『完結』コードギアスIF ロストカラーズ   作:ベイベ後藤

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12話 盤上のノイズ

 

トウキョウ租界パレード会場に、ほど近い雑居ビルの一室。

窓の外からは、ジークフリートを撃退した二機のランスロットへの止むことのない歓声が響いていた。だが、部屋の中に漂う空気は凍りつくほどに冷徹だった。

 

「……計算外だな。あの機体は、いったい何なのだ」

 

ルルーシュは、仮面を脱ぎ捨てモニターに映し出されたジークフリートの墜落地点を凝視していた。

彼の指先は、チェスの駒を弄ぶように卓上を叩く。

本来、ルルーシュにとって行政特区日本は、ブリタニアという巨大な壁に開けた「風穴」に過ぎなかったが、今やブリタニア本国すら無視できない巨大な「政治的正義」へと変貌している。

 

「しかし、この事態すら利用させてもらう。……ディートハルト!」

 

通信機を介し、中継車へ指示を飛ばす。

 

『はっ、ゼロ。最高の映像です。民衆は今、特区を『守られた聖地』だと信じ込んでいますよ』

 

「その熱を絶やすな。墜落した敵機を『ブリタニア内部の反逆者』として定義しろ。ユーフェミアの平和を妬む、旧態依然とした貴族主義者の末路だと吹聴するんだ。……わかるな?」

 

『仰せのままに。大衆に、より強固な『敵』と、より輝かしい『救世主』を与えましょう』

 

通信を切ったルルーシュの瞳に、複雑な色が混じる。

ライが見せる異質さ。そして、スザクとの不自然なまでのシンクロ。

それは、ルルーシュが計画していた「力による変革」の閾値を遥かに超えていた。

 

「ライ……。分からない事が多すぎる。

俺に、お前という駒を使い潰せと強いているのか?」

 

ルルーシュの呟きは、外の歓声に掻き消された。

 

一方、租界の喧騒から離れた日陰の路地。

C.C.は空に溶けていく黄金の火花を、ただ静かに見上げていた。

 

「共鳴しているな……。あの昔に起きた惨劇と同じ波長だ」

 

彼女は、自分の胸元に手を当てる。

ライがシンクロナイザーを通じてジークフリートに触れた瞬間、彼女の中にある「コード」もまた、微かに震えていた。

 

「V.V.あいつは、お前が隠したがっている『真実』に指をかけた。……忘却という、最も残酷で優しい嘘の上に築かれたこの平和…」

 

C.C.は、墜落地点……海岸線の彼方へと視線を向ける。

 

「ライ。お前が選んだ平和が本物になるか、それともただの夢に終わるか。……勝負は、これからだ」

 

彼女の姿が、夕闇の中に溶けるように消えていく。

それは、地上の英雄たちが受ける祝杯とは無縁の孤独な観測者の足取りだった。

 

特派の医務室。

窓外の熱狂から隔絶されたこの部屋には、規則的な電子音だけが冷ややかに響いていた。

ベッドに横たわるライは、激闘が嘘のように静かに眠っている。

セシルがライのバイタルを再確認し、安堵の溜息をつくが、その背後で端末に向き合うロイドの表情には、いつもの道化じみた余裕はなかった。

 

「……おかしいね。何度シミュレートしても、計算が合わない。セシル君、この『円盤』のデータ、どう思う?」

 

ロイドが投影した空中戦のログ。そこには、ジークフリートが描いた常軌を逸した機動データが赤い線で表示されていた。

 

「あり得ません、ロイドさん。この加速、そして急停止……パイロットにかかるGの負担以前に、機体フレームが慣性制御の限界を無視しています。それにこの推進系、フロートシステムとも、サザーランド等の電磁噴流とも異なる、理論上の『重力干渉』に近い波形を観測しています」

 

セシルがタブレットを操作し、ジークフリートの推定スペックを既存のブリタニア製KMFと比較する。

 

「私たちのランスロット……第七世代は、ランドスピナーによる二次元機動から、フロートによる三次元機動への進化の到達点です。でも、これは違う。別の庭から突然現れたような……『非KMF的』な思想です。」

 

「そうだねぇ。別の観点から作られたものじゃないかな」

 

ロイドが自嘲気味に笑い、眠るライを見つめる。

 

「そして、もっと異常なのはライ君だ。

彼のクラブに積んだシンクロナイザーは、あくまでパイロットの認識を空間に投影するためのインターフェースに過ぎない。なのに、あの『円盤』が張った未知の電磁障壁に、自身の脳波を同調させて干渉した。……鍵も知らないドアを念じるだけで開けたようなものさ」

 

ロイドは、シンクロナイザーが記録したライの脳波ログを凝視していた。

 

「……セシルさん、ライは……」

 

不意に、部屋の隅で沈黙していたスザクが口を開いた。パイロットスーツを脱ぐ気力さえないまま、彼は震える声で問いかける。

 

「……今は、休ませてあげましょう。スザク君」

 

セシルは、ただ静かに眠る少年の顔にシーツをかけ直した。スザクは拳を握りしめ、逃げるように医務室を後にする。

向かう先は、特区日本政庁。

英雄を待つ「共犯者」たちの元へ。

 

行政特区日本、総督政庁の一室。

深夜、外部との通信を遮断したこの部屋には、今やこの国の運命を握る三人の姿があった。

ユーフェミア・リ・ブリタニア。

枢木スザク。

そして、仮面を外したルルーシュ・ランペルージ。

 

「……ライは、ひとまず絶対安静よ。

脳波が安定するまでは外部との接触を禁じると報告が上がったわ」

 

ユーフェミアの声には安堵の色があったが、その瞳には隠しようのない痛みが混じっていた。彼女は窓の外、パレードの名残が漂う静かな租界を見下ろす。そこには数時間前まで、偽りのない歓喜が溢れていたのだ。

 

「ルルーシュ……。私たちが手に入れたこの平和は、ライにどれほどの代償を強いているのかしら」

 

「……あいつは、自分でこれを選んだのだ。我々と同様にな」

 

ルルーシュは、影の中で冷徹に、そして自分自身に言い聞かせるように答えた。その手元にある端末には、すでにディートハルトから送られてきた内外の世論調査と、各勢力の動向が並んでいる。

 

「ユフィ、スザク。感傷に浸る時間は無い。

今回の『襲撃事件』がもたらす影響は、我々の予想を遥かに超えている」

 

ルルーシュは、端末の画面を空中に投影した。

 

「第一に、ブリタニア国内だ。

あの機体による暴虐は、ディートハルトの手によって『特区に反対する旧貴族派の過激なテロ』として全世界に配信された。

自国民のパレードを襲う無差別兵器……。この映像により、本国における特区反対派は完全に正当性を失った」

 

「……テロ、か。本来なら味方であるはずの軍上層部を敵に回したわけだね」

 

スザクが、まだ重苦しい空気を纏ったまま口を開いた。

 

「そうだ。そして民心だ。

自分たちのために命を懸けて盾となった二機のランスロット、そして逃げずに民衆を鼓舞し続けたユーフェミア総督。

今や特区は、彼らにとって『守るべき聖域』だ。黒の騎士団の支持層も、この特区を熱烈に支持している」

 

「皮肉なものね……。あの恐ろしい攻撃が結果として特区を一つにしてしまったなんて」

 

ユーフェミアが自嘲気味に呟く。

 

「災厄すらも盤上の駒にする。それが戦いだ。」

 

窓の下では警備のために展開した黒の騎士団とブリタニア軍が、今は同じ「特区の守護者」として肩を並べている。

彼らが守り抜いたのは、宝石のように美しい「虚構」の世界。

 

「明日の朝、全世界に向けて声明を発表する。特区日本は、この試練を乗り越え、より強固な平和を築くと。

……ライが目覚めた時に、あいつの望んだ最高の居場所であるようにな」

 

ルルーシュが再び仮面を手に取る。

祝祭の夜は終わり、より深く複雑な「新世界」の幕が上がろうとしていた。

 

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