エルフの森はなぜ焼かれたのか? ~平和な森が炎に包まれた理由~   作:第616特別情報大隊

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本日4回目の更新です。


正義の味方

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 ──正義の味方

 

 

 麻薬取締局(DEA)がホワイト・ピークを危険な麻薬だと認識し始めた時期は、モリがそれを持ち込んだ時期からかなりあとになってのことだった。

 それはモリがホワイト・ピークを世界中に出まわせてから1年と半年程度が過ぎたころである。

 これには理由がある。

 

 まずホワイト・ピークはある意味では安全な薬物であったということ。

 ホワイト・ピークは過剰摂取(オーバードーズ)で死ぬことは滅多にない。

 摂取してから幻覚などを見て転落や自傷が原因で死ぬことはある。

 だが映画『パルプ・フィクション』でコカインとヘロインを間違えて過剰摂取(オーバードーズ)を起こしたシーンのように、過剰摂取(オーバードーズ)で心臓にアドレナリンを注射するような事態にはならない。

 

 ホワイト・ピークの毒性。

 それはじわじわと身体と精神をむしばんでいくのだ。天国を見せながら地獄へと一歩一歩進ませるようにして。

 それゆえに麻薬取締局(DEA)がホワイト・ピークをマークするのは遅れた。

 

「そうだな。異世界からこっちにホワイト・ピークを運び始めて2年後ぐらいだったか。ボスに呼ばれた。場所はまた沖縄のホテルだ」

 

 ディザータの拠点がある沖縄にモリは自分が呼ばれたときのことを語る。

 

「ロイヤルスイートの部屋でボスは笑顔で俺を出迎えてくれたから、悪いニュースではないと思った。だけど、あまりいいニュースでもなかった」

 

 モリは当時のことを思い出して忌々しげに語る。

 

「ボスは言った。『モリ、ホワイト・ピークは儲かっているな』ってまずは話はそこから始まった。俺はお褒めの言葉がもらえてわくわくした。例の昇進って約束が果たされると思ったんだ。だが、次の言葉は違った。『いささか儲けすぎだ。もうちょっと慎重にやれ』とボスはそう言ったんだ」

 

「儲けすぎた?」

 

「金の流れってのは不自然に集まったりするとばれるもんなんだよ。俺たちは金を一か所にとどめないように仮想通貨にしたり、投資したりしてマネーロンダリングをやったが、それでも正義の味方は目を付けったってわけさ」

 

 まず目を付けてきたのは不審な金銭の流れに気づいた日米の財務省だとモリ。

 

「帳簿の数字を事細かに追う連中。そいつらが俺たちがやっているマネーロンダリングに気づき始めた。それで俺たちはマネーロンダリングのためにさらに金をかけることになっちまったよ」

 

 皮肉にも最初に動いたのは警察や厚労省、そして麻薬取締局(DEA)ではなく財務省だった。

 金の番人の方が麻薬探知犬より鼻が利いたのである。

 

「連中はしつこくあれこれと嗅ぎまわってきた。仲間の中からはこうなったら取引を一時中断するかって話も出たくらいには。だが、も今さら俺たちは立ち止まれない場所まで着ちまっていたんだよ」

 

 全てが歯車になって動いていたとモリは振り返る。

 

「ルナリエン自治領には金が要る戦争のために。ワンも取引を今さらやめるなんてことは決して認めなかっただろう。そして、情報軍だ。連中に『危なくなったのでここで降ります』なんて言ったら、こうだ」

 

 彼は右手で銃の形を作り、自分の頭にその銃口の方を向けて『バン』と言った。

 

「誰もがもう立ち止まれなくなっちまっていたってわけだ」

 

 モリはそう言って肩を竦める。

 

「それに地球側でも様々な連中がホワイト・ピークを買いあさっていた。ヤクザやマフィア、メキシコのカルテルも。そういう連中に対しても商品があるうちは取引を続ける必要があった」

 

 彼はホワイト・ピークで大金を手にしたはずが、その大金はいつの間にか純金の足かせになってしまっただと語る。

 

「俺たちは半ば自棄になった。地球側で金の流れが疑われるなら異世界に持って行っちまえってな。異世界に投資して、異世界にディザータが儲けらえる市場を作ろうっていう壮大極まりない計画が出来上がった」

 

 異世界で土地を買って遊園地や歓楽街を作り、ドラッグやり放題、女抱き放題の特別地区を作り、そこに地球からの観光客を呼び込むと言う計画だったそうだ。

 だが、いくら大金があったとしても犯罪組織がそんな迂遠で、いつ利益が上がるのか分からない投資を認めるはずもない。

 計画は彼らのボス直々に却下されたとモリ。

 

「『まともにやれ。お前たちまでラリってんじゃねえぞ』ってボスからは注意を受けた。だが、俺たちの状況は使えば目を付けられる金がどんどん積み重なっていくような状況だ。現金の束がどんどん溜まり、金庫に入りきれないから貨物用のコンテナにカギをかけて放り込んでたくらいだ」

 

 その貨物コンテナの中は万札とドル札で満たされていたとモリは言う。

 

「そんなときだ。重役出勤でやってきのが……麻薬取締局(DEA)だ」

 

 そうモリは語った。

 ついに麻薬取締局(DEA)がその姿を見せた。

 

 麻薬取締局(DEA)は利益は上がるがその利益を捌き切れなくなってきたモリたちのそばに近寄り始めていた。

 

 その理由はようやく彼らがホワイト・ピークが危険な麻薬であり、それはアジアから来ていると言う情報を手にしたからである。

 

 だが、当時の麻薬取締局(DEA)にはまだ確信らしき確信はなかった。

 どの報告書も『推定される』という言葉ばかり。

 毒性は『メタンフェタミンに似たものと推定される』と。

 メタンフェタミンに似た薬効があるものは多くあり、これではホワイト・ピークと断定できない。

 使用者は『主に10代から30代の若者と推定される』と。

 これは主な麻薬の使用者層であり、ホワイト・ピークに限ったことではない。

 販売ルートは『メキシコの国境とカナダ国境と推定される』と。

 両国境を合わせた長さは1万2000キロである。

 薬物の製造ルートに至っては『不明』であった。

 

 このときの麻薬取締局(DEA)はそもそもホワイト・ピークが合成麻薬かそうでないのかの区別すらついていない状況だった。

 だが、それでも彼らはホワイト・ピークには毒性があり、その出所は東アジアのどこからというところまで推測した。

 

「流石にそりゃあ麻薬取締局(DEA)だって気づく。アメリカ西海岸じゃすでにあのフェンタニル以上の社会現象になっていたしな。ホームレスからセレブまでホワイト・ピークでハッピーにラリってた」

 

 麻薬取締局(DEA)はあくまでアメリカの捜査機関だとモリ。

 アメリカで火が昇り始めなければ動くことはなかっただろうと。

 

「だが、あなたはアメリカにもホワイト・ピークを持ち込んだ」

 

「イエス。世界で一番の金持ちの国は未だにアメリカだった。現代のローマ帝国は第三次世界大戦のあとでも滅んじゃいなかった」

 

 だから、自分たちはホワイト・ピークをアメリカに持ち込んだとモリは当然のように語る。

 

「中国や他の国でも売ってはいたぜ。だが、連中の取り締まりは異常に厳しい。本国での取り締まりが厳しいからミャンマーだとかの政情不安な国でクリスタル・メスを作ったり特殊詐欺をやったりしているぐらいだしな」

 

 中国でも少なくない量のホワイト・ピークが出回ったが、それらに流通はディザータが直接仕切ったものじゃないと彼は語る。

 

「アメリカはその点、自由の国だ。俺たちは現地のカルテルを手を組んでホワイト・ピークを流通させた。当然ぼろ儲けさ。ああ、ぼろ儲けだった……」

 

 彼はそのぼろ儲け過ぎた金のせいで苦境に立たされていたのだ。

 

「で、だ。麻薬取締局(DEA)がアジアが出所と掴んだのは、俺たちのヘマじゃない。現地の売人がしくじったんだ」

 

 彼はそのときの状況を語る。

 

「俺たちはラジカルサークルってグループと組んでいた。主にヒスパニック系だが、アジア系も混じったカリフォルニアって感じの売人どもだ。悪くない連中ではあった。憎めないというか、俺たちに対しても愛嬌があった。パーティでも『ヘイ、アミーゴ! 飲んでるかい!』って知らないやつが声をかけてくるぐらいに。だが、連中はへまをした」

 

「彼らはどんな失敗を?」

 

麻薬取締局(DEA)に潜入捜査されていたんだ。麻薬取締局(DEA)の捜査官がラジカルサークル側の組織に入り込み、ディザータとラジカルサークルの取引について報告してやがった」

 

 潜入捜査官の名はルイ・バーナード。

 彼はラジカルサークルに6年間潜入捜査をやっており、ディザータとの取引でホワイト・ピークが持ち込まれるのを麻薬取締局(DEA)に報告していた。

 

「俺はそいつに会っていないが、俺を取り調べた日本の警察が言っていた。麻薬取締局(DEA)の潜入捜査官がホワイト・ピークがフィリピンのマニラから運ばれているのに気づいていたと」

 

「彼が今どうしているか知っていますか?」

 

 私がそう尋ねるとモリは悪魔のように笑った。

 

「いいや。知らない」

 

 それから彼は短くそう言った。

 ルイ・バーナード特別捜査官は自宅にいたところを激しい拷問を受けて殺害され、SNSのアカウントに自分が潜入捜査官であることを自供する文章と生首になったその姿を投稿されている。

 現地の警察は麻薬絡みの報復行為と見ている。

 

「それで、だ。俺たちの状況は危機的なものだった。金の流れを巡っては財務省が、ホワイト・ピークそのものを巡っては麻薬取締局(DEA)がそれぞれ首を突っ込んできた。俺たちの状況はまさに大惨事寸前ってところだ」

 

 俺たちを乗せたトラックは炎上していてブレーキが利かず、目の前には崖とモリ。

 

「だが、さっきも言ったように俺たちは今さら取引をやめることはできなかった。俺たちだけで『やーめた!』って言えるど取引は軽いものじゃなかった。動いている金は膨大で、関わっている人間も腐るほどいた」

 

 ブレーキの利かないトラック。

 それが当時のディザータだったのだ。

 

「悪いことに今まで築いた俺たちのブランドがそっくりそのまま俺たちを追い詰める条件になった。白くて『DS』と刻印された錠剤は俺たちを追いかけるための、ヘンゼルとグレーテルが残したパンくずになっちまっていた」

 

 一度ホワイト・ピークに目を付けた麻薬取締局(DEA)が、アジアから東アジア、東アジアから日本に迫るのは瞬く間だったと言うモリ。

 

「日本でも東京であまりにホワイト・ピークが出回ったせいで警察と厚労省の両方が動いていた。司法の手はじわじわと締まりつつあったわけだよ」

 

 ディザータはそのせいで今までの取引ルートを大きく変える必要があったとモリは思い出しながら語る。

 

「俺たちは直接横田に運ぶルートを変えざるを得なかった。横田はマークされ始めていたからな。だから、俺たちは輸送機を南に飛ばした。フィリピンに向けてな」

 

 東京に直接ホワイト・ピークを降ろせなくなった彼らはフィリピンのアパリ方面に輸送機を飛ばした。

 そして、そこからが彼らのマジックだ。

 

「海上で輸送機のランプを降ろして、そこから荷物を空挺投下した。救命胴衣を巻きつけて海にどぽんと投げ込む。そのあとでアパリで雇った漁師がそれを回収するってわけさ。輸送機はクリーンな状態でアパリ付近の空港に着陸し、給油して異世界に戻る」

 

 クールだろと言わんばかりにモリはにやりと笑った。

 

「それで麻薬取締局(DEA)の捜査の目は逃れたのですか?」

 

「まあ、連中は東京にやってきてあれこれ調べたが、俺たちはすでに東京を重要な場所とみなしていなかった。調べようが何だろうがお好きにどうぞってところさ」

 

 しかし、それでも麻薬取締局(DEA)の追及は煩わしかったとモリ。

 

「連中は日本の警察と協力していた。いつもならば海外の捜査機関が関わることに拒否感を示す日本の警察もこのときばかりは連中に協力していた」

 

 捜査の手はあちこちに伸び始めていたとモリはため息交じりに語る。

 

「そこで俺たちは神様に泣きついた」

 

「神様?」

 

 私は不可解なモリの言葉にその単語を繰り返す。

 

「情報軍だよ。連中にはまだ俺たちが必要だったからな」

 

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本日はあと6回ぐらい更新します!
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