機動戦士ガンダム BB戦士 SD戦国伝 ノベライズ 〜コミックワールド武者から大将軍へ!〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
月明かりさえ届かない、深い竹林。
そこには、風の音に紛れて死を運ぶ者たちがいた。闇軍団・隠密部隊。
彼らの狙いは、武者頑駄無軍団の拠点へと向かう重要機密を携えた使者であった。
「ククク……逃げ場はないぞ。ここで消えてもらおう」
黒装束の忍たちが、一斉に抜き放った白刃を突き出す。
中心にいた使者は、もはや絶体絶命と思われた。
だが。
刃がその身体を貫いた瞬間、確かな手応えは虚空へと霧散した。
ボフッ!
白い煙と共に現れたのは、無機質な丸太。
「変わり身の術か!? どこだ、どこへ行った!」
「……影を見ろ。お前たちが踏みつけている、その影を」
頭上から、冷徹な声が降る。
竹のしなう音と共に舞い降りたのは、武者頑駄無と同じ紅の鎧を纏う男。
しかし、その纏う空気は決定的に異なっていた。
兜の「武」の文字。鋭い眼光。
彼こそが、頑駄無軍団の裏の顔――武者影頑駄無である。
「武者頑駄無か!? なぜ、こんなところに!」
「私が本物に見えるか? ならば、お前たちの修行不足だ」
影頑駄無は、背中の『影種子島(カゲタネガシマ)』を抜く。
本物よりも小型で、取り回しを重視したその銃口が、月光を浴びて鈍く光った。
「影は光を際立たせるためにある。そして、光を邪魔する不純物を消すのも、また影の役目だ」
影頑駄無が地を蹴った。
彼の動きは、武者頑駄無の剛剣とは正反対。地を這い、壁を走り、敵の死角から死角へと音もなく転移する。
忍が放った手裏剣を、影頑駄無は空中で反転しながら叩き落とし、着地と同時に『影武久丸(カゲブキュウマル)』を一閃させた。
音もなく、忍の装束が裂ける。
「速い……! 本物よりも、動きが鋭いぞ!」
影頑駄無の本領はここからだった。
彼は懐から、奇妙な形状のカラクリ部品を取り出した。
専用の偵察機であり、攻撃補助機でもある「影鷲(カゲワシ)」だ。
「散れ。闇を照らす火花となれ」
影鷲が空中で分解し、影頑駄無の鎧と合体する。
――影頑駄無・隠密形態。
隠密性を高め、センサー能力を極限まで引き上げたその姿で、彼は森に潜む残りの忍たちの位置を完全に捕捉した。
あとは、作業だった。
銃声は一度も響かない。ただ、風が竹林を抜ける音と、重い体が土を叩く音が数回。
わずか数十秒後、そこには立ち尽くす影頑駄無と、折り重なって倒れる闇軍団の骸しかなかった。
「……片付いたか」
彼は刀に付いた血を払い、静かに鞘に収める。
そこへ、本物の武者頑駄無が率いる本隊の足音が近づいてきた。
影頑駄無は、その姿を本物に見せる必要はないと判断し、再び深い闇の中へと溶けていく。
「影頑駄無。そこにいるのか?」
やってきた武者頑駄無が、何もない空間に向かって問いかけた。
「……お前の後ろだ。相変わらず、隙だらけだな、大将」
影の中から声が響く。
「ふっ、助かった。おかげで本隊は無傷で峠を越えられる」
「礼はいらん。私は私の仕事をしただけだ。光が強くある限り、私の居場所もなくならないからな」
武者頑駄無が歩き出した後、影頑駄無は一人、月を見上げた。
表舞台に立つことはない。歴史に名が刻まれることもない。
だが、彼が選んだ道に悔いはなかった。
「さて……次は精太の影、奴の動きも見ておくか。あのお坊ちゃん、また無茶をしていなければいいが」
影頑駄無の姿が、かき消えるように消えた。
天宮の平和は、表の英雄たちと、彼らのような『影』の献身によって、かろうじて保たれているのだった。