エルフの森はなぜ焼かれたのか? ~平和な森が炎に包まれた理由~   作:第616特別情報大隊

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本日1回目の更新です。


彼らに必要だったもの

……………………

 

 ──彼らに必要だったもの

 

 

 それから私はヘリ撃墜事件のあとのことを尋ねた。

 

「……本社はお冠だった。カンカンだ。俺たちコントラクターが実戦に出るのは基本的に許可されていなかったからだ。俺たちの仕事はあくまで訓練教官であり、戦闘への直接参加は契約書になかった」

 

「だが、あなた方は随分と前からエルフたちの戦いに参加していたのですよね?」

 

「そうだ。俺たちはエルフたちに軍事教練を施したが、時間も短く十分じゃなかった。彼らではまだ満足に戦えないと俺たちコントラクターは誰もがそう感じていた」

 

 完全に訓練だけを行ったのは18日と佐藤は正確に覚えていた。

 日本陸軍の兵卒でも3、4カ月は訓練を行うと彼はその短さを指摘しした。

 

「とりあえず銃が撃てる。それだけだ。『あれじゃあ実戦で酷いことになる』とエルナンデスも言っていたし、俺も酷く心配していた」

 

 訓練期間が短すぎることを彼らは本社と雇い主である情報軍に指摘したが、その指摘は無視されたと佐藤。

 それ以上の訓練は実戦を交えながら行うと本社は通達してきたそうだ。

 

「最初から使い捨ての駒にするつもりだったんだろうさ。そういう判断ができるのが情報軍の連中だからな」

 

 やはり佐藤は嫌悪を込めて情報軍について語る。

 

「だから、俺たちはそれに抗うことにしたんだ。エルフたちを死なせるな。彼らの戦いを俺たちも支えようと決意した」

 

「それは命令違反を犯しても、ということですか?」

 

「ああ。戦友の命を助けるんだ。それも助けられる命だ。多少の命令違反はやる」

 

 兵士は命令には忠実であらなければならないが、その命令が完全に間違っている場合は従うべきじゃないと佐藤は肩を竦めた。

 

「俺たちが前線に出る決意をしたのは、若いエルフが魔族の捕虜となったあとに奪還されたときだ。その若いエルフは拷問されていた。奪還に成功したときにはすでに四肢はなく……」

 

 彼はそれ以上語ろうとして言葉でない様子だった。

 見たものが頭に浮かんでいるが、それを口にすべきではないという葛藤が彼の苦しげな表情からうかがえた。

 

「……とにかく、魔族って連中がどういう外道なのかを俺たちは理解した。敵はおぞましいクソッタレだ。俺たちは怒った。エルナンデスが檄を飛ばす。『俺たちの教え子を拷問するような連中が俺が殺してやる。お前たちはどうだ!』と」

 

 俺はやつの檄に賛同したと佐藤。

 

「それからは連絡用のヘリを武装させて近接航空支援(CAS)戦闘捜索救難(CSAR)を行い、エルフたちを可能な限り死なせないようにと努力した。それでも毎日のように死人は出ていたが」

 

 何と彼らは本来連絡用だったヘリでエルフたちの戦闘に参加していたのである。

 本当にできることは何だろうとやろうと佐藤たちは決めたようだ。

 

「俺たちはいろいろと名目を付けては前線に出た。あるときは『自衛のための戦闘』としてあるときは『新しい戦闘訓練のため』として。日報にはそう書いておいた」

 

 佐藤は前線に出て直接戦いを指揮することもあったと語る。

 

「エルフたちに欠けているのはとにかく指揮官だった。指揮の執れる人間が欠けている。俺たちの短い訓練期間じゃ、士官や下士官を育成するのは無理だった。指揮官がいない軍隊は頭脳がない人間だ」

 

 日本陸軍では下士官は1年近くかけて育てるし、士官はもっと時間をかけると佐藤は語った。

 

「18日。18日では全然足りなかった。18日でできるのはヤクザの鉄砲玉ぐらいだ」

 

 佐藤は深くため息を吐いたのちに首を横に振った。

 

「だから、俺たちが指揮を執った。もちろん指揮官の育成は行っていたし、それも仕事のうちだった。俺を含めて士官教育を受けた人間はいたから問題はなかった。流石に指揮幕僚課程(CGS)の類を通過した人間はひとりしかいなかったが」

 

 現地にいたコントラクターの中で最上位の階級は佐官で中佐がひとりだけ。

 そのひとりだけが米陸軍指揮幕僚大学を出ていたと佐藤は語る。

 彼が主に教育のカリキュラムを作っていたとも。

 

「だが、すぐに必要なのは佐官や将官じゃなかった。現場で指揮とをれる尉官と曹だ。その点で俺たちの人材は厚かった。俺たちのほとんどは尉官と曹だったからな」

 

 だから、自分たちが今は育成中のエルフの指揮官たちの代わりに、また補佐として指揮を執っていたと佐藤は説明してくれた。

 

「しかし、エルフたちには地球の武器があったのでしょう? それでも彼らの戦いは有利には?」

 

「武器だけあっても無意味だ。戦争は兵士が戦うものだ。兵器の性能が発揮されるには、その前提となる兵士が必要な教育と支援を受けている必要がある」

 

 私の問いに佐藤は鋭くそう返した。

 

「現代兵器というアドバンテージを生かすためには、その兵器体系に沿った組織を作る必要あった。俺たちがやったのはその組織を発足させ、育成し、彼らのものとするためのものだった」

 

 佐藤は彼らコントラクターの重要な役割についてそう説明したのだった。

 

「指揮官の不足は今日明日に解決できる問題じゃなかった。エルフたちの軍隊には当初階級すら存在しなかったんだから」

 

「階級がなかった?」

 

「ああ。ある意味では儒教的な年功序列があっただけ。現代の軍隊に必要な指揮系統もあいまいだった。いざというとき誰が指揮を執るのかは、決まっていなかった」

 

 リリエルの話には出てこなかったが、彼らはとても大きな問題を抱えていたらしい。

 

「だから、まずは階級が必要だった。NATO式の階級制度がルナリエン自治領の軍隊に導入された。彼らをちゃんとした『軍隊』にするために。そう、彼の軍隊であるRLAにな」

 

「RLA……」

 

 ルナリエン(R)解放(L)(A)だ。

 私が遭遇した最初のエルフであるエセリオンが今も所属しているだ。

 

「RLAを作ったのはあなたたちなのですか?」

 

「ああ。当時のルナリエン自治領には複数の民兵組織が乱立していた。それを統一する必要もあった。暴力の独占は国家として必要なことだろう?」

 

 これまでは泥臭い傭兵として、現場の兵士としての視点から物語を語ってきた彼からマックス・ヴェーバーの言葉がでてくるのが意外だったが、彼も士官としての教育は受けているのだと思い出した。

 彼もまた国家と軍隊についての専門家なのだ。

 

「何よりエルフたちが共通して忠誠を誓える旗が必要だった。あのときのままでエルフたちを武装させれば内戦が起きていただろう。アフガニスタンの反タリバン勢力やミャンマーの反政府勢力がそうであったように」

 

 それは誰も望んでいなかったと佐藤。

 

「だから、俺たちはRLAを組織にその旗に忠誠を誓える人間だけに武器を与え、軍事教練を施した。エルフたちは大きな敵に立ち向かっており、団結が必要だったんだ」

 

 エルフたちがともに勝利を喜び、死者を悼み、肩を並べられる組織だと彼は言う。

 

「RLAの司令官は知っての通り、共通の友であるリリエルだ。俺たちは彼女を司令官となるように支えた」

 

「しかし、ソフィエルは?」

 

「ああ。彼女はルナリエン自治領の長だ。つまりRLAを傘下に収める政府の、その文民のトップになる。まあ、当時のルナリエン自治領に文民統制をやっているような余裕はあまりなかったが……」

 

 ここでリリエルとソフィエルの関係が明らかになった。

 最高指導者としてはソフィエルが残ったが、RLAという軍事組織にはリリエルが司令官として就任したのだ。

 

 だが、私はこの関係に危うさを感じずにはいられなかった。

 特に私はアルフヘイム株式会社の話を聞いている。

 アルフヘイム株式会社が兵士たちを雇用していたという話を聞いている。

 彼らの副業であるホワイト・ピーク製造にアルフヘイム株式会社が賃金を支払っていたということも。

 本当にエルフたちはひとつの組織に忠誠を誓っていたのだろうか?

 これは二元統帥問題を生んでいたのではないだろうか?

 私はそのことを佐藤に尋ねた。

 

「……ああ。あのモリって男がRLAを掻きまわしていたよ。俺たちコントラクターは皆がモリという男を嫌っていた」

 

 彼は今刑務所にいますよというと佐藤は今回のインタビューで最高の笑みを見えた。

 

「本当か? そいつは最高だ!」

 

 彼はそう笑っていた。ざまあみろと言うように。

 

「ともあれ、だ。RLAは発足し、エルフたちには階級も与えられた。俺たちはヘリの撃墜事件があるまでは指揮官としてその補佐として、それから緊急即応部隊(QRF)戦っていた」

 

 彼は当時の様子を思い出す。

 

「ヘリの撃墜事件のあとから本社は『前線に出るな』と『戦闘への直接参加は許可しない』とうるさく言うようになったきて、コントラクターのうち何名かは指示に従ってエルフたちの訓練に専従するようになった。だが、俺たちはそれでも前線に出た」

 

 エルフたちを見捨てることはできなかったと佐藤は語る。

 

「魔族に拷問されたコパイの死体は俺たち全員が見た。酷い有様だった。俺たちは今やエルフと同じくらい魔族を憎んでいた」

 

 彼らが前線に出たのは仲間の仇討ちという目的も多少あったことは佐藤も否定することはなかった。

 

「本来相手を必要以上に憎むべきじゃない。それは非人道的な扱いを生む。捕虜を取らなくなり、捕虜にしたとしても拷問を加えるなどの不適切な扱いを生む。俺たちはその点をわきまえる必要があった。」

 

 非人道的行為を両者が繰り返せば、それたエスカレートしていき、それは自分たちのためにもならないと佐藤は冷静に説いた。

 

「それでも俺たちは魔族の兵卒であるゴブリンたちは捕虜にする必要はなかった。しかし、指揮官であるオークや人狼などは積極的に捕虜にしていった。連中からはいろいろと聞き出せると踏んでいたからな」

 

 そう佐藤は語る

 私は彼らを拷問はしなかったのかと尋ねる。

 

「拷問はしなかったが、尋問はした。厳しい詰問のあとでタバコと菓子を差し入れれば瞬く間に魔族は懐柔された。ぺらぺらと軍事情報を喋ってくれた」

 

 彼らは捕虜になった際の対尋問訓練を受けていなかったようだと佐藤。

 

「俺たちが聞きたかった情報が主に3つ。補給物資の所在、指揮官の所在、そして次の攻撃はいつ行われる予定かという情報だ。それさえ分かっていれば、ルナリエン自治領を守ると言う目的は達せられた」

 

 しかし、と佐藤は目を細めて続ける。

 

「ときどき情報軍とモリが尋問をやりたがった。連中が聞きだしたかった情報が俺たちと同じとは思えず、注意を払っていたよ」

 

「彼らは何の情報を聞き出そうとしていたのですか?」

 

「情報軍は魔族連合軍の高官の所在。モリは……ブリガンテと呼ばれる組織と東にある飛行場の情報を聞きたがっていた」

 

 ブリガンテ。東にある飛行場。

 それはディザータに関係している組織とディザータがホワイト・ピークの密輸のために作った施設だ。

 

「一度モリが拷問をやらかした。魔族に対して血の流れる拷問をやったんだ。それで俺たちはモリに詰め寄った。『お前がやらかした拷問のせいで、報復にエルフたちが拷問されるかもしれないんだぞ』と」

 

 そうしたらやつは鼻で俺たちのこと笑ったと佐藤は忌々しげに語る。

 

「やつは言っていたよ。『おいおい。お前たちの戦争ごっこのための金を稼いでいるのは俺なんだぞ? ちょっとは敬意を払ったらどうだ?』ってね」

 

 それから佐藤はしばらく黙り込む。

 

「全く知らなかったわけじゃない。嫌な予感はしていた。俺たちコントラクターは触れないようにしていたが、エルフが戦えていたのは……」

 

 深いため息の音だけが響く。

 

「……麻薬のおかげだったんだ」

 

 佐藤は深い後悔の色をにじませてそう言った。

 

……………………

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