エルフの森はなぜ焼かれたのか? ~平和な森が炎に包まれた理由~   作:第616特別情報大隊

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本日5回目の更新です。


理想と現実

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 ──理想と現実

 

 

 リリエルは当時の様子を思い出していた。

 戦いに静かに異変が迫り始めたときのことを。

 

「入ってくる武器の量は明らかに減っていた。いつもならば武器でいっぱいの情報軍の飛行機には弾薬の入ったコンテナが僅かに乗せられているだけであり、新しい武器の補給は途絶えていた」

 

 新しい武器が、特に迫撃砲や重機関銃の類の供給が減ったとリリエル。

 その手の重装備がなくなったことでエルフたちの戦闘力は徐々に減り、これまでのような大胆な作戦は不可能なって行ってしまった。

 これまでならば敵の兵站路を攻撃できたのができなくなってしまうなど。

 

「だが、どういうわけか食料や贅沢品の類は入ってきていた。私は怪訝に思ったよ。資金がないわけじゃないというのは分かったんだから」

 

 おかしいのは資金の使い道だったとリリエルは言う。

 食料を購入するのを優先するのは分かる。

 だが、贅沢品の類は無理に入手する必要もないはずだと。

 しかし、アルフヘイム株式会社周りのエルフたちは新しい純金の時計を腕にはめ、高級SUVを乗り回していたとリリエルは語る。

 

「資金を管理していたのはソフィエルで私は何が起きているのかを尋ねた。『何故武器を買わないんだ?』とね。『腕時計を買う金があるならば、私たちRLAのために銃を買ってくれ』と頼んだ」

 

「彼女はそれに何と?」

 

「『リリエル。前にも言ったが魔族連合軍は人類国家を相手に敗走を始めている。私たちが無理に戦う必要はない。これからは戦いが終わったときのことを考える必要がある』と彼女はそう言った」

 

 そう、前のインタビューでも語っていたがアルフヘイム株式会社ができ、エルフたちは戦うことよりもアルフヘイム株式会社で働き豊かになる方を好むようになっていた。

 その影響は前線は受けていたが、そのときもソフィエルは『戦いは人類国家に任せればいい』という旨の発言をしていたのだった。

 

「私は当然だが、納得できなかった。魔族連合軍との戦いを完全に人類国家に任せるのには不安な要素があったからだ」

 

 リリエルはそう言って彼女が不安に思っていたことを語る。

 

「まず人類国家と我々ルナリエン自治領に間には別に同盟があったわけじゃない。人類国家とルナリエン自治領の間にあったのは、同じ敵──魔族連合軍を相手にしているというだけの関係だった」

 

 それが大きな問題だとリリエル。

 

「人類国家はいつ魔族と講和して戦争をやめるか分からなかった。そして、人類国家が魔族を滅ぼしてくれるというような楽観的な考えは私は持てなかった。人類国家も戦争では若者が夥しい血を流し、大量の金が浪費されていたはずだから」

 

 そうなのだ。人類国家とルナリエン自治領の間にはまともな外交チャンネルすら存在していなかった。

 そんためソフィエルが『人類国家が魔族を倒してくれる。だから、自分たちは戦わなくてもいい』と楽観視していたことは、危うい考えだった。

 

「いつ人類国家が魔族と講和し、魔族が人類国家側の戦線に張り付けていた戦力を我々の側に向けてくるのか分からない。そんなことになれば、ルナリエン自治領は独立どころか滅亡してしまう」

 

 このリリエルの懸念は上記の理由から正しかった。

 人類国家はいつルナリエン自治領を見捨ててもおかしくなかったのだ。

 

「私はその懸念をソフィエルに伝えた。彼女は渋い顔をしていたね。そして彼女はやがてこう言った。『いつまでもホワイト・ピークで稼げるという保証もない。地球側でトラブルが起きているらしい』と」

 

「それはディザータの抱えているトラブルですか?」

 

「恐らくは。彼女ははっきりとは言わなかった。だが、ホワイト・ピーク関係で、地球側のトラブルといえばそれはディザータ以外には考えられない」

 

 確かにこのときディザータは財務省や麻薬取締局(DEA)に追われてトラブルを抱えていた。

 その様子を見たソフィエルはホワイト・ピーク取引が持続可能なビジネスではないという認識を抱いたのであれば理解できる。

 

「ならば、なおのこと戦いによって平地を手に入れる必要があると私は説いた。そのためには戦わなければならないと。しかし……」

 

 リリエルは僅かに俯く。

 

「ソフィエルはこういった。『今、私たちが戦えているのは山林に立てこもっているからだ。この戦争で平地を征服し、魔族から平地を手に入れてどうやってそれをこれからも守り続けるのだ?』と」

 

 確かにエルフたちが魔族に抗えているのはその地の利という要素大きくあった。

 現代兵器のアドバンテージは時代が進むごとに薄れていく。

 そしてアドバンテージが消えた場合、エルフと魔族の物量さからエルフたちは再び平地から駆逐されてしまうだろう。

 

「私はすぐには答えらえなかった。確かにその通りだった。私たちが魔族を完全に滅ぼしでもしない限りは、平地は常に侵略者に脅かされることになるんだ」

 

 リリエルは自分の希望は最初から無謀なものだったということをそこで始めて認識したのだ。

 

「ソフィエルは言ったよ。『私たちは戦後を見据える必要がある。ただやみくもに血を流しても意味はない』と。そのことについては彼女は正しかった」

 

「しかし、それではエルフたちは……」

 

「ああ。ホワイト・ピークがいつか取引できなくなれば、私たちはまだ貧しい生活に逆戻りする。それを解決する方法をソフィエルは私に提示した」

 

 リリエルは語る。

 

「まずは人類国家と正式な国交を持つことだ」

 

 そうして彼女は再び人類国家に向かうことになった。

 今度は偽りの身分での密入国はなく、正式な大使として。

 

 リリエルが次に人類国家の中心であるネプティス帝国に向かったのは、以前彼女がそこに向かったときよりも遥かに容易であった。

 情報軍のパワード・リフト機に乗り、ネプティス帝国の首都グラン・マドレアスに向かったのだ。

 

「私の役目は重要だった。何としても人類国家とルナリエンの間に国交を作り、さらには魔族に対する同盟を締結しなければならなかったんだから」

 

 リリエルは全権大使としてソフィエルから全ての交渉を任された。

 それは当然の措置と言えた。

 ネプティスからルナリエンまで連絡を取る手段はパワード・リフト機による移動以外になく、交渉の際にいちいちルナリエンに戻っていては話にならない。

 

「私の肩には重責がのしかかっていたよ。私がしくじればルナリエンのエルフたちの未来な失われるかもしれないんだ」

 

「ネプティスにはあなただけで向かったのですか?」

 

「一応ソフィエルは護衛と補佐のためにRLAからひとりのエルフを付けてくれた。エセリオンだ。彼はそのときはRLA少尉だったね」

 

 エセリオンという名がここでも出る。

 彼は何を思ってリリエルとともにネプティスに向かったのだろうか?

 彼にインタビューできない以上、推測するしかなかった。

 

「幸い人類国家はエルフに好意的だった。国交を結ぶのにさほどの障害はなかったよ。だが、同盟となると話は変わった」

 

 リリエルは人類国家がルナリエンを同盟者としては信頼できないということは交渉の内容から明らかだったと語る。

 彼らはルナリエンが今起きている魔族との戦争に私たちが十分に貢献しているとは思っていなかったようだと語るリリエル。

 

「私はこう言われた。『私たちはこの戦争で50万人の戦死者を出した。あなたがはどれだけの同胞を失ったのか?』と。私は答えられなかった。どう考えても私たちが流した血は彼らより少なかったからだ」

 

 ルナリエンのエルフたちの総人口は今だ正確に分かっていない。

 ただRLAに所属していたエルフの数は分かっている

 それは約3万5000名だ。

 その中で戦死者は400名から700名程度と推測されている。

 

「彼らは下手に同盟を結んで我々が戦後の権利を要求するのではないかと思っているようだった。つまり、戦後の取り分の問題だ。人類国家は魔族連合軍の領土に逆侵攻を仕掛けているところで、まさに魔族たちから領土を奪おうとするところだった。だから、彼らは警戒したのだろう」

 

 魔族たちから多くを奪いたいを人類国家は、ルナリエンと下手に同盟して戦後の彼らの利益が減ることを恐れていたというリリエル。

 私がのちに調査した情報でもこのことは間違いないと分かった。

 異世界における人類国家の外交関係者への聞き取りで彼らもまたモリやワンと同様に『取引に関わる人間が増えすぎて自分たちの取り分が減る』ということを恐れていたのだと、私は突き止めた。

 彼らはもっと上品にこう言っていた。『我々の血が流れた土地は我々のものだ。それを他国に譲るのは死んでいった若者への裏切りだ』と。

 

「私は暗澹たる気分だった。私たちの望みはかつてルナリエン王国があった平地を取り戻すことだけだと言っても彼らは疑っていたのだから」

 

 そんな交渉が成立しない中でリリエルは首都グラン・マドレアスの街に出た。

 

「私はそこで入った酒場でホワイト・ピークが民衆に売られているのを知った。戦闘用ドラッグとしてではなく、快楽のための麻薬として」

 

 私はそのホワイト・ピークがもたらした被害も見たとリリエルは続ける。

 

「その酒場の近くの路地裏で男が笑いながら自分の足を割れたガラスで刺していた。そばにはホワイト・ピークの白い粉が散らばっていた。その白い粉は男の足から流れる血で赤く染まりつつあったよ……」

 

 リリエルは後悔するように自分の手を見つめた。

 彼女の眼には生気はなく、ただ虚ろだった。希望を全て失ったかのように。

 

 リリエルは知った。

 ホワイト・ピークがいかに人類をむしばんでいたかを。

 

「私はホワイト・ピークの取引を最初から好んではいなかった。だが、それはあのグラン・マドレアスの経験で絶対に拒否すべきものに変わったんだ」

 

 自分たちが何を犠牲にして戦争を行っていたのかを知ったのだとリリエル。

 

「しかし、ホワイト・ピークは戦争の間は必要だった。それ以外に私たちが武器を買うための資金源はなかった。そして、私たちは血を流さなければ人類国家と歩調を合わせることもできない」

 

 大きなジレンマだったと彼女は語る。

 ホワイト・ピークに依存した経済から脱するにはかつてルナリエン王国が統治していた平地が必要。

 しかし、その平地を得るには魔族と戦わなければならない。

 そして戦うために武器が必要で、武器を買うためにはホワイト・ピークを資金源にするしかないのだ。

 大きなジレンマである。

 

「私はエセリオンに相談した。『人類国家と同盟するには戦争を継続しなければならない。それも人類国家にアピールできるだけの大きな勝利が必要だ。そのためには大きな対価を支払う必要がある』と」

 

 大きな対価。

 それはエルフの同胞たちを失うという人的な犠牲とホワイト・ピークをこれからも資金源にするという倫理的な犠牲だ。

 

「エセリオンは静かに私の言葉を聞いたのちこういった。『司令官。我々は苦しい立場にあります。ですが、人類国家の機嫌を窺うために戦うのは反対です。我々は我々の誇りのために戦うべきです』と」

 

 彼はたとえ人類国家との同盟が上手く行かずとも大丈夫だと言っていたとリリエル。

 人類国家が魔族から奪えるものを全て奪うつもりで戦っているならば、彼らが講和したあと魔族にはかつてほどの勢いはないと。

 エセリオンは冷静に交渉を見ていたのだ。

 

「私は彼に励まされた。そうだ。ルナリエンは人類国家に背負われずともやっていけるはずだと。それからの交渉は私は強気に出たよ。人類国家が同盟を結ばなければそれはそれで結構とね。それが人類国家を逆に動揺させたのだろう。彼らは同盟について前に向きに考えると言い始めた」

 

 おかしな話だ。私たちが同盟を求めるときには拒絶し、それを求めなくなったら同盟に引き込もうとするとはとリリエルはやや呆れたように語った。

 

「だが、我々が人類国家と共存することを望むのならばやはり考えなければならなかった。ホワイト・ピークという毒をルナリエンから輸出することをやめることを……」

 

 リリエルはそう静かに語っていた。

 

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