エルフの森はなぜ焼かれたのか? ~平和な森が炎に包まれた理由~ 作:第616特別情報大隊
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──外圧の利用
動き出した
その手が異世界に及んだときのことをリリエルも覚えていた。
「彼らが異世界に来たときのことか……。最初は佐藤から聞いた。『
佐藤は
「私も地球にいたときに
X-デイ。地球と異世界の両方でホワイト・ピークに対する厳しい取り締まりが始まり、ルナリエンからのホワイト・ピーク輸出が不可能になる日のことだ。
地球側ではアメリカや日本をはじめとする西側諸国でホワイト・ピークへの規制が開始されており、あとは異世界で規制が始まればそれがX-デイとなる。
「しかし、私はある意味ではチャンスだと思った」
「チャンス、ですか?」
「そう、チャンスだ。私の改革は止まっていた。ホワイト・ピークがある限り、そこから利益が得られる限り、ルナリエンは良くも悪くも変わらないままだろう。そうであるならばいっそ外部の力でホワイト・ピークを根絶できないか、と」
彼女が目指したのは外圧による変革だった。
外部の力で無理やりホワイト・ピークを根絶して、ソフィエルの体制を揺るがそうというのだ。
「私は考えた。『このままではいけない。改革を進めなければ10年は何とかなったとしても、その先に未来があるか分からない』と。ならば、
「しかし、そうなれば……」
「ああ。ソフィエルは猛反発するだろうし、
事実、歴史としてアメリカは麻薬戦争を口実に自分たちの主権が及ばないはずの国外の重要人物の殺害や逮捕を行っている。
佐藤が教えたことは間違っていない。
アメリカが自国を汚染するホワイト・ピークの出所かルナリエンであることを突き止め、ソフィエルがその首魁であるとみなせば『正義の味方』がドアを蹴り破ってソフィエルの手に手錠をかける可能性はあった。
「私は穏便にことを進める計画を立てた。外圧は利用するが、同時にホワイト・ピークの取り締まりの対価を求める。ルナリエンにはホワイト・ピークに依存してしまった理由がある。そのことをみんなに分かってもらい、そして国際社会が支援してくれればルナリエンはホワイト・ピークを焼き、代わりにトウモロコシでもゴムでも育てて平和に暮らしていこう、と」
今思えば理想主義が過ぎたとリリエルは火傷のあとを僅かに摩る。
私はそのアイディアは決して悪いとは思えないと言うと彼女は力なく微笑んだ。
「ああ。理想とは決して間違っていないものだ。間違っていないからこそ、上手くいかないんだよ。間違っていることには議論の余地がある。そして議論の中で人々に受け入れられていく。人々が自分の利益を乗せる機会も生まれるからね。だが、理想は正しいからこそ、それがない」
彼女のその言葉は今までの経験で学んだことなのだろう。
誰かの言葉を借りるわけでもなく、悲しげな表情でリリエルはそう語ったのだった。
「それでも当時に私は理想を信じた。そして、私は佐藤にこう言ったんだ。『
「何か手段はあったのですか?」
「いや。その時点では何もなかった。佐藤たちも
そこで佐藤から米軍基地が封鎖されたという知らせを聞いたとリリエル。
米軍基地に
「米軍基地に
このことは地球でもスキャンダルとして新聞に取り上げられている。
アメリカの大手紙はオンライン記事で『新たな脅威出現。異世界でもっとも危険なドラッグが地球を侵食している』とセンセーショナルに報じた。
「私たちはそれで待つことにした。米軍基地の閉鎖が解かれるのを。しかし、それはなかなか訪れなかった」
半年待っても在ネプティス米軍基地の再開の知らせはなかったとリリエルは語る。
「その間にもディザータはせっせとホワイト・ピークをどこかに運び、アルフヘイム株式会社はホワイト・ピーク取引で利益を上げていた。トウモロコシ畑で働くエルフは僅かで枯れたトウモロコシが放置されている。学校も数名の生徒が通うだけで、教師もムーンライトの傭兵を除けば2名しかいない……」
リリエルの改革はやはり止まってしまったままだった。
彼女が
「私の中には焦りがあった。タイムリミットがあったからだ」
リリエルは続ける。
「まず、このまま私の改革が完全に途絶えて私が失脚するというタイムリミット。RLAの将兵は私のやり方を支持してくれていたが、その支持もいつまで続くの分からない。高級将校の中には部下の兵士をホワイト・ピーク農園で働かせて利益を得ると言う悪習に戻り始めたものもいた」
リリエルが失脚すれば彼女の後継者はいなかった。
つまりルナリエンで芽生えた改革の芽は摘まれるということだ。
それが再び芽生えるのがいつかは分からないし、再び芽生えるという保証もない。
「もうひとつのタイムリミットはホワイト・ピークの密売人であり世界の敵としてルナリエンが世界で認知されてしまうこと。
ソフィエルが
それによって地球側との全面戦争になれば魔族連合軍ですら倒れたのにルナリエンに勝ち目などないと彼女は続ける。
「私が失脚する前に、そして地球側を完全に敵に回す前に、私たちは
もしやもう手遅れなのだろうかとリリエルは日々不安になったと言う。
「しかし、やっと米軍基地が再開されたという知らせを得た。私は佐藤に米軍基地に行けるかと相談した。彼は『今はまだ部外者は立ち入れないし、下手をすると
私はまだ待ったとリリエルは言う。
「佐藤は米軍に知り合いがおり、そこから情報を手に入れてくれた。在ネプティス米軍基地では憲兵が厳戒態勢でホワイト・ピーク取引に関与した人間を
タイムリミットを迎えてルナリエンが世界の敵になる悪夢を見たとリリエル。
魔族連合軍の幹部たちが狙われたようにルナリエンのエルフたちが爆撃の目標となり、ルナリエンに爆弾が降り注ぐのを夢で見て飛び起きたことは何度もあると。
目が覚めたときは決まった汗でびっしょりで顔色は最悪だったと。
「その間、佐藤たちと
日本からの支援には自分も期待していたとリリエルは言う。
日本の対外支援については日本に亡命中に知ったし、日本のあの整然とした大都市に憧れがあったと彼女は僅かに恥ずかしそうに語る。
「
リリエルは自分に問うようにして言う。
「『それではダメだ。それだけではダメだ』と佐藤は言った。
いきなりホワイト・ピークの源を明らかにすればルナリエンに枯葉剤を撒くだけで彼らは満足してしまうと行った。
だから、
その佐藤の提案はディザータを斬り捨てるものだった。
米軍基地にようやく部外者が入れるようになったのは
佐藤はソフィエルに気づかれないように密かにリリエルを米軍基地に向かわせるために作戦を練り始めていた。
「佐藤は米軍基地に入るのにはムーンライトの身分だけでは難しいと言った。ムーンライトは今は情報軍と契約状態になく、米軍基地に輸送機を着陸させれるような資格はないということだった」
「では、どのように?」
「ムーンライトは新しい契約先を得ることでそれを解決できると言った。その契約先とは──
そう、ムーンライトは国連から業務委託を受けることに成功したのだ。
「名目では
そのときのことを思い出したのかリリエルはかすかな笑みを浮かべた。
彼女は戦友の助けを得て、改革に必要な外圧を得ようとしていた。
「私たちは深夜、国家保安隊の見張りもないうちにネプティスに飛んだ。これから先、絶対にルナリエンを救って見せるとそう決意して……」
そんな彼女を在ネプティス米軍基地で待ち受けているものは何だったのか。
リリエルの口からそれが明らかにされる。
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