『完結』コードギアスIF ロストカラーズ   作:ベイベ後藤

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13話 神話への道筋

 

帝都ペンドラゴン、宰相府の一室。

巨大なホログラム・モニターには、トウキョウ租界で墜落した円盤――ジークフリートの残骸と、それを取り囲む「特区日本」の熱狂的な群衆が映し出されていた。

シュナイゼル・エル・ブリタニアは、手元の紅茶に微かな波紋を立てながら、その映像を冷徹なまでに見つめていた。

 

「……不可解だね。カノン」

 

傍らに控える側近、カノン・マルディーニが静かに頷く。

 

「はい。あの円盤型機体は、我が軍のデータベースには一切存在しません。

開発コードも、予算の出処も不明。それこそ、空から突然降ってきたかのような存在です」

 

「旧貴族派のテロ……ゼロは、そう定義したようだが彼らにこれほどのオーバーテクノロジーを保有する余力はない。それに何より、ユーフェミアとゼロが手を取り合い、この未知の脅威を退けた。その構図があまりにも美しすぎる」

 

シュナイゼルは、モニターに映る「二機の白い機体」――ランスロットとランスロット・クラブを指し示した。

 

「ロイド君の傑作機が二機。一機は名誉ブリタニア人の枢木スザク、もう一機は……例の『ライ』という少年。彼らが同時にシンクロし、物理法則を無視した敵機を撃墜した。

大衆はこれを『平和が生んだ奇跡』と呼んでいるが……。

カノン、私にはこれが緻密に計算された『舞台劇』のフィナーレに見えるんだ」

 

シュナイゼルは立ち上がり、窓の外に広がる広大な帝都を眺めた。

 

「行政特区日本。ユーフェミアの理想と、ゼロの知略。そして、その両者を繋ぎ止めているミッシングリンク――それが、あのライという少年だ。

彼が戦場で見せる『空間把握』という能力は、もはやKMFの性能という枠に収まっていない」

 

「……殿下、あの少年を探らせましょうか?」

 

「いや、今は静観しよう。

ユーフェミアが、これほどまでに輝いているんだ。兄として、その光を無闇に消す必要はない。……ただ、ジークフリートを送り込んだ『主』が誰であれ、その目的は特区の破壊ではなく、別のところにあったはずだ」

 

シュナイゼルの細められた瞳に、知性という名の冷たい光が宿る。

 

「謎の組織……あるいは、皇帝陛下。

この平和の裏側に、どのような『真実』を隠しているのか。……見せてもらうよ、ゼロ。

君たちが作り上げた、この美しい虚構の、その先をね」

 

 

神聖ブリタニア帝国、黄昏の間。

現実世界の喧騒から切り離された、その空間で皇帝シャルル・ジ・ブリタニアは独り巨大な思考エレベーターの前に立っていた。

 

「……勝手な真似を、兄さん」

 

シャルルの低く、地鳴りのような声が虚空に響く。

彼の視線の先には地上のパレードを襲撃し、そして墜落したジークフリートの「残滓」が、精神の波長となって映し出されていた。

 

「ボクを責めるのかい? シャルル」

 

背後の闇から幼い姿をした「兄」――V.V.が姿を現す。その表情には、地上の平穏をかき乱したことへの罪悪感など微塵もなかった。

 

「あの『亡霊』が、あんな紛い物の平和を謳歌しているのが我慢ならなくてね。

あの子は僕たちの計画を乱すノイズだ。早めに消しておいたほうがいい」

 

「……ノイズだと? 否。あれもまた、ラグナレクへの階梯の一つよ」

 

シャルルは冷然とV.V.を振り返った。

その瞳には兄に対する深い不信感が宿っている。かつて交わした「嘘のない世界」という誓い。だが、最近のV.V.の行動には計画の完遂よりも個人的な執着と嫉妬が透けて見える。

 

「今回の特区成立。あれによって日本全土から『嘘』と『欺瞞』が剥ぎ取られ、人々は一つの巨大な意志(システム)へと統合されつつある。

ユーフェミアという偶像、そしてライという楔……。彼らが望むと望まざるとにかかわらず、あの特区が放つ強い『連帯』の波動こそが、思考エレベーターを加速させる最高の触媒となるのだ」

 

「……ふん。君は、いつも理屈が多いね」

 

V.V.は不満げに顔を背けた。

シャルルにとって、行政特区日本は計画を邪魔する「平和の園」ではない。数万どころか数十万もの人間が「同じ夢」を見て精神的に同質化していくプロセスは、ラグナレクの接続を容易にするための広大な「苗床」に他ならなかった。

 

「ライという少年に手出しは無用だ。あやつがその能力で世界を塗り替えれば塗り替えるほど、人類の意識は均一化され、我らの接続は近づく。兄さんの私情で神への道を汚すことは許さぬ」

 

「……わかったよ、シャルル。今は、ね」

 

V.V.は冷たい笑みを残し、闇の中へと消えていった。

独り残されたシャルルは、再び思考エレベーターへと向き合う。

 

「励むが良い。貴公らが築くその『美しい虚構』が完成した瞬間こそが、旧き世界が終わりを告げる、真実の始まりなのだから」

 

 

意識の深淵。そこは、光も音も、重力すらも存在しない無窮の闇だった。

ライの意識は、その暗い海をあてもなく漂っている。

(……僕は、誰だ?)

何度も繰り返してきたはずの問い。だが、今度の闇はこれまでとは違っていた。

 

ジークフリートとの共鳴によって抉り取られた「忘却の檻」の隙間から、ドロドロとした黒い泥のような記憶が溢れ出していた。

暗闇の中に、いくつもの断片が浮かび上がる。

 

――燃える都市。

――大地を埋め尽くす、倒れた人間。

――そして、絶叫を上げる自分の姿。

 

それはブリタニアによる日本侵攻の光景ではない。もっと古く、もっと根源的な……時を超えて呼び覚まされた「終焉」の記憶だった。

(やめてくれ……見たくない……!)

拒絶すればするほど、記憶の泥はライの四肢に絡みつき深淵へと引きずり込んでいった。

 

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