あゝ、誉れ高き悪役貴族よ   作:shikib

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初投稿です
見切り発車です


第一部 悪役貴族編
一話 イヴァン・アージェント


「望みを言え、クソガキ」

 

 カビと埃と古本と……長い年月を感じさせる匂いが鼻腔をくすぐる。

 

 薄暗く狭い部屋の中、床一面に描かれた魔法陣の中央に鎮座するなんだか西部劇にでも出てきそうな動物の頭蓋骨がカタカタと揺れていた。

 

 

 俺は。

 

 このシーンを知っている。

 

 

『イノセントシーカー』というゲームがある。

 きっとほとんどの人が聞いたこともないだろう。個人開発のインディーゲームだ、無理もない。

 

 一時期はクラウドファンディングもやってたから、本当に知る人ぞ知る名作というやつだ。

 

 王道を外さないRPGでありながら、世界観の作り込みと重厚なストーリーにいい歳してのめり込んだのを覚えている。

 

 その中で、俺が最も入れ込んだのはイヴァン・アージェントというキャラクター…………端的に言えば悪役貴族だ。

 

 別に主人公が嫌いだったわけじゃない。

 勇敢で、優しく、誰よりも正しくあろうとした主人公も、個性的で魅力的なヒロインたちも、間違いなくこの作品の見どころではある。

 

 それでも俺は………絵に描いたような悪役貴族のイヴァンという男に憧れた。

 

 誰にも理解されず、それでも高潔であり続けたその精神を美しいと思ったのだ。

 

 彼は、物語の中盤で死んでしまう。

 いわゆる中ボスというやつだ。

 

 その死に様は見事のひと言に尽きるが、結局彼を看取ったのは主人公ただ一人であり、彼の功績を認めたのも主人公だけだった。

 

 何か一つ、きっかけがあればイヴァンが英雄として讃えられる結末もあったはずだ。

 そんな男が、あんな終わり方でいいはずがない。

 

 ……こういう気持ちを推しというのかも。

 

 

 もう少しイノセントシーカーのストーリーを解説しておこう。

 この世界、割と頻繁に滅亡しかけて主人公がそれの対処にあたるのだが、まあ大体裏で悪魔が糸を引いている。

 三部構成のラストは魔界に突っ込んで魔王凸なので、実質真のラスボスと言ってもいい。

 

 そして、イヴァンは悪魔と契約している。

 ………少年期のイヴァンくんはとにかく早く強くなることに躍起になってたんだ、うん……。

 

 その契約内容が無尽蔵の魔力と引き換えに周囲から孤立する呪いなのだから救えない。

 悪役街道まっしぐらである。

 

 

 さて、話を戻そう。

 

 今俺の目の前に広がる景色は、そんなイヴァン少年が悪魔契約する過去回想編に出てきたCGと瓜二つだ。

 

 何度も、何度も、結末を認められなくて、それでもイヴァンがかっこよくて、周回したから覚えている。

 

 よくわからない破片、頼りなく室内を照らすロウソク、乱雑に開かれた謎言語の本、そして魔法陣、骨。

 

 何より壁面に飾られている、特徴的な意匠の見るからに高そうな大盾。

 

 レイアウトが記憶とぴたりとはまる。

 

 どうやら俺は、悪役貴族イヴァン・アージェントとしてイノセントシーカーの世界に転生してしまったらしい。

 

 となると、やることは一つ。

 悪として、貴族としてしか生きられなかった孤独の英雄。イヴァン・アージェントの生き様を、この世界に認めさせてやる。

 

 もう決して、あんなさみしい結末は迎えさせない。

 

 

 ……順応早すぎって?

 

 一時期イヴァンの生存ifとか妄想して自認イヴァンやってたから……………へへ…えへ。

 

 あまり触れないでもらえると助かる。

 

「……我を無視して一人考え事か?いいご身分だな、ん?」

 

 目の前の骨が発する圧力が一気に増した。

 

 否応なしに思考が現実へ引き戻される、それほどの圧。割と鮮度高めの黒歴史で脳を焼かれている場合ではない。

 今の俺はイヴァン。俺が憧れた男だ。

 

 下手な振る舞いは許されない。

 

「非礼を詫びます、大いなる闇の眷属よ。貴方ほどの魔が召喚に応じてくれるとは考えていなかったため、少々惚けてしまいました」

 

 くつくつ、と骨が揺れる。

 骨の表情が動くわけでもないので感覚にはなるが……嗤っている、のだろうか。

 

「ほう?我を知っているか」

 

「書物にて貴方に関する記述をいくつか。《闇は降り、大地は死に絶えた》………でしたか」

 

 コツコツ、今度はさっきよりも高く骨が鳴く。

 なんとなく、機嫌が良さそうに見えた。部屋を満たしていた肌を刺すような空気がわずかに和らぐ。

 

「よい、よい。賢いガキは嫌いじゃない。クソガキから小僧に格上げしてやろう」

 

 一応頭を下げておく。

 今回はなんとかなったからいいが、一瞬考え事したくらいでこのアドリブ量求められるのやばすぎん?

 

 原作ブレイクする予定なんだけど大丈夫そ……?

 

「仕切り直しだ」

 

 骨が、虚ろな眼窩でこちらを見つめている。

 

「我を知り、我を呼び出した命知らずの小僧よ。望みを聴こうか」

 

 ここで、望みをつげなければ。

 適当な事を言って、この底意地の悪いクソ悪魔にお帰り願えば。

 

 ……もしかしたら、イヴァンは悪役にならずに済むのかもしれない。

 

 一瞬、そんな思考が頭をよぎる。

 一瞬だけ、な。

 

(俺が憧れたイヴァンは、こんなところで日和らない)

 

 そもそも、原作におけるイヴァンの強さはこの悪魔契約によるものが大きい。

 そして、そんなイヴァンが死に際に力を託し、覚醒した主人公が世界を救うのが原作シナリオだ。

 

 確かにここで契約をしなければ、呪いをかけられることもないし主人公に討伐されることもないだろう。

 

 かわりに世界が滅ぶだけだ。

 

 ここの契約は、マスト。

 原作通りに死んでやるつもりは毛頭ないが。

 

 ゆえに、俺はゲームと全く同じセリフをなぞる。

 

「力が欲しい」

 

 興奮やら恐怖やらで震えそうになる体を押さえつけながら。

 

「すべてを救える力を」

 

 骨は楽しそうにゆらり、ゆらり、と揺れている。

 

「大きすぎる願いは身を滅ぼすぞ、小僧。貴様に代価が払えるか」

 

 答えは決まっている。

 

「俺に払えるものなら、なんでも」

 

 骨が、確かにニタリと笑った。

 いやらしく目を細めて、笑っていた。

 

「貴様は一人だ。この先も、ずっと、ずっと、一人で、孤独に、戦って、戦って、戦って、死ぬ。一人で、死ぬ」

 

 くるりくるりと、骨は愉快そうに宙を舞う。

 

「そして、世界を救うのだ。その手で届くあまねくすべてを!」

 

 骨が急に止まって、床に落ちる。

 

 得体のしれないナニカが、自分の体のなかに染み込んで、混ざり合ったような気がした。

 

(特等席で見せてもらうぞ、小僧。精々我を興じさせてみせよ)

 

 いつの間にか、魔法陣の光は消えていた。

 

 やらないといけないことは山積みだ。まあ、ひとまずはこの埃臭い部屋から退散するとしよう。

 この部屋は、原作だとこれ以降登場しなかったんだっけか。

 

 ふと、壁にかかった大盾《エリュシオン》が目にとまった。

 原作だと度々話題に出るくせにアイテムとして使えない、没データの類いではないかと言われていたが………。

 

 

 案外、すぐここに戻ってくることになるかもしれないな。

 

 俺はこの先、何があろうと全力で悪役貴族イヴァン・アージェントを遂行する。

 

 物語は、まだ始まってすらいない。




週に2話目安で書く予定です
拙作ですが、良ければ感想、評価、応援よろしくお願いします
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