エルフの森はなぜ焼かれたのか? ~平和な森が炎に包まれた理由~   作:第616特別情報大隊

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反乱

……………………

 

 ──反乱

 

 

 戦った結果に何も得られたなかったということに絶望し、怒りを覚えたのはリリエルだけではなかった。

 RLAのエルフたちも怒り、そのことから行動を起こした。

 

「最初に起きた事件は難民の入植地への攻撃だ」

 

 リリエルは静かに語り始める。

 

「エルフたちは自分たちが暮らすはずだった、かつてのルナリエン王国の土地に人間が住居を立て、畑を開墾していくのに怒りを燃やした。それは私が血を流せばあの土地が手に入ると何度も繰り返したせいだろう」

 

 自分の責任でもあるとリリエルは後悔をにじませて続ける。

 

「RLAの武器庫から武器を持ちだした若いエルフたちは人間の入植者をそれで攻撃した。そう、アサルトライフルを乱射して人間の入植者たちを虐殺した……」

 

 そのときの様子を思い出すように語るリリエル。

 

「最初に畑で襲われた入植者たちは彼らが立てた集会場に逃げ込んだ。エルフたちはそれを追いかけると集会場の扉を蹴り破り、中に手榴弾を放り込んで、さらに虐殺を続けた。生き残っていた入植者ひとりひとりの頭に銃弾を叩き込んで殺害していったんだ」

 

 リリエルは5.56ミリ弾の空薬莢があちこちに散らばり、弾痕が家屋の壁に刻まれていたと語る。

 

「その場にあなたも?」

 

「いいや。あとから調べた結果だ。我々は人間の入植地が襲撃されたと知らせを受けてすぐに駆けつけたが、すでに事件が起きたあとだった。まだ虐殺は続いていて、銃声と悲鳴が響いていたよ……」

 

 忌まわしい記憶を語るようにリリエルは告げる。

 

「私たちは襲撃を行った若いエルフたちに武器を捨てて投降するように求めた。軍法に則れば無許可で武器を持ち出し、さらには民間人を虐殺したとなれば銃殺は避けられない。それを彼らも理解していたのだろう。そのエルフたちは投降を拒み、この入植地をルナリエンのものとして魔族に認めさせるように要求してきた」

 

 そうしなければ自分たちは武器を置かないと言って、入植地の村に立てこもった。

 

「それからどのように……?」

 

「このままでは独立派との講和が崩れる。また魔族と戦争になっても今度は人類諸国は力にならない。我々は講和が崩れることを避けなければならなかった。何としても。そう、同胞の血が流れたとしても」

 

「つまり彼らを武力鎮圧したのですか?」

 

「……ああ。そうだ」

 

 そのときの様子をリリエルは目を閉じて思い出す。

 

「私たちは密かに入植地を包囲した。それから闇夜に乗じて入植地に接近した。新月の夜を選んで、私たちは暗視装置を使って近づいた」

 

 入植地に近づくごとに血の臭いが濃ゆくなっていたと語る。

 畑には死体が何体か転がっていたままで、数日が過ぎて腐敗を始めていた。

 腐臭を感じながらリリエルたちは若いエルフたちが立てこもる家屋に迫った。

 その家屋は入植地のリーダーであった人間の家で集会場より立派なレンガ造りの建物だったそうだ。

 だから若いエルフたちはその場所を立てこもる場所に選んだのだと彼女は言う。

 

「私たちはその家屋にゆっくりと近づいた。エセリオンもその場にいて私を補佐していたよ。彼は言った。『同胞であっても今は敵です。情けはかけないように』と。私はそれに無言で頷いた」

 

 入植地を襲った若いエルフたちが抵抗するのは明らかだった。

 彼らにはすでに降伏の機会を与えたが、彼らはそれを拒絶した。

 ならば、もう戦って──射殺するしかない。

 

「私たちは家の前で警戒していたエルフをまず殺害した。男エルフで30歳になるかならないかという若さだった。私は彼の胸2発の銃弾を撃ち込んで、彼を殺した。そう、同胞を殺した……」

 

 彼女はそのとき引き金を引いた右手を見る。

 今でも引き金を引いた時の感触を彼女は覚えているのだろうか。

 

「それでもそれは最初の流血に過ぎなかった。私たちは家の扉を蹴り開けてスタングレネードを放り込み、突撃した。全ては佐藤たち傭兵と情報軍に訓練されたように。スタングレネードが炸裂して激しい音が響き、閃光が瞬き、それから私たちは突入した」

 

 室内にいたエルフたちは4名。

 その全員が突入時に射殺された。

 

「……家の中には拷問された人間の死体もあった。もはや一部のエルフたちにとっては、人間も魔族と同じような敵になってしまったのだろう」

 

 それからリリエルたちは皆殺しにされた入植者の死体を重機で掘った穴に埋葬し、反乱を起こしたエルフたちの死体は森の中に回収していった。

 

「今でも覚えている。あの夜のことを。まだ自分の手に殺したエルフの血がついているような錯覚すら抱く。魔族を殺したときにはそんなことはなかったのに。私もかなり都合のいい頭をしているようだ」

 

「あなたがそれを覚えているのも無理はありません。それは辛い過去ですよ」

 

「そう言ってくれのは君だけだろうね」

 

 私があまりに同情して言った言葉にリリエルは力なく笑った。

 

「私たちエルフが入植地を襲って虐殺を行ったと言う知らせは幸い広くは広まらなかった。だが、入植地では噂話として聞こえたはずだ。こうして私が入植地に匿ってもらえているのは、ただただ彼らの厚意のおかげなんだ」

 

 リリエルはそう言って扉の方を見る。

 確かに全員の意志ではなく一部のエルフの犯行であるとしても入植地ひとつの住民を皆殺しにする虐殺を行ったのだ。

 そのエルフであるリリエルがこの入植地で暮らせているのは奇跡だろう。

 この村はかなり人ができた人間が多いようだ。

 

 後日、私はリリエルに襲撃されたという集落の位置を教えてもらった。

 そこに行くと今でも人間の村がそこにあった。

 しかし、誰に聞いてもこの集落がエルフに襲われたという話を覚えている人間はいなかった。

 これは人間側は関係者が全員死に、エルフ側は沈黙を保ったためだろう。

 私はリリエルが虐殺の被害者たちを埋めたと言う場所にも向かった。

 そこには墓標も何もなく、草木が茂った場所となっていた。

 私はそこに花を手向けた。

 

 さて、インタビューに話を戻そう。

 

「しかし、事件は続いた。次に襲われたのは入植地ではなく、アルフヘイム株式会社。つまりソフィエルが狙われた」

 

 リリエルは何が起きたのを語っていく。

 

「アルフヘイムの社屋が襲撃を受けたのは、入植地虐殺事件が起きてから2週間後こと。武装した若いエルフたちがアルフヘイムの社屋を占拠して、私とソフィエルに退陣を要求した。そして、新たにルナリエン共和国政府を樹立することを無線で宣言していた」

 

「つまりクーデターですか?」

 

「そうだ。クーデターだ。ソフィエルは拘束されたが、私は難を逃れた。私はRLAの全将兵を集めて、クーデターに反対するように求めた。彼らの忠誠はある程度は私の方にあったし、ソフィエルの方にもあった。クーデターを支持する将兵は多くはなかった」

 

 しかし、アルフヘイム本社は占領されておりソフィエルは拘束されている。

 今やルナリエン自治領政府は麻痺状態だ。

 

「私はまずクーデターを起こしたエルフたちが何を求めているのかを聞こうと言い、彼らの下に軍使を送り出した。政府に不満があるならば交渉しようとそう持ち掛けた。彼らは軍使に彼らが要求してることについて書いて送ってきた」

 

 そこには次のような要求があったと言う。

 

「まずアルフヘイム株式会社の解散。彼らはアルフヘイム株式会社が格差を生み出し、ソフィエルに富が集まることになっていると非難した。これからはホワイト・ピークで得た利益は均等に配分すべきとしていた」

 

 アルフヘイム株式会社は事実上のルナリエン唯一の企業だ。

 そしてアルフヘイムに唯一外貨をもたらしてる存在である。

 

「次に独立派への旧ルナリエン王国領の返還要求。彼らが要求を受け入れなかった場合は宣戦布告することも彼らは求めていた。それからすでに入植している人間たちにもただちに退去するように求めると」

 

 やはり要求の中には旧ルナリエン王国領の返還を求めることがあった。

 それが恐らくは一番大きな理由なのだろうとリリエルも言う。

 政府に不満があるとすれば、最大のものはそれだと。

 

「最後に彼らはソフィエルは自治領の指導者を、私はRLAの司令官から退任して一切の政治的立場から退くことと、自分たちが作る新しい政府を認めることを要求した」

 

 彼らはあくまでリリエルとソフィエルの政府を認めないつもりであった。

 

「今回は厳しい状況だった。ソフィエルはまだ生きていると分かったが、彼女が生きたままでいるには慎重に行動しなければならなかった。私たちが下手を打てばソフィエルは殺されてしまうだろう」

 

 そうなれば政治的空白によって、ルナリエンは混乱するとリリエル。

 

「私は佐藤たちに相談した。人質救出作戦という難問に挑むのに彼らは力を貸してくれたよ。彼らはまず交渉を続ける振りをするようにと助言してくれた。長期戦になれば少数で立てこもっているクーデター側が不利になると」

 

 リリエルたちはそこでクーデターを起こした将兵との交渉を続けた。

 クーデター側に自分たちが話の分かる交渉相手だと思わせて、時間を稼ぐのだ。

 

「それと並行してアルフヘイム本社への突入の準備が進められた。意外かもしれないが、これには情報軍が手を貸した」

 

「情報軍が、ですか?」

 

 私はこれまでのリリエルの話を聞いて、情報軍は信じられなくなっていた。

 

「私も最初は疑ったよ。彼らが何かを企んでいるのではないかと。だが、七尾は言っていた。『今ルナリエンが割れることは望まない』と。彼らは今は私たちエルフに団結しておいて欲しかったらしい」

 

 今はという言葉にリリエルの不審が見て取れる。

 彼女は魔族を分断したようにエルフの分断も情報軍は計画しているのではないかと思っていたようだ。

 

「交渉は3日続き、向こうがしびれを切らしかけたときに──突入が実行された」

 

 ついにアルフヘイム本社とそこにいるソフィエルを救出するための作戦がリリエルたちによって開始されたのだ。

 

「突入は早朝に行われた。夜間への実行は人質への誤射の恐れがあるし、早朝ならば敵も疲弊していると佐藤が指摘したので、私たちは早朝を作戦開始の時間に選んだ」

 

 佐藤たちコントラクターから4名、情報軍から2名、RLAから8名のエルフが作戦に参加したとリリエルは振り返る。

 

「アルフヘイム株式会社のそのとき建物は地上に2階、地下に1階の構造になっていた。壁は鉄筋コンクリートでいざというときは要塞として使えるように設計されている。だから、壁を破壊して突入するのは難しいと予想されいてた」

 

 リリエルたちはそこで窓から突入することにしたそうだ。

 

「私と佐藤でロープで壁を密かに伝い、窓に迫った。そして爆薬をそっとセット。遠くからは佐藤の仲間2名が狙撃で私たちを援護してくれていた。それから3カウントだ。3カウントで窓を破って私たちはアルフヘイム本社に突入する」

 

 そのときの様子を私は思い浮かべる。

 それはあの駐英イラン大使館占拠事件で大使館に突入したSASの将兵のようだったに違いない。

 

「3カウントの間、考えていた。ソフィエルをもし救えなかったらどうしようかと。私ではルナリエンを背負えないと思っていた。私は軍事的にRLAを指揮してきたが、経済や外交には疎いままだったから……」

 

 とにかく不安だったとリリエルは語る。

 

「そして、3カウントが終わり……窓が爆破された」

 

 リリエルたちは爆破で吹き飛ばされた窓から突入。

 

「ソフィエルの位置は情報軍が掴んでいた。彼らは2階の事務室に彼女を監禁していると。私たちが飛び込んだのも2階の事務室だった」

 

 窓ガラスが吹き飛び突入するリリエルたち。

 

「私は考えるよりも早く身体を動かしてクーデターを起こしたエルフを射殺した。素早く彼らを照準し、何も考えずに引き金を引いた」

 

 リリエルはそう語り、また自分の手を見つめる。

 

「……また私は同胞を殺すことになった」

 

 それはやはり若い兵士であり、リリエルと作戦行動を共にしたこともある兵士だったと彼女は呟く。

 2度も同胞を手にかけることになったリリエル。

 私にはもう彼女をどう慰めていいのか分からず、無言で彼女が再び語り始めるのを待った。

 

「だが、それでもソフィエルを助けることはできた。縛られて目隠しをされていた彼女を救出し、私は『大丈夫か』と声をかけた。彼女は無言で小さく頷いた」

 

 ソフィエルを友を助けられただろうにリリエルの表情には明るい色はない。

 

「その日からだ。彼女は大きく変わり始めた」

 

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