『完結』コードギアスIF ロストカラーズ   作:ベイベ後藤

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29話 昨日への葬列、不完全な明日へ

 

 

 黄金の石柱が砂のように崩れ落ち、アーカーシャの剣が断末魔のような高周波を放つ。

シャルル・ジ・ブリタニアの自己矛盾という「毒」に侵されたシステムは、もはや集合無意識を繋ぎ止める器ではなく、内部から自壊を始めていた。その崩壊の渦中、空間が歪み、陽炎のように光が揺らめいた。

 

 一人の女性の姿が顕現する。優雅でありながら、見る者に本能的な危うさを抱かせるその佇まい――かつてブリタニアの騎士たちが「閃光のマリアンヌ」と呼び、仰ぎ見た伝説の意識体であった。

 

「……母さんまで、そこにいたのか」

 

 ルルーシュが苦々しげに、けれどどこか悲しみを湛えた瞳でその影を見据える。

マリアンヌは、アーニャ・アールストレイムという少女の精神の奥底から這い出し、実体を持たない思念の姿で、わが子の反逆を眺めていた。その微笑みは、慈母のようでもあり、実験動物を観察する科学者のようでもあった。

 

「ルルーシュ、あなたは分かっていないのね。私たちが欲しかったのは、生者も死者も一つになれる穏やかな世界……。

争いも、嘘も、悲しみも、すべてが凪の中に溶け合っていく、みんながありのままでいい、優しい世界だったのよ。」

 

 マリアンヌの声は、甘く、そして恐ろしいほどに感情が欠落していた。

彼女にとって、現実の痛みや他者の意志は、理想の絵画を完成させるための絵具に過ぎない。

 

「いいえ。僕たちが欲しいのは、傷ついても、泥濘に足を取られても、それでも自らの足で踏み出す『明日』だ!」

 

 ライの叫びが、虚空を震わせる。

ライの瞳に宿るギアスが、マリアンヌの放つ停滞の波動を跳ね返した。かつてマリアンヌを敬愛していた者でさえも、今の彼女が語る理想が「生の否定」であることを本能で察知していた。

 

「……ふふ、ライ君。あなたは相変わらず、真っ直ぐすぎて眩しいわね。でも、その光が強すぎれば、影もまた深くなる。

……さあ、ルルーシュ。あなたの望みを、このCの世界にぶつけてごらんなさい。」

 

 マリアンヌが両手を広げると、アーカーシャの剣の残骸が最後の一閃を放った。

ルルーシュは、全人類の意識が溶け合う深淵――「Cの世界」そのものへ向かって、その目を剥いた。

 

「集合無意識、Cの世界よ! 過去を求める望みを聞くな! 停滞した変化がない、完結した閉じた世界など、いらない! 俺は……『明日』が欲しい。時間の流れを止めるなッ!!」

 

 極大のギアスが解き放たれ、黄金の虚空を真紅の光が塗り潰していく。だが、その瞬間、世界の法則が凄まじい衝撃と共に軋みを上げた。神の理を書き換えるという禁忌の行使。それは、Cの世界に想定外の過負荷を与えた。

 

 空間が黒い亀裂となって裂け、因果の連鎖が解けていく。

不完全な「明日」への接続は、世界そのものを崩壊の渦へと誘うイレギュラーを招き寄せていた。

 

「……っ、ルルーシュ! 世界の法則が乱れている! このままじゃ、明日が来る前に空間が消滅するぞ!」

 

 スザクのコンクエスターが、次元の狭間から溢れ出した漆黒の闇に呑まれそうになる。

ルルーシュの「明日への願い」が、あまりにも純粋で強大すぎたゆえに、壊れかけたシステムが制御を失ったのだ。

 

「……僕が、繋ぎ止める!」

 

 ライが、ランスロット・クラブIIの操縦桿を限界まで押し込んだ。銀色の機体が、崩壊する回廊の最深部、エネルギーの奔流が渦巻く中心点へと突っ込んでいく。

 

 ルルーシュの放った「明日」を求めるギアスは、既存の神という名の集合無意識に干渉して揺さぶった。

崩れかけたアーカーシャの剣という古い器は、その奔流を受け止めることができず、因果の連鎖を断絶させる暗黒の裂け目となって世界を飲み込もうとしている。

 

「ルルーシュ! コードが、システムが暴走している! このままじゃ『明日』どころか、すべてが虚無に消えるぞ!」

 

 スザクのランスロット・コンクエスターが、次元の重圧に悲鳴を上げる。

ルルーシュもまた、自らが引き起こした現象の巨大さに、意識を失いかけていた。

その混沌の渦中に、銀色の閃光が突っ込んだ。

 

「……僕が、繋ぎ止める! 記憶を失い、時を彷徨った僕にしかできないことが……あるはずだ!」

 

 ライのランスロット・クラブIIが、暴走するエネルギーの中心点に大型ランスを突き立てた。

ライの瞳に宿るギアスが、臨界を超えて銀色の波動を放射する。

ライの能力は本来、聴覚に作用する「絶対遵守」で影響下に置くものだった。だが、この「神域」において、それはバラバラになった意識の糸を縫い合わせるという整合性へと昇華された。

 

 ルルーシュの「破壊と再生」のギアスが閉じた停滞を砕き、ライの「調和と接続」のギアスがその破片を「未来」という名の新しい因果へと繋ぎ直していく。

 

「……っ、あああああッ!!」

 

 ライの脳裏に、数多の記憶が奔流となって流れ込む。かつて自分が愛した人々の声。失った民の嘆き。そして、今この手の中にいる仲間たちの鼓動。

 

 ライは、自らの存在そのものを「楔」とすることで、不安定なCの世界の法則を物理的に固定し、コード不全のイレギュラーをその身一つで抑え込んだ。その瞬間、黄金の石柱は完全に灰となり、シャルル・ジ・ブリタニアの実体は、時の濁流の彼方へと押し流されていった。

 

「認めぬ……儂とマリアンヌの創世が!」

 

 断末魔の叫びと共に、昨日を求めた王は、明日という名の光の中に沈んでいく。

 

 静寂が、ゆっくりと訪れた。

崩壊する回廊の端で、アーニャの肉体からマリアンヌの意識が完全に切り離された。

彼女は、銀色に輝くライと、やり遂げたルルーシュを、どこか満足げに見つめている。

 

「……ふふ、見事ね。

そう…不完全な明日を選んだのね、あなたたちは。……奪い続けた記憶も、この子の肉体も、もう私には必要ないわ。」

 

 マリアンヌは、長年支配してきたアーニャの肉体の主権を、本来の持ち主へと返却した。

意識体となった彼女は、光の中に消えるような救済を求めない。

 

 「……じゃあね、ルルーシュ。……いつかまた、どこかの誰かの心の中で。」

 

 ふっと一吹きの風のように。

マリアンヌは別の誰かの心、あるいは世界の特異点へと、その実体のない意志を漂わせ、消えていった。

 

 空中要塞グレート・ブリタニア。

思考の回廊から現実へと弾き出された攻略組メンバーが目にしたのは、崩れ落ちていく巨神の残骸だった。

 

「……脱出だ! 急げ!」

 

 各機体が、爆炎を突き抜け、琥珀色の空へと飛び出した。

重力障壁も、神の呪縛も、もうどこにもない。

水平線の向こうから、本物の陽光が差し込んできた。それは「神」が約束した永遠の静寂ではなく、眩しく不確かで、けれど温かい「明日」という名の光だった。

 




マリアンヌさんってヤバい人だとは思うんだけどアーニャを通して少しずつ出してた結果マイルドにしてみました。
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