先輩は依頼。まこととは喧嘩する形で逃げ出した」
「喧嘩、ねぇ」
「ッ⁉︎」
まただ。また口が開いていた。無理矢理こじ開けられたというより、自然といつものように会話する感じで全部喋っていた。自分でも制御出来ていない。みくるの頭の中は軽いパニック状態に陥っていた。
「なーんでアナタみたいなヘボ探偵を大切にしているのか、未だに理解出来ないわ。まこととアナタでは、頭のデキが全く違うのに」
「そんなの、わたしが一番知ってる!」
「いいえ、アナタはなんにも分かっていない。分かっている気になっているだけ」
みくるの肩が跳ね上がる。
「優れた洞察力、並外れた頭脳、それに見合った推理力。後天的なものではなく、先天的にある才能。本来なら、誰の手も借りずあらゆる事件を1人で解決出来る力を持ってるの」
重くのしかかる現実。頭で理解していたつもりでも、こうも言葉にして突きつけられると精神的にくる。
「それに、記憶を失う以前の彼をアナタは知らない」
「明智、まこと……」
「ふーん。何処でそれを知ったのか知らないけど、アナタ程度の探偵でも一応そこに行き着いたのは素直に褒めてあげるし認めてあげる」
ルルタンは「けれど」と言葉の尻に付け足してみくるを否定しに掛かる。
「アナタがどれだけ努力しても、まことに隠れている真実には決して辿り着けない。記憶を取り戻すみたいな約束したらしいけど、アナタの手を借りなくても彼ならいつか自力で辿り着く」
それがトドメの一撃となった。まことにとっての存在意義について揺らぎが生じていた所に、告げられた言葉。自分が居ても居なくても、寧ろ居ない方がスムーズに記憶を取り戻せれるという仕打ち。
自分がこれまで奮闘していた努力は、まことに取っての先送りでしかなかった。
「みくる‼︎」
項垂れていた時、声がした。声のした方へ顔を上げると、心配と不安な感情を表に出しているまことが駆け寄って来ていた。
まことの姿を見るや、ルルタンはみくるから離れて特殊なフィールドを展開させた。まるで、この後の展開が知っているみたいに。
「ポチポチ!」
「ポチタンを追い掛けていたらこの有り様。ルルタンお前、みくるに何を吹き込んだんだ?」
「ベーつに? 事実を突き付けただけ。彼女のような子が居たって何の役にも立たない。そう丁寧に教えただけ」
ルルタンは不敵に笑い、マコトジュエルが宿っている時期外れな水鉄砲を天に翳した。
「嘘よ覆え! 現れろ、ハンニンダー!」
マコトジュエルが嘘で覆われ、二丁拳銃の如く両手に水鉄砲を持ったハンニンダーが誕生した。
険しい表情を浮かべなら、意気消沈するみくるを庇う様にして前に立った。
「ポチタンはみくるの側に! あんなが居ない以上、俺1人でなんとかする!」
1人でなんとかする。その言葉を聞いてみくるは腰上げ、背後からゆっくりとまことの腰にしがみついた。
「あっ、おいみくる?」
「……さい」
「えっ?」
「ダメな探偵で、ごめんなさい……」
敵は目の前。だけど、まことは一度臨戦体勢を解いてみくるを優しく離した。
「俺はそうは思わない」
それだけ言い、再度まことは鋭い視線をルルタンに浴びせる。
ルルタンは両肩をすくめ、やれやれといった風に鍵とプリキットブックに酷似した本を両手で手に取る。それだけで、ルルタンがこれから何をしようとしているのか察して顔を青ざめた。
「オープン! ライアーキーブック!」
ライアーキーブックに鍵が挿し込まれ、捻る事で施錠されていた本が大きく見開かれる。
「プリキュア! ウェイクアップタイム!」
本の中から黒の嘘と白の真実が放出され、ルルタンの身に衣装として纏われていく。
「リアル!」
幾つもの嘘をその姿に重ねて、真実は嘘の中。彼女はまた別の姿と変える。
「フェイク!」
白黒の髪は踵まで伸び、髪飾りとして白いマスクが付けられている。キャミソール型のふんわりとしたワンピースにケープを着用。右に白、左は黒とグローブをはめられている。左腰には6つの鍵がリボンチャームで携行とマントが装飾されて、ロングブーツを履いている。
全体的に白と黒で彩られ、まるで光と闇、陰と陽、嘘と真実をその身で体現させているカラーリングとなっている。右手には、腰の長さまである金色の鍵。持ち手にはマコトジュエルにも似た宝石が装飾されている。
「美しき虚実で彩られる、大怪盗キュアライアー!」
不気味に笑うルルタンことライアーは、両手を大きく広げてまことに言い放つ。
「嘘と真実の狭間で、共に踊りましょう」
予想外の事態にまことは戸惑いを隠せずにいた。2個目のマコトジュエルを取り戻して、ルルタンに関する記憶は蘇った。しかしだ、ルルタンがプリキュアに変身出来るなんてものは記憶上存在していない。
それとも、まだその部分だけ抜け落ちているのか。
「その顔、まるで鳩が豆鉄砲を食ったような。相変わらず可愛い反応してくれるね」
「プリキュアに変身したからなんだ。俺達のやる事は変わんねーよ」
ふと、後ろのみくるに視線を落とす。未だ意気消沈しており、とてもではないが共に戦える状態ではない。どちらにしろ、相棒が居ない彼女では変身すら出来ない。ここは、まこと1人で踏ん張るしかないのだ。
「オープン! トゥルースキュアブック!」
意を決して変身アイテムを翳した。
「閃く直感で導き出す答え! 名探偵キュアトゥルース!」
最速で変身を遂げ、一目散にハンニンダーへと駆け出して行く。対峙してからの速攻。ハンニンダーは状況判断が遅れ、僅かに硬直していた。
先制攻撃はトゥルースが貰った。その流れを切らさぬ様、一気に畳み掛ける算段も頭の中で考えながら蹴りを仕掛ける。
「もうアタシの事忘れたの?」
瞬間、トゥルースの首筋目掛けて鍵が振り抜かれた。
「がっ⁉︎」
直撃。寸前のところで上手く反って衝撃は最低限緩和したものの、明らか鳴ってはいけない鈍い音が首から聴こえたのも事実。
攻撃する時、宙を舞っていたのが仇となり空中で受け身が取れず、右肩から衝突する形で地面を転がり込む。
「いってぇ!」
いくらプリキュアであろうと、痛いものは痛く首を押さえ込む。
「ハンニンダー‼︎」
ハンニンダーの両手に持つ水鉄砲から、高圧の水が一直線に放たれる。休む隙さえ一切作らせず、怒涛の攻撃がトゥルースに襲い掛かろうとしている。
「トゥルース……ッ!」
迎え撃とうと右腕で構えを取るも、先程落下した影響で肩が思う様に上がらない。加え、攻撃姿勢を中断させてしまう程の痛みが走る。
「やっばい!」
技が放てなかった事で、ハンニンダーの攻撃をモロに食らってしまった。体は大きく吹っ飛び、建物に壁に鞭打ちとなって叩き付けられた。
「トゥルース!」
その様子を見ていたみくるは心配の声を上げた。彼の怪我の具合を見ようと側へと寄り添う。
「トゥルース大丈夫⁉︎」
「ああ、なんとか……ッ!」
強がりを見せるも、やはり体は正直。みくるが軽く触れただけで激痛が走る。右腕は完全に使い物にならなくなっており、それだけで状況は最悪の一途を辿る。
「こんなもんじゃないよね。アナタの力は」
「当たり、前だ!」
右腕を庇いながら立ち上がる。ハンデを背負いながら、2人の相手をするのは少々骨が折れる。力だけではなく、頭もフルに使ってこの場を操らなければ。
「アタシのこの力はね、トゥルース、アナタを参考にしているの。この鍵もマコトジュエルとは対をなすジュエル。名前はそう『ライアージュエル』」
ライアーは腰にぶら下げる残りの6つの同様の鍵を見せびらかしながら、悍ましい捕捉説明まで交える。
「アナタの7つのプリキットとアタシの7つの鍵。どういう意味は大体察するわよね?」
「まさか!」
「想像通りの事をしてあげる! 見てなさい! オープン!」
腰にある6つの内の1つを掴み、ライアーキーブックに挿し込んだ。ガチャリと音を立て、封じ込められていたものが外部へと一気に放出される。
「アンサーシフト!」
嘘の力が宿っている紫色のオーラが、ライアーの衣装や髪色を変色させていく。形はそのままに、カラーがキュアアンサーを彷彿とさせるベースカラーとなる。
「ウフフ、アハハハッ! 嘘と真実が入り乱れるこの力、アナタに止められるかしらキュアトゥルース?」
今までに感じたことのない力。圧倒的強者の前に、トゥルースはどう立ち向かうか。