名探偵プリキュア! The End of Truth 作:シロX
悠然として歩き近付くライアーに、トゥルースは警戒を怠らず彼女の姿を凝視する。今のライアーから一瞬足りとも目を離せば。
「フフ」
ライアーが笑みを溢したその時だった。瞬きの瞬間を狙ってライアーが消えた。そして、下から悪寒が走る。下を見れば、ライアーが拳を握り締めていた。
「みくる退け!」
心配して傍に寄っていたみくるが巻き込まれぬよう、突き飛ばして彼女だけでも避難させる。しかし、本来なら避けれていた攻撃をみくるに注意を割いてしまったが為にトゥルースの顎が跳ね上がる。
「あがっ!」
全身の体重を乗せての一撃は、トゥルースの脳の奥の奥まで響き渡らせる。
「クソッ!」
空中で立て直し、右腕を構える。宙へ飛ばされたのが不幸中の幸い。わざわざ負傷している肩を上げなくとも、下げたまま下へと技を放てば負担はそこまで大きくはない。後は照準さえ定まれば。
「これで!」
指先に光の粒子が集約され、煌めく。
「──どうやら、今のワタシの方が一枚上手だったようね」
直後、右脇腹に突き刺さる高圧の水。
(やべ、意識が……)
今のでトゥルースの意識が完全に断ち切られた。重量に従って、トゥルースは撃沈する。
「ワタシを相手にすればハンニンダーが。ハンニンダーを相手にすればワタシが。どう足掻いたって片方しか相手に出来ないアナタでは勝ち目なんて無い」
全部読まれていた。トゥルースが小細工をしても元相棒だからか、それも全部手の平の上の如く踊らされている。ここまでライアーどころか、ハンニンダーにすらまともに攻撃らしいものを与えてすらいない。
「トゥルース!」
「……ごはっ!」
みくるの呼び掛けで意識が戻り、口内に溜まっていたものを地面に吐き出す。赤黒い血みどろ。散々攻撃を無防備に貰い過ぎたのだ。血反吐を吐いたっておかしくはない。
「はぁ……はぁ……」
そんな無様な状態であろうとも、トゥルースは無理にでも体を起こして立ち上がる。みくるに視線を向けた後、遠ざかるように足を引き摺りながら離れて行く。
その行為だけで、ライアーは大方察した。
「彼女を巻き込ませないつもり? 残念だけど、ワタシがそれを分かっていて乗ると思う?」
ライアーの右拳から黒が入り混じる紫色のオーラが滲み出る。そしてゆっくりと、みくるの方へ歩んで行く。
「アンサー、いや、ライアーアタック」
アンサーアタックを彷彿とさせるオーラ量にモーション。それがみくるに向けて繰り出されようとしている。
みくるはその場にへたり込み、完全に腰が抜けている。ポチタンもみくるを逃がそうと服の袖を引っ張っているが、体格や力が見合っておらず動かせれていない。
「ワタシの嘘の方が強かった。たった、それだけなのよ!」
「みくるぅぅぅ‼︎」
ライアーアタックが直撃する瞬間、トゥルースが紙一重で割って入り、振り下ろされる拳を身代わりに受け負った。
しかし、トゥルースが受けた箇所は丁度心臓部。ダメージの許容範囲を超過し、変身が強制的に解除され、その場に崩れ落ちた。
「しまった」
あんな身体でまさか、割って入って来れるとはライアーにとって予想外であった。庇う選択肢は頭に入っていたが、追い付くとは思いも寄らなかった。思わず距離を取るライアー。
「な、何でわたしを庇ったの?」
身体を支えるみくるはそっと質問をする。こんな無茶をする人とはあまり考えられない。感情で動く人ではない事は知っている。なのに。
「そうよ。彼女を救う義理もなければ価値も無い。探偵として三流、アナタとの思い出も薄味。身を挺してまで守る必要がどこにあるのよ?」
「守る、理由?」
まことはみくるに視線を落とす。そして、小さな笑みを浮かべて目元から流している雫を指先で拭う。
「大切な人を守るのに、いちいち御託並べなきゃいけないワケがあるのか?」
まことの言葉を耳にしたみくるとライアーは驚いた表情をする。含みのある物言いに2人が抱いた驚きには、それぞれ僅かな差がある。みくるは頬を桃色に染め、ライアーは青筋を浮かべさせている。
(嗚呼、そうか。やっぱり、これなんだよ)
胸の奥深くに感じる気持ち。まことは確かに感じ取った。
「記憶を無くして、自分の存在すら危うい時にみくるは声を掛けてくれた。あの時、どれだけ俺が救われたのか。みくるは、俺にとって大切で、特別な想い人なんだよ」
「だったら何だって言うのよ? アナタは明智まこと。金田一まことという存在は作り上げられたもの。このままじゃ、いつまで経っても記憶を取り戻せないのよ。判ってる?」
「違う」
片膝をつき、優しげな瞳でライアーを見つめる。彼女も彼女で、いつしかの明智まことと重ね合わせている。
「楽しかったことも、辛かったことも、探偵としての経験も今の俺があるのは、全部みくるが隣に居たからなんだ。決して、明智まことじゃ得られなかった大切なものがここにはあるんだ!」
まことの全身から淡い白の粒子が集まり、纏われていく。
「俺は、明智まことなんかじゃない。ここに居るのはみくると一緒の時間を過ごした──"金田一"まことだ!」
内に秘めていた感情が全て爆発し、それが形となり、自力で且つ変身アイテムを一切使わず再度キュアトゥルースへと変身を遂げた。
「アタシの知ってるまことはもう居ないって事なのね……」
トゥルースの決意ある啖呵を耳にして、ライアーの表情が暗く映り込んだ。悲しんでいるようなそんな風にも見て取れる。手を伸ばし、明智まことの面影を追い掛けるよつな素振りを見せるが、目の前に居るのは金田一まこと。
「ハン、ニン、ダーッ‼︎」
連続で撃ち放たれた水弾が、雨のように降り注がれる。ライアーは後退し、射程範囲から逃れるもトゥルースとみくるだけは取り残されたまま。
トゥルースは使い物にならなくなった右腕でみくるを抱き寄せて抱擁する。そして、小さく耳元で囁いた。
「俺が絶対離れんなよ」
「う、うん!」
水弾がもう差し迫っている。時間無い刹那の間でもトゥルースは冷静に、ある物を懐から取り出した。
瞬間、水弾は直撃して水の飛沫が辺りに飛散する。モクモクと沸き立つ白い煙を前にライアーは俯き、細めた目で静かに口を開ける。
「流石トゥルース。記憶を失ってもまだその直感は衰えていない」
煙が晴れたそこには、ピンク色のマントでみくるを覆い被せるトゥルースの姿が。ライアーも当然の如く受け入れており、先程より満足げな表情に戻っていた。
「そのマント、見たことある」
強く、だけど優しくもある腕の中でみくるは見惚れるように口から言葉を自然と溢す。
「迫り来る嘘から、真実を守り抜く神秘の抱擁」
既にトゥルースキュアブックにセットされてあるピンク色のマコトジュエルから、神々しく煌めくピンクが2人を包み込む。
「名探偵の外套──プリキットミスティックマント!」
ミスティックマントのお陰で、2人はハンニンダーの攻撃から身を守る事が出来ていた。それも完璧までに。
「ミスティックマント。ワタシがアルカナ・シャドウに渡すよう言っていたプリキット。それにマコトジュエル」
トゥルースは右腕でみくるを抱えながら走り出した。狙いはライアーではなくハンニンダー。彼女を横を通り過ぎるも、ライアーは手出ししてこない。何かしら動きがあれば、その都度対応するつもりだったがこれといった事が皆無。であれば無視に限る。
「ハンニンダダダダ!」
連続発射する高密度の水。それを真正面から全て、ミスティックマントで受け止め、防御する。マントに傷ひとつ付かず、トゥルースの足が緩む事は微塵も無い。けれど、ひとつだけ問題がある。それは。
「使い物にならなくなった右腕でみくるを庇い、左手には絶対に手放せないミスティックマント。それで、どうやってハンニンダーを倒す?」
ライアーの言うように、今のトゥルースには攻撃手段が殆ど限られている。守るだけなら問題は無いが、それもいつまで保つか定かではない。
そんな時、みくるがトゥルースの胸を叩く。
「トゥルース。わたしがトゥルースの右手になる!」
「右手になるって」
「まこと!」
名前を呼ばれた。彼女の目を見る。
「分かった」
その信頼に応える。
全てをみくるに預け、一定の距離まで詰め寄るとトゥルースは大きく跳躍する。
「頼むぜ」
ハンニンダーの照準が2人を捉える。トゥルースも下にいるハンニンダーに向けて右手の人差し指を向ける。けれども、深傷を負っている今の状態では狙いが定まらない。
震える右手。そこに、絡めるようにしてみくるの右手が添え、重ねられた。
不安定だった右手はみくるのお陰で、なんとか落ち着きを取り戻し安定した。
「ハンニン!」
勝負は一瞬で決まる。それを悟り、ハンニンダーは二丁の水鉄砲をひとつにして合体させる。銃口には今までよりもありったけの水が集まり、一点に凝縮されていく。
「行くぞ。これが、俺と!」
「わたしの!」
「「アンサーだ!」」
2人の気持ちが込められたトゥルースショットとハンニンダーの水弾が両者中央で激しくぶつかり合う。
「「ッ!」」
力は互角。しかしながら、優勢なのはハンニンダーだ。秘密は撃ち放った水弾に螺旋回転が加わっているから。その回転が貫通力を高めて攻撃そのものの威力がある。対してトゥルースショットは、高出力の光弾をただぶつけているだけ。
「負けねぇよ。俺にはみくるがついてるからな!」
トゥルースに呼応してか、トゥルースショットの出力が更に増大。真っ白な光に淡いピンクが重なり、交じり合う。
「……ここまでのようね」
ライアーのひと言で決着が付く。ハンニンダーの水弾をトゥルースショットが打ち破り、そのまま水鉄砲を破壊までに至った。
完全に武器を無くしたところに、トゥルースは一気に畳み掛ける。
「これで、終わりだぁ‼︎」
破壊された水鉄砲の破片の中からトゥルースが飛び出し、ハンニンダーに全力の蹴りをかました。
「キュアット解決!」
最後は、浄化技に繋げて浄化に成功した。
「ライアー、これだけは言っておく」
振り返り、ライアーへ体を向けてこう言い放つ。
「俺のみくるに手を出すな!」
ライアーは強く拳を握り締める。その握った拳の意味を彼女は胸に強く刻み込み、ある決断をした。
「なら、もう容赦はしない。徹底的に潰す。そして、この世界を嘘で覆い尽くす!」
ライアーはそのまま姿を消した。
「終わった……」
トゥルースはその場に座り込み、変身が解除された。気力も体力も全部使い果たした。立っているのもやっと。深く息を吐くのだった。
◯
心身共に疲弊しているまことに肩を貸してみくるは歩く。ただずっと、ひたすら無言の空気がこの場を占めている。そんな中で、2人はお互いの顔を瞥見を繰り返す。目が合えば顔を背け、そしてまた相手の顔を見る為視線を移す。
「俺の憧れている探偵はみくるだ」
「えっ?」
唐突な物言いに、素っ頓狂な声を出してしまう。
「何だよ悪いか?」
「ううん。嬉しいなって思って」
「俺が全部言ったのは紛れもなく、全部本当の事だからな。だからあんま、卑屈になんなよ。名探偵さん」
クスリと笑うみくる。前に歩いているとずっと思っていた彼。前ではなく、ずっと隣を歩いてくれていた。そんな彼の本音に触れて、どこか少しだけホッとした。
「ねえ、まこと。ちょっといい?」
「んだよ──」
名前を呼ばれ振り向きざま、唇に生暖かい感触がした。ほのかに香る女の子特有の匂い。鼻をくすぐらせる前髪。そしてなにより、みくるの顔が視界いっぱいに映り込む。
「……んっ」
唇を離すと、透明な糸が引いてみくるの口元に垂れ、伝う。まだ僅かに残る感触、ほのかに帯びる熱。頬を赤く染め上げ、口にした初めての味が口内に広がる。
「……振り返るなんて」
視線を外して口元を隠す。みくるも、まことが振り返るとは思わなかった。お互いに取って、これはちょっとしたハプニング。それが余計に羞恥心を煽り、目を合わせずらくさせる。
「な、何でお前が照れるんだよ⁉︎」
「そっちこそ、何で振り返っちゃうの⁉︎」
「まさかの責任転嫁⁉︎」
締まらない最後。でも、しっかりと2人の中で少しだけ意識せざる得なくなった感情が生まれた。それは──。
──恋。
過去の自分より今の自分!みたいに選択しただけなので、根本的な解決にはなってない。と、いう事はー?
今回は割とみくるにフォーカス当てただけなので、主人公はどうでもいいんですよ。後の話に繋がる話題を出したというだけで
次でちょろっとファントム側書いたら美術館回!