機動戦士ガンダム BB戦士 SD戦国伝 ノベライズ 〜コミックワールド武者から大将軍へ!〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
武者頑駄無、推参!(17 武者頑駄無)
天宮(アーク)の国に吹き荒れる風は、もはや季節の移ろいを告げるものではなかった。
それは、北の果て、暗雲立ち込める暗黒軍団の本拠地から漂う、鉄と死の匂いを含んだ不吉な風だ。
「……来たか」
荒野の真ん中、一本の古びた道標の傍らで、その男は呟いた。
男の名は、武者頑駄無。
白銀の機体に、燃えるような紅の鎧を纏ったその姿は、乱世に咲いた一輪の徒花のようでもあった。
兜の吹き返しには黄金の装飾が輝き、額には「武」の一文字が刻まれている。
地平線の向こうから、土煙を上げて迫る影がある。闇軍団の足軽、殺駆(ザク)の群れだ。
彼らは奇妙な叫び声を上げながら、数に物を言わせて突進してくる。
「ギギギ! 頑駄無め、一人で何ができる! ここを貴様の墓場にしてやるわ!」
先頭の殺駆が、錆びついた槍を突き出してきた。
頑駄無の眼光が鋭く光る。
風が止まり、殺駆の槍先が彼の喉元に触れようとした瞬間――。
「問答無用ッ!」
一閃。
抜刀の速度は、もはや肉眼では追えなかった。
愛刀「武久丸」が鞘から放たれた瞬間の閃光。
次の瞬間には、槍の穂先は地面に転がり、殺駆の鎧は真っ二つに裂けていた。
「な、なに……!?」
「立ち去れ。今の俺の刀に、無駄な血を吸わせるつもりはない!」
頑駄無の声には、若き武者特有の熱さと、敵を圧倒する覇気が同居していた。
だが、闇軍団は退かない。背後から、さらに巨大な影が姿を現した。
「フン、相変わらずの甘さよ。武者頑駄無!」
現れたのは、闇軍団の先鋒、殺駆三兄弟の長男・古殺駆(コザク)だ。
どっしりとした体躯に、棘だらけの肩当てを付けた巨漢である。
「古殺駆か……。将頑駄無様への不義理、まだ続けているのか」
「黙れ! 俺たちは力こそが正義だと教わった。この乱世、最後に笑うのは闇の力よ!」
古殺駆が大型の斧、ヒートホークを振り下ろす。
大地が割れ、激しい衝撃波が頑駄無を襲う。
頑駄無は即座にバックステップを踏み、距離を取った。
それと同時に、背中のバックパックから愛銃「種子島ライフル」を抜き放つ。
「正義なき力は、ただの暴力だ。それを俺の拳で教えねばならんようだな!」
轟音と共に、ライフルの弾丸が古殺駆の足元を砕く。
土煙が舞う中、頑駄無はあえて重厚な鎧をパージした。
――軽装タイプ。
鎧という重しを捨てた彼の動きは、神速の領域に達する。
古殺駆の視界から、紅の影が消えた。
「どこだ!? どこへ行った!」
「ここだ」
古殺駆の背後。着地した頑駄無の手には、すでに納刀されようとしている武久丸があった。
「……貴様の斧では、俺という風は斬れん」
カチリ、と鍔が鳴る。
その音を合図に、古殺駆の胸当てから火花が散り、彼は膝をついた。
致命傷ではない。だが、戦う意志を完全に削ぐ一撃だった。
「ひ、ひえぇぇ! 覚えてろよ!」
古殺駆たちは、命からがら敗走していく。
静寂が戻った荒野で、頑駄無は再び鎧を身に纏った。
パーツがカチリと嵌まるたび、彼の心にも「武者」としての覚悟が積み重なっていく。
だが、彼は知っている。今倒したのは、巨大な闇のほんの端くれに過ぎないことを。
天宮を覆う黒い雲は、ますますその厚みを増している。
「……一人では、限界があるか」
頑駄無の脳裏に、かつて共に修行に励んだ四人の顔が浮かぶ。
疾風のごとき精太。
冷静沈着な摩亜屈。
剛腕の駄舞留精太。
そして、遥か異国へ渡った仁宇。
彼ら「五人衆」が再び集う時、伝説を凌駕する力が生まれるはずだ。
頑駄無は懐から、一通の書状を取り出した。将頑駄無から託された、仲間たちへの招集状だ。
「まずは精太か。奴のことだ、またどこかで馬と競争でもしているのだろうな」
少しだけ口角を上げ、頑駄無は歩き出した。
夕日に照らされた彼の影が、長く、力強く大地に伸びる。
それは、これから始まる長く険しい戦いと、天宮に平和を取り戻すための道標のようでもあった。
武者頑駄無。
彼の旅は、天宮の夜明けを探す旅でもある。
一歩、また一歩。草履が土を踏みしめる音が、荒野に力強く響き渡っていった。