Re:死滅回游×シムリア事変   作:トコロコ

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死滅回游の特性を類関呪術として用いる……か。悪くないね、だがそれならラインは北海道まで伸ばすといい。場所の選定は任せるよ、コロニーの設置ならお手のものだろう?……私なら?旭川……神居古潭は選ばないな、あの場所を霊場と定義するなら相応の準備期間がいるハズだ。……クックッ、やはり君の考え方は私とかけ離れている。だがベクトル自体は同じ……話がズレたね。


死滅回游より62年・F県■〇町の公園にて(九十九由基、天元?)

 夕暮れ時、ランドセルを背負った少女がブランコに腰掛けていた。後ろに束ねた金髪を靡かせながら暫くブランコを漕いでいると、低い視点のその目が公園の入り口から近づいてくる何者かを捉えた。

 学ランと古風な学帽を身につけた少年、中学生辺りだろうかと少女は推測する。だが何より目を引くのは彼の肉体から溢れ出るエネルギー。呪力。少女と同じく呪術を扱う術師。

 

「君は、私の同類なのかな?」

 

 変声期すら来ていない喉から発せられるのは、貫禄と警戒を兼ね備えた問い。立ち上がることすらなく、ただ両の手をブランコの鎖から放し少女は術師を見据える。少年は速度を落とさず上げずただ近づく。

 距離二メートル弱。立ち止まる。

 

「ハッ!それが僕の何を見て何処までを看破しての疑問なのかは知んねェが、敢えて答えるぜあらゆる意味でYES!YES!YES!ってな!」

 

 少女を見下ろしながら身振り手振り大袈裟に話す彼は、あまりに楽しそうで嬉しそうで殺意なんて微塵も発しておらず、だからこそ少女は正体不明の術師に対し警戒を強め──掌印を結んだ。

 それは術師の到達点たる領域を展開するための印であり、現時点に於いて彼女が行使可能な最も強力な生存手段である。

 もしも少女が成人の肉体を持ち得ていれば、展開以前に肉弾戦が選択肢に上がっただろうが、彼女の肉体は小学生のそれでしかない。

 

「あらゆる意味、と言ったね。私と君の間にある明らかな共通点はただ一つ、術師である事それだけだろう。……それとも、他に何かあるのかい?君が知る、私との共通点が」

 

 少女は問う、少年の呪力の波を僅かにも見落とさないよう注意しながら。 

 

「全く当然に山ほどあるな、なにせアンタをそしてアンタらをこの時代に導いたのは──他でもねェこの僕なんだからよ!」

 

 少年は答える、戦闘態勢以前に術師ですらないような隙だらけの振る舞いで。

 

「アンタと同じく術師で」

 

 一歩近づき、膝を折る。攻撃の気配はない。

 

「アンタと同じく元星漿体で」

 

 地面に膝をつき、目線を合わせる。攻撃の気配はない。

 

「アンタと同じく魂の研究者で」

 

 至近距離にて少女は捉える、爛々と輝く真黒の目を。攻撃の気配はない。

 

「そしてそして彼岸をすり抜けた転生者!」

 

 彼は右手を差し出す、まるで握手でも求めているかのように。至近距離にまで到達して尚、少年は一切の攻撃の気配を見せない。

 

「それが僕で、それがアンタだ。アンタは僕で、僕はアンタなんだ。理解できるかアンダスタァン?」

 

 知るはずのない情報を知っている。誰にも伝えたことのない過去を、誰にも明かしていない研究を、少女が持つ常軌を逸した秘密すらも、少年は既知の物として口にした。

 知っているのか?生まれてから11年もの間少女を悩ませてきた現象を、生まれ変わりについてを何か知っているというのか?  

 導いた、その言葉通り彼こそがこの超常現象の黒幕だとでも?

 

「そうだな……この形式に於ける僕以外の転生事例は初めてだから、自己認識云々の配慮はすっ飛ばしてぶっ飛ばして、単刀直入簡明直截に望む全てをドストレートにアンタに伝える事にするよ」

 

 掌印を結んだ術師に対して片手を差し出すというのは、即ち領域を展開された際の対抗策を失うことを意味する。

 簡易領域や己の領域の展開には基本的に両の手を用いた動作が必要であり、領域展延の使い手でもなければ対応する間もなく領域は展開され術式が付与されてしまい、その時点で敗北と死がほぼ確定してしまう。

 だというのに、彼は尚も右手を差し出している。その目に恐れの色はなく、その呪力に攻撃の予兆の波はない。

 

「アンタが生まれる前から、62年前にアンタが死んだその前から、ずっとこうしたかったんだ果てしなく興味があったんだ。だからさ、僕の友達に成ってくれよ!九十九由基!」

 

 悪意なく、高らかに少年は謳う。誰も知らない少女の前世での名が、人気のない公園に響き渡る。

 

「はっ、……フェアじゃないなあ少年。君は名前も知らない相手と友達に成れるのかい?」

 

 そしてそこで初めて、少女は笑った。呆れたような、しかしどこか清々しさも含んだような笑みだった。

 

「成れるに決まってんだろーがよ、僕の前世はインターネット全盛期だぜ?顔も名前も知らねェ相手と友達に成れる最高の時代さ。……だけどまぁ、そりゃ名乗りは必要か。んじゃ改めて」

 

 警戒を薄めながらも掌印は解かない少女の元から彼は手を引っ込め、立ち上がり両手を大きく広げた。

 

「初めの名は1000年も前に捨てた。彼岸を乗り越える方法(すべ)を得てからは多くの名を得て同じ数だけ捨ててきた。故に生誕と共に授けられた戸籍の名に意味は無く、その価値はとうの昔に暴落している。同類の友達相手に名乗ろうとは思えねェ。だから、僕の事はこう呼んでくれ───天元ってな」

 

 それは、嘗てこの国を守る結界の主であった者の名。不老の術師の成れの果ての彼女の名。

 

「元星漿体、そう言っていたね。皮肉かい?」

 

「まさしく、皮肉だぜ」

 

「……あっはっは。なんだ君、随分楽しい奴じゃないか」

 

 1000年、星漿体、前世、聞き捨てならない全てのワードを、全て一旦脇に置く。

 思い浮かぶは、前世の幼少。星漿体としての日々。天元への感情……同化した彼らの声。

 生まれ変わったこの時代ではとうの昔に天元は死んでいて、彼らの声もまた消えていた。

 怒りか虚しさか、多くの感情が綯い交ぜになって行き場を失った。

 目の前の少年の正体は未だ不明のまま、だが天元に対し何らかの感情を持っていることは確かだ。

 或いは、それすら少女を誘導するための罠なのか。

……全ては後回しだ、今の段階では答えは出ない。

 堂々巡りの考えを停止させ、少女は己の直観に従い立ち上がった。掌印は解かれている。

 

「さて──」

 

今度は少女は手を差し出した、握手を求めるように。

 

「……嬉しいよ、九十九由基」

 

 少年は差し出された手を握り、目に涙を浮かべた。感極まったかのように、心から嬉しそうに。     

 対する少女も、前世と同じ余裕を含んだ笑みを浮かべながら、連続した自意識の元で九十九由基として振舞った。

 

「────どんな女が好み(タイプ)だい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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