『完結』コードギアスIF ロストカラーズ   作:ベイベ後藤

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10話 虚構の祭典

 

行政特区日本、完成記念式典前夜。

トウキョウ租界外縁に位置する「特派」のハンガーは、深夜にもかかわらず高周波の駆動音と溶接の火花が散っていた。

明日に控えたパレードは、特区の平和を世界に誇示するための重要なステージとなる。

 

「はーい、二人とも! 準備はいいかな? 今日は特区のパレード……の前に、君たちの『新しい恋人』を紹介するよ!」

 

ロイドさんの突き抜けた声が、高い天井に響き渡る。

僕とスザクの目の前には、整備用のクレーンに吊るされた二機の白い鬼神がいた。その一機、スザクのランスロットの背部には、以前の試作型とは明らかに造形が異なる洗練されたシルエットの翼が装着されていた。

 

「ロイドさん、これが……?」

 

スザクが、その機体を見上げて息を呑む。

セシルさんがタブレットを片手に誇らしげに補足した。

 

「ええ。正式名称は『フロートユニット』。これを装備した状態を、ランスロット・エアキャヴァルリーと呼称するわ。

試作型で問題だったエネルギー消費効率を徹底的に見直し、さらにスザク君の超人的な反射神経をダイレクトに推力へと変換するよう調整してあるの」

 

「推力を……僕の神経に?」

 

「そうだよ、スザク君! 君の生存本能が強ければ強いほど、この翼は空の物理法則を書き換える。もう、地に足をつけて戦う時代は終わりさ!」

 

ロイドさんは不敵に笑い、スザクの肩を叩いた。スザクは真っ直ぐにその翼を見つめ、決意を新たにする。

あの日、ユーフェミアを守り抜くと誓った彼にとって、この翼は「守護」の象徴に見えているはずだ。

 

「……わかりました。これがあれば、ユフィが作ったこの平和を空からも守り抜くことができる」

 

そして、その隣。僕の機体、ランスロット・クラブもまた、静かな威圧感を放っていた。

 

「そして、ライ君。君の機体だけど……」

 

ロイドさんが眼鏡を光らせ、僕の機体に近づく。クラブの背部には、スザクのそれとは似て非なる、どこか「有機的」な脈動を感じさせるユニットが組み込まれていた。

 

「君の機体は、スザク君のような『反射』による加速じゃない。君がこれまでに見せた、あの空間把握能力……あれを機体と直結させるための特殊回路を組み込んでみたんだ。名付けて、ブレイズルミナス・シンクロナイザー」

 

「シンクロナイザー……。僕の『感覚』を機体が増幅する、ということですか?」

 

「その通り! 君が操縦桿を握った時、機体と君の脳波が同期するんだ。

君がスザク君の隣を飛ぶ時、二つの機体は一つの神経系で繋がったかのような連携を見せるはずさ」

 

セシルさんが少し心配そうに僕を見つめ、そっと手を握った。

 

「ライ君。このユニットは、あなたの脳への負担が未知数なの。あなたが戦場を『把握』しようとすればするほど機体は、あなたの意志に従うけれど……。もし、頭が痛むようなら、すぐに高度を下げて」

 

「……ありがとうございます、セシルさん。でも、大丈夫です。

僕は、この平和を守るための『力』を求めた。スザクが空を行くなら、僕がその隣を空けるわけにはいきませんから」

 

僕は、改良されたクラブの装甲に手を触れた。

(……たとえ、この体に負担が来ようとも)

あの日、僕がギアスで「書き換えた」平和。

数万人の記憶を封じ込め、強引に手繰り寄せた、この時間を守るためなら痛みなど代償としては安すぎる。

みんなと共に歩む未来のために。

 

「スザク。パレードの護衛、僕たちで完璧にこなそう」

 

「ああ。行こう、ライ。僕たちの新しい力で」

 

 

中継車の薄暗いコンソール・ルーム。

数十台のモニターが放つ青白い光が、ディートハルトの眼を無機質に反射していた。画面には、パレードを待つ数十万の群衆と、平和を謳歌する色とりどりの旗が映し出されている。

 

「……素晴らしい。これこそが、我々が目撃すべき『歴史の転換点』だ」

 

ディートハルトは、悦に浸るように呟いた。

彼にとって「行政特区日本」は、慈愛に満ちた皇女が作った平和の園などではない。それは、既存のブリタニアという巨大なシステムのバグを突いて生み出された「最高に刺激的な虚構の舞台」だった。

 

数ヶ月前、あの設立式典の現場。

ディートハルトのカメラは、ユーフェミア皇女殿下の登壇から、会場を埋め尽くす日本人たちの熱狂を捉えていた。

あの日、何かが起きるという「予感」はジャーナリストとしての彼の肌を確かに粟立たせていた。

 

「不可解な、空白……」

 

あの日、ユーフェミアがゼロに語らい、ゼロが答えた瞬間から、ユーフェミアが微笑みを湛えて握手に応じるまでの数分間。

現場にいたディートハルトの記憶も、放送機材の記録も、まるで「巧みな編集」を施されたかのように滑らかに繋がっている。

だが、映像のプロとしての勘が告げていた。あの日、あの場所で、何かが決定的に「変化」したのだと。

その空白の後に現れたライという少年の存在が、この「奇跡の特区」を支える楔であることを確信していた。

 

ディートハルトにとって特区という舞台は、ゼロという「演出家」による策謀の為の巨大なスタジオに過ぎない。

ブリタニアを内側から食い破るゼロの知略が、世界をこれまでのどの歴史書にもない新しい「神話」として紡ぎ出そうとしている。

 

「さあ、見せてくれ。用意されたこの平和という名の『嘘』が、どれほどの輝きを放つのか。……そして、その嘘が暴かれる瞬間、世界はどんな悲鳴を上げるのか!」

 

パレードが開始されトウキョウ租界は、かつてない熱狂に包まれていた。沿道を埋め尽くす人々の波。

ブリタニア人と日本人が隣り合い、等しくユーフェミア総督の馬車に歓声を送る。その光景は、ライがギアスで「書き換えた」平和が、この瞬間まで完璧に機能していることを示していた。

 

「……信じられない。本当に、こんな日が来るなんて」

 

上空、高度500フィートで静止するランスロット・エアキャヴァルリーのコックピット。

スザクは眼下に広がる景色を見て、震える声で呟いた。

その隣には、僕のランスロット・クラブが並んでいる。

 

「そうだね、スザク。……でも、これはまだ始まりだ」

 

僕の声は、機体のシンクロナイザーを通じてスザクの機体へ直接届く。

通信回線を開く必要さえない、脳波によるダイレクトなリンク。

僕たちの視界の端には、別働隊として地上を固める「黒の騎士団」の配置データが表示されていた。

ゼロ……ルルーシュ。

彼は今、この会場のどこかに潜み僕たちと同じ景色を見ているはずだ。

あの日、ユーフェミアと共に真実を共有し「共犯者」となった彼。スザクも、そして僕も。

みんなが未来を守るために、ここにいる。

 

「ライ。僕たちの新しい翼は、この光を守るためにある。……そうだろ?」

 

「ああ。……何が来ても、僕たちが跳ね返す」

 

僕は左目に走る微かな熱を感じながら、操縦桿を握り直した。

シンクロナイザーが周囲の空間情報を読み取り、僕の意識を空全体へと広げていく。

だが、その広大な認識領域の端に「ノイズ」が走った。

それは、どれほど高性能なセンサーでも捉えられない次元の裂け目から漏れ出すような不吉な脈動。

青く澄み渡った空に、一点のイレギュラーが滲み出した。

 

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