名探偵プリキュア! The End of Truth 作:シロX
それは突然の知らせだった。宝生美術館と呼ばれる場所で、怪盗団ファントムから予告状が届いたのだ。これまで怪盗団ファントムと遭遇はしたが、このようなやり方は今回で初めて。加えて、TVで大々的に流された為に事態としても今までよりも事件の規模として大きい点もある。
すぐさま、まこと、あんな、みくる、ポチタンの4人で宝生美術館へと足を運ばせるのだった。
「星明かりのプリンセスっての首飾りを狙ってるんだよな?」
「そうそう。それに、予告状なんて名探偵への挑戦状みたいなもの。ファントムの好きにはさせない!」
「結構定番だよねー」
今までが今までに、泥棒と大して変わらないやり口で盗んできた怪盗団ファントム。相まってか、今日のみくるの気合いの入りようは一味違う。それに感化されてか、ポチタンもキュアミスティックの衣装を身に付け気張っている。
「ポチタンもやる気満々だよ!」
「ポチポチー!」
「とはいえ、オーナーである宝生さんがすんなり俺達を通してくれるかどうか」
数々の難事件を解決へと導いてきたといえど、所詮は子供の集まりにしか過ぎない。話を聞いてくれるだけならまだいいが、冷やかしと決め付けられて追い出されでもしたら事件以前の問題となる。
自分達が築き上げたものをどう判断してくれるか、切に願うばかり。
「そうだ、まこと君。この前記憶が戻ったって言ってたけど、今回はなんの記憶が戻ったの?」
オーナーの宝生を待っている間、あんなはずっと聞きたかった事を訊いた。何をやっても反応の無かったマコトジュエルにプリキット。ようやくそれが反応して、またひとつ記憶を取り戻したが詳しい内容まではあんなだけではなく、その場に居合わせていたみくるやポチタンですら耳にしていない。
「殆ど戻った」
「えっ、殆ど戻ったってどういうこと⁉︎」
「言葉通りだ。オンギャアーした頃から記憶を失う直前までだ」
今なら分かる。確かに自分は明智まことであり、それでいて普通に過ごしていた日々の記憶が鮮明となっている。あの時感じたこと、体験したこと、経験したこと全部が。
「そうなんだ! はなまる良かったね!」
「でも、殆どって? まだ何か思い出せれてないの?」
言葉の引っ掛かった部分をみくるが拾い上げた。
「まだ一部モヤがあるんだよ。こう、言葉では言い表せないけど。人の顔とかな」
「上手くいかないもんだね」
まことあんなが腕を組んで呻き声を上げながら、道のりの長さに項垂れる。前に進んでいるだけまだ良いと言えるが。先の見えないゴール目指すというのは、それもそれで苦痛だ。
そうこうして待っていると、正面階段から真っ赤なドレスを着た女性が降りてきた。その人は、TVでも見た美術館のオーナーである宝生だ。
「宝生さんですね。俺達、キュアット探偵事務所の探偵で──」
「なんて素晴らしいポーチなの!」
「「「えっ⁉︎」」」
一目散に駆け寄って来たのは、ポーチに扮しているポチタンにだった。このような反応は初めてで、ポチタンも困っている様子。
「なーんて可愛いポーチなのかしら! 譲って下さらない?」
「えぇ⁉︎」
まことは肩をすくめ、みくるは苦笑い。ポチタンも冷や汗を掻いて、これまで類をみない焦り。ポチタンは動じてはいるが、それでも尚ポーチのフリをし続けて保ったまま。まだ、怪しまれてはいない。
「だ、ダメです! 友達ですから!」
「星明かりのプリンセスはあーた達に任せますから」
「ポチタンは譲れませんが、星明かりのプリンセスは任せて下さい!」
「そうですか。ですが、ポーチを譲る気になったらいつでもお声をお掛け下さーい!」
まことは軽く溜め息を吐いて、あんなに耳打ちをする。
「宝生さんと星明かりのプリンセスは一旦任せる。俺は一足先に館内を見て回る」
「うん、じゃあまた後で合流しよっか!」
「悪いな。いつも面倒ばかり押し付けて」
「ううん。わたし達だって、まこと君に頼りっきりな所もあるから気にしないで。寧ろ、沢山頼ってくれてわたしは嬉しいよ」
みくるも軽く手を振っている。彼女も、まことの事を信頼して別行動するのに賛同してくれている。2人に見送られながら、まことは1人自由行動するのだった。
◯
外を見渡せば報道陣でいっぱい。館内を見れば、至る所に監視カメラが設置されており、それだけで厳重なセキュリティだというのが見て取れる。
「けど、うーん……」
怪盗団ファントムは恐らく、この監視網を軽々と潜り抜けてくるのは間違いだろう。けれどどうやって侵入してくるのか。そこが謎だ。
宝生美術館に入る為の出入り口は一つしかない。しかしそこでは、厳しい荷物検査等があり、いくら変装が得意としているファントムでさえもわざわざ見つかるリスクを高めてまで正面から来るとは思えない。仮に裏からの侵入したとしても、館内と同様監視カメラが無数に設置されており、当然ながら警備の人もその場所に配置されている。
「外からの侵入はほぼ不可能とみた。他の可能性があるとするならば」
浅く考えても、深く考えてもこれしか思い付かない。
「内部犯という線が濃いか……っと!」
足元を見ながら考え、歩いていると曲がり角で1人の少女とぶつかってしまった。お互いに一歩後ろに引き、踏ん張った。
「悪い、怪我は無いか?」
目の前に居る少女は黒を基調とした服を着て、大きな紫のぬいぐるみを抱えていた。まことより若干背が高く、子供にしてはあまりにも大人びている。クールで物静か、というのが最初の印象と言うべきか。
「えぇ。貴方は貴方で、何か考えごとしてたように見えたけど」
「俺、こう見えてキュアット探偵事務所の探偵なんだ。今回のファントム騒動で駆け付けたって訳よ」
「それで考えごとね。感心するわ。でも、もっと周囲に気を配らないと足元をすくわれるわよ?」
先程ぶつかってしまった事を根に持っているのだろうか。皮肉めいた言い方に、まことは反論出来ず萎縮してしまう。しかし、言葉に全く棘のようなものは感じない。あくまで忠告、ということに留めておこう。
「に、にしてもあのネックレス人気だよな。まあ、今回の騒動も含めてだと思うけど」
「それだけじゃない。騒動になる前から人気だった。何が惹きつけるか、案外分からないものね」
(奇妙な人だ)
様々な視点から物事を観察して、それを読み取っている。彼女から、自分と同じ臭いがする。ただ、それがどういったものかまだ定かではないが。
「謎解きは楽しい?」
「えっ、あー、まあ楽しいけど」
唐突な質問に一瞬挙動がおかしくなってしまう。何気無い内容故、改めて訊かれると自分でも考えてしまっていた。そんな質問で、まことはある思いを打ち明ける。
「解けた時の爽快感は勿論だけど、そこに至るまでの過程も楽しいんだよ。なんというか、謎を通じて相手と会話しているような。ま、探偵だから犯人と対話ってのもおかしな話だが」
「……フッ」
少女が笑みを浮かべた。
「ごめんなさい。昔の事を思い出して、つい」
「昔のこと?」
「ええ。貴方みたいに謎解きが大好きな、小さな少年の事を」
「へぇー、その子と気が合いそうだな。今もその子は謎解きが好きなのか?」
「好き、みたい。ただもう、その子には最近会えてないけど」
「遠くに引っ越しでもしたのか?」
思い出に花を咲かせていた少女の表情が曇る。目を伏せたまま、小さく語る。
「そんなものよ。でも、あの子はいつだってわたしのすぐ傍にいるけ。だけど、会いたくても余りにも遠くて会えない。近くて遠い、目の前に居るのに手を伸ばしても届かない。そんな場所に
まことは少し混乱していた。言っている意味はなんとなく分かるものの、会話の内容がイマイチ頭に入って来ない。近くて遠い場所に居る。まるで謎解きだ。
「あの頃は楽しかった」
「だったらさ、会いに行けば良いんじゃね?」
「えっ?」
「ただじっとしているだけじゃ変わらない。自分から会いに行ってみるのも良いと俺は思うよ」
面を食らった様子の少女。俯き、考えている。そして数秒経って儚げな表情で言った。
「いいの。もう忘れてる」
「決め付けちゃダメ」
「決め付けちゃダメ?」
「受け売りの言葉だけどな。やりもしないで諦めるのは勿体ないだろ? 相手の人だって、きっとアンタと同じ気持ちかも知れないし」
その言葉を受け、少女は何故か強くぬいぐるみを抱き締める。それに込められている意味は分からない。でも、良くも悪くも何か思うところはあったのは確かだ。
会話が一度区切りがついた矢先、視界の端にあんなとみくるの姿を視認した。
「そろそろ行かないとな。話せて良かったよ」
「わたしも」
まことが背中を見せると、少女は小さく呟く。
「頑張れ、わたしだけの名探偵」
少女もまた、背中を見せてお互い別々の方向へと歩き出した。
◯
時刻は夜を回り、予告時間まで迫っていた。美術館も閉店時間をとうに超えており、館内に居るのは関係者のみ。星明かりのプリンセスがある展示室には、当然警備が配備されている。更に星明かりのプリンセスは認証システムが備え付けられているショーケースで管理されている為、オーナーである宝生以外取り出すのは不可能。
この布陣をどう突破して盗み出すのか。
「いよいよだね」
「さて、どんな風に盗み出すのか。お手並み拝見だな」
怪盗団ファントムとの真正面からのぶつかり合い。あんなは心なしか、昂る気持ちを抑えられずにいる。感化されてか、まことも正直楽しみにしている。
「盗まれたんじゃ意味無いでしょう……」
みくるの的確なツッコミに2人は苦笑いを浮かべる。彼女は、ジュエルキュアウォッチで時間を確認する。只今の時間は8時59分。秒針は10を指しており、予告の時間まで10秒を切っている。
みくるが分かりやすく、口に出してカウントダウンを始める。
「3、2、1」
「フッ、0──」
みくるではない、誰かの声がした。途端に視界が暗転。館内全体の電気が落ち、闇に包まれる。
これは一体何だと事態の把握を急ぐものもいれば、冷静に対処しようとするものもいる。
「停電⁉︎」
「今すぐ明かりを!」
ものの数秒で、非常電源で館内の電気は復帰する。これで一安心と思えた束の間、ショーケースに怪盗団ファントムのマークが記された1枚のカードが貼り付けられていた。
あんながすぐさまカードを手に取った。
「怪盗団ファントム参上。星明かりのプリンセスはすり替えられた偽物。あしからず」
「な、なんですって⁉︎」
宝生は慌てて認証システムを作動させ、星明かりのプリンセスが本当に偽物とすり替えられているのか確認する。しかしそこで、みくるがハッとした。
「ダメ、罠です! 偽物だと思わせて、中身を確認させる! 恐らくまだ本物!」
みくるの静止も虚しくシステムは既に作動してしまい、止める事が出来ない。
そして、1人の女性警備員がショーケースの前に躍り出る。
「その通り。鍵を開けた瞬間、中身を頂く。古典的なトリック」
システムのロックが解除されるのと同時に、女性は煙幕を焚いて展示室に居る全員の視界を眩ませた。
「「ッ⁉︎」」
その中であんなとみくるはその目で見た。星明かりのプリンセスが無くなっている事に。
「急いで追い掛けなきゃ!」
展示室から飛び出し、先程の女性を追う。だが、あんなは足を止めた。
「そういえばまこと君は?」
いつの間にか彼の姿は何処にも見当たらなかった。いつもなら、一目散に犯人を追い掛けるであろう筈なのに。
「……もしかて、先回りしたのかも」
「先回り?」
「あんな、ついて来て!」
何か心当たりがある様子。みくるに連れられて、あんなはポチタンを抱えながら頑張って走り出すのだった。
さて、今回から本格的に参戦したもう1人の子。