エルフの森はなぜ焼かれたのか? ~平和な森が炎に包まれた理由~   作:第616特別情報大隊

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フライングエッグ・ダウン

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 ──フライングエッグ・ダウン

 

 

 その事件が起きたのはリリエルたちがひとつの作戦を終えたときだったそうだ。

 

「私たちは魔族の補給物資が馬車で運ばれるのを襲撃した。街道を進む馬車を待ち伏せて爆薬で吹き飛ばし、魔族に銃撃を浴びせた」

 

 その戦いそのものは勝利したとリリエルは語る。

 

「しかし、負傷者が出た。ひとりのエルフが敵の魔法を浴びて大火傷を負ってしまったんだ。すぐに治療が必要であり歩いて帰っていては助からないと判断し、私たちはヘリに救援を要請した」

 

 のちに私が調べた資料によればヘリは当時アークライト・インターナショナルが運用しており、民間軍事会社(PMSC)のコントラクターが操縦するヘリがエルフを助けるために駆けつけたはずだ。

 

「私たちはヘリに負傷者を乗せてこれで一安心だと思い、そのまま拠点に帰ろうとした。だが、そこで無線から助けを求める声が聞こえてきた」

 

 それは先ほど負傷者を運んでいったヘリからだったとリリエルは暗い表情で語る。

 

「『ヘリが撃墜された。負傷者がいて動けない』とそう助けを求めていた。私は慌てて無線に向けて連絡した。『そちらの場所はどこだ? すぐに助けに向かう』と」

 

 ヘリが撃墜された位置をリリエルは今も正確に記憶しており、私は彼女に教えられてその場所を訪れた。

 あのルナリエンを見張る魔族の砦から北に10キロほどの地点にある平原がヘリが墜落した場所だ。

 私は今もヘリの残骸が残っていることを期待したのだが、現地は今ではただの草原となっており血の跡も炎上したヘリの痕跡も残ってはいなかった。

 

「私たちはすぐに向かった。運ばれている負傷したエルフもヘリを操縦していた人間のことも心配だった。彼らが魔族に捕まれば……」

 

 具体的にどのようなことが捕虜となったエルフに魔族が何をしたのかをリリエルは語ろうとしはしなかった。

 彼女にとってはもう思い出したくもない記憶なのだろう。

 

「私たちは急いで墜落地点に向かった。傾いた太陽から赤い夕陽気が差し込む中で、遠くに煙が見えた。『あれだ』と私は言った。あそこにヘリが落ちたに違いないと」

 

 不吉に黒く立ち上る煙。その周りにはすでに魔族の姿が見えたとリリエルは語る。

 

「魔族たちは恐らく魔法を使って低空を飛行していたヘリを撃墜したのだろう。やつらの弓矢などはヘリには有効ではなかったはずだから」

 

 攻撃魔法の有効射程は15メートルから80メートル程度とリリエルはいう。

 狙って当てられるのはその程度で、それから先はまぐれ当たりの領域だと。

 ヘリがどうして低空飛行していたかは分からないが、魔族の魔法以外にヘリを落とす手段がないことだけは事実だと考えられた。

 

「私たちは仲間を救出しなければならなかったが、墜落地点には魔族が次々に押し寄せていた。私たちは無線で連絡した。『まだ生きているか? すぐそこまで来ているから今は踏ん張るんだ』と」

 

「返事は……?」

 

「……なかった。彼らの生存は絶望的かもしれないと思われたよ。だが、私たちはそれでも諦めなかった。計画を練り攻撃を仕掛けることにした」

 

 すでにひとつの作戦を終え、弾薬も不足していたエルフたちはヘリを見張るリリエルたちの部隊と増援ともに戻ってくる若い将校が指揮する部隊に分かれた。

 その部隊を指揮していたのがエセリオンだ。

 そう、私が初めてルナリエン自治領を訪れたときに銃口を向けてきたエルフである。

 

「私たちは増援と合流する部隊から武器弾薬を受け取り、とにかくヘリが見える地点まで向かうことにした。ヘリが撃墜された地点のそばには茂みに覆われた丘があり、私は3名のエルフとともにそこからヘリを監視した」

 

 私はその丘も見てきた。

 丘には確かに腰ぐらいの高さまで雑草が茂っており、身を隠すにはうってつけのように見えた。

 リリエルたちはあの茂みから墜落したヘリを見ていたのだ。

 

 茂みから墜落したヘリを見るリリエルたち。

 

「すぐそこに魔族がいた。魔族たちはヘリを取り囲むように円を作っていて、その円の縁のぎりぎりに私たちはいたんだ」

 

 魔族たちは横転して横倒しになっているヘリから一定の距離を取り、その場所から矢や魔法を浴びせていたとリリエルは語る。

 

「墜落したヘリを攻撃していたのですか?」

 

「生き残りが応戦したのだろう。ヘリにも自衛用の小火器が積んである。魔族は私たちの持っている銃火器を酷く恐れるようになっていたから、まずはヘリの生き残りの銃火器の弾薬を切れさせ、それから攻撃しようと企んでいたのだろう」

 

 私たちは考えたとリリエルは言う。

 

「魔族たちを背後から奇襲して、ヘリの乗員を助けて逃げるか。それともやはり増援が来るのを待って確実さを選ぶか。選択肢はふたつあった。私は判断を迫られた」

 

 当時のことを思い出すようにリリエルが重々しく私に語る。

 

「部下たちは奇襲を求めた。今ならば4名でも魔族を蹴散らせると。だが、私は結局、増援を待つことにした」

 

 魔族の数は増え続けており、4名だけで奇襲しても最初は勝てるだろうが生存者を救出してから逃走する際に追手が増え続けて、ヘリの乗員だけではなく救出部隊である自分たちまで壊滅してしまうと考えた。そうリリエルは語る。

 

「臆病だったかもしれない。私は間違っていたのかもしれない。それでも私は選択した。部下たちはすぐに従ってくれたよ」

 

 二次遭難という言葉が正しいかは分からないが、救出部隊まで捕虜になるリスクを考えたのは正しい判断だろうと私は言った。

 私のその言葉にリリエルは無言で小さく安堵するように笑った。

 

「夕日が沈み始め、私たちは焦りを感じていた。ヘリの方は静まり返り、魔族たちがヘリに近づき始めたからだ。魔族たちは包囲の輪を狭め始め、ゴブリンが先頭に押し出されていった。魔族連合軍内でのゴブリンの地位は低く、今回のように肉の盾として利用されることもある」

 

 ゴブリンたちがヘリに迫るとヘリの中から発砲があったリリエル。

 

「それは拳銃の音だった。それでヘリに生存者がいることがはっきりした。私が双眼鏡でヘリの方を見ると、傭兵のひとりが頭から血を流したまま拳銃で魔族に応戦しているのが見えたんだ」

 

 そして安堵と同時により強い焦りも生まれたとリリエル。

 

「生き残りが魔族の捕虜になるのは時間の問題だった。そうなれば彼らには凄惨な結末が待っている。しかし、もう4名で助けるには魔族の数は増えすぎていた」

 

 魔族の数は100人を大きく超えるほどのもので、4名では銃火器のアドバンテージがあっても勝つのは難しいとリリエルは判断したそうだ。

 

「私たちは何もできない悔しさを味わっていた。目の前で酒を飲み交わした仲間である傭兵たちが魔族に捕虜にされそうになっているのに、私たちはただ増援を待つことしかできなかったんだ」

 

 悔しそうに唇を結んで一度黙り込むリリエル。

 

「それからどうなったのですか?」

 

「ヘリの生存者は抵抗を続けた。だが、やがて拳銃の弾丸も尽きたようだった。銃声はしなくなり、太陽が沈み切って月が高く上った時間に魔族は墜落したヘリの残骸に一斉に攻撃を仕掛けた」

 

 私はこの話を聞いている時点では全てが終わっているということを理解してはいたが、思わず息を飲んでしまった。

 

「魔族たちはゴブリンを突撃させてヘリに襲い掛かった。魔法使いたちは空に火球を打ち上げて照明弾代わりにヘリを照らす。直接ヘリに火球を撃ち込まなかったということは、やはり魔族は生存者を捕虜にするつもりなのだと分かった」

 

 照明弾のように放たれた火球は夜空に瞬き、その光でヘリを照らした。

 

「ゴブリンたちは短い槍を持ち、ヘリに突撃していく。だが、殺すなと命じられていたのだろう。ヘリの乗員を槍で突き殺そうとはせず生きたまま引きずり出そうとしていた」

 

 そこで部下のエルフが『戦士リリエル。彼らを助けに行きましょう。殺されてしまいます』といったとリリエルは思い返す。

 

「ダメだと私は言った。私たちまで捕虜になるか、殺されるだけだと言った。もっと早く攻撃を仕掛けていれば違った状況だったかもしれないが、あの状況ではもはや攻撃はただの自殺行為だ」

 

 言葉ではそう言っても彼女の口調には後悔のそれが滲む。

 

「ひとり、ひとり引きずり出された。私が持っていた暗視装置の映像では彼らが生きているのか、死んでいるのかすら分からない。彼らはぐったりしていて、ゴブリンに引きずられて連れていかれてしまった」

 

 鉄格子のついた馬車にヘリのパイロットとコパイの傭兵が放り込まれた。負傷で搬送される予定だったエルフはそのときすでに死んでいたのだろう。ヘリから引きずり出されたが、その場に捨て置かれたとリリエル。

 

「私たちは魔族が去ってからヘリの方に向かった。やはり負傷したエルフの若い兵士は死んでいたよ。それから魔族たちは銃火器は回収して行ったが無線は放置していた。無線は破壊されていなかったので、私たちは爆薬を使って処理した。そういう手順が定められていたんだ」

 

 ヘリの機密情報となる無線機などを冷静に処理し、それからエルフたちは冷たくなった同胞を死体袋に入れると故郷に帰すために担いだ。

 

「それからだ。増援が到着した。トラック2台と重機関銃を据えたテクニカル2台に兵士たち40名近くだ。当然ながら佐藤たちの姿もそこにはあった」

 

 佐藤たちは仲間が捕虜になったとすでに知っていた。

 彼らの飛ばした無人航空機(UAV)はヘリの墜落現場を捉えており、捕虜が連行される様子を佐藤たちは見ていたのだ。

 そうリリエルは思い出しながら語る。

 

「彼は言った。『すぐに捕虜を奪還しに行こう』と。『もう死んでいるかもしれない。だが、それでも仲間を見捨てるわけにはいかない』と佐藤は力強く私たちに言った。私たちに異論はなかった」

 

 そうやって救出作戦はスタートしたとリリエルは言う。

 

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