『完結』コードギアスIF ロストカラーズ   作:ベイベ後藤

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15話 追憶

 

 

 エリア11、総督府のプライベートガーデン。

美しく手入れされた花々を眺めながら、コーネリア・リ・ブリタニアは、かつて自身が指揮した数多の戦場を思い出していた。

勝利は常に、明快な理屈の上に成り立っていた。兵站、戦術、そして圧倒的な武力。だが、今のこのエリア11を覆う空気はどうだ。

(……釈然とせぬな)

 数日前、パレードを襲撃したあの機体。そして、それに応戦したライの「力」。

ライは私の下でも戦ってきた優秀な騎士だ。その実力は疑いようもない。だがあの日、彼が見せた「空間を歪めるような干渉」は、私が知る軍人としての範疇を超えていた。

 

「……ユフィ。お前は純粋すぎる。その純粋さが、何者かに利用されているのだとしたら……」

 

「おやおや。眉間にシワを寄せて、昔みたいに『戦術論の壁』にぶつかっているのかな? 殿下」

 

 背後から響いた軽快な声に、コーネリアは鋭い視線を向けた。

そこにいたのは、ブリタニア軍の制服を崩して着こなし不敵な笑みを浮かべる女性――ナイトオブナイン、ノネット・エニアグラムだった。

 

「エニアグラム卿……。ラウンズの職務はどうしたのです?」

 

「休暇だよ。……と言いたいところだけど、貴女が物騒な顔で動いているって聞いてね。士官学校時代から変わらず行き詰まると分かりやすい。」

 

 ノネットは、コーネリアの隣に並び懐かしむように目を細めた。

士官学校ではコーネリアにとって「超えるべき壁」として立ち塞がった先輩だった。

彼女の直感と型破りな戦闘スタイルは、理詰めのコーネリアを何度も翻弄した。

 

「あの頃の敵は分かりやすかった。……だがノネット。今の敵は、どこに潜んでいるのかさえ見えぬ」

 

「……例の機体かい? 私の『鼻』も言っているよ。あれは、私の知る軍の匂いがしない。それこそ、『禁忌』の向こう側の匂いだ」

 

 ノネットの言葉に、コーネリアは深く頷いた。

彼女が思い出したのは今は亡きマリアンヌ妃の周辺に漂っていた「不気味な違和感」だった。

 

「私は決めたよ。特区の事はダールトンを付けてユフィに任せる。私は、この『平和』という名のカーテンの裏側を暴く。……手を貸してくれ」

 

「……いいよ。君の騎士ギルフォードは、もちろん純潔派のジェレミアも君の合図を待っている。エリートたちが汚名をそそぐ以上の『真の敵』を求めて牙を研いでいるのさ」

 

 コーネリアは傍らに置いた自身の得物であるランスを手に取った。

彼女が狙うのは、既存の軍組織ではない。かつての憧れマリアンヌが関わり、皇帝陛下シャルルが隠蔽し続けてきた力の根源――「ギアス嚮団」の尻尾だ。

 

「まずは……ライを狂わせジークフリートを送り出した『主』を炙り出す。ギルフォード、入れ!

ジェレミア・ゴットバルトを中心に純潔派から人員を選抜するのだ。」

 

軍人としての意地を懸けた、コーネリアの「私闘」が幕を開けた。

 

 

 総督府の地下、極秘に防音・遮蔽処理が施されたブリーフィングルーム。

円卓を囲むのはコーネリア、ノネット、ギルフォード、そして眼光鋭いジェレミアの四人のみだった。

 

「――改めて確認する。今回の任務は軍の公式記録には一切残さない。我々はブリタニアの騎士としてではなく、私の私兵として動いてもらう。」

 

コーネリアの冷徹な宣言に、ギルフォードが深く頷き、ジェレミアは胸を叩いて忠誠を示した。

 

「ジェレミア、純血派の再編はどうなっている」

 

「はっ。身元が確かで、コーネリア様への忠誠が厚い二十名を『特別先行偵察班』として選抜いたしました。彼らは名誉の回復よりも、姫様が目指される真の正義を求めております。何があろうと口を割らぬ猟犬です」

 

「よろしい。……エニアグラム卿、貴公の懸念を聞こう」

 

ノネットは、ホログラムに映し出されたジークフリートの機動ログを指で弾いた。

 

「技術的なことはロイドたちに任せるけど、私が気になるのは『戻り先』だ。この機体、墜落する直前まで微弱な信号を出し続けていた。暗号化されてるけど、軍の暗号プロトコルじゃない。もっと……古い、典礼のような周期性を持った信号だ」

 

「典礼、だと?」

 

「そう。まるで自分を殺した相手へ向けた呪文か、あるいはどこかの『神殿』への報告か。……墜落地点の封鎖状況は?」

 

「特派が機体を回収した後、現在は我が方の部隊が『汚染調査』の名目で周囲一帯を完全に隔離しています。民衆や一般兵の目は一切届きません」

 

「上出来だ。……行こうか。私の鼻が、あそこで何かが腐っていると鳴いている」

 

 

 月明かりに照らされた海岸線、ジークフリートの墜落跡地。

深く抉られたクレーターの底には、今もなお不気味な紫色の火花が微かに散っていた。

特派による機体の回収作業はすでに完了していたが、周辺には重力干渉の残滓か、あるいは精神を逆撫でするような「何か」が色濃く沈殿している。

 

「……やっぱりね。サクラダイトの燃焼臭じゃない。これは……もっと古臭い、死体と石灰が混ざったような匂いだ」

 

 ノネットは鼻先を動かし、海風に含まれる異物を嗅ぎ取った。彼女は跪き、手袋を外してガラス化した砂の表面に直接指を触れる。

 

「殿下、見てごらん。この滑らかな断面……。

ただの高熱じゃない。極めて高密度な『意志』のようなエネルギーが、一瞬で空間を焼き、再構成した跡だ。……これをやったのがライだとしたら彼はもう、私たちの知っているライではないかもしれないよ」

 

 コーネリアは眉をひそめ、ノネットの隣に立った。彼女の持つ戦術端末には、墜落地点を中心とした重力波の乱れが、複雑な幾何学模様となって表示されている。

 

「エニアグラム卿、あなたの言う『禁忌』とは、これのことか?

既存の兵器体系では、砂をこれほど精密に結晶化させることは不可能だ」

 

「ああ。士官学校の地下書庫で一度だけ見たことがある。皇帝陛下直轄の極秘資料――『思考が物理現象を凌駕する事例』についての論文さ。当時はおとぎ話だと思っていたけどね」

 

その時、後方で観測機を操作していたジェレミアが鋭い声を上げた。

 

「殿下、エニアグラム卿! ジークフリートの機体片が付着していた岩盤から特殊な信号を感知しました! 暗号化された軍のプロトコルを潜り抜け特定の座標へと断続的に発信されています!」

 

ジェレミアが投影した三次元マップ上に、一本の細い光の線が伸びる。その先は、暗い海の上に浮かぶ小さな影を指し示していた。

 

「神根島か……」

 

 コーネリアが呟く。トウキョウ租界からほど近いその島は、名目上は軍の演習地だが、実態は本国直轄の立ち入り禁止区域として、シュナイゼルですら迂闊に手が出せない「聖域」だった。

 

「その島から、この円盤を呼び戻そうとしていた……。あるいは円盤が死に際に自分を殺した獲物の情報を島へ送り届けたかだ」

 

 ノネットが立ち上がり、海風に吹かれながら神根島を見つめた。その瞳には、かつて士官学校でコーネリアを戦慄させた、獲物を追い詰める猟犬の鋭さが宿っている。

 

「面白いじゃないか。皇帝陛下の庭に、勝手に入り込もうっていうんだ。殿下、覚悟はいいかい? これは反逆と呼ばれるかもしれないよ」

 

「……構わぬ。ユフィが守り、ライが命を削って手に入れたこの平和……その根底を腐らせる毒があるのなら、たとえ皇帝陛下であろうと私は容赦せん。ギルフォード、ジェレミア! 隠密潜入の準備を。我々の『私闘』の戦場は、あの島だ」

 

 静寂の海岸に、騎士たちの冷徹な決意が響いた。

彼らがこれから踏み込むのは、ブリタニアという国家の嘘と、ギアスという神話が交差する、最深部の闇であった。

 

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