『完結』コードギアスIF ロストカラーズ   作:ベイベ後藤

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2話 境界線の不協和音

 

翌朝、学園へ向かう僕の足取りは、昨日までとは少し違っていた。

内部からの情報収集というルルーシュに託された役割が軍服の重みを昨日より少しだけ感じさせている。

 

「おはよう、ライ。なんだか今日は、一段と真面目な顔ね?」

 

生徒会室でカレンがお茶を淹れながら、僕の顔を覗き込んできた。

 

「おはよう、カレン。……そうかな。少し、昨日の夜に考え事をしすぎて」

 

「あんまり根を詰めないでね。

はい、ココア。糖分を取って、シャキっとしてよね」

 

「……ありがとう」

 

カレンの淹れてくれたココアは、昨夜バルコニーで感じた冷たい夜風を忘れさせてくれるほど温かかった。

彼女が「黒の騎士団」の紅月カレンとして特区の闇を掃除していることなど、今の僕には想像もつかなかった。

 

「おーい、ライ! 来てるか!」

 

廊下に響く快活な声と共に、紫の騎士服を纏った女性が勢いよく飛び込んできた。

ナイトオブナイン、ノネット・エニアグラム卿。僕の後ろ盾であり、軍での師でもある人だ。

 

「ノネットさん!? いったいどうしたんですか?」

 

「どうしたもこうしたもないさ! 本国から『査察団』が到着したんだよ。アタシもその随行員さ。ライ、お前も顔を出してもらわなきゃ困るんだ」

 

ノネットさんは僕の肩に腕を回し、豪快に笑った。その視線が、部屋の隅にいたルルーシュとカレンに止まる。

 

「おっ、そっちが例の生徒会メンバーかい?

いやあ、ライがいつも世話になってるね!」

 

「……ご丁寧に、ナイトオブラウンズのエニアグラム卿。ライの友人、ルルーシュ・ランペルージです」

 

ルルーシュが完璧な学生の礼儀で応える。二人の視線が交差する。ノネットさんはルルーシュの正体など知る由もないが、その直感が何かを感じ取ったのか、一瞬だけ目を細めた。

 

「……ふん。いい面構えだ。ライ、いい友だちを持ったな」

 

 

特派のハンガー。整備中のランスロット・クラブを見上げながら、ノネット・エニアグラムは感心したように口笛を吹いた。

 

「ノネットさん、あまりジロジロ見ないでください。ロイドさんがまた機密がどうのって騒ぎ出しますから」

 

「あはは! あの変人ならさっきお使いを頼んでおいたよ。それよりライ、少し付き合え。せっかく本国から査察に来たんだ。お前の守ってるこの『箱庭』を、この目で見ておきたい」

 

ノネットさんは僕の肩を抱き寄せると、強引に僕を外へと連れ出した。

 

僕たちは軍用車を使わず、あえて徒歩で特区の街を歩いた。

 

「いい活気だ。ブリタニアの租界にある『押し付けがましい秩序』じゃない。日本人の連中が、自分たちの意志で歩いてる顔をしてる」

 

ノネットさんは露店で売られていた鯛焼きを買い食いしながら、鋭い瞳で街を観察していた。

道行く人々が軍服を着た僕たちを見て一瞬身構えるが、僕が特派のライだと気づくと、そっと会釈をして通り過ぎていく。

 

「……ライ、お前、この街で随分と信頼されてるじゃないか」

 

「僕はただ……みんなが笑っていられるように、スザクや他の人達とも穏やかに過ごしているだけです」

 

「穏やかに……か。」

 

ノネットさんは鯛焼きを飲み込むと、ふと真面目な顔で僕を見た。

 

「ライ。お前は優しい。だが、優しすぎる。……いいか、この特区はユーフェミア様の理想が詰まった宝石箱だ。シュナイゼル殿下の支援だってある。だが、ブリタニア本国にしてみれば、これは『反逆の温床』に見えかねない。

例えば今回来ているラウンズでいうと吸血鬼(ルキアーノ)とかな」

 

「……ブラッドリー卿は、何か企んでいるんでしょうか」

 

「アイツは『壊す』のが目的じゃない。『暴く』のが目的だ。この平和がどれほど脆いか。お前たちの正義がどれほど無力か。それを証明するために、アイツは手段を選ばない」

 

ノネットさんは、視線を高くそびえる政庁へと向けた。

 

「いいか、ライ。お前たちがこうして笑っていられるのは、ユーフェミア様が自分の『皇位継承権』を事実上投げ捨ててまで、この特区をゴリ押ししたからだ。本国じゃあ彼女のことを『血迷ったお姫様』なんて揶揄する声も少なくない」

 

「ユーフェミア様が、そこまで……」

 

「それだけじゃない。あの猛将として知られるコーネリア様が、今どんな立場にいるか知ってるか?

彼女は妹を守るために、本国の強硬派や貴族たちの批判をすべてその身で受け止めてる。特区に戦力を割けば、他のエリアでの反乱分子への圧力が弱まる。軍内部じゃ『妹に甘い総督』として、彼女の求心力は今、揺らいでるんだ」

 

ノネットさんは、特区の境界を示す高いフェンスの向こう側を指差した。

 

「見てみろ。特区の『内側』は、サクラダイトの分配もインフラ整備も優先されている。だがその『外側』はどうだ?

反ブリタニア感情を抑え込むための締め付けは、特区ができたせいで以前よりさらに厳しくなっている。

特区の成功を快く思わない勢力が、『やっぱりナンバーズには恐怖こそが相応しい』と証明するために、弾圧を強めているのさ」

 

「シュナイゼル殿下の後ろ盾があるとはいえ、この特区はコーネリア様という盾が削り取られながら維持している、綱渡りの平和なんだよ。……だからこそ、ルキアーノのような『本国の牙』が送り込まれた。

特区の失敗を証明するために、わざと『外』で火を焚いて内の連中を誘い出すんだ」

 

ノネットさんの言葉は、この街の穏やかな光に冷たい影を落とした。

 

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