『完結』コードギアスIF ロストカラーズ   作:ベイベ後藤

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11話 歪んだ神罰

 

 

パレードの熱狂が、物理的な「沈黙」に飲み込まれた。

トウキョウ租界の上空、高度5000メートル。

突如として空間が陽炎のように歪み、そこから巨大な黄金の円盤――ジークフリートがその姿を現した。

 

「……っ、このプレッシャーは!」

 

スザクの悲鳴に近い声が、シンクロナイザーを通じて僕の脳内に突き刺さる。

レーダーには何の予兆もなかった。まるで、最初からそこに「在った」かのように、その怪物は物理法則を無視して出現したのだ。

 

「やあ。せっかくのパレード、少し色を添えに来たよ」

 

全通信回線を強制ジャックして響く、V.V.の幼くも冷酷な声。

直後、ジークフリートの機体下部から放たれたスラッシュハーケンが、意思を持つ蛇のようにうねりながら、地上のパレード会場へと急降下した。

 

「させない!」

 

僕は反射的にランスロット・クラブを急降下させ、そのハーケンの軌道を「視る」

シンクロナイザーが、ハーケンが切り裂く空気の断層を予測線として描き出す。

 

「スザク、3時方向の三本を叩け! 残りは僕がやる!」

 

「了解っ!」

 

スザクのランスロット・エアキャヴァルリーが、新型フロートユニットの出力を全開にする。

プラズマの翼が尾を引き、スザクは重力を無視した超高速機動で、落下するハーケンを空中で切り伏せていく。

僕はクラブのブレイズルミナスを「盾」ではなく「刃」として右腕に集中展開し、眼前に迫るハーケンを空間ごと断ち切った。

 

「あはは! さすがだね。でも、その新しい翼……どこまで持つかな?」

 

ジークフリートが独楽のように高速回転を始めた。

その巨体が嵐となり、僕たち二機を目がけて突っ込んでくる。

 

「スザク、回避するな! 突っ込むぞ!」

 

「えっ……ライ!?」

 

「僕が『道』を創る! 君は最高速度で僕の影を走れ!」

 

僕はジワリと締めつけられるような鈍い痛みを無視し、シンクロナイザーの出力を引き上げた。

視界が濁り、世界が数秒先の未来を映し出すグリッド線で埋め尽くされる。

回転するジークフリートの周囲に展開された強力な電磁障壁。その僅かな「周期の隙間」を見つけ出す。

 

「今だ!」

 

僕はクラブの推進力を全開にし、回転体へと肉薄した。

機体の左側に展開したブレイズルミナスをジークフリートの装甲に接触させ、火花を散らしながらその回転力を「利用」して、機体を加速させる。

 

「シンクロ率85%……行ける!」

 

僕のクラブがジークフリートの装甲を削りながら、弾丸となってその背後へと突き抜ける。

その直後、僕が切り拓いたスリップストリームを、スザクのエアキャヴァルリーが駆け抜けた。

 

「……捕らえた! ヴァリス、フルパワー!」

 

スザクが放った極大のエネルギー弾が、ジークフリートの底部ユニットを直撃した。

装甲が激しく火花を散らし、ジークフリートの巨体が初めて大きくよろめく。

 

「……やったか!?」

 

スザクが声を弾ませた瞬間、ジークフリートから放たれたのは、反撃の砲火ではなく、僕の精神を直接引き裂くような「ギアスの共鳴」だった。

 

ジークフリートは、あえて地上数千メートルから急降下を仕掛けてきた。

その巨大な質量が空気を切り裂く轟音が、パレードの歓声を絶叫へと変える。

 

「……っ、あ、あああああッ!!」

 

僕の視界が真っ赤に染まる。

こめかみを熱い鉄串で貫かれたような、凄まじい頭痛が脳を襲った。

シンクロナイザーが、ジークフリートが撒き散らす「未知の共鳴波」を過剰に拾い上げ、僕の神経系を直接逆なでしてくる。

 

「ライ! 落ち着け、地上の誘導は僕がやる! 君は……!」

 

「ダメだ、スザク……地上には、みんなが……!」

 

僕は痛みに震える手で操縦桿を握り締めた。

ジークフリートは独楽のように回転しながら地上に向けてスラッシュハーケンを射出する。その狙いは、ユーフェミアが乗る儀礼用馬車、そしてそれを取り囲む民衆だ。

 

「おや、守るものが多くて大変そうだね。でも、その『痛み』こそが君の選んだ平和の味だろう?」

 

V.V.の声が、通信機を介さず頭痛の脈動に合わせて脳内に響く。

 

「スザク、地上へは一本も通さない! 僕が『壁』を作る!」

 

僕はクラブのブレイズルミナスを機体前方ではなく、機体下部の広範囲に展開した。それはフロートユニットの出力を防御に回す、墜落の危険を伴う賭けだ。

 

「ライ、高度が下がりすぎている! 持ち直せ!」

 

スザクのエアキャヴァルリーが、僕の盾から漏れたハーケンを空中で切り伏せていく。

白き騎士が地上のすぐ上で舞い、黄金の蛇を切り裂く。その火花が民衆の頭上に降り注ぐ。

ディートハルトのカメラは、その「惨劇」を逃さず捉えていた。

 

「素晴らしい……! 平和の象徴が、自らを盾にして地獄を食い止めている!」

 

中継車の中でディートハルトが狂喜する中、僕の頭痛はついに「限界」を超えた。

 

頭痛とともに、脳裏に不確かな記憶がフラッシュバックする。

 

ジークフリートが放つ特殊な波動が、僕の脳内にある「忘却の檻」を物理的に揺さぶっている。

 

「ライ、どうしたんだ! 応答しろ!」

 

スザクの声が遠のく。

僕は激痛に悶えながら、モニターに映る民衆の姿を見た。

彼らは空を見上げて怯えている。

僕が守りたかった日常。

 

「……あ、あああああッ!!」

 

僕は叫びとともに、シンクロナイザーを逆流させた。

脳を焼く頭痛を、そのまま機体のエナジーへと変換する。

「拒絶」だ。

僕のクラブから放たれた目に見えない衝撃波が、ジークフリートの電磁障壁と激突し、周囲の空間を激しく歪ませた。

 

「……はぁ、はぁ……ッ! あああぁぁぁぁッ!!」

 

こめかみを杭で叩かれているような激痛。

シンクロナイザーを通じてジークフリートと「繋がって」しまった僕の脳には、機体のダメージデータだけでなく、V.V.の底知れない、言葉にならないものが流れ込んでくる。

 

地上のパレード会場は、パニックに包まれていた。だが、ユーフェミアは馬車の上に立ち、逃げ惑う民衆を必死に鼓舞し続けている。

(……みんなを守る。そのために、僕は……!)

 

「ライ! もういい、離れろ! 脳波が完全にオーバーヒートしている!」

 

スザクの叫び。けれど、僕は操縦桿を離さない。

ジークフリートの電磁障壁は無敵に近い。力任せの攻撃では、エアキャヴァルリーのヴァリスでも貫けない。

 

「スザク……聞け。僕が今から、あいつの障壁の『周波数』を無理やり書き換える……!」

 

「そんなこと、今の君じゃ――」

 

「やるんだ! ……僕が合図したら、迷わず最大出力で撃てッ!」

 

僕は叫びと、ともにシンクロナイザーを逆流させた。

脳を焼く頭痛そのものをエネルギーへと変換し、クラブの機体全身からブレイズルミナスの粒子を「霧」のように放出する。

それは空間そのものを僕の神経系に直結させる、狂気の術式だった。

 

「……あはは! 面白いね、命を燃やしてまでボクを拒絶するなんて!」

 

ジークフリートが再び高速回転を始め、僕を叩き潰そうと突進してくる。

だが、その瞬間。

僕が放出した粒子がジークフリートの電磁障壁に絡みつき、黄金の光が激しく明滅した。

 

「……捕らえたッ!!」

 

激痛が絶頂に達し、視界が白く飛ぶ。

だが、僕の「指先」は電磁障壁の一部が剥がれ、生身の装甲が露出した一点を、明確に捉えていた。

 

「今だ……スザクゥゥゥッ!!」

 

「行けぇぇぇぇッ!!」

 

僕の咆哮に合わせ、上空からスザクのランスロット・エアキャヴァルリーが急降下する。

フロートユニットの全出力をブーストに回し、大気を切り裂く白い閃光。

スザクはヴァリスを捨て、両手のMVSを一本の槍のように束ねて突き出した。

 

「これ以上、みんなの願いを汚させはしない!」

 

スザクの叫びとともに、白い騎士の刃が、僕がこじ開けたジークフリートの「隙間」へ深々と突き刺さった。

 

ドォォォォォォォォンッ!!

 

内部から爆ぜ、火花が雨のように特区の空へ降り注ぐ。

障壁を失ったジークフリートは制御を失い、断末魔のような金属音を立てながら、租界外縁の海岸線へと墜落していった。

 

「……はぁ、……はぁ……」

 

静寂が戻ったコックピットで、僕は荒い息を吐きながら、辛うじて意識を繋ぎ止めていた。

鼻から温かいものが流れるのを感じる。

頭痛は引いていない。だが、あの不吉な共鳴は消え、空には再び特区の青が戻っていた。

 

「ライ! ライ、返事をしてくれ!」

 

スザクの機体が、僕のクラブの傍らに寄り添う。

その時、地上から割れんばかりの歓声が響いてきた。

自分たちを守り抜いた二機の「白き騎士」へ向けられた、純粋な感謝と熱狂の渦。

 

ディートハルトのカメラは、夕陽に照らされ並び立つ二機のランスロットを、歴史上最も美しい構図で全世界に配信していた。

 

「……見たか。これが『新しい神話』の誕生だ」

 

中継車の中で呟く彼の言葉通り、この日、特区日本の平和は「確定」した。

僕たちが流した血と、僕が引き受けた激痛。その代償として偽りの平和は、より強固な「本物」へと姿を変えようとしていた。

 

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