カイザー、という企業はことブラックマーケットにおいて非常に強い影響力を持つ。
仕事の供給や闇銀行への出資、違法な物品の横流しなどあげればキリがないほどブラックマーケットで中心的な活動しているためだ。
特に仕事関係でいえば、賃金などは足元見られることが多いが内容は比較的マシな仕事を足のつかない捨て駒として多く寄越してくれるため掃き溜めの街ブラックマーケットでは生徒に獣人、ロボットまで皆が重宝している。
そんなカイザーからの指名の依頼、しかも今回の報酬の額…先払いかのような振り込みで圧をかけてきている。
俺はこの仕事をまず断れない…正直もうあのバケモノどもの相手はしたくないんだがな…。
…にしてもアビドスね…俺個人にこれだけの金を積んでるんだ、あそこでどうしてもやりたいことがあんだろうけどよ…こいつはどうなることか…。
そんなクソッタレな電話の次の日、俺はまたもや例のカイザーの事務所に来ていた。
コンコン
「入れ。」
防音であろう分厚い扉を開けて中に入る。
「失礼します。」
そこに居たのはつい最近見かけたばかりの鉄のマスク、カイザーPMC理事だった。
「よく来たな…呼び出したのはほかでもない、例の仕事の件だ。」
口上や建前を吹っ飛ばして話を進める理事に少し焦りのようなものを感じる。
「回りくどいことは抜きにしよう、君には前回と同じように誘拐を頼みたい。」
まあ、だろうなと思った。
自慢じゃないがあのバケモノどもから逃げ切った誘拐はとびきり褒めて欲しいくらいにはキツかった。
今回はおべっかなんかじゃなく大マジで俺の腕を認めているのだろう。
「ただし、今すぐという訳では無い。」
「と、いいますと。」
書類を持ち出しながら理事はさらに話を続ける。
「実は、私には協力者が居てな。そいつの準備が整ってから、という手筈になっている。」
「協力者、ですか。」
協力者か…目的が似たようなものだとするとそいつもアビドスが目当てか?
砂漠しかねえってのに人気だなアビドス。
「…そうだな、ヤツはお前にも興味を示していたようだし…いずれ会わせることもあるやもしれん。」
「はぁ…。」
…俺に興味だと?
俺のドライビングテクニックに対してだろうか。
「しかし…いえ、誘拐の件は分かったのですが…その…。」
「分かっている、予定すら決まっていない仕事のためにお前を呼んだわけではない。」
そういうと理事はアタッシュケースを探りながら言った。
「お前にはこれからの話を聞かせによこした。」
ドサッ
「単刀直入に言おう、うちで働く気はないか。」
テーブルの上に200万を置きながら理事は話す。
「と、言っても。協力者の準備が終わり、お前が誘拐の仕事を始めるまでの期間契約だがな。…賃金は見ての通りだが、どうだ?」
…何故、という考えが浮かぶ。
いや、あのシャーレの先生から逃げ切った腕を買ってくれているのは嬉しいんだが…それとPMCと働くのとでは使う技術が違う。
「疑問に思っているな。」
「…恐れながら、私は逃げることや運ぶことは得意ですが…理事の手掛けるカイザーPMCのような戦闘が主体の業務はどうも腕に覚えがなくてですね…。」
俺の言葉に対してフンと鼻を鳴らして理事は話す。
「訓練も受けていない素人ごときに戦闘能力を期待しているわけがないだろう、私が期待するのは前にも言ったようにお前の確実な運転、運搬だけだ。」
…なるほど。
「…そんなに私を買ってくださっているとは、光栄です。」
おそらく理事は万一にでも俺がアビドス側に付いたり仕事をバックれたりする可能性を減らしたいのだろう。
カイザーPMCの社員として住み込みの業務契約を結び、俺を仕事までそこで拘束して確実な戦力にさせると言ったところか。
「…チッ、誤解するな、お前のような闇市崩れなんぞいくらでも替えは効く。」
睨むように光る赤いライトの目が俺を見る。
「だが、お前の協力によって成功率が上がるのも事実だ。少なくとも私の協力者はそう捉えているらしい…ならば私は成功のためにできる限りの事をやるというまでだ。」
どちらかと言うと理事の協力者方が俺の腕を見込んでくれているらしいな……。
…まぁ、どっちにしろこの仕事は断れなかったわけだし、拘束代として追加の報酬をいただけるのはなかなかにラッキーだ。
「わかりました、喜んで引き受けさせていただきます。」
「…フン、ならば明日からこちらの拠点に来てもらう。荷物をまとめておくことだな。」
お前のような闇市のガラクタ風情が一瞬でも我々のような大企業に務められるのだ、せいぜい身を粉にして働け……とかなんとか言い残して理事は俺を帰らせた。
にしてもわざわざ200万も出して俺を拘束するか…ここまでされると本格的にやばい仕事っぽくて怖くなってきたな。
まあ俺は理事と違って戸籍はないし名前も顔も変えられるからやばい時は逃げられるが…運び屋としてそこそこ名の売れたいまの”アシヤ”を失うのは少し惜しいな…。
__________
なんてことを考えていたのがちょうど昨日。
現在、俺はカイザーPMCの基地にいた。
業務の内容は他に基地で働いてロボットどもと同じで荷物の運搬やら見張りといった戦闘の絡まないことをやっている。
「よぉ新入り、仕事は慣れたか?」
優しい先輩たちにも恵まれているし、そこそこ快適だ。
「ここは砂嵐も来にくい地形だからいいが、少し向こうに行くと流砂とかもあるから気をつけろよー。」
…もっとも、ここはアビドス…
おそらくは、協力者とやらの準備が整い次第すぐに動けるように敵の本拠地たるここアビドスに俺は配置されているのだろう。
ここがカイザーPMCの主要拠点であることも大きい。
まあもちろん、数日前にここでトラウマおった身としてはなかなか怖かったが、そんな思いは仕事を続けるうちに減っていった…………
「ブラックジャーック!」
「うわああ!マジかよ!」
「はははは!アシヤーお前ついてないなー!」
少なくともその日の夜になったらテントにて仕事仲間とトランプで遊ぶくらいには。
「アシヤもほら飲めよ!」
「いや俺飲料改造してないからよー。」
「え?嘘だろ!?型が古いなお前~俺の爺さんでもアルコール用味覚センサーくらいはつけてたぜー?」
「安く済ませたいならブラックマーケットの闇医者紹介してやるよ!酒ぐらい飲めねーとクソッタレな世の中やっていけねーぞー!」
「勘弁してくれよ、俺ぁまだ燃料がメチルになるのはごめんだぜ。」
適当に会話しながらさりげなく飲料を拒否る。
飲みたいのはやまやまだが…中身がバレちまう。
こういう時不便だしスーツ改造して何とか飲めるようにしたいがなかなかいいパーツが流れこないからな…。
「あ、それでよぉ…例のアビドスについてなんだが…。」
…そんな具合に酒も飲ませたところで同僚たちからアビドスについての話を聞く。
…情報屋から多少は買っているが足りないところもあるからな、現場の声でカバーだ。
そんなこんなで仲間とも打ち解け、多少情報も集めたところで理事と共に仕事をして少したった頃、積もった油断を詰るかのようにその時は来た。
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ロボットどもと遊び騒いだ次の日の昼、いつものように穴を掘ったり、地形の分析をPMCの拠点で仲間と共に行う。
「…ん?お、おい!侵入者だ!」
「捕らえろ!逃がすな!」
警戒中のロボットから大声がなり響く。
…なにやら少し離れたところで侵入者と接敵としているらしい。
硝煙に包まれた銃弾の音が遅れてやってくる。
ウィーン!
緊急アラートの音ともに奥からアパッチや戦車まで出てきた。
…投入戦力が多すぎないか、何がきたってんだ…
「何事だ!」
騒ぎを聞きつけた理事が慌てて駆けつける。
「り、理事…前方エリアに侵入者が!現在対処に当たっていますが…これは…。」
「なんだと…?チッ…私も出る!部隊αとβ…それから、アシヤは着いてこい!」
どうやら理事も侵入者の元へ向かうようだ。
護衛用の部隊2チームとともに呼び出された俺は装甲車両の運転を任された。
「本来俺は戦闘には関わりたくないんですけどね…」
「黙って運転しろ、お前のようなガラクタを何のために雇ってやっていると思っている。」
「了解です…。」
弱音を吐きながら理事を乗せた装甲車を運転する。
そのうち景色は壊れたドローンなんかが見えるようになり、侵入者のその姿をはっきりも見えた。
「あれは……」
なんでこんな所に来てやがる……。
そこに居たのは、先生とアビドス高校の生徒たちだった。
「侵入者とは聞いていたが…アビドスだったとは。」
銃撃戦が落ち着いたのを見計らって硝煙の中から理事はアビドス一行の元へと歩いた。
「勝手に人の私有地に入り、暴れたことによるこれらの被害額。」
「君たちの学校の借金に加えてもいいのだが、まぁ大して額は変わらないな…。」
淡々と話す理事を3歩後ろから見届ける。
「…あいつ、あの時の…。」
「確か、例のゲマトリアが狙っていた生徒会長……いや、副生徒会長だったか?」
……ゲマトリア?…例の理事の協力者だろうか。
「…ふむ、面白いアイディアが浮かんだ。便利屋やらヘルメット団…運び屋を雇うよりも良さそうだ。」
こちらにちらりと視線をやりながら理事は話した。
「べ、便利屋?何言ってるの?」
「…あなたたちは、誰ですか?」
嬢ちゃんたちは警戒を強め、睨むようにこちらを見ながら話す。
…誰ですかって…ええ?知らないのこいつら?
うーん…どうも今の自分たちの状況すら理解していないように見える。
「…まさか私のことを知らないとは。アビドス、君たちならよく知っている相手だと思うがね。」
「私は、カイザーコーポレーションの理事を務めているものだ。」
「そして君たち、アビドス高等学校が借金をしている相手でもある。」
「嘘!?」
理事は小鳥遊ホシノの元まで歩くと、続けた。
「では、古くから続くこの借金について話し合いでもするとしようか。」
__________
「アビドスが…借金をしている相手…。」
『か、カイザーコーポレーションの…。』
「正確に紹介すると、カイザーコーポレーション、カイザーローン、カイザーコンストラクションの理事だ。
今は、カイザーPMCの代表取締役も務めている。」
見下すように首を曲げアビドスの連中に名乗る理事は中々気分が良さそうだ。
「それはどうでもいいけど、要はあなたがアビドス高等を騙して搾取した張本人ってことでいい?」
銀髪の嬢ちゃんが詰め寄るように言い放つ。
…まあ、その通りだが、この状況においては酷く的はずれな言葉だ。
「…ほう。」
「そうよ!ヘルメット団と便利屋を仕向けてここまで私たちを苦しませてきた犯人があんたってことでしょ!?」
確かに、そうかもしれないが…。
「…ふむ?」
「あんたのせいでアビドスは…!!」
うーんしかしなんというか…。
「馬鹿だな…。」
思わず口から漏れた言葉にアビドス一行の視線が俺に集まる。
「フン…まったくだ。やれやれ…最初に出てくる言葉がそれか…。」
「勝手に私有地へと侵入し、善良な我がPMC社員を攻撃し、施設を散々破壊しておいて…」
「くく…面白い…ああ、まさしくアシヤの言う通りだ。」
「な、何笑ってんのよ…!というかその後ろのロボット…誘拐の時の…。」
セリカから目線を向けられ、ひらひらと手を振って話す。
「…よぉ…嬢ちゃん、久しぶりで悪いがな…口の利き方には気をつけた方がいいぜ、あんたらは今…合法的に事業を営んでいる企業の私有地に対して不法侵入している立場なんだからよ。」
「えっ…で、でも…あんたたちが騙してたのはホントでしょ!?」
「あぁ?…それは…。」
思わず言い返しそうになって口をつむぎ、理事の方をちらりと見る。
鋼鉄の顔面からは表情は読み取れないが…
「クク…いいじゃないか、言ってやるといいアシヤ。どうやら君らは顔見知りみたいだしな…。」
機嫌はいいようだ。
「か、顔見知りみたいって…あんたが私をこいつに攫わせたんでしょうが!」
「ふむ?だそうだが…そうなのか、アシヤ?」
ニヤニヤと笑みを浮かべたように話す理事の投げかけに対して軽く笑いながら話す。
「…なんのことか分かりませんな。知り合いのヘルメット団に話を持ち掛けられて、協力したことはあれど…カイザー様とは縁もゆかりもございませんぜ?」
「は、はぁぁぁ!?」
叫ぶ嬢ちゃんに対して続けてまくし立てる。
「それに、嬢ちゃんよ。さっきから騙しただの搾取しただの言ってるが…それは一体なんの話なんだ?」
「アビドス自治区の土地…だったか?それを買ったからなんだって言うんだ?全ては合法的な取引、記録もしっかりと残っているんだぜ。」
「っ………。」
相変わらずオツムが弱いなお嬢ちゃん。
騙す、搾取、確かにそうかもな?
だが法律に違反していない限り俺たちはまったくのシロだ。
なかなか表に出てこない大人とせっかく話をするチャンスだというのに言うに事欠いてそんなことについての文句なんてのは三流超えてバカのやることだろうよ。
「ああ…アシヤの言う通りだ。私たちがまるで不法な行為でもしているような言い方はやめてもらおうか。わざわざ挑発しに来た訳では無いのだろう?」
俺の話に満足したのか同意しながら理事は話を続ける。
「ここに来たのは、私たちが何をしているのか気になったからか?どうしてアビドスの土地を買ったのか知りたいのか?」
理事は見下すように話す。
「それならば教えてやろう、私たちはアビドスのどこかに埋まっているという宝物を探しているのだ。」
先生の性別はどちらがいいでしょうか?
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男先生
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女先生