その日、特区日本の空は、死を予感させる禍々しい色に染まった。
成層圏から雲海を割り、音もなく降臨したのは、全長数キロメートルに及ぶ超大型浮遊要塞「グレート・ブリタニア」である。
アヴァロンが小舟に見えるほどの巨躯には、ブリタニア皇帝シャルルの絶対的な権威を象徴する装飾と巨大なギアスの紋章が刻まれていた。
「……あれが、父上の到達した『答え』か」
特区政庁のバルコニーから見上げるコーネリアの顔が、絶望に似た驚愕に歪む。
要塞の最前面、突出した観測デッキの先端に、一機のナイトメアが重々しく降り立った。
ナイトオブワン、ビスマルク・ヴァルトシュタインの駆る「ギャラハッド」だ。
機体の背丈ほどもある大剣エクスカリバーを鞘に納めたまま、彼は全地球規模の強制通信を開始した。
「全世界へ通告する。我らは神の意志に基づき、世界を浄化するものである」
その声は、電子信号ではなく人々の脳に直接響くような重圧を伴っていた。
「嘘の時代は終わった。虚飾にまみれた歴史は今、この瞬間を以て真実へと塗り替えられる。
特区日本に告ぐ。速やかにイレギュラー……『ライ』を返還せよ。さもなくば、その土地ごと世界の記憶から消去する。」
要塞の底部に備えられたハドロン重砲が、一斉に特区の市街地へと照準を合わせた。
レーザー照準の紅い光が、逃げ惑う人々の背中を無数に焼き付ける。
「……宣告は済んだ。抵抗は無意味である。
我らが視ているのは、既に確定した未来なのだから」
ビスマルクの瞳の中で、ギアスの紋章が静かに、だが力強く拍動した。それに応えるように天空の要塞から無数の「神罰代行部隊」が、死の雨となって特区へと降り注ぎ始めた。
絶望的な沈黙を破ったのは、水平線の彼方から響く轟音だった。
グレート・ブリタニアの降臨によって乱れた大気を切り裂き、特区日本の領海へと次々と機影が飛び込んでくる。
「――この海を、そして人々の心を汚させるわけにはいかない!」
先陣を切ったのは、中華連邦の象徴「神虎」である。
黎星刻の怒気を孕んだ声と共に、天愕覇王電磁砲が天空の要塞を護衛するヴィンセント艦隊へ向けて放たれた。
青白い雷光が空を焼き、帝国の鉄壁を揺るがす。さらに、西の空からは異形の翼を持つ集団が迫っていた。
黄金の装甲を纏った「ヴェルキンゲトリクス」。その主、シン・ヒュウガ・シャイングの瞳には、かつての狂気ではなく燃え盛るような冷徹な意志が宿っている。
「シャルル・ジ・ブリタニア。お前の言う『昨日』も『真実』も、我ら兄弟にとっては、ただのゴミ溜めだ。……行くぞ、アキト。命の価値を神に決めさせるな」
シンの傍らを、アキトが駆る「アレクサンダ・リベルテ」が四足歩行の高速機動で駆け抜ける。
ジャンの「グラックス」が、その後方を固めヨーロッパ戦線の「亡霊」たちは今、自分たちの意志で守るべき戦場を選び取った。
アヴァロンの甲板では、シュナイゼルがモニターを見つめ、静かに微笑んだ。
「お揃いのようだね。……人種も、国籍も、過去の怨恨も。すべてを『自分』という個人の意志で乗り越えた者たちが、これほど集まるとは。皮肉だね、父上。貴方の理不尽なまでの巨大さが、バラバラだった人類に一つの目的を与えた。」
ゼロがその横でマントを翻す。
「全軍に告ぐ。我々が守るべきは特区という土地ではない。
神を僭称する独裁者に、人類の『明日』を渡さないための抵抗だ! 全力で要塞を叩け!」
かつての仇敵たちが、一つの空で剣を合わせる。人類史上、最も奇妙で、熱い連合軍が、神の要塞へと牙を剥いた。
グレート・ブリタニアから放たれる「神罰代行部隊」の猛攻に、特区日本の第一防衛ラインは決壊寸前だった。
無機質な白に塗られたヴィンセントの群れが、圧倒的な物量で政庁へと迫る。
「ちっ、数が多すぎる! ゼロ、本気でここを更地にするつもりなの、あいつらは!」
カレンの「紅蓮弐式」が輻射波動で数機を蒸発させるが、空を埋め尽くす増援に焦燥の色が隠せない。
その絶望的な戦域を、一筋の紫の雷光が切り裂いた。
「湿気た面してるんじゃないよ、黒の騎士団のエース!」
通信回線に割り込んできたのは、豪快な女の声。
現れたのは、神根島の戦いで猛威を振るった可変型ナイトメア「ブラッドフォード」を、さらに高出力化へと改修した特装機。ナイトオブナイン、ノネット・エニアグラムである。
彼女は、ブリタニア本国の狂信的な空気に見切りをつけ、独断で特区側へと合流したのだ。
「エニアグラム卿……」
アヴァロンの指揮官席で、コーネリアが驚愕に目を見開く。
「随分と派手な喧嘩に巻き込まれてるじゃないか。
世界が一つに溶け合うなんて、そんなの面白くないでしょう?殿下。」
ノネットのブラッドフォードが、人型から飛行型へと瞬時に変形。
超高速での一撃離脱戦法で、政庁へ迫る敵集団を一網打尽にする。その戦いぶりは、王道な騎士道というよりは、戦場そのものを楽しむ猛獣のそれだった。
一方、別の戦場では狂気に満ちた哄笑を上げながら特区を蹂躙する「パーシヴァル」――ナイトオブテン、ルキアーノ・ブラッドリーの前に、三機のナイトメアが立ち塞がった。
黄金の装甲を纏った「ヴェルキンゲトリクス」と、それに寄り添う「グラックス」
そして、不気味な駆動音を立てる「アレクサンダ・リベルテ」。
「ユーロの連中か! 掃除が一度に済んで好都合だぜ!」
「ブリタニアの吸血鬼よ。……貴様の言う『死』など、ただの暴力に過ぎない。
我らが見せるのは、死を越えた先にある『意志』だ」
シンのヴェルキンゲトリクスが、死を恐れぬ特攻を仕掛ける。
ユーロの「亡霊」たちと、ブリタニアの「吸血鬼」。異なる「死」の哲学が、今ここに激突する。
このルートはシャルルの動向含め亡国のアキトで最後の最後シンとアキトが和解したIFシナリオです。