エルフの森はなぜ焼かれたのか? ~平和な森が炎に包まれた理由~   作:第616特別情報大隊

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本日2回目の更新です。


異世界市場

……………………

 

 ──異世界市場

 

 

 私は関係者へのインタビューを再開する前にある場所を訪れた。

 その場所は東京の郊外にある。

 静かで、あまり人気のない場所だ。

 

「ホワイト・ピークは今までのドラッグの中で一番質が悪いものです」

 

 私は白衣を羽織った医師がそういうのを聞きながら、ホワイト・ピークの中毒者たちが収容されている病棟を眺めた。

 私が訪れたのは薬物やアルコール中毒を専門に扱う精神病院だ。

 私が見学を許された病棟は比較的軽度の中毒症状の患者を収容しているものだったが、私がこれまで見たことのある、どの精神病院の病棟よりも重苦しい空気が漂っていた。

 患者たちの目には生気がなくうつろで、誰もが酷く痩せている。

 

「ホワイト・ピークは中毒性が高く、離脱症状はヘロインなどよりもはるかに地獄です。一般的な向精神薬同様に服用が長期に及べば及ぶほど離脱症状は酷くなります。激しい抑うつや希死念慮が生まれ、本人にとって極めて危険な状態が生まれるのです」

 

 多くの中毒者が自傷から自殺までのリスクを負っていると医師。

 

 私はこの薬物の出所を知っている。

 だが、どうしてそれは地球の側にこうも大量に出回ったのだろうか?

 その答えを知るために私は再び刑務所にいるモリの下を訪れた。

 

「そりゃあ、当然儲けるためさ」

 

 地球側にホワイト・ピークを密輸した男は悪びれもなくそう言う。

 

「俺たちだって最初は母なる地球にホワイト・ピークを持ち込むつもりはなかった。異世界の連中にだけ売って、それで儲けようってそう思っていたさ」

 

 彼はどうして異世界の麻薬であるホワイト・ピークが地球に出回ったかの経緯を自己弁護するように語る。

 

「俺たちは人類国家──異世界の魔族連合軍以外の国家にホワイト・ピークをまずは売った。魔族がそうしていたように戦闘用のドラッグとして。昔は鎮痛剤に軍隊だってモルヒネやら持っていたし、夜間戦闘機のパイロットはクリスタル・メスをキメてたんだぜ。別におかしいことはないだろ?」

 

 そうモリは語る。

 

「異世界の国家は喜んでホワイト・ピークを買った。連中にとってはホワイト・ピークは兵士をヴァイキングのような狂戦士(バーサーカー)にする精力剤だ。マジで飛ぶように売れたよ」

 

 異世界の軍隊はこぞってホワイト・ピーク取引に金貨を払ったという。

 

「だが、それだけじゃ十分じゃなかった。いつの世もそうだが政府には金がない。支払いはよく滞ったし、ときには俺たちを脅迫してホワイト・ピークを奪おうとしてきた」

 

 呆れたという口調でモリはそう語った。

 

「一度なんかアメリカの刑務所が天国に思えるような牢獄にぶち込まれそうになってな。あのままぶち込まれてたら今頃こうして生きちゃいなかっただろう。だが、そのときにある男たちに出会った」

 

「ある男たちとは?」

 

「ブリガンテだ」

 

 モリの口からも謎めいた犯罪組織の名前が出てきた。

 

「ブリガンテはいわば現地のマフィアだ。連中のビジネスは盗品売買や強盗行為だったが、現地の連中なだけあって現地の裏社会に詳しかった。俺は異世界でドラッグビジネスをするならばこいつらと組んだ方がいいと考えた」

 

 下手に競争して独占を試みるよりも、協力及び談合してカルテルを形成した方が不要な血は流れず、利益は倍になるとモリはまるでビジネスマンのように語る。

 

「俺は連中のアジトであるレストランでホワイト・ピークの話をした。やつらもホワイト・ピークを知っていたよ。それが金になることも。そこで俺はこういった。『だったら話は早い。ホワイト・ピーク取引に関わらないか』ってね」

 

「彼はあなたはの提案を受けたのですか?」

 

「すぐには首を縦に振らなかった。というのも、ブリガンテの老人たちが反対したんだ。年寄りどもはホワイト・ピークが『健康に悪く、自分たちの信用と落とす』って主張して、若い人間を抑えようとした」

 

 馬鹿馬鹿しいとモリ。

 

「山賊より健康に悪くて、信用がない職業があるのかって話だ。俺は若くて聡明な人間たちが改革を進めるために武器を提供した。4丁のAR-15アサルトライフルと10丁のグロック。それで無知蒙昧な年寄りどもをやっつけちまえってな」

 

「それで彼は反乱を?」

 

「ああ。連中は年寄りどもを始末した。馬鹿な年寄りどもの頭に鉛玉を叩き込み、古い体制にグッバイしたわけだ」

 

 モリはそう言ってにやにやと笑う。

 

「それからようやくホワイト・ピークの異世界での取引が大規模にスタートした。ルナリエン自治領のエルフたちが収穫し、俺たちが運び、末端にはブリガンテが売る。そうやってようやく安定した利益が生まれ始めた」

 

 まるでベンチャー企業の発足までの苦労話を語るようにモリは語る。

 

「ブリガンテの連中は裏社会でまずはホワイト・ピークを捌き始めた。娼館の娼婦だとか、賭博関係者、そしてその客にな。ホワイト・ピークはどんどん売れた」

 

 ホワイト・ピークは今までは軍用品として扱われており、決して市民の手に入るものではなかったのだ。

 その状況をモリとブリガンテが変えた。

 

「ホワイト・ピークをキメてりゃ世界はハッピーに見える。娼婦は嫌な客に抱かれたあとでもホワイト・ピークを決めればイケメンの王子様が夢みれるし、賭博で大負けしたあとでもホワイト・ピークを決めればそれだけもう人生大勝利だ」

 

 くすくすと愉快そうに笑ってモリは言う。

 モリの言葉を聞きながら私の脳裏には精神病院で見た廃人になってしまった人間たちの姿が浮かび、私は激しい嫌悪感を覚えた。

 

「それに何よりラッキーだったのは異世界側ではホワイト・ピークの取り締まりがほとんどなかったってことだ。俺たちは官憲に捕まる心配もなく、堂々とホワイト・ピークを取引できた」

 

「彼らには麻薬を取り締まるということをしてなかったのですか?」

 

「おいおい。地球だって昔はおおらかだったんだぜ。シャーロック・ホームズだって、ジークムント・フロイトだってヤクをキメてた。だけど、連中がそれでパクられたりしたって話は聞いたことはないだろ?」

 

 シャーロック・ホームズは実在の人間ではないと私は指摘しようとしたが、問題はそこではないと思い、指摘をとどまった。

 そう、地球も昔はドラッグの取り締まりが緩かったのは事実だ。

 今ですら伝統的なコカインなどの薬物が規制されたが、合成ドラッグの規制を巡っては技術に法が追いつかず、結果として緩い法律になってしまっている。

 

「そういうことだ。異世界は石器時代とまでは言わなくとも、遅れてる連中だ。だが、遅れていることがいいこともある。ほら、中古ゲーム屋なんかでも新しければいいわけじゃないっていうだろ? 連中は懐かしくなるような法体制でホワイト・ピークって麻薬に対して寛容だったのさ」

 

 モリは当時の様子をそう語る。

 

「ホワイト・ピークは売れて俺たちの手元には金貨が集まった。金はシンプルに溶かしてインゴットにしてもよかったが、情報軍の連中が買い取ってくれた。最初のうちはな。ここでの買収にドル札が有効じゃないって気づいて買収用の金銭が欲しかったんだろう」

 

 だが、すぐに情報軍は買い取らなくなったとモリ。

 

「だから、俺たちは金の密輸を始めた。地球に金を持っていて、一番高い市場で売る。幸い第三次世界大戦のあとで金融市場はぐらぐらと不安定。みんな金を欲しがっていた。金の値段は吊りあがり続けており、俺たちは大儲けだった」

 

 金ががっぽがっぽと懐に収まったとチェシャ猫のようなにやにや笑いで語るモリ。

 確かに第三次世界大戦が終結したのちの金融市場では金が買われる傾向が高かった。

 しかし、その金の中に異世界の金が混じっていると予想できた金融アナリストはいただろうか?

 

「ブリガンテの連中への支払いが少なくて済んだのもよかった。取引の主導権を握っているのは常に俺たちディザータだったからな。俺が命令し、やつらが従うって関係だ」

 

「彼らはそのことに不満は?」

 

「ないさ。あったとしても連中は俺たちのことを恐れていた。ディザータをな。なぜなら俺たちは連中が怖がる地球の銃火器で武装していたからだ」

 

 それに関してある事件があったとモリはそこで言う。

 

「あるブリガンテの下っ端たちが俺たちから金をかすめ取ろうと画策した。俺たちが上納金を受け取り、それを地球に運ぶ際に車を襲って上納金を奪おうって計画だ。俺たちは待ち伏せされ、襲撃された」

 

「それで?」

 

「返り討ちさ。AR-15を乱射して皆殺しだ。それから俺たちは襲ってきた連中の首を下げてブリガンテのアジトに戻った。連中は青い顔をしていたな。ブルーベリーみたいな顔色だった」

 

 下っ端が俺たちを襲い、そして皆殺しにされた事に恐怖していたとモリは愉快そうに語る。

 

「そこで俺たちの関係は確定した。上と下ははっきりした」

 

 ディザータの下部組織としてのブリガンテ。

 そのことは暴力によって確定した。

 

「問題は、だ」

 

 モリは続ける。

 

「異世界の連中の財布には重みがなかったってことだな。俺たちの異世界での稼ぎはすぐに横ばいになった」

 

 異世界にはホワイト・ピークを買う余裕がある人間が少なかったとモリ。

 確かに異世界の民衆は貧しい。

 封建主義から完全に脱しておらず、富は市場を完全には巡らず、貴族や王族に富は集中している。

 

「だが、俺はボスから『ホワイト・ピークはもっと稼げるポテンシャルがある。だから、もっと稼いでこい』って言われていた。逆らったり、結果が出せなければ両膝と頭に鉛玉だ。だから、俺はこの状況をどうにかする必要があった」

 

 また自己弁護するように語るモリ。

 だが、確かに異世界の市場は手詰まりになりつつある。

 その中で民衆ではなく王族、貴族を相手に商売する道もあったとモリは言う。

 地球だってヤクに手を出す政治家は少なくないと。

 

「だが、地球の政治家と違って異世界の貴族はマジものの特権階級だ。下手に手を出せば痛い目に遭うのはすぐに分かった」

 

 だから、貴族や王族には自分たちは手を出していないと言う。

 

「本当に手詰まりになりつつあった。やばいって感じがひしひしした。最初のようないけいけ感はなくなり、葬式みたいなムードが俺たち現地のディザータのメンバーの中に広がりつつあった」

 

 このままならばモリも他のメンバーもディザータのボスによって射殺だ。

 そこで俺は考えたとモリ。

 

「よくよく考えれば異世界は房総半島の門を越えてすぐの場所にある。その貌総半島から少し行けば東京だ。東京は──世界最大規模のドラッグ市場でもある」

 

 モリは地球にホワイト・ピークが流出した経緯をそう語ったのだった。

 

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