エルフの森はなぜ焼かれたのか? ~平和な森が炎に包まれた理由~   作:第616特別情報大隊

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アルフヘイム株式会社

……………………

 

 ──アルフヘイム株式会社

 

 

「アルフヘイム株式会社? ああ、覚えているとも」

 

 再び私がリリエルにインタビューしたとき、すでに最初のインタビューから半年以上が過ぎていた。

 その間に私は七尾から接触を受け、それからモリと刑務所で面会している。

 

「ソフィエルの発案だと聞いていた。彼女は『これからは労働にはちゃんとした対価が支払われる』と言った。そして、私たちに金貨を配ったんだ」

 

 異国の王が描かれた金貨は自分にも与えられた、とリリエル。

 

「『これからはより多く働ければより多くの対価が得られる。そして、自由にその対価を使って取引することができる。魔族にただホワイト・ピークを渡して糧食を得るだけの日々は終わったのだ』とそう言った」

 

「自由な取引と言ってもルナリエン自治領にはホワイト・ピークしか……」

 

「良くも悪くも私たちはすでに外部と繋がっていた。キメラ作戦に従事する情報軍の戦士たちや傭兵たち、そしてディザータも。特にディザータはいろいろな商品を持ち込んだ。服やアクセサリー、酒なども」

 

 エルフたちの閉じた世界は開かれていた。

 ホワイト・ピークと武器の取引であるキメラ作戦によって。

 その歪んだ世界の開放に私は若干の嫌悪感を覚えた。

 

「エルフたちはより真剣に働くようになった。ホワイト・ピークは大量に採取されるようになっていて、そこから武器の代金に支払われるもの以外の金がエルフたちに渡った。それによって確かにルナリエン自治領は豊かになり、灰色だったエルフたちの表情に色ができた」

 

 だが、とリリエルは続ける。

 

「同時にこれまでにはなかった犯罪も生まれていた。これまでは食料を巡って争うことはあっても、金銭を奪うために同胞を殺すものはいなかった。酒に酔って暴れるようなものもいなかったし、まして……金のために男と寝る女もいなかった」

 

 自分がキメラ作戦に同意し、それを始めたからそれらの犯罪が生まれてしまったというようにリリエルの表情には後悔があった。

 だが、彼女はただエルフの社会への進出を早めただけで、いずれはそのような現象は起きていたのだと私は慰めたかった。

 だが、インタビュアーとしてあまり私情を挟んではならないと口を結んだ。

 

「やがてアルフヘイム株式会社は大きくなった。ルナリエン自治領のほとんどのエルフが農地とともにそこに所属し、アルフヘイム株式会社は農地も買い上げていった。効率化、効率化、効率化。いつもソフィエルはそう言っていて、彼女のやることは確かに成功していた。ホワイト・ピークは右肩上がりに増産されていたからね」

 

 ふうとため息を吐きながらそう語るリリエル。

 

「農業者が雇用されるのは分かりましたが、兵士たちはどのような形に?」

 

「私たちにはルナリエン自治領の戦士として給料が支払われた。だが、大抵のエルフは兵士をしながらホワイト・ピークの農地で働いてたよ。そうすればもっと稼げるからね」

 

「あなたは?」

 

「私は魔族からの独立というものが果たされないうちに浮かれるつもりはなかった。ソフィエルにもはっきりとそう伝えていたよ」

 

 リリエルは続ける。

 

「ソフィエルとのずれが感じられ始めたのはそのころからだった。前から彼女は確かに優秀であったが、そのときは水を得た魚のようになっていた。情報軍の軍人たちが持ち込んだパソコンと言う機械を使いこなし、ルナリエン自治領で起きていることのほとんどを正確に把握していた。恐ろしいぐらいに」

 

 ルナリエン自治領でアルフヘイム株式会社が保有する農地の収穫量から運び込まれた武器の数と性能まで正確にソフィエルは記憶していたと彼女は語った。

 

「だが、それからだ。彼女は数字でしかルナリエン自治領の未来を語らなくなった。『今年の収穫量が2000トンを超えれば新しい機関銃やトラックが買える』とか『兵士の訓練時間を減らし労働時間を1日9時間まで延長できるか?』とかね」

 

「彼女は会社の経営に熱心だったのですね」

 

「ああ。そうだね。熱心すぎたと言っていい。彼女には会社のことばかりが頭にあり、他のことは二の次になった」

 

 最初が武器を持って魔族と独立するために戦うはずが、広大なホワイト・ピーク農園を守るために魔族と敵対することになったと彼女は呟くように言う。

 

「そういえば魔族との戦いはどうなったのですか?」

 

「アルフヘイム株式会社が設立された時期にはついに全面的な戦争が始まりだしていた。これまでは情報軍の戦士たちが魔族を暗殺したり情報を集めてくるだけだったが、我々エルフも作戦に加わり戦闘は始まった」

 

 しかし、とリリエルは目を僅かに伏せる。

 

「そのときソフィエルは魔族との戦争に消極的になっていた。彼女はホワイト・ピーク農園を守ることに兵力を必要としているといい私から戦士たちを奪い、前線に送ろうとしなくなった」

 

「それは……」

 

「ああ。本来の目的に反する。私は魔族から独立を勝ち取るために情報軍と手を握ってキメラ作戦を始めたのだ。ホワイト・ピークもディザータもアルフヘイム株式会社も、全ては独立を勝ち取るための道具だったというのに……」

 

 そう、リリエルがホワイト・ピークという麻薬の取引という手段に出たのは、魔族連合軍からの独立のために武器を買うためだった。

 それはまさに悪魔との取引だ。

 そして、往々にして悪魔は甘言を操り契約を破ろうとするものだった。

 

「アルフヘイム株式会社が生まれてからエルフたちは一時は団結したものの、その団結にもひずみが生じ始めていた。貧しいエルフと豊かなエルフという一種の階級が生まれ始めたんだ」

 

「階級ですか?」

 

「そう、これまでエルフたちは皆が同じような生活水準だった。確かに全員が貧しかったといえばそこまでだ。だが、アルフヘイム株式会社が生まれて『働くものはより豊かになる』というソフィエルの掲げたモットーが導入された」

 

 多く働いたものは多くの対価を得て豊かになり、そうでないものとの差が生まれた。

 

「この仕組みは最初はエルフたちにやる気を出させた。だが、軍の指揮官たちやソフィエルの部下である高官たちは、配下にいる地位のないエルフたちを自分の代わりに働かせることで多くの富を得始めていた。それによって階級は固定化され始めたんだ」

 

「あなたも軍の高官でしたね?」

 

「ああ。私も部下を咎めたことは何度もあるが言っても聞きやしなかった。私はそういうソフィエル派の人間からは少しずつ疎まれ始めていた」

 

 それでもそのときは何とかなっていたとリリエルは言う。

 

「ソフィエルはまだ私と話す場を設けてくれていた。彼女にとっても私にとってもお互いは盟友だったんだ。私は彼女に懸念を伝えた。『ソフィエル。このままでは魔族連合軍からの独立は果たせない。前線に兵士を送らねければ』と」

 

「それに対する彼女の答えは?」

 

「『心配しなくていい』とまず彼女は優しく言った。『魔族連合軍は今や急速に衰退していっている。これを見るんだ、リリエル』とそう言って彼女はパソコンで映像を見せてくれた。それは人類国家の軍隊と魔族が戦っている映像で、人類国家の軍隊は地球製の武器を使っていた」

 

 つまり、地球からの支援を受けていたのは、当然ながらルナリエン自治領のエルフだけではなかったのだ。

 七尾が言っていたように人類国家の前線が崩壊しないように軍事支援が行われていたのである。

 そのことを私はリリエルの証言から詳しく知った。

 

「人類国家の軍隊は戦車という鉄の戦象まで持っていた。それは魔族たちをなぎ倒していた。金属の鎧まとった巨大なオークがやわらかい粘土のように粉砕され、多くの魔族が一方的に倒されていた。『戦いは彼らに任せればいい』とソフィエルは言った。『もうエルフが血を流す必要はないのだ』と言った』」

 

「納得したのですか?」

 

「いいや。私たちはそれでも戦う必要があると思っていた。土地とは血を流したものにしか与えられない。そういう歴史がある。私はそのときもまだ魔族に奪われた平地を取り戻し、そこでホワイト・ピークを捨てた生活を送ることを夢見ていた」

 

 その夢が最終的に叶わなかったことは私と彼女はこうして話していることからも分かってしまっていた。

 それでもどうしてエルフたちが平地を取り戻させなかったのか。それが分からない。

 

「……そして、アルフヘイム株式会社が取引していたのは情報軍やディザータだけではなかった。ソフィエルが血を流さずともいいと言っていたのには理由があった」

 

 彼女は私に浮かんだ問いではなく、別のことについて語り始めた。

 

「我々はホワイト・ピークを売って武器を買っていた。では、人類国家はどうやって武器を得ていたのか」

 

「どういう仕組みだったのですか?」

 

「アルフヘイム株式会社が武器商人から余分に武器を買って、それを人類国家に売却して対価を受け取っていたんだ。だから、ソフィエルの下には人類国家の富が集まっていた。従業員に支払う金貨、兵士に支払う金貨、そしてソフィエルが独立後のためにとため込んだ金貨」

 

 異国の王の顔が描かれた金貨は異国の地であるルナリエン自治領にため込まれていたというリリエル。

 純粋にそれは金としての価値があり、ルナリエン自治領においてはルナリエン自治領が保証する信用通貨としての価値もあったと彼女は語る。

 

「武器商人の姿は見ましたか?」

 

 私は次は武器の流れに興味を持ち、そう尋ねる。

 

「ああ。やはり君たちと同じようなアジア系という人種だが、気取ったスーツ姿で七尾と同じ雰囲気がする男だった。その名前は──ワン・シア」

 

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