「おい、あんたが例のドライバーか?」
変声機の調整をし終わったヘルメットから返事をする。
「ああ、そうだ。アシヤと呼んでくれ。運転のことなら任せておけ、アビドスのことなら逃走ルートはいくつも知ってるし、砂漠のど真ん中でも迷わずに進めるぜ。」
「おお!頼もしいじゃねえか!よろしくな!」
現場で顔合わせをしたヘルメット団と会話を交わしながら、今回の誘拐のターゲットである生徒の情報に目を落とす。
黒見セリカ、アビドス高等学校所属の生徒。
今回のターゲットだ。
こういう誘拐の時は大抵所属の高校のやつらが気づいて追ってくることが多い。
そのため、一応情報屋でアビドス高等学校のことを調べてきたが、なんと生徒数はたったの5名。
高校として存続できてるのが奇跡なレベルで人が少ない、なにか事情があるのだろうが…まあ知る必要はないだろう。
今回の仕事に関係するのは生徒がたったの4名というところだけだからな。
俺の仕事はあくまで誘拐して輸送ところまでだ。
後々事態が発覚した後に連邦生徒会が来ようがヴァルキューレが追ってこようが知ったことでは無い。
そう考えた時、俺が注意を払うべきは所属高校の生徒4名だけだ。即座に事態に気づき追ってこれるのはそいつらだけだからな。
生徒とはいえ、たったの4人だ。
リスクは高いがなかなか楽な仕事になりそうだな。
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店からひとつの影が出てきたのを見て車を走らせる。
「きゃっ!何よアンタら!むぐっ…」
実行部隊のヘルメット団たちがラーメン屋から出てきた獣の耳を生やした少女の口を抑えトラックに詰め込んでいく。
いよいよ仕事の時間だ。
頭に叩き込んだルートに向けて車を全速力で走らせる。
「案外簡単だったな。」
「成功したようで何よりだ、俺はこのまま前を走るからお前らはピッタリくっついて着いてこい。」
無線でヘルメット団と連絡を取り合いアジトに向けて突き進む。
…こっちには砂嵐がある…ここは砂にタイヤを取られるから避けて…。
見つかるとまずいためハイビームはつけずに夜闇に紛れて記憶してきたルートを感覚で進む。
あいからわずアビドスは運転が難しい、舗装された道ならまだいいのだがほぼほぼ砂の上を走っているので注意するべきことが多い。
「むぐー!むぐぐー!」
そんな具合に割と集中して運転していたのだが、後ろのターゲットがジタバタと暴れて何やらうるさい。
あまり騒がれて車を揺らされるのも困るな…この辺の道はデリケートなんだが…。
「あー、悪いな嬢ちゃん。誘拐は初めてか?大丈夫、殺したりしないし、危害もそんなに加えないと思うから。」
なるべく明るげな声で話しかけてやる。
「むぐぐ…!」
めっちゃ睨んでる、怖ー。
この辺の道を走っている時に唸られると気が散って危ないので、仕方なく口につけていた布を取るよう同乗していたヘルメット団のやつに指示を出す。
「ぷはっ!…あ、あんたたち、こんなことしてただじゃおかないんだから!!」
「あーあー悪かったよ、用が済んだらすぐに帰すからちょっと大人しくしててくれないか。」
送ったあとは俺は関係ないので適当なことを言って宥めすかすことにした。
「よ、用って何よ!何をする気!」
「え?あー…いや俺下っ端だからなー、分からんけどさ。」
まあそんなに酷いことはされないとは思うが…。
「わ、分からないって…うう…なんでこんな目に…。」
そんなふうに話していたところ。
目に涙を浮かべ、少女はか細く言葉をこぼした。
「おいおい泣くなよ…大丈夫だって、命とか取られる訳じゃないだろうしさ…そんなに思い詰めんなよ、話聞くぜ?」
「…あんたに何がわかるのよ!…悪い大人には騙されるし、稼いでも稼いでも借金は減らないし…誘拐はされちゃうし…うう…。」
ハンドルを操作しながら話を聞く。
聞いてる限り随分悲惨な経験をお持ちのようだ。
…とはいえ、大人に騙されるねぇ…
ブラックマーケットにもそういう搾取される側のカモは多い。
そりゃそうだ、スケバンだとかどっかの企業崩れのどうしようもない馬鹿が吹き溜まりになって集まってるようなところだからな。
学校に通ってるようなやつの中にもそういう奴っているんだなぁ。
…そうだ…。
「なぁ嬢ちゃん、騙されないようになる方法、教えてやろうか?」
「ぐすぐす……何よ、急に…。」
「いやなに、話を聞いてるだけで心が痛んできてな。」
「…誘拐犯のくせに何言ってんの…。」
ド正論だ、まぁ実際嘘だし…。
「まぁまぁ、そう言うなよ。ただでさえ嬢ちゃん馬鹿っぽいし聞いといた方が得だぜ?」
「馬鹿って何よ!」
「いやー何って言われてもな」
キュルキュル
ヘルメットに付属された音声ダイヤルをクルクルと回す。
「今だって嬢ちゃん、俺に騙されてるくらいだしな。」
俺は変声機で声を変えながら話した。
「あ、あんたその声…ロボットじゃ…変えられるの!?」
明かりのない暗い車内、きっと嬢ちゃんは変声機で生徒風に声を変えていた俺はヘルメット団と思っていたのだろう。
「ロボットならパーツ次第で声どころか顔だって変えられるぜ?
…で、どうだ?言動ひとつでも結構騙されるもんだろ?」
「そ、それは…でも卑怯じゃない!そんなの変えられるなんて知らなかったし…。」
いいね、乗ってきた。
このまま話をしながらとりあえず安全な道まで行こう。
「”知らなかった”、そうさ、嬢ちゃんはまだガキンチョで、世の中知らないことの方が多い。だから知ってるヤツらに騙されるんだ。」
「…じゃあなによ、勉強しろとでもいうの?」
「まさしく、だって大人たちは勉強してきたヤツらなんだぜ。対等にやり合うにはこっちだってモノを知らないと舐められるし騙されるんだ。地味だが、生き残るためには割と大事な事だぜ。」
実際、ブラックマーケットでもカモにされるようなやつは、何も学ばず、身につけず、惰性で生きてるような奴らだ。
俺自身行き当たりばったりで生きてるからあんまり人のことは言えないけどな…。
…おっ、危険地帯は抜けたな。
抑え目にしていたスピードを少しあげた。
「…なんか、教師みたいよね、あんた。」
「あー?勘弁してくれよ、俺が先公なんて冗談じゃない。」
「でも、こうやって色々教えてくれるところとか、勉強しろってうるさいところとか、教師みたいじゃないの。」
セリカはくすくすと笑いながらそう言った。
冗談きついぜ、教師っていうのは俺みたいなやつじゃなくて…こないだ会った先生と呼ばれていた大人みたいなやつのことを言うのさ。
「…というか、忘れてるようだが俺、嬢ちゃんのことを誘拐してるんだからな。」
「……あ!」
「…そんなんだから騙されるんじゃないのかよ…。
まあいい、それより色々教えてやったんだからしばらく静かにしててくれや。」
そう言って俺は運転に再度集中し始めた。
…ちと話しすぎたかな、俺らしくもない。
普段ならこんな1円にもならないのにこんなに教えてやったりなんざ絶対にしないが…
…ちょっとだけ、昔の自分と重ねちまったのかもしれない。
まぁ、お陰でそこそこ時間を稼げた。もう少しで目的地だし結果オーライだろう…。
そんなことを思っていた時。後部車両から爆音とともに煙が上がった。
ドゴォォン!
「アシヤだ!何が起きた!」
無線でヘルメット団たちと連絡を取り合う。
「敵………おそら……ビドスの………。」
途切れ途切れの通信は敵襲を告げていた。
…馬鹿な、アビドスの追手?
早すぎる、場所が掴めないように痕跡を残りずらい道を通ってきたし、最小限の灯りしかつけずに隠れるように進んでいたはずだ…追いつかれるわけが…。
車を全速力で走らせながらミラーで後ろの様子を見る。
…嫌な予感がする。ワカモの仕事の時と同じ、自分の想定から大きくズレるような…まるで相手に奇跡でも起こされたような感覚…。
後部車両はほぼ全滅しかけ、ピンク髪の生徒がこちらに凄まじいスピードで迫ってきている。
まさか…と思い生徒の後ろ、爆炎で隠れた人影を注視する。
そこに立っていたのは、ヘイローのない黒髪の女性。
…例の先生サマが立っていた。
先生の性別はどちらがいいでしょうか?
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男先生
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女先生