『完結』コードギアスIF ロストカラーズ   作:ベイベ後藤

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25話 過去の神話、未来へ向かう戦士達

 

 

 ギャラハッドが空に散り、特区を覆っていた圧迫感が霧散した。

ランスロット・アルビオンは、片腕を失いエナジーウイングの光を断続的に明滅させながら、勝利の余韻に浸る間もなく特派のハンガーへと降り立った。

 

 時を同じくして、特区内の臨時補給基地。

赤紫の重装甲を纏った「モルドレッド」が、大気を震わせる地響きと共に着艦した。

パイロットであるアーニャ・アールストレイムは、愛機を整備班に預けると、重い足取りでコクピットを降りた。

 

「……記録、更新。ナイトオブワンの、敗北」

 

 感情の起伏が乏しい彼女の瞳が、基地の喧騒から離れた一角に向く。そこには、戦場の最前線に似つかわしくない服を纏った女が立っていた。緑色の長い髪を風になびかせ、要塞グレート・ブリタニアを見上げている。

 

「……誰?」

 

 アーニャが不審に思い声をかけると、彼女の意識が熱を帯びたように歪んだ。

視界が白濁し、現実の基地の風景が鮮やかな花が咲き乱れる「アリエスの離宮」の記憶へと上書きされていく。

 

「……気づくのが少し遅かったな。」

 

 C.C.の声は、どこまでも透き通っていた。

アーニャの肉体の中で、眠っていた「マリアンヌ」の意識が、水面に浮かぶ泡のように表層へと現れる。

アーニャの瞳に、少女のものとは思えない慈愛と怜悧さが混ざり合った大人の光が宿った。

 

「久しぶりね、C.C.。……あなたが自ら私に会いに来るなんて。私達との『約束』を果たす気になったの?」

 

 アーニャの口から漏れたのは、マリアンヌ・ヴィ・ブリタニアの声だった。

二人の魔女は、戦火の特区の片隅で静かに対峙する。

 

「約束? ああ、あんな自分勝手な願いのことか。……断るよ、マリアンヌ。

私は協力しない。もう、やめたんだ」

 

 C.C.の言葉に、マリアンヌは優雅に首を傾げた。

 

「永遠の時間を終わらせるんじゃないの?……あの子のせい?」

 

「……ルルーシュは、『嘘のない世界』なんて求めていない。あいつの周りにいる仲間も不器用な『明日』を欲しているんだ。

……アーニャの目を通して見ていれば分かるだろう。

お前たちの身勝手なプランのために誰も生きていないんだよ。」

 

 マリアンヌは、慈母のような微笑みを浮かべたまま、要塞を見上げた。

 

「シャルルは急いでいるわ。ライという『鍵』を使って思考の地平を繋げ、死者も生者も一つになる世界を作ろうとしている。それは悲しみのない、完璧な世界よ。

……C.C.、あなたなら理解できるはずだわ。」

 

「……マリアンヌ。お前の言う『完璧』は、ただの静止だ。

私は、今の戦いを見て思ったんだ。確定した未来を、自らの意志で踏み越えることの意味を。」

 

 C.C.の瞳に宿る、かつてないほどの強い光。

マリアンヌの表情が、わずかに翳る。

 

「……強情ね。でも、もう止まらないわ。

グレート・ブリタニアが特区の真上に位置したとき、ラグナレクの接続は進み、ライの意識はシャルルの元へ引き寄せられる。

……果たして、間に合うかしら?」

 

「間に合わせるさ……きっとな。」

 

 C.C.がそう告げた瞬間、アーニャの身体から熱が引き、彼女の意識は再び現実の補給基地へと戻された。目の前にいたはずのC.C.の姿は、陽炎のように消えている。

 

「……? また、記憶が……」

 

アーニャは、自分の掌をじっと見つめ、小さく呟いた。

 

 

特区を襲った「最強の矛」ギャラハッドの脅威は去った。しかし、勝利の余韻に浸る時間は、誰一人として持ち合わせていない。

 

 特区上空。依然として、そこには帝国の威信と「ラグナレクの接続」という狂気を孕んだグレート・ブリタニアが、巨大な日蝕のように居座り続けている。

要塞が政庁ビルの真上に到達したとき、眠れる「鍵」――ライの意識はシャルル皇帝の手中に落ち、世界は「静止」へと向かう。

 

 

 特区政庁の戦略作戦室。

そこには、かつて相容れるはずのなかった者たちが、一堂に会していた。

ホログラム・モニターを挟んで向かい合うのは、アヴァロンの主シュナイゼル・エル・ブリタニアと、黒の騎士団の総帥ゼロ。そして、特区の守護者であるユーフェミアとコーネリア。

 

「状況を整理しよう。ヴァルトシュタイン卿を失ったとはいえ、グレート・ブリタニアの防衛システムは健在だ。

ハドロン砲の掃射、および皇帝直属部隊の迎撃が予想される。時間がない以上、我々に残された道は一つ……一点突破、要塞内部への強行突入だ」

 

 シュナイゼルの冷静な声が室内に響く。これに、ゼロが仮面の奥から重々しく応じた。

 

「……異論はない。シャルル皇帝の狙いはライの『神への共鳴』だ。要塞の中枢を叩き、ラグナレクの接続を物理的に遮断する。

戦術指揮は私が執る。シュナイゼル、貴公はアヴァロンによる後方支援と戦略的飽和攻撃を頼む」

 

 相容れなかった兄弟が、今は共通の「明日」のために盤面を共有していた。

シュナイゼルは優雅に微笑み、頷く。

 

「いいだろう。ゼロ、君の戦術に世界を預けるとしようか」

 

 

 攻略の主翼を担うのは、強烈な突破力を持つエース機たちだ。

特派のハンガーでは、ロイドとセシルが慌ただしく作業に当たっていた。

 

「スザク君! アルビオンの換装は間に合わないよ〜代わりに、コンクエスターに乗ってね。性能は落ちるけど、君なら大丈夫!」

 

「構いません。動けばいい。ライの元へ行くためなら!」

 

 スザクは、ランスロット・コンクエスターのコクピットに飛び込む。

アルビオンの出力は出せないが、コンクエスターの重武装は要塞内部の突破には適している。

 

黒の騎士団のハンガーでは、紅蓮が紅く輝いていた。

 

「紅蓮可翔式、出るよ! スザク、あんたに先は譲らないから!」

 

 紅月カレンが、輻射波動機構の出力を確認する。彼女の「紅」は、要塞の分厚い装甲を溶かすための「熱」となる。

 

「……我が主の未来、この神虎が切り拓く!」

 

 中華連邦の麒麟児、黎星刻。

病の苦しみを気力で抑え込み、彼は覇道の剣として神虎を駆る。

さらに、ナイトオブナインのノネット・エニアグラムも、カスタマイズされた専用機ブラッドフォードを駆ってこの攻略組に加わっていた。

 

 グレートブリタニア攻略の間、無防備となる特区と政庁を守り抜くのは、ユーロ連合と離反ラウンズの精鋭たちだ。

 補給を終えたアーニャのモルドレッド。そして、ジノ・ヴァインベルグのトリスタン。

 

「ヴァルトシュタイン卿を倒したスザクを信じるよ。私たちは、ここを守るのが仕事だ。ね、アーニャ?」

 

「……記録。守備、最優先。……スザクなら、大丈夫」

 

 アーニャは、先ほどのC.C.との邂逅の残滓を振り切るように、シュタルクハドロンの照準を空へと向けた。

 

さらに、シンのヴェルキンゲトリクスを中心としたユーロ・ブリタニア軍と、アキトやレイラ率いるwZERO部隊。

彼らは政庁ビル周辺に強固な防衛ラインを構築し、要塞から放たれる無人KMFの群れに備える。

シン・ヒュウガ・シャイングと日向アキト。

かつて殺し合った兄弟が、今は互いの背中を守るために並び立つ。

 

 空中要塞グレート・ブリタニアの中枢。

そこには、現実の風景とは乖離した「思考の回廊」の入り口が広がっていた。

シャルル・ジ・ブリタニアは、巨大な玉座に座し、眼下の特区を見下ろしている。

 

「……来たか。偽りの絆に縋る、迷い子共よ」

 

 シャルルの言葉に呼応するように、要塞の全ハドロン砲が特区へ向けて展開される。

要塞の真下に到達するまで、あとわずか。

 

 政庁ビルの地下深く――。

チューブに繋がれ、静かに眠っていた銀髪の少年、ライ。

彼の睫毛が、微かに震えた。

スザクをはじめとした多くの人々が放つ「生」への熱量が、彼の閉ざされた意識の扉を叩いている。

 

(……。みんな……。僕も……行かなきゃ)

 

 ライの指先が動く。

それを見守っていたロイドが、狂気的な笑みを浮かべて叫んだ。

 

「おや、 脳波が活性化を始めたよ〜! セシルくん、例の『アレ』準備しておいて!」

 

 特区の空に、再び嵐が吹き荒れようとしていた。

人類の明日を懸けた、戦いが始まる。

 

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