エルフの森はなぜ焼かれたのか? ~平和な森が炎に包まれた理由~   作:第616特別情報大隊

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救出

……………………

 

 ──救出

 

 

 佐藤たちがリリエルが拉致されたことを知ったのは、リリエルが拉致されたから2日後ことだった。

 佐藤が司令部にリリエルがおらず、エセリオンに聞けば彼女は帰宅したまま出勤していないと聞かされて彼は心の中がざわつくのを感じたという。

 

「ああ。嫌な予感がした。俺たちはずっと恐れていたんだ。ディザータがリリエルに報復を行う可能性を……」

 

 それなのに気づくのが遅すぎたと悔やむように佐藤は言う。

 

「俺たちはリリエルが戻ってこないのに捜索を開始した。ルナリエン中を探し回り、ソフィエルにも伝えた。彼女も少なくとも表向きは驚いていた様子だった。『彼女を探すように国家保安隊を動かしてもいい』と言っていた。俺たちはまだ国家保安隊を信頼できなかったからその申し出は遠慮した」

 

 国家保安隊が拉致にかかわっていた場合、こちらの捜索状況が漏洩し、それによってリリエルの救出が遅れることを恐れたそうだ。

 しかし、アルフヘイム社屋内でリリエルを捜索することを許可するなど、ソフィエルは協力的だったと佐藤は語る。

 

「アルフヘイムにも彼女の姿はなかった。俺たちは手がかりもないまま何日も無為に過ごした。あるムーンライトのコントラクターが『もう死んでいるかもしれない』というのを俺は睨んだ。『死んでいたとしたら助けなくてもいいっていうのか?』と。『彼女は俺たちの仲間が魔族に捕らえられたときだって救出に協力してくれたんだぞ』とも言った。そのコントラクターは悪かったと謝罪したよ。俺も熱くなりすぎていたと謝った」

 

 しかし、リリエルの安否は分からないまま、時間だけが過ぎていくのに誰もが焦りを感じていたと佐藤。

 軍用犬を使った捜索活動も上手くゆかず、リリエルは見つからない。

 佐藤たち心配で満足に眠れず、食事もレーションを義務的に食べていたという

 

「だが、俺たちがルナリエンの中で調査できない場所があった。ディザータの連中のセーフハウスだ。そこだけは未だに俺たちが中に入って調べることを拒絶していたし、国家保安隊も中に入れなかった」

 

 ルナリエン内にはそのとき5件のディザータのセーフハウスがあり、その全部がムーンライトによる調査を拒絶していたという。

 

「俺たちはディザータのセーフハウスが怪しいとは思っていた、だが正確な位置が特定できなければディザータがリリエルを殺害する可能性もある。俺たちはまだリリエルが生きているという前提で行動していた。彼女を死なせはしまいと……」

 

 佐藤はそう言って僅かに視線を伏せた。

 

「俺たちはディザータのセーフハウスを監視することにし、常に見張りを行った。もちろんディザータには気づかれないようにだ。そうやってずっと監視していたが、情報はなかなかない。俺は見張りについてるときにリリエルの悲鳴が聞こえたような気がしたが、それは勘違いでだった。実際には何も聞こえてはいなかった」

 

 佐藤は心配のあまり幻聴が聞こえるぐらいには参っていたようだ。

 彼は仲間とともにディザータの動きを見張るうちにあることに気づいたと言う。

 

「モリの姿が見えなくなっていたんだ。モリがこれまで姿を見せていたアルフヘイム敷地や飛行場に姿を見せていないと」

 

 佐藤たちはそこでリリエルが輸送機でルナリエンの国外に連れだされた可能性も考え始めたと言う。

 ディザータは主力だったスペイン製の輸送機1機を麻薬取締局(DEA)に押収されていたが、まだロシア製のおんぼろ輸送機とビジネスジェットを保有してたと佐藤。

 

「国外に連れ出されていたら不味いことになると思った。俺たちはディザータの国外拠点について把握していない。全く知らない土地で戦うことになる。そうなると人質であるリリエルを救出するのはより困難になってしまうからだ」

 

 佐藤はリリエルがまだルナリエン国内にいることを祈ったと言う。

 

「そこで状況が大きく動いた」

 

 彼は続ける。

 

「ソフィエルから情報提供があったんだ。意外かもしれないが、彼女はモリたちとぐるになってリリエルを始末しようとはしておらず、本当にリリエルのことを心配して捜索してくれていたんだ」

 

 ここでソフィエルからリリエルと麻薬取締局(DEA)の協力者について情報を僅かにでも得ようとしたモリの動きが裏目に出た。

 ソフィエルは逆にモリの部下からリリエルの居場所を聞き出し、その位置を救出のために動いていた佐藤たちに伝えたのだった。

 ソフィエルにとってはリリエルはまだ彼女の友であったようだ。

 

「俺たちはどこにリリエルが監禁されているかの情報を得た。それはやはりルナリエン国内のセーフハウスだった。正確にはセーフハウスの地下倉庫だ。そこにリリエルがいると知り、俺たちは作戦を立て始めた」

 

 ディザータはただの犯罪組織とはいえど人質を握っている。

 そして、セーフハウスは高い塀と鉄条網に囲まれており、侵入は難しい。

 無理に突入すればリリエルを殺される可能性があった。

 

「しかし、隠密で忍び込むには警備が厄介だ。だから、可能な限り隠密(ステルス)を行うが、最悪の場合は強行突入することになった」

 

 幸いにしてと佐藤は続ける。

 

「俺たちには武器弾薬がたんまりとあった。ルナリエンにいるディザータを全員殺してもおつりがくるくらいの武器弾薬があった。もしものときは、ディザータの連中を皆殺しにして弔いにしようと決意したよ」

 

 もしものとき──リリエルが殺害された場合にはムーンライトのコントラクターたちはディザータを皆殺しにすると決意していた。

 そう、ルナリエンで地球の人間が犯罪を犯しても国外追放されるだけだ。

 だから、仲間を殺されたらその報復をする。ディザータを、モリを殺す。

 

「俺たちは塀を越えて侵入することにした。幸い、ディザータの連中は鉄条網に電気までは流していなかったし、無人航空機(UAV)で確認した限りセンサーの類も敷地内にはなかった」

 

 いけると佐藤たちは確信した。

 彼らは作戦決行をその日の夜とし、作戦の準備を進めた。

 

「暗視装置を身に着け、俺たちは静かに塀に梯子をかけた。それからワイヤーカッターで鉄条網を撤去し、静かにディザータのセーフハウス内に侵入した」

 

 警報がなるような様子もなく、監視カメラに捕捉されることもなく、佐藤たちは幽霊のように静かにディザータのセーフハウス敷地内への侵入を果たした。

 

「それから見張りを始末した。瓶ビールを片手にうとうとすていたそいつの口をふさぎ、喉笛を掻き切り、腎臓をめった刺しにする。出血性ショックで死んだその死体を物陰に引きずって隠し、それから俺たちは建物内への侵入を開始した」

 

 ディザータはまさか佐藤たちがこの場所を特定するとは思っていなかったようであり、警備は穴だらけだったと佐藤は語る。

 見張りのほとんどは酔っているかドラッグでラリっており、佐藤たちは静かに内部に侵入することができたと。

 

「そんな見張りを頭に2発撃ちこんで一人ずつ片付けていき、地下にある倉庫の入り口に俺たちは立った。この先にリリエルがいる。あとは無事ていてくれとそう願ったよ」

 

 そして、3カウントが開始されたと佐藤。

 ハンドサインで3秒後に突入が指示され、佐藤がスタングレネードを握る。

 彼の軍用手袋の内側は汗でびっしょりだったそうだ。

 これで失敗したらリリエルが死ぬと思うと緊張で汗が流れたと。

 それから3、2、1のカウントののちに扉が蹴り破られ、同時にスタングレネードが放り込まれ、佐藤たちは一斉に突入した。

 

「ディザータのメンバーのほとんどには不意打ちを食らわせることはできたが、数名が抵抗した。俺たちは素早くそいつらに銃口を向けて始末した。胸に2発か、頭に2発、あるいはその両方。それでディザータの連中は片付いた」

 

 それから佐藤たちはリリエルを探し、無残な姿になった彼女を見つけた。

 檻の中に閉じ込められていた彼女をみつけたとき佐藤はその姿にショックで言葉を失ったという。

 

「……彼女は……酷い状態だった。顔の火傷は酷い状態で、処置もされていない。体はやせ細り、高熱にうなされていた。俺たちはすぐに彼女にもっちていた毛布を羽織らせ『もう大丈夫だ』と声をかけ続けた……」

 

 リリエルは高熱によって佐藤たちのことを認識するのも難しい状態だったと佐藤は静かに語った。

 

「死にかけていたリリエルをすぐにムーンライトの宿舎に運び、軍医が治療を始めた。抗生物質が投与され、顔の火傷も治療が始まった。『傷は残るだろうか』と俺が軍医に尋ねるのと彼は辛そうに頷いた。『手当てするのが遅すぎたし、火傷の程度も酷い。完全に治療することは難しいだろう』と」

 

 佐藤はリリエルのことを思うと胸が痛むと言う。

 

「彼女は鏡を見るたびに拷問されたときのことを思い出すだろう。それが辛かった。彼女がこれからどんな人生を歩むにしても、この日のことは忘れるべきだったんだ。だけど、それはできない……」

 

 そう言って佐藤は深くため息を吐く。

 

「それからリリエルは一時昏睡状態になり、俺たちは彼女の周りを守るとともにモリの野郎を探した。だが、残っていたディザータの連中を問い詰めたところやつは突入作戦が決行される半日前に密かにルナリエンから脱出していたらしい」

 

「ディザータの他のメンバーはどうなったのですか?」

 

「俺としては殺してやりたかったが、ソフィエルから制止された。『ルナリエンでこれ以上血が流れることはリリエルも望まないはずだ』と彼女は俺たちに説いた。ああ。その通りだと俺たちは思った。だから、俺たちはそいつらを輸送機に詰めて米軍基地で全員憲兵と麻薬取締局(DEA)に突き出してやったよ」

 

 ディザータのメンバーは全員がその場で拘束され、今も刑務所に入っている。

 最短でも25年の刑期を務めなければ彼らは出てこれない。

 

「それから7日後にリリエルの意識が回復した。俺たちは喜んだ。彼女は生き延びたと。しかし、軍医は脳に障害が残った可能性もあると言っていたから、俺たちの喜びはすぐにしぼんでしまった」

 

 リリエルの脳が正常化を確かめるために検査が行われ、それからようやく面会が許可されて佐藤たちはリリエルのお見舞いに訪れたそうだ。

 

「彼女に果物と花を買っていった。リリエルはベッドの上でじっとしていたが、俺が来るとこっちを向いて微笑んだ。『助けてくれてありがとう、佐藤』と。俺は……」

 

 佐藤は口ごもる。

 

「……本当に彼女を助けられたのかどうか分からない。リリエルは顔に傷を負わされただけではなく、昏睡状態の間に地位も失っていたんだ」

 

……………………




3月27日に完結予定です。
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