コードギアスチャンネルの50時間耐久配信をBGMにしてました。
黄金の扉が砕け散った先に広がっていたのは、物理法則を拒絶した精神の深淵――「思考の回廊」であった。
天も地もない、星々が流転するような無窮の虚空。その中央に、巨大な黄昏の神殿を思わせる石柱群が屹立し、その中心にシャルル・ジ・ブリタニアが立っていた。
その背後には、人々の集合無意識――「Cの世界」へと直接干渉するためのシステム「アーカーシャの剣」が、不気味な脈動と共に起動を待っている。
「……来たか。泥濘に浸かった明日を欲する迷い子たちよ」
シャルルの声は、鼓膜ではなく脳髄に直接響く重圧を持っていた。
彼はゆっくりと両腕を広げ、自身が構築した「神のシステム」を指し示す。その眼差しは、眼前に立つ者たちを見てはいない。もっと遠く、全人類の過去と未来が混濁する「深淵」を見据えていた。
「ライよ。お主は失われた記憶の底で、何を見た? 孤独か? 絶望か? ……それらはすべて、人間が『嘘』を吐くがゆえに生じる毒だ。
人は、他人を欺き、自分を偽り、理解し合えぬままに傷つけ合う。
仮面を被り、演じることでしか己を保てぬ卑小な存在。それがこれまでの『世界』の正体だ」
シャルルの足元から、黄金の光が波紋のように広がり、アーカーシャの剣の基部へと吸い込まれていく。
システムが唸りを上げ、虚空に無数の「記憶の断片」が浮かび上がった。
「我は、この『アーカーシャの剣』を用い、Cの世界に停滞する全人類の意識を統合する。
個という殻を打ち砕き、すべての魂を一つに溶かし合わせるのだ。そこには、言葉による欺瞞も、秘密による隔絶も存在せぬ。
他人の心が己の心となり、己の痛みが他人の痛みとなる。……それが、儂の渇望する『嘘のない世界』である。」
シャルルの言葉と共に、アーカーシャの剣の先端から「神を殺す」ための干渉波が放たれた。
「神とは何か? それは、人々の意志の集積だ。ならば、その意志を統べる者が真の神となる。儂は神を殺し、神を越え、人類を永遠の静寂へと導く。
……ライ、お主も感じているはずだ。かつて人を導いた者として、失われた民の想いを背負う者として。
個としての孤独に耐える必要など、もう無い。ラグナレクの接続が完了すれば、お主も、周囲の人間も……すべてが一つになり、永遠の理解の中で共存できるのだぞ」
その傲慢な福音を切り裂くように、力強い足音が虚空に響いた。
背後から、風に翻る黒いマント。ゼロの仮面を脱ぎ捨て、その「真実」の瞳を晒した男――ルルーシュ・ランペルージが歩み出る。
「……相変わらず、独りよがりの説法だな!」
冷徹な声が回廊を震わせる。
ルルーシュの目には、絶対遵守の力が宿るギアスが紅く輝いていた。
「ユーフェミアが特区日本という『明日』を作った。スザクとライが、血を流してその『盾』となっている。
彼らが守ろうとしたのは、貴様が押し付ける死のような静寂ではない。……たとえ嘘を吐き、傷つけ合うことがあっても、それでも明日に希望を繋ごうとする、不器用で愛おしい人間の営みだ!」
ルルーシュは、シャルルの目の前で言い放った。
「貴様は、他人の心が分からないから、世界を閉じようとしているに過ぎない。……だが、俺たちは違う。
分からなくても、寄り添うことはできる。ぶつかり合っても、許し合うことはできる!
今を生きているこの現実こそが、貴様の理想という名の現実逃避を否定しているんだ!」
スザクが、一歩前に踏み出す。生身でありながらも、友を守るための剣の意志が宿っている。
ライもまた、ルルーシュの隣に並び、ギアスを宿した瞳でシャルルを射抜いた。
「シャルル・ジ・ブリタニア。……貴方の言う世界に、僕の居場所はいらない。
僕は、みんなと、この世界の続きを見たいんだ!」
シャルルの不敵な笑みが、一瞬だけ歪んだ。
「……愚かな。ならば、その『明日』という幻想と共に、集合無意識の底へ沈むがいい」
アーカーシャの剣が最大出力に達し、黄金の嵐が吹き荒れる。
神殺しのシステムと、明日を望む人間の意志が、ぶつかり合おうとしていた。
アーカーシャの剣が放つ黄金の嵐の中、ルルーシュの不敵な声が響き渡る。それは神の如き権能を振るう父への、痛烈な嘲笑であった。
「貴様は先ほど、人間は嘘を吐き、自分を偽る卑小な存在だと言ったな。ならば聞こう。かつて貴様自身が世界に向けて何度も放った台詞……『人は平等ではない、ゆえに競い、奪い、進化せぬばならぬ』という言葉。あれは何だったのだ!」
ルルーシュの問いに、シャルルの表情が微かに凍りつく。
現実の世界において、シャルル・ジ・ブリタニアは弱肉強食を肯定し、闘争による「未来」への進撃を説いてきた。だが今、この思考の回廊で彼が求めているのは、闘争も進化もない「停滞した過去」への回帰である。
「現実では闘争を煽り、精神では静寂を望む。……これこそが、世界で最も巨大な『嘘』ではないのか! 貴様こそが、自ら否定したはずの欺瞞そのものだ!」
その瞬間、アーカーシャの剣を支える黄金の石柱に亀裂が走った。
Cの世界――集合無意識は、応えない。
シャルルの内に潜む巨大な自己矛盾が、システムそのものの整合性を内側から食い破り始めたのだ。
「……黙れ、ルルーシュ! それは過程に過ぎぬ。『嘘の無い世界』に至るには、相応の犠牲が……」
「いいえ。あなたは、傷ついて来たのだろう。そしてこれから先も傷つくのがただ怖かっただけだ。」
ライが静かに、けれど鋼のような強さを持って言葉を重ねる。
「民に闘争を強いたのは、あなたが彼らの痛みを分かろうとしなかったからだ。そして今、すべてを一つにしようとするのは、あなたが他者という『自分とは違う存在』を愛せなかったから……矛盾しているのは、システムじゃない。あなたの心だ!」
ライの瞳に宿るギアスが、激しく明滅すると、思考の回廊に異変が起きた。
スザクのランスロット、そしてライのクラブが、彼らの「意志」を触媒として精神世界に実体化を始めたのだ。現実の装甲を越えた、魂の輝きを纏った二羽の翼。
「スザク、ライ! 行けッ!!」
ルルーシュの叫びと共に、二機のランスロットが黄金の嵐を突き抜けた。
シャルル・ジ・ブリタニアは顔を歪め、アーカーシャの剣に蓄積された膨大な記憶の残滓を「防衛機構」として具現化させる。かつてブリタニアに忠誠を誓い、死んでいった名もなき騎士たちの幻影が、黒い霧となって二機に襲いかかる。
「……過去の亡霊に、僕たちの明日は渡さない!」
ライのクラブがランスを旋回させ、精神の闇を切り裂く。
「生きろ」という呪いさえも「生き抜く」という誓いに変えたスザクが、MVSで黄金の雷撃を叩き斬る。
二機の連携は、もはや物理的な機動を越えていた。
シャルルが叫ぶ「嘘のない世界」という名の墓標を、彼らの「生」のエネルギーが、一歩ずつ、確実に粉砕していく。
「……認めぬ。儂が……儂と兄さんとマリアンヌが積み上げた「嘘のない世界」の創世が、このような子供の理屈で……!」
シャルルの背後で、アーカーシャの剣が崩壊の予兆を孕んだ不気味な光を放つ。ついに、集合無意識そのものが、自らを私物化しようとする王への「拒絶」を始めた。