機動戦士ガンダム BB戦士 SD戦国伝 ノベライズ 〜コミックワールド武者から大将軍へ!〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
月さえも厚い雲に隠れ、星の光すら届かぬ漆黒の夜。「迷わずの森」の境界線において、大気を震わせる不気味な殺気が渦巻いていた。対峙するのは、分かたれた二つの宿命。
一人は、森の静寂を纏い、天宮(アメノミヤ)を守護する四天王「密林の摩亜屈」。
そしてもう一人は、兄と瓜二つの顔を持ちながら、全身から赤黒い瘴気を放つ復讐の化身。
「……やはり来たか。砕虎摩亜屈(サイコマークツー)。我が、愛しき弟よ」
「オオ……オオォォ……! 脳裏で……闇の声が……キサマを殺せと囁くのだ……兄者ッ!!」
武者砕虎摩亜屈。
かつての快活な面影はどこにもない。彼はその手に握る凶悪な大斧『乱散破天(ランザンハテン)』を狂ったように振り回し、大地を爆砕しながら突進してきた。その瞳に宿るのは家族への愛ではなく、闇皇帝によって植え付けられた、破壊の意思のみを詰め込まれた「闇の兵器」としての憎悪のみであった。
「目を覚ませ、砕虎! その鎧は貴様の魂を喰らい、己を見失わせる呪いなのだ!」
摩亜屈の悲痛な叫びも、闇に染まりきった弟の耳には届かない。
砕虎摩亜屈が禍々しい印を結ぶと、背負った巨大な守護獣『砕虎(サイコ)バイソン』が、地獄の底から響くような唸り声を上げた。
「合体……いや、これは斎胡(サイコ)のような神々しい絆ではない。鎧が肉を締め付け、魂を削って無理やり力を引き出す、狂気の変身だ……!」
「闇獣変幻(あんこくじゅうへんげん)ッ!!」
砕虎摩亜屈の身体が大きく反り返り、骨が軋む音と共に、四本足の巨大な魔獣へと姿を変えていく。理性を完全に消失させた咆哮が、森の木々を激しく震わせた。
「必殺……百烈壊乱撃(ひゃくれつかいらんげき)!!」
その巨躯からは想像もつかない神速で放たれる、無数の打撃と砲撃の嵐。
摩亜屈は『林の鎧』の法術を以てしてもその猛攻を防ぎきれず、装甲が砕け、深手を負いながら地面へと叩きつけられた。
「……はぁ、はぁ。強いな、砕虎。……だが、その力には『心』がない。心なき刃に、この天宮は斬らせぬ!」
摩亜屈は血を拭い、静かに立ち上がった。二振りの銘刀『虎徹』と『正宗』を構え直す。
その瞬間、摩亜屈の胸元で『林の玉』が、そして各地で戦う仲間たちの「五つの光」が激しく共鳴を始めた。
「砕虎……お前を闇から連れ戻す。例えこの身が砕けようとも!」
摩亜屈が地を蹴る。それは「林」の静寂を捨てた、一撃必殺の「風」の加速。
砕虎の放つ赤黒い衝撃を紙一重でかわし、摩亜屈は弟の懐へと飛び込んだ。
「これで……目を覚ませッ!!」
渾身の力で振り下ろされた双剣が、砕虎の顔を覆う闇の仮面を真っ二つに叩き割る。
砕け散る仮面の隙間から見えたのは、涙に濡れた、かつての優しい弟の瞳であった。
「……あ……に……じゃ……?」
その微かな声を逃さず、荒烈駆主たちの持つ『光の玉』が導かれるように集結する。
吹き荒れる純白の光。それは砕虎の肉体を蝕んでいた闇の法力を浄化し、狂気の呪縛を解き放っていく。
光が収まった時、そこには魔獣の姿から戻り、兄の腕の中に崩れ落ちる砕虎の姿があった。
「戻ったのだな……砕虎」
「……兄さん……ごめん……なさい……」
兄弟という名の光と影が再び一つに重なった時、戦場には哀しみの涙ではなく、再会の喜びを祝うかのような、温かな森の吐息が吹き抜けた。