機動戦士ガンダム BB戦士 SD戦国伝 ノベライズ 〜コミックワールド武者から大将軍へ!〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
天宮(アメノミヤ)の空を、見たこともない速度で引き裂き、蒼い残像を残して疾走する「影」があった。
それは、空を支配したと過信していた新生闇軍団の飛行部隊を、視認することさえ許さぬ絶対的な神速で翻弄し、一機、また一機と音もなく墜落させていく。
「馬鹿な……。あの若造、風雷主(プラス)以外に、これほどの速さを持つ武者がまだこの世にいるというのか!」
狼狽える闇の兵たちが、恐怖に震えながら空を見上げた瞬間。
大気が爆ぜるような突風と共に、その「影」は月を背負って舞い降りた。
「風を侮るな。……そして、風に斬られる覚悟ができていないのなら、この空を飛ぶ資格はない」
疾風の仁宇(ハヤテノニュウ)。
かつての英雄・仁宇頑駄無が、天宮の守護意志そのものである伝説の『風の鎧』を纏い、新生頑駄無軍団の最高幹部「四天王」の一人として覚醒した姿である。
背中には、法術によって自在に操られる可動式の翼『飛龍翼(ヒリュウヨク)』が猛々しく広がり、全身からは大気を震わせるほどの蒼きオーラが溢れ出していた。
「……行け、風の使徒たちよ」
仁宇が静かに指先で印を結ぶ。
背中の飛龍翼が音もなく分離し、意志を持つ蒼い龍の如く空を舞った。それは逃げ惑う敵の退路を正確に遮断し、同時に四方八方から目に見えぬ真空の刃を叩き込む。かつての技が、法術の極致によって「天災」へと昇華された瞬間であった。
「ぐわぁぁっ! 見えん、どこから狙われているのか……どこに敵がいるのかさえ分からん!」
「……風はどこにでもある。そして、どこへでも届く。私の間合いから逃れる術はない」
仁宇は、法力を一点に集束させた槍を構え、高高度から一気に急降下を開始した。
その姿はまさに、獲物の命脈を正確に射抜く隼(ハヤブサ)。
大気を切り裂く摩擦音が、戦場に死の宣告のような悲鳴となって響き渡る。
「必殺! 疾風雷撃斬(しっぷうらいげきざん)!!」
一閃。
仁宇が敵陣を通り過ぎた直後、一拍遅れて猛烈な衝撃波が吹き荒れた。闇軍団の飛行部隊は、その衝撃だけで塵一つ残さず空中分解し、雲散霧消していった。
静かに着地した仁宇。その足元には、激戦の直後だというのに、一輪の野の花が可憐に揺れている。その花びら一枚さえも傷つけぬ精密無比な太刀筋。これこそが、疾風の仁宇が到達した「静」と「動」の極意であった。
「……見事な戦いぶりだ、仁宇。いや、もはやその腕前は神域に近いな」
戦場を見下ろす崖の上、影から現れたのは、かつての戦友であり現在は全軍を率いる将頑駄無であった。
「いや……今は『疾風の仁宇』、四天王の一人と呼ぶべきか」
「名は、どうでもいい。……ただ、この風が止むことはない。天宮に、再び子供たちが笑える穏やかな光が満ちるその時までは」
仁宇は静かに飛龍翼を背に戻し、再び澄み渡る空を見上げた。
その視線の先には、自分を追い抜き、さらに高みへと羽ばたこうとする愛弟子・風雷主の姿がある。
風の意志は、確実に次代へと受け継がれ、そして今、最強の四天王という「盾」となって天宮を支え続ける。