名探偵プリキュア! The End of Truth 作:シロX
いつも通りのまことみらい市を駆け足で急ぐまこと。その手には、パティスリーチュチュのお持ち帰り箱を片手に一滴の汗を垂らす姿があった。
中にあるケーキが崩れないよう慎重にする矢先で、ブレーキを掛けて歩みを止めた。
正面、目の前に居る黒の衣装に身を包ませる少女に凝視しながら口を開けた。
「急いでるんだ。そこを退いてくれると助かる──キュアアルカナ・シャドウ」
妖精であるマシュタンを離し、片手にあるティアアルカナロッドをまことに突き付ける。
それは、戦闘開始の合図でもあった。
まことが先を急ぐ理由はマコトジュエルにある。先程、みくるから怪盗団ファントムの出現と同時にマコトジュエルを盗まれたと連絡が入ったのだ。
急いで合流しようとしところ、このような形で遭遇したのだ。
「普通、マコトジュエルのある方に出向くと思うんだけどな」
「わたしも最初はそう思った。けど、こっちにも事情があるの。都合上、貴方の足止めが最適解と判断したまで」
「仕方ない。やるか」
まことは、トゥルースキュアブックを開き、ゆっくりと歩きながらマコトジュエルをセットしてその身を光に包ませる。
「真実の名の下に、謎を解き明かそう」
キュアトゥルースに変身。そして、余裕を持っていた歩みは徐々に歩幅が大きくなり、速度もそれに伴って速くなる。トゥルースの歩行は駆け足となり、アスファルトの地面を強く蹴り付ける。
「「──ッ!」」
拳とティアアルカナロッドが交差し、両者激しく火花を散らして激突した。
「この前より力つえーじゃん。やる気満々だな」
「言ったでしょ? こっちにも事情があるって」
「前みたいに教えてくれは?」
「あげない」
「ちぇー、ケチだな」
唇を尖らせて不貞腐れるトゥルース。そのまま力を抜き、視線を外す。
そして──。
「──ッ‼︎」
目を見張るストップ&ゴー。急激な緩急には、流石のアルカナ・シャドウも一瞬反応が遅れる。が、しかし、持ち前の洞察力とセンスで食らいついて来た。
(マジかこの人!)
悟られないよう視線誘導までした。騙されないとなると、彼女は注意深くこちらの事を観察している。それもかなり。
それでも、小細工が通用するとは思ってはいない。なら、突破する方法は最初からあったのだ。
単純明快。それは。
「正面突破しかないな」
切り返し。拳、肘、脚とフェイントを織り交ぜて戦いを組み立て、攻めの一手で連打を繰り出す。
手数で攻めている。なのに、全てティアアルカナロッドで捌き切っている。
杖の先端を突きつけられ、光弾を放とうとする間際トゥルースは叩き落とし、踏み付け、一時的にティアアルカナロッドを封じて拳を振り上げた。
一撃で意識を狩り取る。
「──アイスのように甘いわ」
瞬間、撃ち放とうとしていた光弾が爆発する。いや、わざとそうさせた。
その衝撃でトゥルースは宙に一回転して背中から落下する。
攻撃の主軸となるティアアルカナロッドを封じてくることくらい、アルカナ・シャドウからすればお見通し、相手がする事に対し、幾つかの対策を講じてくるのは当然だ。
杖の先端が光る。更に追撃が来る。
「クソッ! こうなったら──オープン! ミスティックマント!」
すぐさま立ち上がり、防御する為のプリキットを展開させる。ミスティックマントを杖の先端にグルグルと巻き付け、無理矢理防ぎ切る。
「これでもう使えないだろ」
飛び道具は封じ、近接戦闘に持ち込む事に成功した。これならば、幾分かの勝機は存在する。力押しで攻めるのみ。
「まさか、ここまでとはね」
観念したのか、アルカナ・シャドウはロッドを下げる。敵意が無くなったのか。そう思い、肩の力を抜く。
それが間違いだと気付かず。
「ガッ──⁉︎」
ほんの瞬きだ。その刹那の間でティアアルカナロッドでトゥルースの顎を跳ね上げる。続けざまに足を払い、左肩を打ち付け、胸部を蹴り飛ばす。
吹き飛びながらも体勢を整え、勢いを殺して踏ん張った。
「今の」
息も絶え絶え。深く深呼吸して、先程の一連の連撃について妙な違和感をを感じた。どこか親近感のある。そんな朧げな感覚。
「どうしたの? 武器を持たない相手にも負けるの?」
「まさか」
冗談は言うなよ、と鼻で笑う。
とはいえ、想定より相手の力を見誤っていたのは確かだ。あのティアアルカナロッドさえ封じればそれで終わりだと。
「今度こそ!」
地面を蹴り、勢いを乗せた左拳がアルカナ・シャドウに突き刺さすもティアアルカナロッドがそれを阻んだ。
弾き、相手の隙を突いて蹴り、肘と打ち込んでいく。時には押し込み、無理矢理組み伏せるもスルリと抜け出して一進一退の攻防が繰り広げれる。
「が──ッ⁉︎」
ティアアルカナロッドで顔を殴打してくると見せ掛け、手元で巧みに持ち替える事でタイミングをズラし、ヒットさせる。
(今ので確信した! この子、俺と同じ!)
今の攻撃で体勢が崩れ落ち、尻餅を突いてしまう。起き上がろうと顔を上げると、杖の先端を喉元に突き付けられていた。
「はぁ……はぁ……」
一向にトドメをさそうとしない。それがあまりにも不可解に思える。何が狙いで硬直しているのか。
「何で止める必要がある?」
「止めてないわ。これは単なる脅しと忠告。今の貴方程度、わたしでも倒せるってこと」
つまり、ここで抵抗して逃げ切れたとしても次もまたこの状況になる。
そう易々とやられる訳ないと言いたいが、この惨状からも相当な自信があるとみる。
「ひとつ質問いいか?」
「マコトジュエルを渡す代わりに、あの子達の元に行かせて、なんてお願いなら──」
「そうじゃねぇ。アンタのその動きを直接見て妙な違和感を感じたんだよ。美術館の時はもっと蝶でも見ているかのような華やかさがあった」
でも。
「なのに、今日はやけに人を真似てるみたいな動きに思えてな」
「……気のせいよ」
「当ててやろうか? どうして俺の真似なんてしてるんだ?」
両者の間に冷たい風が吹き抜ける。アルカナ・シャドウは僅かに視線を下げ、目を合わせようともしない。見守るマシュタンは、彼女がどう口にするのか落ち着かない様子。
「単なる気まぐれよ。サプライズ、なーんてね」
両手を広げて、クスリと小さく微笑む。気の抜ける回答だ。マシュタンも困っている様子を見るに、真偽すら図れない。なら、その受け答えをそのまま胸に受け取ろう。
どうせ、彼女は何も答えてはくれないのだから。
(流石に時間を掛け過ぎた。そろそろ合流しないと……あっ)
いかにして出し抜くか頭の中で試行錯誤していると、遠くから天にまで届く光の柱を目にする。見覚えがある。あれは、フライング・スペクトルの光に違いない。
だとすると、アンサーとミスティックはハンニンダーを浄化し、マコトジュエルを取り返しただろう。
これで一気に肩の力が抜けた。
「どうやら、今回も俺達の勝ちのようだな」
「……より面倒になった」
その発言と同時にアルカナ・シャドウは、杖に巻き付かれてあるミスティックマントを引き剥がしてはトゥルースに投げ返した。
「返すなんて律儀だな」
「勘違いしないで。貴方を足止めして、ニジーがマコトジュエルを回収する手筈だったのに。それが失敗した今、貴方にはそれ相応に動いてもらわないと困るの」
「さっきから何の話してんだ?」
少女は浅い溜め息を吐いてこう言った。
「──ウソノワールが来る」
ウソノワール。度々耳にした事のある名前。それもその筈、ウソノワールこそ怪盗団ファントムの親玉でマコトジュエルを狙う輩。
「そっちのボスだろ。来ちゃ悪いのか?」
「かなりね」
「ウソノワールが暴れれば、たちまち世界は崩壊するのよ」
アルカナ・シャドウの応答に、マシュタンも相槌を打ち、より話の信憑性を際立たせる。
「退いてくれるって解釈でいいのか?」
「そんなところね。わたし達も、世界が壊れてしまったら元も子もないから」
アルカナ・シャドウは少し身を引き「共に来い」と言わんばかりに顎で促している。
正直、展開が急過ぎて何が何だか不明瞭な部分がある。しかし、今はそんな事を悠長に推理している時間はない。もし、本当にウソノワールがこの地にやって来るというのなら。
「付いてきて」
「アルカナの足手纏いにならないようにね」
「まるで猫だな」
その時その時でコロコロ態度が変わる気分屋の彼女らを見て、トゥルースはそう悪態に近い言葉を溢す。
追い掛ける最中で、初めてアルカナ・シャドウの背中をちゃんと見た。じっくりと観察。そしてその大きさを実感する。経験から何から何までその背中が、自分達よりも高い位置にいる事に改めて思い知らされる。
けれど同時に他の感情も読み取れてしまった。
哀愁のような、使命感に駆られているような。そんな重圧に耐えている背中を。
いきなり戦闘からという、割と珍しい始まり方でした