あゝ、誉れ高き悪役貴族よ   作:shikib

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二話 にぃ

 イヴァン生存ルート開拓!と息巻いてみたはいいものの。

 

(わりと詰んでるんだよなあ……)

 

 孤立の呪いはかなり強力である。

 どこへ行っても何をやっても敵を作る。好感度はビタイチ上がらないし、何より世界全てに作用するだけの範囲の広さが異常だ。

 

 制作陣も抜け道くらい用意しとけよな。

 

 絶対スタッフの中にイヴァン絶許マンがいる。

 よく考えたら明らかに一人だけ優遇されてるキャラがいた気がする。

 

 公式なら何してもいいってのか!

 まあいいんだけど。

 

 

 ぐだぐだと考えながら歩いていたら、いつの間にか地下室からイヴァンの自室まで戻ってきていたようだ。

 

 ゲームで大まかにはマップ情報を把握しているとはいえ、俺にとっては初めてのアージェント邸。

 

 ここまで一切迷うことなく来れたのは、体の持ち主であるイヴァンよ記憶によるものだろう、と思う。

 

 

 道中軽く魔法を使ってみたら自然に感覚が掴めたし、少なくともこれまでできていたことができなくてボロが出る、なんてことにはならなそうだ。

 

 肝心の孤立の呪いの対処法は完全にお手上げ状態だが。

 

 

 主人公くんは最終的に呪いを超えてイヴァンを認めていたし、どうにもできないものじゃないと思うんだけどな。

 

 

 部屋にはいると、控えていたメイドさんがアレコレと世話を焼こうとしてきたので軽く礼を言ってほかの仕事を優先するように言っておいた。

 

 今は一人で考えたい気分である。

 

 

 単純にいい人になれば多少は呪いがあっても印象が変わるかもしれないが、原作イヴァンに憧れを抱くいちオタクとしてあまりキャラを改変したくはない。

 というかもはやそれはイヴァン生存ルートではなく原作改変オリ主ルートである。モチベがわかない。

 

 いや、命とか世界とかかかってるのにそんなん言ってる場合じゃないのはわかっている。

 最終的にはそれもやむなしではあるのだが………。

 

(できることからやってくしかないか)

 

 イヴァンのイメージから大きく離れない範囲で、人に優しく、気を遣って、空気を読んで過ごしていこう。

 

 

 原作ブレイクで生じるイレギュラーなんてどうせ予想できないので力でねじ伏せるスタイルで。

 

 そうなると原作以上にイヴァンを強くする必要がある。

 魔法の修練に、ある程度肉体も鍛えておいたほうがいいかもしれない。

 ありえんレベルで強くなれば原作と同じルートに入ってもなんとか生き残れるかもしれん。

 

 現在のイヴァンの年齢は記憶によれば12歳。

 原作ストーリー開始までは3年ほどの猶予があるはずだ。

 

 ま、なんとかなるだろ。

 一番心配なのは嫌われてるのがわかってる相手に話しかけて受ける精神ダメージである。

 

 ふーむ。

 

 

 ☆

 

 

 その日、アージェント家のメイドコミュニティに激震走る。

 

 傍若無人にして邪智暴虐、その選民思想は雲を破るがごとく、人に命じて動かざるは大地のごとし。

 貴族の悪いところを煮詰めたようなクソガ………わがままお坊ちゃま、イヴァン・アージェントが。

 

 曰く、平民出のメイドに、お礼を述べて。

 

 あまつさえ自分には不要だとほかの業務に充てて。

 

 果てはあれだけ俺は天才だからといってサボり散らかしていた魔術と剣術の訓練を始めたのだ、と。

 

 それはやがて、口伝いにイヴァンの二人の妹の耳に入る。

 

(………へえ?)

(また、いつものやつ。三日で飽きてやめる)

 

 かたや兄のわずかな変化に興味を抱き、かたや兄が変わるわけはないと諦観を抱く。

 

 原作において主人公と共にイヴァンを追い詰めることになる彼女たちも、今は開花する前の蕾、才能の原石だ。

 

 それでもなお、姉妹は兄であるイヴァンより強かった。

 10年に一度の才と讃えられた男は、100年に一度の才能二人にあっけなく追い抜かれた。

 

 イヴァンが腐るのも無理はない話だ。

 周りの大人達が、一斉に手のひらを返す。

 天国から地獄。

 

 この落差は10歳そこらの少年には恐怖でしかなかっただろう。

 その焦燥感と劣等感、アージェント家たるもの強壮たれという強迫観念は、彼をリスク度外視の禁じられた儀式へと駆り立てた。

 

 まあ、そんなことは一旦置いといて。

 

 

 ここで注目すべきは、今この瞬間、わずかではあれどイヴァンへの好感度上昇が発生した点にある。

 

 実際にイヴァンの変化を目の当たりにした専属メイドと、幼い頃憧れた兄に昔のように戻ってほしいと密かに案じていた妹たち。

 彼女たちは困惑、疑念はあれどもしかしたらという思いを抱いていた。

 

 孤立の呪いを抱えているイヴァンに対して、だ。

 

 これは大きな矛盾である。

 

 

 ………いや、実際は矛盾なんて発生していない。

 だって、孤立の呪いにそこまで強力な効果なんてないのだから。

 

 イノセントシーカーはRPGだ。

 イヴァンという、作中では中ボスのポジションの男に、細かな日常パートや人格の掘り下げがあると思うか?

 

 答えは否、である。 

 

 しかし、イノセントシーカーの一ファンであった男──今はイヴァンに転生した男は自分の大好きなキャラであるイヴァンの行間を読みまくった。

 

 イヴァンと主人公の最期のやり取り、いくつかのセリフから盛りに盛りまくって作り出したイヴァン像。

 

 そして、そんなイヴァンがここまで孤立するのは全て呪いのせいだという先入観、思い込み。

 

 そんな彼の妄想と現実との間には、マリアナ海溝より深い溝があった。

 

 そもそも、大悪魔の性格からしてそんなバッドエンド確定演出をやらかすはずがないのだが……。

 

 

 一人イノセントシーカーの世界に転生した男には、もはやそれらを知る術はなく。

 その盛大な勘違いを正してやれるものもいるわけがなく。

 

 彼は呪いの克服のために多くの人と関わりを持つことになるだろう。

 

 魔の抜けてる割にやたら豊富な原作知識をもって、バッドエンドの回避のために力を蓄えるだろう。

 

 その過程で、呪いの好感度マイナス補正を超えてイヴァンに感謝する人間、好意を抱く人間もいるはずだ。

 

 呪いを絶対のものだと思い込んでいる彼が、それらを言葉通りに受け取ることはないだろうが。

 

 

 これは、一人の男が苦境に立ち向かうシリアスで陰惨なストーリー。

 

 …………なんてものでは断じてなく。

 

 ただ無自覚系主人公がわちゃわちゃするだけの、そんなお話だ。

 

 

 

 

 ✩

 

 

「にぃ………♡」

 

「あにさまー♪」

 

 ええ……。

 なぁにこれぇ。

 




公式(主人公)が勝手に言ってるだけ。


あと完全に私情で申し訳ないんですが、最近あまり時間が取れなくて週1くらいになりそうです。
気長にお待ちください。
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